放送現場の疑問・視聴者の疑問

×「押しも押されぬ」
→○「押しも押されもせぬ[=しない]」

「押しも押されぬ大スター」や「押しも押されぬアイドル・人気者」など「押しも押されぬ~」という言い方を時折耳にしますが、この言い方は誤り・間違いではないでしょうか。

ご指摘のとおり誤りです。

解説

「押しも押されぬ」という言い方は、「押しも押されもせぬ(押しも押されもしない)」-実力があって(堂々として)立派な様子-と「押すに押されぬ(押しても押せない)」-厳として存在する(争うにも争われぬ)事実-との混交・混用表現です。近年この言い方・表現が「押しも押されもせぬ」と同じ意味として広く使われているようですが、国語辞書の中には「押しも押されもせぬ」の語釈(ことばの意味や使い方の説明)の中で<「押しも押されぬ」は誤った言い方>と明記して注意を呼びかけている辞書もあります。

また、国内の主な新聞社や通信社の『用字用語集』や『記者ハンドブック』なども、この「押しも押されぬ」という言い方を「誤りやすい表現・慣用語句」に挙げたうえ、「押しも押されもせぬ[=しない]」への言いかえを示しています。例えば<押しも押されぬ→押しも押されもせぬ「揺るぎない、誰もが認める」意味の慣用句。「押すに押されぬ」との混同。>『最新用字用語ブック[第6版]』(時事通信社編)など。

この誤った表現は若い世代を中心に広がっているのは確かなようです。

文化庁の平成15年度の「国語に関する世論調査」では、「実力があって堂々としていること」の本来の言い方である「押しも押されもせぬ」を使う人が36.9%にとどまったのに対して、間違った言い方である「押しも押されぬ」を使う人が20代~30代を中心に半分以上51.4%もいました。

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)