【記者特集】抗体カクテル療法 その効果は


新型コロナウイルスの感染拡大で、病床のひっ迫を改善するカギになると期待されているのが「抗体カクテル療法」という治療法です。

 

20210922_01.png

 

軽症の患者に使用できる治療薬として初めて、ことし7月に国に承認されました。「抗体カクテル療法」は2種類の抗体薬を混ぜ合わせて点滴を投与し、ウイルスの働きを抑えます。

 

基礎疾患があるなど、重症化リスクがある軽症や中等症の患者などを対象に投与することで、重症化を防ぐ効果があると期待されています。

海外で行われた臨床試験によりますと、入院や死亡のリスクをおよそ70%減らす効果が確認されているということです。

 

20210922_02.png

 

県内ではすでに10以上の医療機関で活用されていて、鶴岡市にある荘内病院では県内で最も早い、7月31日から入院での投与をはじめました。

 

 

病状が進む人は減少

 

荘内病院で抗体カクテル療法による治療を担当する宮澤弘哲医師は9月半ばまでにおよそ40人に「抗体カクテル療法」を行ってきました。

 

20210922_03.png

 

宮澤医師「実際に患者さんに投与してみての印象は、使用して1日2日くらいたつと、熱をはじめとして、症状が落ち着いてくる方が多いです。軽症、中等症、酸素のいらない中等症の状況から、抗体カクテル療法を早めに行って、病状が進む方は減っているように思います」

 

 

今までの治療との違いは

 

宮澤医師によりますと、以前は、新型コロナの軽症患者に対してウイルスそのものを治療することは難しかったといいます。例えば発熱に対しては熱冷ましの薬を使う、せきに対してはせき止めの薬と使うといった対症療法といわれる治療がほとんどだったということです。
しかし「抗体カクテル療法」を活用することにより、軽症患者に対し、早めに症状を抑えることができ、重症化を予防することができるということです。

 

 

副作用は

 

宮澤医師によりますと、副作用には、どんな薬剤でも起こりうるアレルギー反応のほか、頭痛、胸の不快感、寒気やほてりなどの症状が出る可能性があるといわれています。
治療を行っている荘内病院では、投与してからすぐにこうした症状が出てくる場合や、少し時間がたってから出てくる場合もあるということですが、これまでに大きな副作用があった患者はいないということです。

また県によりますと、県内では抗体カクテル療法を実施した50以上の患者の中で、9月10日現在、重い症状が出たという報告は上がっていないということです。

 

 

病床稼働率の改善にも

 

8月、全国で感染が拡大する中、医療現場で強く懸念されたのは病床のひっ迫でした。感染拡大により重症患者が増えると、1人あたりの入院期間が延び、病床の確保は困難となります。

 

20210922_04.png

 

庄内地方でも感染が広がると、荘内病院では一時、病床稼働率が100%を超えた日が続きました。こうした中で「抗体カクテル療法」によって重症化を防ぐことが、病床ひっ迫の改善につながったといいます。

 

「抗体カクテル療法」の投与は、30分から1時間程度の点滴で1回の治療が完結します。荘内病院では、薬を投与したあとの経過観察を含め1泊2日もしくは2泊3日を入院期間とし、その後患者は自宅や宿泊療養施設での療養に移行します。そうすることで必要な人に必要な治療を届けながらも、入院患者数を減らして地域の限られた病床を守る運用が可能だということです。

 

 

“デルタ株”にも効果

 

さらに、感染力の強い変異ウイルス「デルタ株」に対する効果を聞きました。

 

20210922_05.png

 

宮澤医師は、現在感染が広がっているウイルスの多くは変異ウイルス「デルタ株」に置き換わっているとした上で

「デルタ株でも効果はしっかり出ています。デルタ株はウイルスの量が多く重症化が早いため、抗体カクテル療法の、早め早めの投与がいいです」と話していました。

 

この“早めの投与“とはいつなのでしょうか。宮澤医師は酸素が必要な段階での投与は遅いとしています。

 

宮澤医師は「感染すると、体の中でウイルスが増えて炎症を起こします。そこからデルタ株だと5日から7日でさらに悪化して酸素が必要な状態になります。このとき、自分の免疫は過剰に働いているため、抗体カクテル療法の効果は薄れてしまうのです。そのため、『ウイルスが増殖して炎症を起こす』この段階で投与するというのがとても大事になります」としています。

 

 

日頃の感染対策を基本に

 

重症化を防ぎ、病床ひっ迫の改善にもつながる「抗体カクテル療法」。

一方で、こうした治療薬に頼ることがないよう、日頃の感染対策が最も重要になると宮澤医師は話しています。

 

20210922_06.png

 

宮澤医師「どんな方でも、新型ウイルスへの感染によって、場合によっては命に関わる、亡くなるという可能性を排除しきることはできません。
自分の命を守るために、今まで以上に基本的な生活習慣を徹底する、感染対策というのはどこまでいっても有効なものだと思いますし、すべての基本だと思います。治療薬はいろいろと使えるようになっていますが、それで油断することなく、できるだけかからないということを意識してもらえればと思います」

 

こうした新しい治療薬の活用は進んでいく一方で、私たちは引き続き基本的な感染対策を徹底しながら、感染拡大を抑え込んでいくことが求められていると思います。

 



記者特集    

山形局記者 | 投稿時間:18:18