子どもと過ごす時間について悩むことはありますか? 忙しくて子どもと過ごす時間が短い、子どもが親にべったりで一人で遊べないなど、子どもとの過ごし方について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
中室牧子(慶応義塾大学 教授/教育経済学)
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)

今回のテーマについて

鈴木あきえさん(MC)

子どもとの時間をどう過ごすのがいいのか、共働きなのでいつも考えています。一緒に過ごす時間が短いと思うので、家族みんなで早起きしています。夜より、朝に遊ぶなどすることが多いですね。

古坂大魔王さん(MC)

うちは夜が多いですね。好きなアニメをみて、その後にアニメごっこをしたり、カラオケをしたり。家では歌がずっとあるかもしれません。歌ったり、踊ったりして、家族みんなで楽しんでいます。今回は、じっくりいろんな面で考えていければいいですね。

―― 中室さん、教育経済学とはどういうものですか?

中室牧子さん

教育経済学は、教育学ではなく経済学の一分野です。経済学の理論や方法を使って、教育を分析します。最近ではビッグデータを使います。教育は、株や債券のように投資と考えることができます。投資のリターンを最大化するような教育のあり方を考えるわけです。

―― 子どもとの時間で必要なことはなんだと思いますか?

中室牧子さん

幼少期の時間の過ごし方は、質も量も大事だと思います。

遠藤利彦さん

何か特別なことをたくさんしてあげたいと考えるのが親心だと思いますが、親は黒子として子どものたのしい遊びや、安全な生活を下支えしてあげることが大事だと思います。また、子どもが一生懸命に何かをしていたら応援団としてエールを送ったり、何かできたら一緒に喜んだりできるといいのではないかと思います。


忙しい時間の中、子どもとの時間をどうやって過ごすのがいい?

働きながら、息子(1歳10か月)を育てています。平日は保育園で、一緒に過ごす時間があまりありません。
例えば、夜6時に保育園から家に帰って、到着するとお風呂へ直行します。その後、ごはんの用意。週末に作ってストックしているものがほとんどです。その間、息子は一人で遊んでいます。夜7時には夕ごはんをあげて、歯磨きなどのやるべきことをやって寝るまでの時間が子どもとの時間です。平日だと30分弱しか一緒に遊ぶ時間がとれません。子どもが起きている時間は、ごはんなどの必要なことだけをやることを心がけ、息子がやりたいことをやらせたいと考えています。自分の思いつく限りの時短策をして、洗濯や皿洗いなどは、息子が寝た後です。
なるべくむだを省いて少しでも息子と遊べるようにしていますが、これが正しいのかわかりません。私と遊べる時間に一人で遊んでいるとき、私との遊びに誘ったほうがいいのか、見守ったほういいのか悩みます。忙しくて時間がない毎日で、子どもとどう過ごすのがいいのでしょうか?
(お子さん1歳10か月のママ)

鈴木あきえさん(MC)

働いているほとんどの方が思う悩みではないでしょうか。すごく気持ちがわかります。

子どもへの時間投資は、幼少期に行うことの効果が大きい

回答:中室牧子さん

経済学の研究では、子どもの主体性を伸ばすような関わり、子どもが中心になって行うような活動が、質の高い時間の過ごし方だとみなされています。それが、より発達を促すためです。
最近では、時間投資という研究が進んでいます。お金の投資ではなく、時間も子どもへの投資だと考えるのです。家計簿のように、時間の使い方のデータをとり、どういう時間の使い方をすると、子どもの学力や非認知能力に影響を与えるのか研究するのです。そのような研究を見てたしかに言えるのは、子どもに対して行う時間投資は、幼少期に行うことの効果が大きいことです。
子どもは、大きくなればなるほど、自分で意志決定するようになります。でも、小さいときはそういうわけではありません。幼少期が大事なことを、心に留めておきましょう。

―― 幼少期は、園の先生や友だちとの関わりより、親との関わりのほうが必要なのでしょうか?

園の先生・友だち・年齢が違う友だちと過ごすことで、たくさん学んでいる

回答:遠藤利彦さん

前提として、お子さんは日中園に通っていて、親以外の大人や子どもたちと関わっていることを考えてください。園の先生と一緒に遊んだり、同じ年齢の子どもたちと遊んだり、年齢が上や下の子とも遊んだり、縦・横・斜めの関係でたくさん遊んで学んでいると思います。そのように、日中にいろいろ学んでいる状況で、家に帰ってさらに何かを考える必要はそこまでないと思います。
一方で、園の集団生活で、たのしい反面、少し自分の思い通りにできず、フラストレーションやストレスを抱えている場合もあります。その意味では、家では子どもの好きなように、自分のペースで過ごせるように考えていいのではないでしょうか。
実際に、「好きなことをやらせるようにしてます」と話していましたね。その関わり方で十分ではないかと思います。


忙しいときに、上の子に子守を頼んでもいいの?

平日は忙しいことが多く、下の子の子守をお姉ちゃん(8歳)に頼むことがあります。例えば、夜に寝かしつけを頼むなどしています。きょうだいでも親の代わりになるのでしょうか。親として助かりますが、お姉ちゃんの負担になっているのではないかと悩むこともあります。
(お子さん8歳・6歳のママ)

きょうだいの間で影響を与え合うなど、よい効果がある

回答:中室牧子さん

お姉ちゃんに頼るのは、とてもよいと思います。ある個人が周囲の人々から受ける影響のことを「ピア効果」と言いますが、きょうだいの間でも起こることです。友だちや、きょうだい、年の近い子ども同士は、互いに影響を与え合うのです。
例えば、お姉ちゃんが面倒をみることで、弟がより言葉を覚えたり、お姉ちゃん自身にリーダーシップが身についたりすることがあります。家庭の中でリーダーシップをとった経験があると、社会に出たときも、そのスキルが役立つという研究もあります。

上のきょうだいは手の届きそうな、自分にとっていいモデル

回答:遠藤利彦さん

もともと、人という生き物は、集団共同型子育てという育児の形態を持っていたといわれています。親以外にも、血縁関係のある人、非血縁関係の人も含めて、一緒に手を携えながら、協力して子育てをしていたわけです。
家族の中で、親以外に誰がいちばん子どものケアをしているかは、もちろんいろいろな考え方があります。例えば、地球上には自給自足型の生活を営んでいる人たちもたくさんいますが、母親の次に子どもの世話をする人は、年長のきょうだいだといいます。
下の子から見ると、少し上の子は、手が届きそうな自分にとっていいモデルなのです。憧れて、「あんなふうになりたい」という気持ちを持ち、頑張ることもあります。そういう関わりが成り立っていること自体が、とてもいいことだと思います。


子どもとの時間、どう過ごしてる?

ここで、すくすくファミリーのみなさんが、子どもとの時間をどう過ごしているのか教えてもらいました。

働きながら子育てをしています。子どもとの時間で意識しているのは、子どもが何かを質問してくれば、それに答えた上で、何かプラスの質問をすることです。例えば、娘から「なんで目は2つあるの?」と聞かれたら、「お父さんとお母さんも2つだね。なんで2つあるんだろうね」と答えたあと、「じゃあ、〇〇ちゃんと、お父さんと、お母さん、全部で何個あるかな?」と質問を返します。
(お子さん6歳・4歳のママ)

仕事でなかなか時間がとれない中、週に1回、保育園から帰るときに「どこを通りますか?」と声かけしています。子どもたちの「やりたい」リクエストに応えながら帰宅するのです。例えば、「スーパーに行きたい」と言えば、立ち寄って帰ります。自分の行きたいところに行けると楽しそうで、家に帰ってからのごはん、お風呂、寝かしつけなどがバタバタしますが、私の言うことを聞いてくれる気がします。自分はやりたいことをやったという満足感があるようです。
(お子さん4歳・2歳のママ)

―― 遠藤さん、中室さん、みなさんの過ごし方はいかがですか?

親が子どもと共に考えることで、どんどん深めていく関わり方がよい

遠藤利彦さん

とてもいい関わり方をされていると思います。親が子どもと共に考えて、どんどん深めていく関わり方がいいといわれています。子どもの質問に答えるだけでなく、一緒に考えて、そのやりとりが続いていくこと自体が、子どもが頭を使うことにつながります。その段階で、何かができるようになるような結果が重要ではなく、頭を使うという経験そのものが大切なのです。頭は使えば使うほど、地頭が鍛えられていきます。

幼少期の考える力は、学校の先取りをすることでは育たない

中室牧子さん

遠藤さんの話にあるように、「一緒に考える」が1つの重要なキーワードだと思います。経済学の分野では、子どもの学力やIQテストで測るような認知能力を大事にしていますが、多くの人は認知能力を偏差値や点数で想像するかもしれません。それは間違いではありませんが、もう少し広い意味で「考える力」なのです。
ここで気をつけたいのは、幼少期に早くから九九の計算や漢字を覚えるようなことをしたほうがいいわけではないことです。最近、アメリカのテネシー州やカリフォルニア州で行われた研究では、小学校の先取りをするような学習を幼少期にやらせると、かえってよくないことが示されました。
日本の幼児教育の特徴は、“遊び込む”ことで主体的な学びを育てることです。私は、海外のさまざまな研究と照らし合わせると、とても理にかなった考え方だと思います。遊びの中で、学びをつくりだすのです。


子どもが一日中親と一緒にいて、一人で遊べない

3人の子どもを育てています。下の娘(3歳4か月)は、この4月から幼稚園に通う予定ですが、娘との過ごし方に悩んでいます。娘と朝から晩までずっと一緒にいるのですが、私にべったりで一人で遊べません。他の人とコミュニケーションがとれるように、なるべく出かけるようにしていますが、家の中だと私と一緒にいます。
洗濯や掃除などの家事をするときも一緒なので、時間がかかってしまいます。洗濯物を干すなどの手伝いをしてくれるのですが、そばを離れません。
一人で遊べないので、同じくらいの友だちを見ていても「甘えてるな」と思います。このまま外に出て困らないか心配です。
(お子さん8歳・6歳・3歳4か月のママ)

ママを観察することが学びになっている

回答:遠藤利彦さん

親としては、家事が捗らないことで悩むことはわかります。でも、お子さんにとっては、お母さんがいちばんのモデルになって、観察学習をしていると思います。自分がどんな行動をしたらよいか、お母さんの姿を見て、まねて、自分自身の力にしていくわけです。観察すること自体が学びだといわれます。洗濯物を干したり、掃除をやろうとしたり、「やって」と言わなくても、お子さん自身がやろうとしている。それは、十分にお子さんの学びになっていると考えられます。その意味では、何も心配することはないと思います。

―― 一人遊びをしてくれないのですが、このままでいいのでしょうか?

親が安全基地になれば、行動範囲が広がっていく

回答:遠藤利彦さん

よく、安全基地や避難所という言い方をしますが、子どもが「何かあったときに戻ってこればいいんだ」と思えることが大切です。駆け込めるところとして親がいて、そこで感情が回復したら、また背中を押して送り出す役割です。

一人で遊んだり、きょうだいや仲間で遊べたりするように、送り出していると、子どもの行動半径が確実に広がっていきます。その輪が広がっていくように下支えする気持ちでいるとよいのではないでしょうか。一人で遊べないと心配かもしれませんが、もう十分できているようにも感じます。幼稚園に行けば、適応してたのしく過ごすように思います。

子どもが主体的になれる活動を増やすことで、質の高い時間に変えることができる

回答:中室牧子さん

時間投資の考え方では、時間の使い方はさまざまで、子どもと一緒に同じテレビを見ることも、ひとつの使い方です。一方で、お子さんのように掃除や洗濯物を干すことをまねすることも、一緒に使う時間の過ごし方なのです。この時間の過ごし方について、子どもが中心になっている活動、子どもが主体的にできている活動が、質が高い時間だと分類しています。発達に与える影響が大きいからです。
また、アメリカの時間調査の研究をみると、親と子どもが使う時間全体で、質が高い時間は1/3、残りの2/3は一緒に過ごしていても子どもが中心ではない・子ども主体ではないというものでした。
例えば、もくもくと2人でごはんを食べるのは質の高い時間ではありませんが、そこで会話が起こったり、子どもが主体的に片づけを手伝ったりすることになると、質が高い時間に変化していくのです。
私は、お子さんとの時間の過ごし方は、十分に質の高い使い方だと思います。仮に時間がたくさんあるのであれば、子どもが主体的になれる、子ども中心の活動を増やしてあげることができれば、より影響があるのではないかと思います。


子どもとの時間を過ごすポイント

親が構え過ぎずに、子どもとの時間をどう過ごすのがいいのか、専門家にポイントを教えてもらいました。

好奇心・コミュニケーション・社会性など、非認知能力がとても大切

中室牧子さん

幼少期に身につける能力はどういうものがよいのか、科学でおぼろげながらわかってきていると思います。そのキーワードのひとつが好奇心、コミュニケーション、社会性などです。いわゆる非認知能力がとても大切なのです。

完璧ではない親、ほどよい親子関係の中で子どもはよく育つ

遠藤利彦さん

そもそも子育ては、完璧である必要はありません。子どもにとって、子どもと大人のほどよい関係のほうが、結果的にいちばんいいのです。英語では“グッドイナフ”と言います。言い換えれば、“完璧ではない関係”です。逆説的かもしれませんが、完璧ではない関係の中で子どもはよく育つわけです。
完璧ではない関係は、子ども視点でみると、いつも自分の思い通りになるとは限らない関係です。でも、嫌な状態の中にずっと居続けたい子どもはいません。子ども自身がなんとかしようと思い、実際にアクションを起こし、なんとかできて自分の感情を建て直すことができたら、「これだけ自分はやれる」と感じ、本当の意味での自信が備わるといわれています。適度なフラストレーションやストレスは、結果的に子どもの育ちにプラスに働くこともあるのです。その意味で、「完璧でなくていい」と考えてよいのではないでしょうか。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです