最近よく聞く「自己肯定感」とは、どういうことでしょうか。失敗を怖がる子は自己肯定感が低い? 自己肯定感を育てるために親にできることは? わかっているようでわからない「自己肯定感」について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)
天野ひかり(NPO法人 親子コミュニケーションラボ 代表理事)

天野ひかりさんは、2005年から3年間、「すくすく子育て」のキャスターを務めていました。その後、番組での経験をもとに、子育て支援のNPOを立ち上げ、パパ・ママの相談に応える講演などをおこない、「自己肯定感を育む言葉かけ」を中心に親子のコミュニケーションについて伝えています。


自己肯定感とは?

―― そもそも「自己肯定感」とはどんなことでしょうか?

よいところ・悪いところも含めて「まるごとの自分」を好きでいられる感覚

回答:遠藤利彦さん

心理学では、自尊心、自尊感情と言われることが多いかもしれません。「自己肯定感」とは、自分のよいところも悪いところも含めて「まるごとの自分」を好きでいられる感覚だと思います。
そして、いちばん根っこにあるのは「愛される感覚」ではないでしょうか。どんなに激しく泣き叫んでも決して見捨てられずに受け入れてもらえる、自分には愛してもらえるだけの価値があると思える。この感覚が、自己肯定感や自尊心の土台になっていると思います。

子どもの力を信じて子どもをそのまま認める

回答:天野ひかりさん

いろいろな分野の専門家の方が子育てについて教えてくれましたが、最終的にひとつのことに行きつくと思いました。それは、子どもの力を信じて子どもをそのまま認めることです。それが自己肯定感につながると思います。
自己肯定感を育むために特別なことをするよりも、日常の親子の会話を少し工夫するだけで、大きく育てていくことができるように思います。

自己肯定感が高い人と低い人は、それぞれのよさがあるように思います。例えば、自己肯定感が低い人は謙虚であったり、まわりに気をつかえたりするようないい面もあるのではないか? と感じます。
(すくすくファミリー)

自己肯定感は生きる力の土台になる

回答:天野ひかりさん

自己肯定感という言葉のイメージから、「自信満々な人」と誤解されることがありますが、そうではありません。私は、自己肯定感をわかりやすく伝えるために、器に例えて話をしています。

まず、器をイメージしてください。その器に、水を注いでいきます。水を、子どもが身につけていく知識、情報、社会のルール、モラルといったものだと考えると、器はなるべく大きくて丈夫でしなやかであってほしいと思いますよね。この器が自己肯定感なのです。

ただ、はじめは器が小さく、多くのものを入れようとすると水があふれてしまいます。親が子どもに「何回言ったらわかるの」と言うときは、水があふれている状態です。

親にできることは、まず自己肯定感という器を大きく育てていくことです。「私は私だから大丈夫、愛されている」という気持ちです。生きる力の土台になるのが自己肯定感という器なのです。

自己肯定感が育っているからこそ謙虚で周囲に気をつかえる

回答:天野ひかりさん

自己肯定感が育たないままだと、自分を認めることができません。自分の意見に自信が持てず、「私なんか」と考え、周囲に惑わされることがあります。また、みんなに認めて欲しくて「見て」「かまって」と過度なアピールをしてしまうこともあります。
謙虚であったり、相手の立場で考えられたりするのは、自己肯定感が育っているからこそだと思います。

―― 謙虚であることと、「自分なんか」と自分を卑下することは違うことなのですね。

謙虚は自分を受け入れて相手のよさも認められることで成立する

回答:遠藤利彦さん

そうですね。「謙虚」の前提には自己肯定感があると思います。自分の長所や欠点を受け入れて、相手のよさも認められることで成立する態度になります。
一方で「卑下する」は「自分はダメだ」と自分で自分を否定している状態です。謙虚と自分を卑下することは全く違うことだと考えていいでしょう。


失敗する前にやめてしまう… 自己肯定感との関係は?

長女(4歳6か月)は、子ども番組のクイズに参加するのが大好きです。少し難しい問題でも楽しくチャレンジします。でも、失敗しそうになると「(代わりに)やって!」と言ってきます。「やってごらん」「失敗してもいいんだよ」と言っても「できない!」と返されます。失敗しそうになると失敗する前にやめてしまうのですが、成功することがすべてになってほしくはありません。
失敗したら自分の評価が下がる、ダメになってしまうというような自信のなさと自己肯定感は関係があるのでしょうか。
(お子さん4歳6か月・1歳のママ)

鈴木あきえさん(MC)

いつも失敗を恐れていたら「ちょっとやってみようよ」「がんばれ」と言いたくなってしまいますよね。

生活全般を見てチャレンジする場面があればよい

回答:遠藤利彦さん

お子さんは、決して自己肯定感が低いわけではないと思います。ゲーム感覚で、時間の制限がある中で「できるかできないか、ドキドキわくわく」している状態なのでしょう。一方で「ドキドキわくわく」を避けたい気持ちもあり、「代わりにやって」と言っているように思います。
おそらく、他の遊びでいろいろなことにチャレンジしているのではないでしょうか。そのとき、たとえうまくいかなくても「もっと遊ぼう」となっていれば、基本的にチャレンジはできていると考えていいでしょう。そのように、生活全般に目を向けてみましょう。

そのまま認められることで、子どもは自分で考えるようになる

回答:天野ひかりさん

子どもの自己肯定感を育てる基本は、子どもの判断を認める言葉をかけることです。
例えば、子どもが途中でやめたときに、親が「やめないで。あなただったらできるよ」や「やめたくなったら、やめてもいいよ」と言ったとします。それらはどちらも、親が子どもの行動を判断している言葉になってしまいます。
この場合、子どもの判断を認める言葉かけは「やめたのね」でいいのです。大人は「こうしたほうがいい」と判断せず、子どものそのままを認めてみましょう。すると、子どもは認められたので「やめたけど、本当にそれでいいのかな」「自分は別のことをやりたいのかな」と、いろいろ考えるようになります。

鈴木あきえさん(MC)

「やめたのね」と「やめてもいいよ」は、似ているようで全く違うのですね。

子どもを認める言葉かけのヒント

解説:天野ひかりさん

オウム返し作戦

例えば、子どもが「怖いからいやだ」と言ったら、親は「いやだね」と返します。子どもは、耳から「いやだね」という自分の言葉を聞くことで冷静になります。そのあと、子どもが「『いや』じゃないもん」と言ったら、親は「『いやじゃないもん』なんだね」でいいのです。
自分が言っていること、やっていることを認めてもらうことで、自分のことを、自分がどうしたいかを子どもなりに一生懸命考えるようになります。

実況中継

そして、0歳からできる「実況中継」。子どもの行動をそのまま言葉にすることで、子どもの視点に立つこともできます。
例えば、「食べてますね」「にんじんを食べました」のように1つずつ言葉にしていくと、子どもは「ママ・パパが見てくれている」「自分がやっていることが認められている」と思うのです。
また、自分の気持ちや行動を表す言葉がその場で耳に届いているので語彙力にもつながります。

認める言葉かけのヒント

まずは、認める言葉をかける。その後に、親がお手本を見せる。最後に伝えたいことを説明する。この順番に会話を重ねていくことが大事です。
「これをやりなさい」「なんでやらないの」と伝えたくなるのはとてもわかりますが、それは、親が「身につけてほしいこと」なので器に入りきらない水を注ぎこむような行為といえます。まず認めることで自己肯定感という器を育み、お手本を見せてから知識など伝えたいことを説明していけるといいですね。

日常で親の間違いや失敗を見る経験も大切

遠藤利彦さん

おそらく親も間違えることはたくさんあると思います。そのように大人が失敗している場面を子どもが見る経験も、大切だと考えてみるといいでしょう。


自己肯定感が育っているからこそ、友だちとトラブルになる?

息子(4歳2か月)には、小さいうちから気持ちを認めるよう心がけてきたせいか、自分の意見を、自信を持って言える子に育ち、自己肯定感はあるほうだと思います。でも最近、友だちとのトラブルがあったようで、「友だちにうまく伝えられなかった」と家で話すことがしばしばあります。ストレートに言い過ぎて、相手を傷つけてしまうことがあるようです。
私はシングルマザーで、ひとりで子育てしています。息子の気持ちを尊重することを心がけてきましたが、会話のバリエーションが少なくて、息子の語彙力が足りていないのではと気になっています。
(お子さん4歳2か月のママ)

自己主張と抑えるところのバランスのとり方を学びつつある

回答:遠藤利彦さん

自己主張すべきところは主張し、抑えるべきところは抑えるというバランスがとれることは、コミュニケーションや人間関係をつくる上で大切なことです。お子さんは、今それを学びつつある状況なのではないでしょうか。しばらくはあたたかい目で見てみてください。

園で親以外の大人や友だちとコミュニケーションが取れている

回答:遠藤利彦さん

園で悩みがあったときにママに話せているのは、お子さんにとってはママが「話しても大丈夫なんだ」という安心感を持てる存在だからでしょう。絶対的な「安全な避難所」で、「安心の基地」であることはたしかだと思います。
会話のバリエーションの心配をされていますが、園では先生などの大人や、同じ年齢ぐらいの子どもたちや、少し年上だったり年下だったりする子どもたちと関わっているはずです。ときにはぶつかることもあるかもしれませんが、きちんと言葉を交わしてコミュニケーションを取れていると思います。

―― 日常生活で親ができることはありますか?

親がぶっきらぼうに答えて、体感させてから説明する

回答:天野ひかりさん

もしママに余力があって、お子さんにもう少し積極的に何かをしたいのであれば、ストレートに言われることを体感させる方法もあります。例えば、お子さんに「ママ、一緒に遊ぼうよ」と言われたら、ぶっきらぼうに「遊ばないよ」と言ってみましょう。実際に「そう言われると、こんなにざわざわとした気持ちになるんだ」と体感するわけです。そのあと、「ごめんね、ストレートに言い過ぎちゃった。実は今、ママは〇〇を一生懸命やっていて、最後までやりたいんだ。その後に一緒に遊ぼうか」と説明すると、お子さんは「丁寧に気持ちを伝えてもらうと、受け止め方がこんなに違うんだ」とわかるわけです。
自分で体感すると、親に「こうしなさい」と言われるより応用がききます。「こういう言い方で言ってみたら、相手はこう感じるんじゃないか」のように体感して考えることで、自分に必要な知識や会話力を学んでいくと思います。


子どもの自己肯定感を育むために夫婦でできることは?

2人の息子を育てています。パパは仕事で家にいる時間が少ないですが、子どもの自己肯定感を育むために夫婦でできることがあるのではと考えています。長男はもう3歳なので、夫婦のやり取りからくみとることもあると思います。夫婦でどうしたら子どもが自己肯定感を育てる空気感を作っていけるか知りたいです。
(お子さん3歳・9か月のママ)

「直接的な会話」と「間接的な会話」はどちらも大切

回答:天野ひかりさん

とてもいい視点だと思います。私は、子どもに直接かける言葉を「直接的な会話」、夫婦や大人同士が話し、子どもが聞いている言葉を「間接的な会話」と言っています。どちらも大切なのです。
親が、子どもにはいいことや子どもを認める言葉をかけていたのに、夫婦では認め合っていない姿を見せていると、子どもの自己肯定感はなかなか育めません。親の間接的な会話は子どもへの影響力が大きいのです。
私たちは、直接かけられた言葉に社交辞令や優しいうそが含まれている場合があることを知っています。一方で、自分がいないところで話された言葉は真実味を帯びます。例えば、パパとママが「今日、あの子がこんなことをして大変だったよ」「それはいけないな」と話しているのを子どもが聞いたらどう思うでしょうか。間接的な会話は気を許してしまいがちですが、マイナスな内容は子どもへのダメージが大きくなるので注意しておきましょう。

親や身近な大人の会話や行動は子どもの教養になる

回答:天野ひかりさん

子どもは、パパとママが「ありがとう」と言っている姿を見ることで、「こうやって『ありがとう』を使うんだ」「言われた人はあんなにうれしそうな顔をするんだ」「その後に行動が変わるんだ」とわかるようになります。その効果なども含めて見ていくことが、子どもの教養になるのです。自分でできることにつながるので大切にしていきたいですね。

親が落ち込んだり怒ったりする姿を子どもに見せてもよい

回答:遠藤利彦さん

夫婦のコミュニケーションは、いつも笑顔である必要はありません。人間は、ときどき落ち込んだり怒ったりします。子どもがそういう姿を見ながら成長するのは、ごく自然で当たり前のことなのです。

親が互いに怒ったら仲直りまで子どもに見せる

回答:遠藤利彦さん

ときには、パパとママがお互いに怒ることがあるかもしれません。そのとき、怒って言葉を交わしているうちに、最終的には仲直りするところまで、子どもに見せることが大切です。その姿を見て、「こういうふうにコミュニケーションをとっていけばいいんだ」と思えるのではないでしょうか。親同士が尊重し合うことで、親自身の自己肯定感も高まり、子どもの自己肯定感も健やかに育っていきます。


古坂さん あきえさん「すくすく子育て」卒業

番組MCの古坂大魔王さんと鈴木あきえさんは、今回で「すくすく子育て」を卒業することになりました。2人からのごあいさつを紹介します。

古坂大魔王さん(MC)

子どもが9か月だった2019年から、足かけ6年ですね。育児と「すくすく子育て」が同時進行でした。本当にこの番組で育児についての知識が増えて、増えるほどに育児がしやすくなり、難しくもなり。振り返ってみると、自分の成長が半端なかったです。

育児も多少一人前になりつつあるので、まさに卒業ですね。5年間、本当にありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!

鈴木あきえさん(MC)

親人生の最初のスタートダッシュを「すくすく子育て」と一緒にさせてもらいました。私のテーマは「いつも楽しそうなご機嫌ママ」ですが、もちろん「ピリピリママ」、「くよくよママ」になることもあります。 でも、この番組で「ご機嫌ママ」になる術や引き出しをたくさんもらいました。ママになりたてのころよりも、「今日、ママとしていいじゃん」という日が増えた気がします。子育てのたのしさやすばらしさだけではなく、力を抜くことや、できない自分もしっかり認めることなど、本当にたくさん学びました。

私たちは次の新米ママ・パパへバトンを渡しますが、子育てはまだまだ続きます。これからもぜひ、みなさん一緒に子育てをたのしんでいきましょう。ありがとうございました!

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです