みなさんは、戦争のことを子どもにどう伝えたらいいのか考えたことはありませんか。子どもは戦争を理解できるの? ニュースなどの影響は?専門家と一緒に、子どもとの向き合い方を考えます。

専門家・ゲスト:
池田美樹(桜美林大学 准教授)
渡部陽一(戦場カメラマン)

今回のテーマについて

番組のアンケートでは、およそ9割の方が「子どもに戦争について伝えたほうがいい」と答えています。一方で、困ったり、悩んだりしている家族が多いのが現状のようです。こんな声が届いています。

息子がニュースを見て「ウクライナがかわいそう」「ロシアが悪い」と口にするようになり、戸惑っています。戦争のことを伝える必要はあると思いますが、どちらが悪いと白黒はっきりできることではありません。人の死も絡んでいるので難しいと感じます。
(お子さん4歳のパパ)

子どもが小さいころは、戦争のことを全て伝えるのは控えるべきだと思っています。子どもの言葉や行動で「今は伝えるのをやめたほうがいい」といったサインはあるのか、どのぐらい深く話していいのか気になります。
(お子さん4歳のママ)

古坂大魔王さん(MC)

どのぐらいの年齢で、どれぐらい成長しているのか、環境にもよるので難しいですね。

鈴木あきえさん(MC)

親が知ったことを子どもにわかりやすく説明することも、とても難しいと思います。

渡部陽一さん

私はカメラマンとして、ウクライナの戦争を、これまでに11回に渡って現場で記録してきました。私たちが生きている2023年。この現代で侵略戦争が起こっている。まずその現状を知って、そこからどのように触れて、広げていくのか。現場の声として届けることができればと思っています。


子どもは戦争について理解できるの?

―― 幼児期の子どもは戦争について理解できるのでしょうか?

「ケンカ」など、子ども同士で起こる身近な言葉で伝えると理解しやすい

回答:池田美樹さん

戦争という概念を理解するのは、とても難しいと思います。0~2歳だと、戦争を理解することより、「怖い」などの感情が先に出てきます。3歳ぐらいになると友だちと関わるようになり、自分の知っている世界での物事がわかるようになってきます。ただ、映像・物語と現実との区別がつきづらいところもあるでしょう。
例えば「ケンカ」など、子ども同士で起こる身近な言葉で、「国と国でケンカしている状態なんだよ」といった伝え方だと理解しやすいと思います。子ども同士のケンカでも、言葉で傷つけたり、相手にケガをさせてしまったり、叩かれて自分が痛みを感じたりします。そのような体験のひとつひとつを通して、どんなことで気持ちや体が傷つくのか、どれくらい調節をすればいいのかを理解していきます。

戦争について定義や答えを断言するのではなく、気持ちを考えて広げていく

渡部陽一さん

戦場カメラマンとして最前線で感じたのは、「誰も戦いを望んでいないのに常に戦争が起こっている」ことです。そこで繰り返されている感情は、「自分の家族や子どもたちを守る」という思いです。それで戦いが起こってしまう。それぞれの国には、それぞれの言い分があります。それぞれの戦争に、定義や答えを断言することはできません。少し肩の力を抜いて、「その国はどうしてこんな感じ方をしているのだろう?」「もし私の国だったら、どんな思いを感じるだろう?」「どうしてこの地域と日本は違うのだろう、一緒な部分はどこだろう?」といったことを考えたり、気持ちを重ねたりする。そういった感情の広がりを日常的に意識すると、戦争に限らず、どんな環境にも気持ちが広がっていくと思います。
子どもたちは、友だちとの遊びやケンカでも、生活の慣習を敏感にキャッチしていきます。例えば、ウクライナとロシアのことでも、ニュースを見て「どうしてウクライナの国旗は黄色と青なのか?」と国旗から考えたり、「ロシアの言っていることで日本とつながることはあるのか?」と言葉から考えたり、そのときに感じたことや知っていること、ひとつひとつゆっくりと触れていく。それが、子どもたちの安心感のある力や経験になると感じます。

古坂大魔王さん(MC)

じっくり、ゆっくり、いろんなことを言いながら、ゆっくり考える時間を与えるのは大事ですよね。

鈴木あきえさん(MC)

わかりやすく簡潔に伝えるという感覚でいましたが、ひとつひとつのことから知識を膨らませていくのですね。住むところの違いやおしゃれのしかたなどから、世界に少しずつ触れていくのも大切だと思いました。


子どもが戦争のニュースなどを見たときの影響は?

子どもに幼児向けの戦争の絵本を読み聞かせましたが、戦争という単語すら知らない状態だと、それこそ大人がびっくりするような発言をします。戦争は怖いことだとわかっているのに、部屋がおもちゃで散らかっている状態を「戦争」と言ったり。このままだと、誰かを傷つけるようなことにならないか心配です。
(お子さん4歳のママ)

このような子どもが戦争のニュースなどを見たときの影響について気になるという声が多数届いています。

  • 娘(6歳)が戦争のニュース映像を見て不安になってしまい、今もときどき思い出して怖がっています。
  • 娘(2歳)は乗り物が好きなのですが、ニュースで見た戦車に興味を持ってしまいました。悪い影響を与えそうなので、それからは見せないようにしています。
  • 息子(5歳)が、戦車が出てくるゲームをやめられずにいつも興奮していて心配です。

刺激の強い映像は、繰り返し見ることや長時間見続けることを避ける

回答:池田美樹さん

幼児期の子どもが絵本や映像を見たとき、いい意味でも悪い意味でも、自分の注意が向くところだけが印象が残ります。戦争などの刺激の強い映像やニュースは、一般的に、短い時間であれば大きな影響はないといわれています。でも、繰り返し見たり長時間見続けたりすると、その印象が無意識に刻み込まれて記憶に残ってしまうので注意してください。似たような状況になったときに、恐怖体験がよみがえってくることがあります。

―― 子どもがストレスを感じている・怖がっているときに出るサインはありますか?

親にしがみついて離れない、一人でしていたことができない、食欲・睡眠の変化など

回答:池田美樹さん

幼児期は言葉がまだ十分に発達していないので、伝えること自体が難しい場合もあります。例えば、親や家族にしがみついて離れない、今まで自分でしていたことを「一緒にして」と言ってくる、食事や睡眠での変化に表れることが多いようです。

子どもが甘えてきたときに甘えさせる

回答:池田美樹さん

子どもの気持ちを受け止めて、安心させてあげることがとても大事です。子ども自身が、何に対して「怖かった」のかわかっていないこともあります。甘えてきたときには、十分甘えさせてあげることがいちばんの対処法です。
一方で、大人が怖がってはいけないわけではありません。親やまわりの大人も、怖がったり、危険に対して不安になったりしてもいいのです。子どもに「そういう感情を持ってもいい」と示してあげてください。


子どもたちに戦争のことをどう伝える?

実際に、子どもたちに戦争について伝えている園があります。その様子を見せていただきました。


「アルテ子どもと木幼保園」では、物事を考えるきっかけを与えることで、子どもたち自身がさまざまな興味を持ち、発想する力を養っています。今回、5歳児グラスで話し合っているのは、ウクライナとロシアの戦争について。統括園長の戸塚陽子さんが子どもたちに語りかけます。

―― 地球でいま、どんなことが起こっているのか、どんなことで困っているのか、話してくれる人はいますか?

  • ウクライナとロシアがケンカになった。

―― みんなが大きくなったときに、地球はどんなふうになってくれたらうれしいと思う?

  • 戦争が終わったらうれしい。

―― そうだね。なんでうれしいんだろう?

  • パンとかいっぱい食べられるから。戦争が終わったら人間が死んだりしないから。

戸塚陽子さん

難しい話題でもみんなで考えることが大事だと思います。「子どもだからわからない」ではありません。子どもは子どもなりに考えてくれるのです。だから、今、世界で起こっていることを伝えています。

中でも、子どもに戦争のことを伝えやすいのが絵本だといいます。

―― 絵本をみて、自分が思うことを話してみたい人はいますか?

  • 「へいわのボク」は元気に遊んでいて、「せんそうのボク」は一人ぼっちで誰とも遊べないから退屈している。

  • 「へいわのかぞく」は食事とかいっぱいお金を払えるけど、「せんそうのかぞく」は人がいない。

  • 「へいわのき」はりんごをみんなでたくさん食べられるけど、「せんそうのき」はりんごがないから仲良く食べられない。

戸塚陽子さん

子どもたちは思ったことや感じたことを何でも自由に発言します。こうすることで、自分の気持ちが出しやすくなり、相手の意見に耳を傾ける力がつきやすくなります。

そして、もうひとつの取り組みが「歌」です。みんなで「まあるいいのち」をうたいました。

♪ みんな同じ生きているから~
♪ 一人にひとつずつ大切な命~
♪ まあるいいのち

―― さぁ、みんなの命のかたちはどうかな?

  • ハート
  • ぼくは三角

戸塚陽子さん

これらの言葉は、乳幼児期だからこそ出てくる言葉だと思っています。人はそれぞれいろんな形の命を持っていると思うことを大事にしてあげたい。命の大切さや個性を尊重する心を言葉だけでなく、歌で感じて学ぶことが戦争を解決するヒントになると考えています。

日々、平和や命について学ぶ子どもたちに、「どうすれば戦争がなくなる?」と問いかけたところ、争いごとを解決するアイデアがたくさん出てきました。

  • ウクライナとロシアが結婚すればいい。
  • 世界を平和にすれば、ケンカはなくなると思う。
  • ウクライナとロシアが離れちゃったけど、近くになったら一緒に遊んだほうがいい。離れちゃったらかわいそう。
  • 自分からあやまりに行く。許してもらえなかったら話し合って仲直りする。

保護者の声

  • 命の大切さを伝える機会はなかなかないので、悲しい思いをしている人たちがいる、失われている命がある現実を子どもたちと共有してもらえるのは、とてもありがたいと思います。
  • 例えば家庭内のケンカのときに、相手に耳を傾けて話を聞いたりすることができていると思います。
  • 子どもがケンカになったときは、保育士の方がそれぞれの考えを聞いてくれます。お互いに相手がどう感じたかを考えながら、自分との違いに気づくことは、成長に必要だと思います。平和につながる一歩かもしれません。

戸塚陽子さん

私は、「小さなケンカはたくさんしてもいい」と考えていますが、「必ず叩いたほうも、叩かれたほうも、自分の言い分を言う」ことを約束にしています。そうすることで、話す力・聞く力、人の話を聞いて考える、対話で解決しようとする力が身につくと思います。話し合っているとき、どちらの子にも味方になる子が出てきますが、保育士は仲裁しません。子どもたちがお互いの気持ちを話しているときに、保育士の考えや正解のようなことを絶対に言わないのです。子ども自身が相手のことを考えることで、幼少期から「共感する力」が身につくと考えています。


―― 池田さん、渡部さん、園の取り組みについてどう感じますか?

幼児期でも身近な体験から命の大切さを学ぶことができる

池田美樹さん

子どもに生々しい映像を見せると衝撃になってしまう場合もありますが、シンプルな絵本はわかりやすく、想像力を広げるような働きかけになっていると思います。一般的に、命を失くしたら戻ってこないことがわかるのは、小学校高学年ぐらいだといわれています。でも、幼児期であっても、命の大切さを、見たり、聞いたり、虫などの身近な生き物や大事なペットなどの体験から学ぶことができると思います。

本質的に捉えている子どもたちに希望を感じる

渡部陽一さん

園での様子を見て、「希望はある」と感じました。子どもたちはうまく気持ちを表現できなくても、本質的に捉えている。子どもたちの振る舞いや温かい感情から、そんな安心感を強く持ちました。いろいろな入り方・感じ方を、子どもたちはしっかり受け止めてくれている。寛容の気持ちに包まれていて、うれしい気持ちになりました。
子どもたちの歌にも、本質的な気持ちが乗っていると感じました。言葉が通じなくても、その国の民謡など、それぞれの国の音・メロディーを聞くだけで、なぜか優しい気持ちになって、涙が出てきます。音が持っている力は、理屈抜きに子どもたちにつながると感じました。

お互いに相手のことを知ることが、必ず大きな力になる

渡部陽一さん

約30年前にアフリカのルワンダという国では、大きな悲しい戦争・民族の衝突が起こりました。でも、これまでの歳月で、相手のことをひとつひとつ知って、気づいて、寄り添ったことによって、お互いの感情がつながり、共感力が広がって、戦いが収まってきました。これも、戦場の現実としてあったことです。
また、ルワンダでは、アフリカの周りの国々の人たちが架け橋となって、お互いの声をつなげていきました。
地域、民族、宗教は関係なく、それぞれの地域で重なる架け橋は必ず存在しています。ひとつだけでいい、相手のことを知ってみること。時間がかかったとしても、1日1日の言葉や時間の共有という重なり合いが、必ず大きな力になっていくと思います。

―― 渡部さん、子どもに戦争のことを伝える上で、大事なことはどんなことだと思いますか?

気持ちをつなげることができる環境を支えることが、大きな架け橋になる

渡部陽一さん

どの戦争でも変わらないのは、「戦争の犠牲者は子どもたち」だということ。どの地域の戦いでも、必ず子どもたちが犠牲になっている現実を、知っておく必要があります。戦いが続いていく中で、相手と少しでもつながれるように、それぞれの子どもたちが知りたいこと、触れたいこと、聞いてみたいこと、大好きなこと、試してみたいことがあったら、どんなことでもいいので、それをつなげていける環境を支えていくことが、世界中につながる大きな架け橋になると思います。相手とつながるきっかけは、日常の中にたくさんあると感じています。
親は、子どもがまだ知らない世の中の架け橋になれます。また、子どもにとって親はいつも近くで一緒にいる存在で安心感があり、大きな支えの力だと思います。

鈴木あきえさん(MC)

これまで「戦争について伝えないといけない」「教える時間をつくらないとけない」と思っていたのですが、考え方が変わりました。日常生活の中に考えたり、触れたりするきっかけがあり、子どもと一緒に話し合って、考えて、戦争や平和について見つめ直していく。そんな日々の積み重ねが大切なのだと思いました。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです