うそ泣きをしたり、あいさつをしなかったり、「大人になりたくない」と言ったり。ちょっと戸惑う子どもの言動について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
柴田愛子(保育施設代表)
坂上裕子(青山学院大学教授)

うそ泣きかもしれない… どうしたらいい?

最近、娘の行動に驚くことがありました。家で友だちと遊んだあとに「おもちゃの片づけしようね」と言うと、急に泣き出したんです。娘に「どうしたの?」と聞くと、「眠たくなった」「お片づけできない」と答えますが、ふだん眠くて泣くことはありません。しかたなく娘をおんぶして片づけていると、いつの間にか泣きやみ、けろっとしていました。うそ泣きをしていたのかもしれません。
あとで話を聞くと、「片づけをしたくなかった」と言い出したので、「友だちの家や外で片づけしないと、みんながびっくりするよ」と言い聞かせると、「外や幼稚園ではやる」と言います。こんなとき、親はどうすればいいのでしょうか?
(お子さん5歳5か月のママ)

4~5歳になると自分の表情にどんな反応が返ってくるか理解するように

回答:坂上裕子さん

うそ泣きは、2歳ぐらいからみられます。泣くと自分の要求が通りやすいと感じるようです。4~5歳になると、自分の表情にどんな反応が返ってくるのか理解するようになります。他者の行動を引き出したり、何かを避けたりするために、意図的に大げさな表情で伝えたり、表情に出さないようにしたりすることがあります。子どもの理解力が育っていく、その成長の表れだと思います。

5歳ごろになると知能が発達して、うそがつけるようになる

回答:柴田愛子さん

5歳ぐらいになると、知能が発達してきて、うそがつけるようになります。生きやすさの方法を1つ持ったということでしょう。うそがいいわけではありませんが、「うそをつけるようになった」ことでもあると考えましょう。

子どもは泣くことで気持ちがおさまることも

回答:柴田愛子さん

もしかすると、遊びの終わりが嫌だったから、泣いたのかもしれません。「片づけが嫌だから泣く」といった、シンプルなものではないと思います。大人は「どうして泣いたの?」と聞きがちですが、子どもは理由を聞かれて、理由を作り出すこともあります。
でも、「泣く」ことは、一つの感情表現です。私は、うそでも、うそでなくても、泣いていいと思います。泣くことで、いろんな思いを自分で処理しようとしていたのかもしれません。いずれにせよ、子どもが泣きたい心情にあることは事実なのです。泣きたくなって、泣いて、ママにおんぶしてもらったら落ち着いて、泣きやんだ。それでいいと思います。泣くことで気持ちがおさまることは、子どもによくあることなのです。作為的なうそがあるかは、わからないと思います。

うそでもうそじゃなくても、「泣けちゃう」を受け止めて

回答:柴田愛子さん

私自身、困るとよく泣く子で、学校でもよく泣いていたので、お子さんの心情もわかります。私が泣くと、きょうだいは「またうそ泣きだ」と言っていましたが、本当に泣いていたんです。そんなとき、母は「泣きぼくろがあるから泣けちゃうんだよね、しょうがないよね」とかばってくれました。うそでもうそじゃなくても、「泣けちゃうことは本当なんだ」と受け止めてほしいと思います。
その後、泣き虫ではなくなったのですが、口が達者になって、他のことで消化できるようになったからだと思います。

泣いたあとに、たのしい雰囲気で「うそだった?」と聞いてみる

回答:柴田愛子さん

明らかに「うそ泣き」だとわかる場合は、泣き終わったあとに、たのしい雰囲気で「あれ、うそだったでしょ?」と聞いてみてください。子どもも「へへっ」と笑うと思います。「うそはいけないから、うそ泣きはやめなさい」というのは、少し子どもがつらいように思います。

「うそ泣き」を親子で話し合うチャンスに

回答:坂上裕子さん

「うそをつくと友だちに嫌われるかも」と心配するのは当然で、うそをついてほしくないのは、子どもを思うからこそですよね。
でも、子ども自身が主体的に考えて絞り出した行動でもあると思います。気になることがあれば、親子で話し合うチャンスだと考えてみましょう。「ママは泣くことを〇〇だと思っているよ。あなたはどう?」のように、お互いに伝え合って、一緒に考えるわけです。例えば、「家では許してもらえるけど、園ではママの話を聞いてやめている」など、子どもなりの判断があったかもしれません。


子どもがあいさつをしない、どうしたらいい?

息子があいさつできなくて困っています。例えば、保育園の送迎のときの「おはようございます」「さようなら」が言えません。「あいさつをしてほしい」と話すと、その場では「わかった」と言うのですが、いざ知り合いの人に会うと、そっぽを向いてしまいます。
あいさつをしてほしいのですが、怒りたくもありません。無理やりにでもさせたほうがいいのか、そのままでいいのか迷っています。こんなとき、親はどうすればいいのでしょうか?
(お子さん5歳6か月のママ)

娘は、あまりあいさつをしなかったのですが、最近するようになりました。習いごとに行くと必ず寄るパン屋があるのですが、そこでおやつを食べた後に、「ありがとうございました」と言って娘がトレイを返すようにしていたんです。お店の人も「ありがとう」と言ってくれるので、それがきっかけになったのかもしれません。
(お子さん5歳5か月のママ)

あいさつは大人の文化

回答:柴田愛子さん

あいさつは、大人の文化だと思います。子どもの自然に任せておくと、あいさつはなかなか出てきません。園の子どもに「おはよう」と声をかけたら、「大人はあいさつが好きだよね」と言われたこともあります。「あいさつなしで、どうしてるの?」と聞いてみたら、「『遊ぼうぜ!行くぞ!』で終わりだよ」と言うんです。
中には、あいさつ代わりに蹴ってくる子もいます。「イテテッ、このあいさつは痛くて嫌です」とは言うけど、その子にとっては「来たね、待ってたよ」の代わりだったりする。だから、「あなたのやり方、案外好きだよ」と言ってやりましたよ。

5歳ごろはあいさつを知っていても、自分の流儀になっていない

回答:柴田愛子さん

不思議なことに、6歳ごろになると、大人の世界の価値観や習慣をまねて、あいさつするようになります。5歳ぐらいまでは、大人があいさつすることを知っていても、自分の流儀にはなっていません。だから、あいさつには少し勇気が必要で、ハードルが高いわけです。“知っている”から、“できるようになる”までには、時間がかかるように思います。

期待されると、緊張してできなくなることも

回答:坂上裕子さん

まわりの人たちが自分にあいさつを期待していると感じて、しないといけないと思うほど緊張してしまい、できないこともあります。そこで怒られてしまうと、あいさつでコミュニケーションをとること、人との関係を作ることに、ネガティブなイメージを持ってしまうかもしれません。

―― 子どもがあいさつをするために、親ができることはありますか?

子どもの背中に手を添えて、代わりにあいさつする

回答:坂上裕子さん

お子さんのように固まってしまう場合は、無理にあいさつさせるのは酷だと思います。例えば、子どもの背中に手を添えてあげながら、代わりに「おはよう」とあいさつしてみてください。それだけでも、子どもが自分であいさつしているような気持ちになれることもあります。

「できたこと」を伝えると、その行動をとりやすくなる

回答:坂上裕子さん

大人は、子どもができないことにばかり注目しがちです。でも、できないことよりも、できたことに注目されるほうが、子どもはその行動をとりやすくなります。例えば、子どもが小声で「おはよう」と言ったときに、「『おはよう』って言ってたね」と伝える。すると、「頑張ったことを、周りの大人がわかってくれている」「次はもうちょっと大きい声で言ってみようかな」と思うかもしれません。
いつか、あいさつをして人から返事が返ってくるのが「気持ちいいな」と感じて、そんなやりとりが「楽しい」と、子ども自身が思えるような日がくると思います。


「大人になりたくない」と言われたら、どう答えたらいい?

娘が5歳になったころ、急に「死にたくないから、大人になりたくない」と言って泣き出しました。それからも「年長さんにもなりたくないし、小学生にもなりたくない」「大人になっても働かないで、ママと一緒にこの家にいる」「赤ちゃんも産みたくない」と言っています。とりあえず「産まなくていいよ」「結婚しなくてもいいよ」と、気持ちを受け入れるように言っていますが、娘が何を思っているのかわからず、どう答えたらいいのか対応に困っています。
(お子さん5歳9か月のママ)

4歳ごろになると人の命には限りがあるとわかる

回答:柴田愛子さん

4歳ごろになると、人の命には限りがあるとわかりはじめます。いつか自分が死ぬという不安を、たった4歳ごろから持ち続けるわけです。でも、気持ちにはブームというものがあります。怖くて眠れなくなるほどはまる時期もあれば、不思議なことに薄れる時期もきます。
以前、4歳の子が、突然「今日から園をやめます」と言ったことがありました。話を聞くと「私が園にいる間にママが死んだら困るから家にいます」と言うわけです。その子は、ママが病気になって点滴を打っている姿を見たようなのです。その後、「ママが一緒なら園に来たい」というので、2か月ほど一緒に来てもらっていました。そのように、死ぬことに対して不安感を持つようになるのは、4~5歳からだと思います。

自分の未来に不安が出てくる

回答:坂上裕子さん

子どもは、生まれたときからしばらくは「今」を生きています。3~4歳ぐらいになると、赤ちゃんのときの自分の写真や映像を見て、「これは自分だ」とわかるようになります。自分に過去があると認識するようになるのです。ただ、過去が今の自分につながっていることはわかりやすくても、未来の自分は想像しにくいものです。未来の自分を自分ごととして捉えると、不安になってしまいます。

時間の感覚がわかってくると不安もなくなっていく

回答:坂上裕子さん

6歳ぐらいになると、1~2時間、半年、1年ぐらいの時間の長さの感覚がわかってきます。すると、「点」で見ていた未来の自分が、今の自分とつながってきます。すると、不安感がだんだんとなくなっていきます。
とはいえ、大人でも未来の自分を考えると不安になりますよね。子どもがそのような思いを持つのは、当然のことだと思います。

―― 子どもが「死にたくない」と言い出したとき、親はどう対応すればいいでしょうか?

明るい気持ちになれるような声かけを

回答:柴田愛子さん

死んでしまうことへの不安は、闇のように深いですよね。子どもに「死にたくない」と言われたら、「本当だよね、怖い気がするよね」「でもさ、天国や極楽があるという話があるよ」と話してみるのはどうでしょうか。
「私もわからないけど、どうだったらいいと思う?」「絶体絶命の恐ろしいことではなくて、嫌なことばかりじゃないのかもよ」と言ってみる。「おばあちゃんは亡くなったけど、おばあちゃんの話、私はいっぱい知ってるよ。だから、私の心にはずっといる気がする」。そのように、少し心に火を灯して、明るい気持ちになれるような声かけがいいと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです