2月15日は「国際小児がんデー」です。どうして、子どもが“がん”になるのでしょうか。小児がんに関する疑問に、専門家が答えます。また、患者と家族を支援する施設「こどもホスピス」を紹介します。

知っていますか? 小児がんのこと※すくすく子育て「知っていますか? 小児がんのこと」より

専門家:
松本公一(国立成育医療研究センター 小児がんセンター センター長)

小児がんとは?

「小児がん」とは、15歳未満の子どもが発症するがんの総称です。日本では、毎年2000~2500人が新たに小児がんと診断されています。そのほとんどは白血病と脳腫瘍ですが、子どもに特有のがんもあり、種類が多いのが特徴です。

※小児がん拠点病院情報公開2018-20年集計より一部改変


11年前に小児がんの治療を受けて克服した四郎さん(15歳)のケースを紹介します。

現在15歳の四郎さん。小児がんのはじまりは3歳の夏で、頭痛を訴えて幼稚園を早退しました。かかりつけ医に熱中症と診断されましたが、何日たっても症状が改善しません。「頭が痛い」と言って頭をトントンとたたいたり、吐いたり、失禁したり、けいれんすることも起こってきたそうです。
そこで、いろいろな病院で治療を受けたり、セカンドオピニオンを受けたりして、最初の受診から8か月後に、ようやく脳腫瘍と診断されたといいます。小児がんでは、このように診断までに時間がかかることがあるのです。

―― 松本さん、小児がんの診断は時間がかかるのですか?

最初の症状からは、すぐに診断がつけづらい

回答:松本公一さん

小児がんの最初のころにみられるのは、熱や頭痛など、一般的なかぜと同じような症状です。そのため、すぐに「がん」だと診断するのはとても難しいのです。また、子どもが自分の症状をうまく表現できない場合もあり、どうしても診断が遅れることが多いと思います。


ここで、番組にアンケートを寄せていただいた佐藤さん(仮名)にも話を聞きました。2021年の6月に長男が白血病と診断され、1年間の入院治療。今は、月に1回の通院治療中だそうです。

―― 診断がつくまで大変でしたか?

コメント:佐藤さん(仮名)

最初、6月中旬の夜中に腹痛と微熱があって、あまりにも痛そうで、往診でみていただきました。そのときは、便秘ではないかと診断があり、整腸剤を処方してもらえました。たしかに排便が2日前くらいだったんです。
それから様子をみていたのですが、また夜に発熱と腹痛があったり、夕方になるとひざや足首、股関節など、「関節が痛い」と言うようになりました。すこし待てば落ち着いていたのですが、その後、夜ごはんのとき急に「痛い、痛い」と言うようになったんです。

腹痛・微熱・関節の痛みは一向によくならず、救急や近所のクリニックなどで受診を繰り返し、最終的に総合病院で血液検査を受けたところ、白血病と診断されました。診断を聞いて、ただ驚きました。

―― 最初に薬(整腸剤)を処方されて経過をみていても、いつもと違うと感じていたのですか?

コメント:佐藤さん(仮名)

どちらかというと、けがをして泣いても、すぐに「ケロッ」として遊ぶような子で、こんなにしつこく「痛い、痛い」と言うのはおかしいと感じていました。整腸剤を飲んでいるのに改善しないところも気になっていました。

コメント:古坂大魔王さん(MC)

親が感じる「いつもと違う。これはおかしい」は、大事にしたほうがよいのですね。

―― 松本さん、なかなか診断がつかないとき、親にできることはありますか?

症状が改善しないときには、くわしい検査などをお願いする

回答:松本公一さん

例えば、一般的なかぜの場合、熱が5日以上続くことはあまりありません。もちろん5日以上続いたからといって、「がん」というわけではなく、他の病気の可能性もあります。症状が改善しないときは、かかりつけ医にもう少しくわしい画像検査や血液検査をお願いしてみてください。
また、佐藤さんのお子さんのように、微熱を繰り返したり、痛みが続いたり、ふだんとくらべて「おかしい」と感じることがあれば、病院を受診したほうがいいでしょう。

コメント:鈴木あきえさん(MC)

大人は、定期的な健康診断や人間ドックで発見される場合もありますが、子どもにはありませんね。ふだんの親の向き合い方、症状や状態をみることが大事だと改めて感じました。

―― 親としては、どの程度「おかしい」と感じたら受診するのか、見極めが難しいと感じます。どう判断すればよいでしょうか。

子どもに異変を感じたら、遠慮せずに病院を受診

回答:松本公一さん

例えば、ぜんそくだと思っていた子に、実は胸の腫瘍があるようなケースが、年に1~2人います。はやく見つけようとする努力は必要なのです。コロナ禍では、受診控えする方も多いのですが、「何かおかしい」と子どもの異変を感じたら、遠慮せずに病院を受診したほうがよいでしょう。

小児がんのサイン

回答:松本公一さん

小児がんのサインとして、発熱、頭痛、食欲不振、体重減少、不機嫌、骨・関節の痛み、歩きたがらない、筋肉・胸・おなかのしこりなどがあります。

これらはあくまで一般的な症状で、しこり以外はがんでなくてもみられる症状です。
白血病では足に細かい点々のあざができることがあります。ぶつけてできるあざではなく、もっと細かいもので、出血斑といいます。そのような徴候があって、それ以外の症状が組み合わせて出てくることがあります。

―― 佐藤さん、総合病院で診断がついてからは、スムーズに治療がはじまりましたか?

コメント:佐藤さん(仮名)

最初に血液検査をした病院では、「小児がんの治療はできない」と言われ、治療できる病院に転院することになりました。でも、転院先が子どもに慣れておらず、「子ども専門の病院に転院させてほしい」とお願いしたんです。すぐに対応いただいて、翌日には転院しました。
子ども専門の病院では、看護師や医師も、子どもへの接し方が丁寧で、治療のときも必ず子どもに説明してくれました。子どもが怖がらないようにしてもらえて、とても安心感がありました。

―― 病院選びが大事なのですね。松本さん、どのような病院に行くのがよいでしょうか?

小児がんの治療の経験を持った病院がある

回答:松本公一さん

現在、小児がん治療の経験をたくさん持つ「小児がん拠点病院」が全国に15施設(※1)あります。全国を7つのブロックに分けて、それぞれに配置されています。それ以外にも、各都道府県に「小児がん連携病院」が144施設(※1)あります。国立成育医療研究センターのホームページ(※2)にも、小児がん拠点病院・小児がん連携病院を掲載しています。どこの病院がどれだけの小児がんを診ているかわかるようになっています。
または、かかりつけ医にそのような病院を紹介してもらうのもよいでしょう。

※1 2022年4月1日現在
※2 https://www.ncchd.go.jp/center/activity/cancer_center/cancer_kyoten/

―― 番組のアンケートで、「小児がんの原因はわかるのでしょうか? 予防法があるなら知りたい」という質問が届いています。

原因も予防法もわかっていない

回答:松本公一さん

残念ながら、今のところ小児がんの原因や予防法はわかっていません。正常な細胞が異常な細胞になったものを「がん」と言いますが、子どもの場合は神経や、特定の細胞になる前の細胞の赤ちゃんがガン化してしまうのです。その理由が、まだわかっていないのが現実です。一部のガンでは遺伝が関係しているといわれていますが、ほんとうに一部です。


治療後の副作用とは?

小児がん治療後の副作用はどんなものなのでしょうか。まずは、四郎さん(15歳)のケースを紹介します。

11年前、脳腫瘍と診断された四郎さん(15歳)。脳にできたがんの大きさは約3cmで、手術が行われ、無事がんを取り除くことに成功しました。手術後は、再発を防ぐため、抗がん剤と放射線による治療を受け、そのおかげか再発せず11年が経過しています。

しかし、治療による影響は今でも残っているそうです。例えば、いろんなことを同時に行うことが苦手だったり、疲れやすかったり。さらに、脳にあてた放射線の影響で、6年前から成長ホルモンの分泌が低下して、週に6日、注射でホルモンを補充しています。小児がんは、治療が終わってからの人生が長いため、こうした治療後の副作用を少なくすることも課題となっています。

しかし、四郎さんはあまり副作用にとらわれず、前向きに生きようと考えています。「あまり悩まないです。みんな違ってみんないいと思っているから」といいます。親も、親が必死に元の生活に戻すことや社会の基準の中に入れようとするのではなく、子どもが自分を責めずに楽しく暮らしてほしい、と考えているそうです。

―― 小児がんの治療には副作用があるのですか?

副作用はがんの種類や治療法によって違う

回答:松本公一さん

成長期に抗がん剤などを使うので、合併症が起こりやすい場合もあります。ただ、がんの種類や治療法によって大きく違います。脳腫瘍の治療は、どうしても影響が大きいのかもしれません。例えば、固形がん(血液がん以外のかたまりを作るがん)の治療で使う薬が、心臓や耳の聞こえに影響することはあります。

白血病は8~9割が治る時代、なるべく副作用が出ない治療が行われる

回答:松本公一さん

現在、白血病は8~9割が治るような時代になっています。治療は、できる限り少ない薬の量で最大限の効果が出るように、できるだけ退院後の副作用が出ないように考えています。

―― こうした副作用は、大人になっても続くのですか?

治療法や人によって違いがある

回答:松本公一さん

大人になってからも副作用が続く人もいます。治療によっても大きく変わり、人による部分があるので、一概には言えません。

コメント:佐藤さん(仮名)

今は長男が退院して1年で、まだ先のことはわかりませんが、自分でネットの情報を調べ過ぎるとより不安になってしまいます。逆にあまり調べず、先生たちを信じて頑張っていきたいと考えています。

―― 小児がんの治療は、子ども自身だけでなく、親や家族も不安や孤独を感じることも多いように思います。

親も子も、一人で悩むのはよくない

回答:松本公一さん

そうですね。親はどうしても病気の子にかかりっきりになってしまいます。でも、きょうだいや家族のこと、いろんなことを考えないといけません。親も子も、一人で悩むのはよくないと思います。


小児がんの家族支援とは?

小児がんの家族支援に、どんな活動があるのでしょうか。四郎さん(15歳)の活動と、「こどもホスピス」を紹介します。

11年前、4歳のときに脳腫瘍を克服した四郎さんは、小学校3年生のときにある活動をはじめました。

レモネードを発売するチャリティイベントです。売り上げは、小児がんの治療を支援している団体などに寄付しています。活動のきっかけは、治療後の晩期合併症という後遺症など、大変なことをいろんな人に理解してほしいと思ったことだといいます。この活動は、元々アメリカの小児がんの女の子がはじめたチャリティで、日本でも多くの団体が同じような活動をしています。

さらに、四郎さんの家族は、小児がんの患者が支え合うための患者会を立ち上げました。新型コロナの流行後は、チャリティイベントの開催が難しくなり、月に1回オンラインで集会を開いています。みんなでゲームをしたり、情報交換をしたりしているそうです。同じ小児がん患児とつながれてたのしいといいます。

クリスマスの時期には、お世話になっている病院や施設の子どもたちに、プレゼントを届ける活動も行っています。この日、四郎さんが訪ねたのは、神奈川県にある「横浜こどもホスピス」です。

「こどもホスピス」は、小児がんなどの命に関わる病気の治療に向き合う子どもと家族が、ひとときでも治療を忘れて楽しく過ごし、笑顔を取り戻すための場所です。大人のホスピスとは違い、おだやかな最期を迎えるための施設ではありません。看護師や保育士の資格を持ったスタッフが常駐していますが、医療行為は行いません。予約制で、日帰り利用以外に、宿泊することもできます。

今は、コロナ禍のため1日1組限定の利用ですが(2023年2月現在)、本来は患者や家族同士の交流、地域の人たちに開かれたコミュニティの場所なのです。

こどもホスピスについて、田川尚登さん(横浜こどもホスピス代表理事)に話を聞きました。25年前、当時6歳の次女を小児がんで亡くされたそうです。

コメント:田川尚登さん

娘の闘病生活のあと、イギリスから世界に広がっている「こどもホスピス」を知りました。もし、娘の闘病中にこどもホスピスがあれば、もっと濃厚な家族の時間を過ごせたかもしれない。そんな思いから、こどもホスピスを作りました。子どもは、闘病中でも成長しています。遊びたい、学びたいという気持ちを持っています。こどもホスピスは、子どもの成長・発達を手助けし、濃厚な時間を過ごす場なんです。

―― よく「笑顔が見たい」といいますが、言葉の深さや輝きが違いますね。イベントの様子をみると、たくさんの笑顔があるのだろうと思いました。

コメント:田川尚登さん

病気のことを忘れる場所で、いろんな遊びをしたくなる工夫をしています。子どもたちは、ひたすら遊んでいます。親も含めて、家族ごとみんなが主役になって、遊んだり、笑ったりしています。

―― こういった民間のこどもホスピスは、全国にどのぐらいあるのですか?

コメント:田川尚登さん

現在、大阪と横浜の2か所しかありません。もっと増やしたいと考えています。まだ日本では、厚生労働省などに、こどもホスピス自体の窓口ができていないのが現状です。2023年4月に設置される「子ども家庭庁」の中に窓口を作ってもらえるように活動しています。

―― 民間でこどもホスピスを作ろうと思ったのはどうしてですか?

コメント:田川尚登さん

家族支援は、地域の課題だと考えています。国が「このような施設が必要だ」と示し、地域で問題を解決するのがいちばんです。こどもホスピス発祥のイギリスでは、50数か所の施設が、地域の支えで運営されています。きっと日本でも、地域で「何とかしよう」という思いが生まれれば、成り立つと考えています。
子どもが子どもらしい時間を過ごすことが、大切な時間になります。家族との時間を支えることを、みんなで一緒に考えて、その大切さを理解していただければと思っています。

―― 松本さん、こどもホスピスのような施設を備えた病院はあるのでしょうか?

小児専門の緩和ケアの医師が少ないのが問題

回答:松本公一さん

例えば、国立成育医療研究センターには「もみじの家」という施設があります。「もみじ」は小さな子どもの手をイメージしたものです。ただ、子どもの緩和ケア施設がある病院は少ないのです。問題のひとつは資金ですが、いちばんの問題は小児専門の緩和ケアの医師が少ないことです。

※緩和ケア:生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族の心と体の痛みやつらさを和らげ、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を向上させるアプローチ。


長期入院中の子どもたちは、どんな教育を受けている?

長期入院中の子どもたちは、病院内に設置された特別支援学級など、通称「院内学級」で教育を受けることができます。院内学級は、全国の小児がん拠点病院や小児がん連携病院などの一部に設置されています。

例えば、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の場合。5階フロアに、東京都立光明学園の「そよ風分教室」が設置されています。
ここでは、2週間以上入院している小学生から高校生までの子どもたちが、治療を受けながら勉強しています。授業は、一般の学校と同じように6時限。新型コロナの流行以降は、病室にいたままで受けられるオンライン授業もはじまりました。
こうした院内の学校がない場合は、教師が出張して授業を行う「訪問授業」が行われている病院もあります。

コメント:佐野健一郎さん(主任教諭)

子どもたちは、院内学級での人との関わりの中で、ときにはぶつかり合いながら成長して大人になっていきます。私たちは、限られた環境の中でも、子どもたちがいろいろな経験ができるように工夫して準備をしています。


専門家からのメッセージ

小児がんは治る時代になってきている。一人で抱え込まず相談を

松本公一さん

今、小児がんは以前より多くの方が治る時代になってきています。過度に恐れる必要はありません。そして、一人で抱え込まないことが大切です。心配があるときは、ぜひ相談していただきたい。もし、子どもが小児がんになったとしても、特別視せずに、ふだん通りに接することがとても大事です。いつものように接して、勉強させて、遊ばせてください。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです