子どもの言葉を真に受けて、傷ついてしまう。本音かわからない子どもの言動に、困ってしまうこともありますよね。子どもの本音について、たっぷり分析していきます。

専門家:
帆足暁子(親と子どもの臨床支援センター)
鈴木八朗(くらき永田保育園 園長)

「ママが嫌い」は子どものホンネ?

次女を妊娠して半年ごろから、長女は何をするにしても「パパがいい」「ママが嫌」と言うようになりました。私は一生懸命なのに嫌がられてとても悩みました。今では仲よくしていますが、言葉を真に受けてぶつかりあう毎日が2年ほど続いたんです。当時育休をとっていたパパは、「『パパがいい』と言ってくれるのはうれしいけど、妻のことが心配で、その言葉が出ると緊張していた」といいます。
今考えると、目の前のことで余裕がなかったのかもしれません。「ママが嫌」と言われると、売り言葉に買い言葉で、「ママはもう明日から世話をしない」と言って余計に泣かせてしまうこともありました。そんなときは、娘が寝てから「ごめん」と泣いていました。
「ママが嫌い」という言葉が本音だったのか、なぜそんなことを言っていたのか、今も気にしています。娘は天真爛漫で聞き分けのよい性格なので、余計に心配です。
(お子さん3人のママ)

言ったことの全てが本音ではない

回答:帆足暁子さん

子どもが言葉で言ったことの全てが本音ではありません。自分の気持ちと一致していないことがとても多いのです。「ママ嫌い」と言いながら甘えてくることもあります。
子どもの言葉が増えて、言葉のやりとりで大丈夫だと思ったことで、お互いの気持ちが離れるようになったかもしれません。言葉だけを捉えてコミュニケーションするのではなく、子どもの姿から「この子はどんな気持ちでいるのか」をみていくと、その気持ちや本音がわかってくるように思います。

「ママの期待に応えたい」が本音

回答:帆足暁子さん

おそらく、お子さんは一生懸命頑張って、ママの期待に応えようとしていたと思います。一方で、ママも理想の親でいようと頑張っていて、そんなママの期待にうまく応えられず、「私のことを怒ってばかりいる、こんなに気持ちを訴えてるのにわかってもらえない、そんなママは嫌い」と感じていたのでしょう。その気持ちを十分に言葉で伝えることができないので、「パパのほうがいい」と言ってしまったと思います。

子どもの「嫌い」は大人とは使い方が違うことも

回答:鈴木八朗さん

2年間続いたのは相当につらかったことでしょう。私は20年ほど保育園の園長をしていますが、いまだに「嫌い」と言われるとショックを受けます。
子どもたちの「嫌い」は、大人の使う拒否の意味とは違うこともあります。例えば、大人の場合は「顔を見るのも嫌だ」や「言い方が嫌だ」のように、どのように「嫌」なのか説明できます。でも、子どもの「好き・嫌い」は、ひと言で言い切ることができる便利な言葉なのです。

「嫌い」と言われたら親の気持ちを伝え直す

回答:鈴木八朗さん

子どもが「嫌い」と言っても、親が考える意味であるとは限りません。言われたときは、「嫌いって言われると、ママちょっとショックだな」「〇〇ちゃんは私のこと嫌いって言ったけど、ママは大好きなんだよ」のように、親の気持ちを伝え直してあげるのもいいでしょう。


どうすれば子どもはホンネを言ってくれるの?

娘は、下の子が生まれてから子守や家事を自分から手伝ってくれるようになりました。ただ、買い物のときは様子が違って、「おもちゃ買わないよ」「お菓子買わないよ」と言うようになったんです。でも、あとでパパや祖父に「おもちゃを買ってほしい」と言っていたようです。もしかすると、私には本音を言えなくなったのかなと感じています。どうすれば子どもが本音を言ってくれるようになりますか?
(お子さん2人のママ)

ママが大好きだから困らせたくない

回答:鈴木八朗さん

お子さんは、「自分がお姉ちゃんだ」と自覚していて、心の中で望んでいること全部がかなえられるわけではないと、だんだんわかってきた段階なのでしょう。そして、やはりママが大好きだと思います。ママを困らせたくない思いから、「買わないよ」と言ったのかもしれません。そこで「それ、欲しいの?」と声をかければ、お子さんなりの思いが出てくるように感じます。

下の子ができると自分の気持ち・表現のしかたがわからなくなることも

回答:帆足暁子さん

お姉ちゃんとして頑張りたい思いも、ママを助けたい思いも、どちらも本音だと思います。おもちゃを買ってほしいことも、きっと本音なのでしょう。
下の子ができると、今まで自分の気持ちだけでママ・パパと一緒にいたのに、下の子のことも考えて関わっていかないといけない。すると、自分の気持ちがどこにあるのかわからなくなって、どう表現したらいいのか葛藤する。特に、3歳ぐらいの時期によく起きることです。ママに本音が言えなくなったと考えるより、上の子なりに葛藤して、自分の気持ちを見つけていると考えてみましょう。

子どもの言葉を大事にしつつ、親が感じた気持ちを言う

回答:帆足暁子さん

子どもが気兼ねしているかもしれないと思ったら、「本当は買ってほしいんじゃない?」のように、自分が感じた子どもの気持ちを言ってみましょう。子どもの「買わない」という言葉を大事にしつつ、「私はこう感じているよ」ということも伝えるのです。すると、子どもも自分の気持ちの言い方がわかってくるのではないでしょうか。
例えば、お風呂で子どもがリラックスして、つぶやくようにポツポツと話をしてくることがあります。そういったお互いが気持ちよく一緒にいられるようなときに、本音で言葉を交わすことができるといいですね。

ソーシャルスキルをつくる上で本音を伝えられることは大事

回答:帆足暁子さん

人と関わるときに本音で話ができると、本当に言いたいことを伝えられるので、相手からもきちんと答えが返ってきます。このことを学習していくと、今後大きくなっても、自分の気持ちをきちんと伝えて、相手に自分をわかってもらえるようなコミュニケーションができます。ソーシャルスキルをつくる上で、本音を相手に伝えられることがとても大事なのです。

本音を出しやすい場所がある

回答:鈴木八朗さん

親には本音を言えないけど、友だちには言えることがあります。例えば、保育園のような空間では、子どもは人から評価される対象になりません。そんな、子どもがありのままでいることが認められている場所では、本音が出やすいものです。そういう場を、保育園や幼稚園、家庭でも持てるといいかもしれません。


おうち以外で子どもはホンネを言うの?

子どもは、おうち以外で本音を言っているのでしょうか。鈴木八朗さんが園長を務める保育園の子どもたち(年長)に、「ママ・パパに言いたいこと」を聞いてみました。

―― ママ・パパに言いたいことはありますか?

  • ママたちは怒ると怖いから、もう少しやさしくしてほしい。
  • おもちゃとか片づけるときに手伝ってほしい。「片づけて」って言っても、手伝ってくれないもん。
  • パパとママと一緒に寝たいけど、パパは「ベッドがいい」って言ってママと寝れないの。
  • 言いたいことはありません。でも、おもちゃを買ってもらいたい。
  • 棒とか作るときに、危なそうだからママにすぐに捨てられる。それが嫌。作りたいのをママにいいか気にしている。

最近あった、悲しいできごとを話してくれる子どもたちもいました。

  • 公園に行けなかったとき悲しかった。今日はちょっと時間がないから行けないよって。
  • 楽しかったけど逆に嫌なことが起こることがある。例えば、保育参観でお父さんが来たけど、ちょっとしか楽しく遊べなかったから、すぐに帰っちゃったからショックを受けた。それで寝てるときに泣いた。いつも遅お迎えだから、たまには早お迎えになってほしいから困っているんだよ。

言うことも言わないことも、子どもの成長に大きな役割を持つ

コメント:帆足暁子さん

これを聞いた親たちは、「初対面の取材の方には言えるのに、どうして私に言ってくれないの?」と思うかもしれません。でも、子どもたちは「やさしく怒ってほしいな」と思いながらも、「それなら〇〇をしなければよかった」のように、自分の中でいろいろな気持ちを感じながら調整しているのです。そこから、次の自分へと成長していく。
おうち以外で言っていることや言わないことも、子どもの成長に大きな役割を持っていると考えて、ゆとりを持って、おおらかにみていきましょう。

子どもの「今」を大事にする

コメント:鈴木八朗さん

子どもは「今」を生きているので、ここで言ったことも、あとですっかり忘れてしまうこともたくさんあります。「今はそうなんだ」と思って、子どもの「今」を大事にしてあげましょう。


何でもネガティブな言動… これってホンネ?

長男は、工作をするのが大好きです。工作を始めたころはハサミや紙を使うのに夢中で、私はあえて「こうしなさい」と言わず、自由にやらせていました。うまくできたときにはニコニコしながら見せてくるので、「上手にできたね」とほめるようにしていました。
でも、2歳半を過ぎたころから、うまく貼れなかったり、思うように切れなかったりすると、途中で諦めてしまうことが多くなりました。投げ出したときに「もう1回最初からやってみよう」と声をかけても、「もうやらない!」と言います。何でもネガティブなことを言い返すので、それが本音なのか気になっています。
(お子さん1人のママ・パパ)

物と対話するような遊びがしたいのに仕事のように感じてしまっている

回答:鈴木八朗さん

子どもが夢中で紙を切っていると、工作好きに見えると思います。でも、実は、ハサミを動かすと紙が切れる、手を動かすと絵が描ける、体を使って物を動かすと物に変化があること自体が、物と対話しているようで楽しいと感じる場合もあります。
でも、工作が「うまくいった・いかない」「できた・できない」といった見方になると、仕事のようになってしまいます。例えば、工作の完成形があると、上手・下手といった評価がでてきてしまいます。

工作の工夫や過程、物と関わっている姿自体をほめる

回答:鈴木八朗さん

子どもが工作でできた部分だけではなく、物と関わっている姿自体をほめてあげてください。例えば「集中してるね」「やさしく置けたね」「背伸びして工夫して、背の高さまでできたね」など、その子なりの工夫や過程、一生懸命さなどの目に見えない思いを含めてほめてあげる。すると、子どもは「自分を認めてくれてるんだな」と感じて、工作することへの安心感ができていきます。「不安だ」「やりたくない」と言っていたのに、気づけば工作しているといったことが起こると思います。

上手にやりたい気持ちがとても強いことも

回答:帆足暁子さん

思うように工作ができなかったときに、パパが「もう1回最初からやってみよう」と提案していましたね。いい提案だと思います。でも、「もうやらない」と言って泣いて、それが、そのときの本音だったのでしょう。それだけ泣くのは、「本当は上手にやりたい」という気持ちがとても強いからだと思います。

選択肢を与えて子どもに選んでもらう

回答:帆足暁子さん

3歳のころは自分が決めたい時期です。子どもが少し落ち着いたら「今日はこれでやめる? それとも、ママが1個だけお手伝いしてやってみる?」のように選択肢を作って、子どもに選んでもらうのはどうでしょうか。子どもは自分で選んだことをきちんと受け入れてくれます。それが、だんだん親が言わなくても自分で「どうしようかな?」「ここでやめようかな、それとも誰かに1つだけ助けてもらおうかな?」と思えるようになります。自分で次のステップに進めるのです。そのように、子どもに合った関わり方を見つけていくことができると思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです