子どもの習いごとは、何歳から始めたらいい? 親がさせたい習いごとでもいい? 子どもに「やめたい」と言われたらどうする? 子どもの習いごとの悩みについて、専門家と一緒に考えます。

専門家:
帆足暁子(親と子どもの臨床支援センター代表理事 /臨床心理士)
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)

今回のテーマについて

新しい体験ができること、本物に出会えることが利点

帆足暁子さん

子どもの発達の面では、ふだんの生活だけで十分だと思います。一方で、習いごとには、芸術やスポーツなど、さまざまな新しい体験ができる利点があります。子どもは小さければ小さいほど五感が大事です。そんな五感を刺激する、本物の人たちや芸術に出会うチャンスにもなります。

ワクワクできる習いごとは、日々の楽しさになる

大豆生田啓友さん

昔なら外遊びがたくさんあり、そこで得られる経験がありましたが、今は制約がありますよね。その意味では、本人がワクワクする習いごとに出会えたら、毎日の楽しさになると思います。親にとっても、習いごとが他の親たちとのコミュニケーションにつながることがあるでしょう。


習いごとは小学校まで必要ない? 始めるならいつから?

息子(11か月)には、水泳や英語など、いろいろな習いごとをさせたいと考えています。一とおりのことを経験して、いろんな選択肢があることを知ってほしいのです。
でも、見学した保育園で「小学生までは遊びの中で学びを得てほしいので、習いごとはあまりおすすめしない」と言われました。言われたことでネガティブになりつつも、園の子どもたちはのびのびとしていたので、どちらがいいのか悩みます。
それでも、習いごとをせずに小学校にあがるのは心配です。小学校で英語の授業が始まったときに、習いごとで差ができて、子どもが苦手意識を持たないか考えてしまいます。
習いごとは小学校まで必要ないのでしょうか。始めるとしたら、いつからがいいでしょうか。
(お子さん11か月のママ)

必要なことではないが、親や子どもがやりたいことはいつからでもいい

回答:帆足暁子さん

小学校までに習いごとをさせるのが必要なわけではありません。「絶対しないといけない」と考えなくてもよいでしょう。でも、親がやらせてあげたい、子どもがやりたいと思う習いごとは、いつから始めてもいいと思います。

子どもの発達には自発的なものが大事

回答:帆足暁子さん

習いごとで日常生活ではできない体験をして、「あれもやりたい、これもやりたい」のように、意欲的・積極的になる子もいます。子どもの発達には、自発的なものが大事で、自発的なものを通して、子どもたちは伸びていきます。そのように楽しいと思える習いごとはいいですね。

子どもは遊びを通して学んでいくのが基本

回答:帆足暁子さん

子どもが遊びを通して学んでいくことは、いちばんの基本です。保育園の方が「遊びの中で学びを得てほしい」と言ったのも、子どもの発達はそうあるべきだと考えているからでしょう。園としてきちんと取り組んでいるのではないかと思います。

保育園・幼稚園に説明を求めて、納得してから入園させる

回答:帆足暁子さん

保育園や幼稚園の方針に疑問があるときは、気持ちがネガティブになることもあるでしょう。もし、そのまま入園させると、その後何かが起きたときにつらくなってしまうかもしれません。疑問に思ったときは、「どういうことなのか、もう少し説明してください」と聞いてみてください。納得した上で入園したほうが、親も子どもも伸びていけると思います。

習いごとには園ではできない経験もある

回答:大豆生田啓友さん

私も、習いごとは必ずしないといけないわけではないと思います。でも、園ではできない経験もあります。例えば、「サッカーやダンスに特化させたい」と考える家庭もあるでしょう。

子どもの"やりたい!"が見えたときが始めるチャンス

回答:大豆生田啓友さん

子ども自身が「楽しい」「もっと続けてみたい」と感じるものは、当然、習いごとをする選択肢があってもいい。親として、いろいろなことを試してみたい場合もあると思います。その中で、子どもの「やりたい!」気持ちが見えてきたときが、習いごとを始めるチャンスのひとつだと思います。

語学の習いごとは、3歳ぐらいから始めたほうがいいのでしょうか。私自身は小学1年生のときから英語を習って、よかったと思っています。でも、早くから始めると日本語の学びに影響しないか、少し心配です。

まずは母語をしっかり身につける

回答:帆足暁子さん

例えば、親の仕事で英語圏の地域に住むなど、日常生活で英語を使うことになる予定があれば、もちろん英語が必要になります。その必要性がなければ、まずは自分が生活で使う言葉をしっかりと身につけることが原則です。外国語はそれからと考えたほうがいいでしょう。

3歳ぐらいまでに英語を身につけるのが適切だという十分な根拠はない

回答:大豆生田啓友さん

小学校で英語が始まることに焦りを感じる親は多いと思います。それまでに習ったほうがいいのではないかと考えますよね。でも、日本語を母語とする子どもが、3歳ぐらいまでに英語を身につけるのが適切だという十分な根拠はありません。
例えば、海外で生活していて英語を話せる子どもはいますが、必ずしも、ずっと話せるわけではありません。人間の脳は必要のないことを捨てていくからです。そう考えると、早く英語を習わせないといけない、と考える必要はないでしょう。

異文化コミュニケーションのひとつとして気楽に取り組む

回答:大豆生田啓友さん

早めに始める必要がないといっても、語学を習うことはマイナスではありません。文化の違う人たちと触れ合うことで、いろいろな人たちとコミュニケーションできるという経験になります。それも大事なことです。異文化コミュニケ―ションのひとつとして、気楽に取り組むのもよいでしょう。


「習いごとをやめたい」と言われたら、どこまで子どもの気持ちを尊重する?

長女(5歳10か月)には、いろいろな習いごとの体験に参加させてきました。すぐに「やりたい!」と気に入ったのがスイミングで、週に1回のレッスンに通い始めて1年弱になります。でも、最近では幼稚園で疲れていたり、友だちと遊び足りないのか、「休みたい」と言うことが増えました。習いごとを休んでもいいと思いますが、悪い習慣にならないか心配です。本当に行きたくないのか、なんとなくなのか、見極められません。
今後、「習いごとをやめたい」と言われたときに、「やめましょう」と言うほうがいいのか悩みます。子どもの気持ちに寄り添いたいけど、どこまで尊重したらいいのでしょうか。
(お子さん5歳10か月・3歳7か月のママ)

子どもの気持ちの理由を探る

回答:大豆生田啓友さん

親としては、子どもが人生の中で同じようにあきらめてばかりにならないか心配で、切実な悩みですよね。まずは「続けさせる・やめさせる」のどちらかではなく、子どもの気持ちの理由を探ってください。例えば、「今は続けたくない」「少しつらいと感じる」などです。子どもが言葉で十分に説明できるならば、話を聞いてみましょう。そうでない場合は、子どもの様子を見ながら、理由を探ることもひとつの方法だと思います。

習いごとは自信になることも、つらくなることもある

回答:大豆生田啓友さん

習いごとには、例えば「水泳で次のコースに行けた」のような、ステップアップがありますよね。子どもの自信にもつながり、大事なことだと思います。一方で、うまくいかないことが続くと、誰でもつらくなっていきます。
特に4歳ぐらいになると、自分と他の人の差が見えてきて、できないことに恥じらいを感じることもあります。そのような場合は、ステップアップに到達していなくても、子どもの頑張りや、その子のよさを認めてあげることが、やる気につながっていくかもしれません。上達を大事にする先生の指導は厳しいかもしれませんが、相談すれば子どもへの対応を変えてくれることもあると思います。

選択肢を与えると子どもは選びやすい

回答:帆足暁子さん

日本には、「一度始めたら、最後までやることがいい」といった価値観があるのかもしれませんね。そのような考えは、一旦忘れましょう。その上で、「今日は休みたい」「しばらく休みたい」、あるいは「やめたい」「もう絶対行きたくない」など、子どもに選択肢を与えると、選びやすいのではないかと思います。

気持ちを大事にされていると思えることが大事

回答:帆足暁子さん

親が子どもの気持ちを一緒に整理していくと、その過程で、子どもは「自分の気持ちが大事にされている」と感じられると思います。子どもの気持ちに寄り添うのは難しいことですが、子どもが「寄り添ってもらえた」と思うことが大事です。

子どもの発達に合わせて見守る

回答:帆足暁子さん

やりたいこと・やりたくないことが明確にわかる子どもも、少しずつわかる子どももいます。はじめはぼんやりしているけど、続けるうちに、何か楽しいと感じたり、だんだん嫌になったり、気持ちがはっきりしていくわけです。
子どもの発達はさまざまで、子どもの意思がはっきりしてくる時期が異なります。そのことを念頭におきながら、子どもを見守ってください。


“親が習わせたい”はよくない?

将来、役に立つことをさせたいと思って、長男(5歳3か月)の英語の習いごとを始めました。そのほか、パパの希望でサッカー教室に通わせていましたが、4か月でやめてしまいました。今後、ピアノ教室や絵画教室なども考えていますが、「すぐにやめるのでは」と慎重になっています。サッカー教室が嫌いになったことを考えると、子どもの可能性を1つつぶしてしまったのではないかと思い、親の軽い気持ちで習いごとをさせるのが不安です。
今のところ、英語は楽しんでいるようです。もともと知識欲があって、例えば深海魚が好きで、私が答えられないようなことも聞いてきます。まずは経験させることが、やりたいものを見つける方法のひとつかなと思っています。
本人が自発的にやりたいと言った習いごとと、親がさせたものとでは、子どもにとって違いがあるのでしょうか。親が習わせたいものをさせるのは、よくないのでしょうか。
(お子さん5歳3か月・3歳9か月・8か月のママ)

親が習わせたいことは、習わせていい

回答:帆足暁子さん

子どもはまだ体験が少ないので、体験しないと習いたいかどうかわかりません。親が何かを習わせたいと考えたら、習わせてあげていいと思います。このとき、「あなたのために」ではなく、「私があなたにやってほしい」と、正直に伝えましょう。
もし、子どもが「やりたくない」と言ったら、残念ながらやらせてあげられません。だけど、子どもが「やってもいい」と言うのであれば、「ありがとう」と伝えて始めることが大事です。

どんな教室・先生かを確認して、子どもに安全や安心を保証する

回答:帆足暁子さん

「子どもの可能性をなくしてしまうのではないか」と心配するのは、大事なことです。そのため、どんな教室・先生なのかを確認しましょう。子どもの気持ちを大事にしながら教えてくれているか、本物に出会わせてもらえるのか、などです。親から離れて行う子どもの活動は、子どものことを大事に思う分、親がしっかり確認して、安全や安心感を子どもに保証してあげることが欠かせないと思います。

親が魅力的だと思っていることは、子どものいいモデルになる

回答:大豆生田啓友さん

親が習わせたいことを、子どもに習わせてもいいと思います。「サッカー、すごくおもしろいんだよ」など、親が魅力的だと思っていることは、子どもにとっていいモデルや憧れのモデルになることがあるのです。子どもに期待過剰になると、つらくなることもあるので注意しましょう。

「やっぱりやりたい」という気持ちも大事にする

回答:大豆生田啓友さん

習いごとを「嫌だ」と思っていても、その後、友だちの影響などで、「やっぱりやりたい」と思うようになることがあります。一度「やりたくない」と言ったからといって、必ずしももうだめとは限りません。その後の子どもの気持ちを大事にしてほしいと思います。

将来役立つかどうかを、習いごとの判断基準にするのはどうでしょうか?

目に見える成果だけでなく、意欲のようなものが大事

回答:大豆生田啓友さん

役に立つことを基準にすると、「〇〇ができるようになる」など目に見える成果が気になると思います。もちろん、できるようになることは大事ですが、それ以上に、あと伸びする力が大事だと思います。例えば、コミュニケーション力や、うまくいかないときでも自分の気持ちを切り替えたり、あきらめないで夢中になってやり抜こうとする力など、意欲のようなものが大事なんです。
そのためにも、子どもが夢中になったり、「ちょっとうまくいかないけど頑張ってみようかな」と思えるような、ワクワクする経験が大切です。私の考えでは、それが重要な判断基準だと思います。


専門家からのメッセージ

何かに夢中になった経験は、さまざまな興味・探求心へとつながる

大豆生田啓友さん

子どもが夢中になったりワクワクできたりすることが大事なので、それが習いごとでなくてもよいのかもしれません。例えば、深海魚が好きで夢中になった経験は、「絵にかきたい」「もっと調べて科学的に知りたい」など、いろいろな興味や探究心に広がっていきます。習いごとを含めて、その子がいちばん夢中になることが、とても大事だと思います。

家族が「楽しい」「いい」と思えるなら、習いごとの意味がある

帆足暁子さん

習いごとは、唯一のことではなく、家族の中のひとつの要素でしかありません。習いごとをすることで、家族みんなが楽しくなれたり、一緒にいて「いいね」と思える経験になるのであれば、習いごとをする意味があると思います。
もし、「練習はイヤ」「行きたくない」といったことになり、親子の関係がギクシャクするのであれば、「ちょっと待って。一度整理してみない?」のように、家族をいちばん大事にするところに立ち戻ってみましょう。情報過多の時代で、他の人たちが気になることもあると思いますが、決めるのは自分たち家族です。家族が「楽しい」「幸せだよね」と言って暮らしていけるようなスタンスを基準にして、考えていけたらいいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです