今回のテーマは「トイレトレーニング」。子どもがトイレを嫌がる… 補助便座やおまるの選び方は? おむつを早くはずすためにできることは? そもそもいつから始めればいいの?などなど、みなさんの疑問に専門家が答えます。
池田裕一(昭和大学 医学部 小児科学講座 教授/小児科医)
トイレトレーニングのコツ
トイレトレーニングは、いつから始めればいい?
1歳ちょっとすぎの子でもトイレトレーニングをしているという話を聞いて、少し早いけどうちも始めたほうがいいのかな、と悩んでいます。始める時期をネットや雑誌で調べても、いろいろな情報があってわからなくなります。ひとまず、補助便座にもなるおまるを入手して、いろいろと試しましたが、あまりうまくいっていません。そもそも、まだ自分の意思表示もできないころから始めてもいいのでしょうか。始める時期の目安はありますか?
(1歳4か月 女の子のママ)
ポイントは、時間間隔・意思表示・身体的な発達
回答:池田裕一さん
「2歳から始める」など、年齢で区切る方が多いのですが、子どもによって非常に個人差が大きいので、その子に合ったタイミングで始めたいですね。トレーニングを始めるポイントは3つあります。
まず、オシッコをして、次のオシッコまでの時間の間隔が、少なくとも1時間半以上になること。間隔が短いうちに始めると、子どもを何度もトイレに連れて行くことになり、子どもも嫌になってしまうことがあります。次に、子どもがトイレに行きたいという何らかの意思表示ができること。ことばでなくても、身ぶりや手ぶりでも、親とコミュニケーションできることが大切です。最後に、トイレに関する身体的機能の発達です。トイレに行って、服を脱いで、おまるに座って、終わったあとに服を着て、戻ってくる。これら一連の動作ができることも大事です。
以上のようなポイントを考えると、お子さんはまだ早いのかもしれません。
夏に始めるほうがいいと聞きます。季節で違いがあるのでしょうか?
あたたかい時期のほうがやりやすいことも
回答:池田裕一さん
オシッコを一時的にためておく膀胱(ぼうこう)は、筋肉でできています。そのため、寒いと膀胱が小さくなって、トイレの間隔が短くなってしまいます。夏のあたたかい時期は、膀胱がしっかり膨らみやすい状態で、間隔も長くなり、寒い時期よりもトレーニングがしやすいかもしれませんね。
パンツにしてしまったとしても、乾きやすい時期ですので、世話のしやすさもあると思います。
トイレトレーニングは、何から、どう進める?
長女のオムツを、早くはずしたいと思っています。オムツがむれて肌がかぶれないか心配だったり、オムツがなくなると経済的に楽になるのではないかと思ったり。下の子を妊娠したことも、気持ちを後押ししました。
11か月のころから慣れさせようとトイレに連れて行き始めて、トイレをかわいく飾ったり、できたらシールを貼ったり、いろいろな方法を試しました。2歳を過ぎたころからは、トイレでできることが増えてきました。でも、最近は、嫌なのかトイレに行かないこともあります。パパはトイレトレーニングに協力的ですが、「いつかとれるだろう」と楽観的で、その姿勢の違いに不満を感じることもあります 。ダラダラと続けないためにも、どんな方法で進めたらよいのか知りたいです。
(2歳8か月 女の子、7か月 男の子のママ)
ママとパパ、2人で取り組むことが大切
回答:池田裕一さん
ご相談の方のように、ママがトイレトレーニングの役割を担って頑張り過ぎてしまう、という話をよく聞きます。こういうケースはとても多いのですが、パパが参加することも大事です。パパが一生懸命になって声をかけることで、子どものやる気が出てくることも、よくあることなのです。ママとパパ、2人がそろって頑張っていこうという気持ちが大切だと思います。
親しみやすい場所でできる工夫を
回答:池田裕一さん
トイレをかわいく飾っても、子どもにとっては狭い空間だったり、廊下の先にあったり、どうしても慣れない部分があると思います。ですので、やりすぎかもと思うぐらいに、大切にしているぬいぐるみを置いたり、大好きなキャラクターのポスターを貼ったりして、「トイレは自分の場所なんだ」とわかるような工夫をすると、スムーズにできることもあります。
あるいは、トイレではなく、リビングなど親しみやすい場所におまるを置いてみるのも、ひとつの方法です。
オシッコやウンチが、どのように出るのか教える
回答:池田裕一さん
子どもは、自分のオシッコやウンチが、どこから出るのか知らない場合があります。そのため、例えばお兄ちゃんが出しているところを見て、こうやって出るんだと納得して、出すことは怖いことではないとわかることで、トレーニングが進むこともあります。親が見せてあげてもいいでしょう。実際に見せなくても、人形を使って「こんなふうに出るんだよ」と教えてあげる方法もあります。
また、子どもから、親のトイレを「見せて」と言ってくるときは、興味・関心が出てきた合図です。トレーニングを進めるにはいいタイミングですね。
子どもが11か月のころからトイレに座らせて慣れさせたり、親のトイレの様子を見せたりしてきましたが、うまくいきません。
少しペースを落としてみましょう
回答:池田裕一さん
親が頑張り過ぎているかもしれません。少しペースを落としてみましょう。例えば、「トイレでできなくてもいいよ、オムツでしてもいいんだよ」と伝えて、トイレでできたときはいっぱいほめてあげるような進め方にする。ママが頑張り過ぎているときは、パパが「今後は自分がやってみるよ」と声をかけて、2人で協力しながら進めるほうがよいでしょう。
パンツを履くことを嫌がることがあります。無理に履かせなくてもいいんですか?
まずはオムツでトイレに行ってみる
回答:池田裕一さん
子どもにとって、オムツからパンツに移行するのは、とても大きなことなんです。生まれたときから、ずっとオムツで排せつすることが当然だったのに、急にパンツになってトイレで排せつというスタイルに切り替えることはハードルが高いのです。まずは、オムツのままトイレに座ってみましょう。オムツの中で出しても、「トイレでできたね」とほめてあげることで、「自分はできるんだ」と思えることが大切です。
オムツでトイレに行くとき、オムツを少し切っておく、という方法もあります。オムツをはいたままでも、ウンチが切り込みからトイレに落ちるわけです。「お!トイレできたね」とほめれば、やる気が出てくるかもしれません。
パンツがぬれるのが嫌でトレーニングが進むことはない
回答:池田裕一さん
パンツがぬれると嫌がるという反応は、実は社会的な認識によるもので、一種の社会性のあらわれともいえます。子どもにとっては、水でぬれても、オシッコでぬれても、あまり抵抗がないのです。1~2歳の子どもに「ぬれるのが嫌でしょ」と言うのは、「社会性を持ちなさい」と言っていることと同じで、なかなか難しいものです。4~5歳になれば、社会性が育ち、ぬれた感覚が不快だと感じるようになります。
パンツに慣れてきたときでも、うまくできないときはオムツに戻してもいいのでしょうか?
発達は一方通行ではありません。気持ちをリセットすることも大事
回答:池田裕一さん
子どもの発達は、一方通行ではありません。進んだり戻ったりするものです。例えば、3か月ぐらいオムツに戻して、秋になったらパンツでやってみようなど、子どもに見通しをつくってあげるとよいかもしれません。オムツに戻すことで、子どもは気持ちが少し楽になると思います。排せつは、リラックスしている状態でないと難しいので、楽になることで次のステップに進めるようになります。子どもの気持ちがリセットされるようなイメージで考えてください。
正しい排尿・排便姿勢
解説:池田裕一さん
スムーズな排尿・排便のためには、正しい姿勢でトイレをすることも大事になります。
ひざを約90度に曲げ、背すじを伸ばし、上半身を少し前に傾けると、下腹部に力が入り、尿や便が出やすくなります。子どもに姿勢を教えるときは、人形を使ったり、親が姿勢を見せてあげるのがよいでしょう。
足がブラブラしていると安定しません。補助便座の場合は、踏み台を置いてあげるといいですね。
おまるでも、補助便座でも、この姿勢が保てるように工夫してください。
補助便座とおまるは、どちらから始めるのがいいでしょう?
無理のない姿勢がとれるものを
回答:池田裕一さん
子どもの体格によります。補助便座は、大人用の便座に置いて使うものです。体が小さいときに補助便座を使うと、サイズが大きすぎて、足をかなり開かないといけません。小さいときはおまるで、大きくなってきたら補助便座でもいいのかなと思います。無理のない姿勢がとれるものを選んでください。無理がなければ、どちらでもよいと思います。
進まないトイレトレーニングに疲れたとき、どうしたらいい?
トイレトレーニングがなかなか進まず悩んでいます。ほかの子と比べないほうがいいと思うのですが、まわりの話や、ネットで調べたりすると、「うちの子は遅いのかも」と考えてしまいます。トレーニング開始からすでに半年以上。一時期は、自分からトイレに行くこともありましたが、最近は、我慢することが多くなり、パンツをはかせているとおもらしすることも。
トイレのことばかり考えて、トイレができないとイライラして、「前は行けてたのになんで行けないの? みんなもう行けてるよ」と言ってしまったこともあります。つい子どもを責めてしまい、反省の日々です。
新型コロナで外出自粛になり、この機会に力を入れてみたのですが、思うように進みませんでした。どうして進まないんだろうと考えて… パパに相談してもちゃんと返事がなく、気持ちがグシャグシャしてきて…。なかなか進まずに疲れてしまったときは、どうしたらいいのでしょう。
(3歳1か月 女の子のママ)
トレーニングの休みをつくる
回答:池田裕一さん
親が疲れているのであれば、子どもも疲れています。親も子も、休みが必要です。1~2か月ほど、トイレトレーニングを休んでみてください。疲れを癒して、気持ちをリセットして、その後で再開すると、うまくいくことが多いんです。頑張り過ぎないことが大切です。
1~2か月ほど期間をあけることが心配であれば、週に1回はお休みにする、週に2回頑張る日をつくる、午前中は頑張って午後はお休みなど、時間を区切ってメリハリをつけるのもひとつの方法です。
親は、どんなタイミングで子どもをトイレに誘えばいいのでしょうか。
したいときのサインに合わせて声かけを
回答:池田裕一さん
子どもは、オシッコをしたいときに体を揺らしたり、お尻のあたりを触ったり、何かしらのサインがみられます。そのタイミングで声をかけてあげると、「トイレ!」と言えたりします。
オムツがとれる年齢の目安はありますか?
5歳を過ぎる場合は医師に相談を
回答:池田裕一さん
約95%の子どもが、5歳未満でトイレトレーニングを終えています。5歳を過ぎても終わらない場合は、話を聞いたり検査したりすることもあるので、病院で医師に相談してみてください。
保育園に通っていると、いつのまにかとれたという話も聞きますが、関係があるのですか?
子どもによって違いがある
回答:池田裕一さん
子どもによって違いがあります。みんなでトイレをするほうがうまくいくタイプの子も、そうでない子もいます。オシッコの間隔は人それぞれなので、間隔が短い子は、友だちと合わない場合もあるのです。保育園で進められる子は、どんどん進めるのもいいでしょう。そんなタイプでないときは、家庭で、子どもの状況に合わせて、オーダーメイドで進めてあげればいいのです。どちらでもよいと思います。
幼稚園によっては、入園の条件に「オムツがとれているのが望ましい」という項目があると聞きます。
かかりつけの医師に相談を
回答:池田裕一さん
私も、入園間近の方から同じような相談を受けることがあります。よく話を聞くと、「絶対」ではなく「望ましい」と書いてあることが多いと思います。その場合は、かかりつけの医師に相談してみましょう。「オムツを無理にとると、かえってトイレトレーニングが長引くことがある」など、医師に手紙を書いてもらうことで、入園が認められるケースもあったと聞いています。私も、園宛ての手紙を書いたことがありますが、そのときは事情を理解していただき、「入園してからも、ゆっくり進めていきましょう」と言っていただけました。手紙までは難しくても、医師の意見を園に伝えるだけでも、事情を理解してもらえる場合もあります。
専門家から
これだけは言っておきたいメッセージ
子どもの成長発達には個人差がある。その子に合った方法で
池田裕一さん
トイレトレーニングには、個人差があります。それぞれに成長・発達が違うので、年齢で区切って始めたり、まわりの子と比べたりしないようにしましょう。その子に合った方法で進めてください。オーダーメイドが必要な子も多いと思います。焦らず、慌てず、トレーニングを進めてください。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです