今回は「すくすく子育て」と「ウワサの保護者会」のコラボスペシャル。
幼児期から小学校に上がるころの、子どもの発達障害がテーマです。
もしかして発達障害!?という不安。そのあと小学校に行くときにはどうなるのか?
そんな、すくすく子育て世代のママの悩みを、みんなで考えます。
※放送の中から一部をご紹介します

専門家:
榊󠄀原洋一(お茶の水女子大学名誉教授・小児科医)
汐見稔幸(東京大学名誉教授 教育学)

もしかして発達障害?

声が大きい、落ち着きが無い、かんしゃくがひどいなど、育てにくさを感じています。ひどいイヤイヤ期だと思ってやり過ごしていますが、もしかしたら発達障害ではと心配しています。
(2歳5か月の女の子をもつママより)

発達障害とは?

発達障害は、脳の働き方が他の人と少し異なっているために起きるといわれています。
ある特定の分野だけが極端に苦手など、まわりからはわかりにくい障害です。

発達障害の3つのタイプ

発達障害には、3つのタイプがあります。
これらのタイプは、互いに合併して起きることもあります。

<自閉スペクトラム症>

ことばの遅れ、コミュニケーションが苦手、特定のものへの強いこだわりなどが特徴です。

<ADHD(注意欠如・多動症)>

注意力が散漫、落ち着きがない、衝動的といった特徴があります。

<学習障害>

読み・書き・計算など、主に3つの学習に関して極端な困難があります。

発達障害の診断

発達障害は、脳波や血液検査などでは診断ができないため、どこからが発達障害という明確な境界線はありません。
社会性や人間関係にあらわれる障害のため、乳幼児の場合は診断に時間がかかります。


困難な状況につけられた名前

回答:榊󠄀原洋一さん

子どもの発達には大きな個人差があり、個性があります。そのため、なかなか判断が難しい部分があります。個人差の中で、特に困難な状態につけられた名前が発達障害なのです。
親がいちばん心配するのは、「これまでのしつけが間違っていたのでは」といったことですが、発達障害としつけは関係がありません。

発達障害の有無に関わらず、子育ての基本は同じ

回答:榊󠄀原洋一さん

子どもが急に走り出していなくなってしまうなど、対応に悩むような行動をしているとき、それが気質なのか、個人差なのか、発達障害なのか考えることがあると思います。ですが、ご家庭での子育ては状況に応じて考えていくので、いずれであっても大きな差はないのです。例えば、子どもが急にいなくなったのには、理由があるかもしれません。見守るような気持ちで、ふだんのしつけをしていくことが基本だと思います。


発達が遅れていると思ったとき、相談できるところは?

「発達が遅れているのでは?」と思ったとき、相談できるところがあります。
そのひとつが療育センターです。

療育センターってどんなところ?

療育センターでは、保育士や臨床心理士などの専門家が子どもと親の支援を行っています。

「われわれ支援者は、支援が必要なお子さん、あるいは困っているお母さん・お父さんの応援団だと思っています。直接的にできること、できないことがありますが、保護者の方が疲れ過ぎる前に、相談にきてほしいと思っています」
(臨床心理士)

さらに、親同士がつながる交流の場も用意されています。
誰でも参加できるイベントを定期的に開催し、発達障害の理解を深めているのです。


療育センターの他に、この時期にやれることはありますか?

子ども同士のコミュニケーションを

回答:榊󠄀原洋一さん

例えば、保育園・幼稚園に入ると、子ども同士の中で、いろいろなコミュニケーションがあります。子ども同士で、ことばを覚えたり、いろいろなルールを覚えたりします。そのような場所には、できるだけ入れてあげたほうがよいと思います。


発達障害のある子に対応する、幼稚園・保育園の取り組み

子どもたちは、人と関わり合いながら成長します。ですが、発達が気になる子の場合は、集団生活に不安を感じるかもしれません。

今、発達障害のある子のために、さまざまな工夫を行う幼稚園や保育園が増えているので、その取り組みをみてみましょう。

幼稚園や保育園での工夫

例えば、一日のスケジュールを伝えるときは、ことばだけでなく、目でもわかるようにします。発達障害のある子どもは、耳で聞くより、目で見た情報のほうが理解しやすい場合が多いからです。
また、次に何をするのかわからないと不安になる子どももいますが、見通しがつくと安心して次の行動に移ることができます。

さらに、運動会など集団で行う活動を、写真を使って説明する園もあります。
自分の動きが理解しやすくなり、安心して本番を迎えることができるそうです。

発達障害のある子の中には、状況に応じで声のボリュームを調節することが難しい子もいます。
そんな子には、声の大きさをイラストで目に見えるように説明してあげると、少しずつ理解していくそうです。

万が一パニックになったときのために、集団から離れて落ち着けるスペースを確保している園もあります。

コーナー保育

一斉に集団行動をさせることを見直した園もあります。
この幼稚園では、子どもたちが、やりたいことをとことんできる「コーナー保育」に切り替えています。

「コーナー保育」とは、スペースを区切り、それぞれのコーナーで、別々の遊びを自由に行うことです。ブロックのコーナー、お絵描きのコーナーなど、目的ごとに「遊びの空間」が決まっています。

発達障害のある子の中には、たくさんのおもちゃが視界に入ると、目移りして落ち着かなくなる子もいます。遊ぶ場所が決まっていることで、興味のあることに集中でき、他の遊びをする子とトラブルになりにくくなります。納得するまで遊べるので、こだわりが強く行動の切り替えが苦手な子どもでも、その後の気持ちの切り替えが楽になるそうです。

このように配慮が必要な子どものために工夫した結果、どんな子にとっても過ごしやすい環境になったそうです。また、子どもたちに何をして遊ぶのかが任されているので、先生の指示がなくても、自ら考えて動くようになったといいます。


子ども主体で考える

アメリカでは「発達障害」ということばはありますが、そのような子どもたちを「特別なニーズのある子(Children with special needs)」と呼んでいます。子どもに主体があるわけです。 「発達障害を支援する」だと、大人目線になってしまうので、呼び方を子どもが主体となることばに変えた方がよいと思います。
(榊󠄀原洋一さん)


発達障害のある子の就学と小学校

就学先の選択肢

発達障害のある子が小学校に上がるとき、4つの選択肢があります。

まずは、大勢の子とともに学ぶ「通常の学級」です。担任の先生と相談をしながら、できる範囲で配慮を受けられます。

個別の支援を手厚く受けたい場合は、状況に応じて3つの選択肢「通級指導教室」「特別支援学級」「特別支援学校」があります。これらの「特別支援教育」は、将来の自立と社会参加を目指し、それぞれの子どものニーズに対応するためのものです。

<通級指導教室>

ふだんは「通常の学級」に在籍しながら、必要に応じて指導を受けることができます。
多くの時間は通常の学級で過ごし、週に数時間、別の教室へ移動して、苦手な音読の指導を受けたり、社会性を学ぶためのグループ活動をしたりするなど、子どもにあった指導を受けます。

<特別支援学級>

発達障害のある子や、知的障害のある子など、障害の種類によってクラス分けされた少人数の学級です。子どもの状況や保護者の要望に応じて、特別なカリキュラムを組んで学習することもできます。
基本的には、特別支援学級で過ごしますが、校内の「通常の学級」へ移動し、同じ学年の子どもたちと交流する機会もあります。

<特別支援学校>

1クラス最大6人の少人数制で、バリアフリー化されているなど、施設も整っています。専門性の高い教員の指導を受けられますが、学校の数が少ないため、ほとんどの子どもたちは地域から出て通うことになります。

就学相談について

入学先に迷う親子のために、各自治体では就学相談を行っています。子どもと保護者が、専門の相談員に進学の不安を相談できる場です。原則として、子どもとその保護者の意向は尊重されますが、最終的には地域の教育委員会が進学先を決定します。

どういう教室の形式がよいのかという問題もありますが、教育内容の研究も大事だと思います。例えば、学習障害のある子に対してどういう教育をするのか、といった研究もやるべきだと思います。
アメリカの場合は、例えば計算が困難な子どもに「何が好き?」と聞きます。そこで「機械いじりが好き」と言われたら「では、計算機を使いましょう」となります。その上で、計算ができたら「君はすごいね」と声をかける。このように、できることを使って苦手を克服するような教育をするといいます。
この考え方であれば、いろいろなハンディを持つ人たちでも適応できると思いますが、なかなか切り替わらない部分もあり、難しい面もあると思います。
(汐見稔幸さん)

インクルーシブ教育について

今、世界の教育現場では「インクルーシブ教育」が注目されています。“一人ひとりのニーズにあった教育”、“みんなで一緒に学ぶ”、この2つを実現しようとする教育理念のことです。特別な支援が必要な子、ゆっくり学びたい子、たくさん勉強したい子、多様なすべての子どもたちのための教育です。

学校サポーター事業について

親たちのつながりが、教育の現場を変えつつあります。
そのひとつが、東京都八王子市の「学校サポーター事業」です。

学校サポーターは、先生のように授業を行いませんが、子どもたちの学びを助ける有償のボランティアです。特別支援の対象の子どもだけでなく、誰にでもサポートをするのが特徴です。授業だけではなく、休み時間や給食のときも、あらゆることに手を差しのべ、クラスを見守ってくれます。先生たちにとっても欠かすことのできない存在です。

「子どもたちが“助けてもらえるという安心感”を持つことができて、待つことができたり、学習への意欲や取り組みが良くなったり、前向きになったと感じます」
(小学校教諭)

学校サポーターになるためには、いくつかの条件がありますが、500名以上(2018年5月)の人々が登録しています。いまや、学校サポーターは、八王子市内のすべての小学校(中高一貫校を除く)で子どもたちを見守っています。


一斉に授業して、同じことを同じように理解しなさいという教育は、近代社会が生み出した非常に特殊な方法です。本来は、一人ひとりのニーズがあり、それぞれに学びたいテーマがあり、それらを自分のものにしながら発見していく場所が学校です。そのためには、多様な教育の形態が必要だということが、いろいろな形で、ようやく明らかになってきました。
ひとりで悩んでいる親もたくさんいると思いますが、みなさんが少しずつ声を出していくことで、新しい形が見えてくる。そういう時代が始まったのではないかと思います。
(汐見稔幸さん)

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです