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カスハラと正当なクレームの違いは?JR東日本など対応事例 現場では“線引き難しい”との声も

  • 2024年5月10日

カスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれる、客からの著しい迷惑行為を経験した人は、サービス業で働く人のうち46%にのぼることがわかりました(2024年UAゼンセンの調査より)。

自治体や企業が対策に乗り出していますが、どこまでが正当なクレームで、どこからがカスハラなのか、判断するのが難しいという声もあがっています。

カスハラの線引きに悩み、模索する企業や消費者を取材しました。(全2回の前編)
(首都圏情報ネタドリ!取材班)

どこからがカスハラ?悩む企業

大型連休の直前、カスハラに対する方針を打ち出したJR東日本。

カスハラは、多い時に、月30件ほど発生しているといいます。

実際にあったのは、こんなケース。

切符を紛失した乗客に、再度、購入するよう促したところ「名刺を出せ」などと罵声を浴びせられた。

グリーン券を持たない乗客に普通車を利用するよう伝えたところ、追いかけられて乗務員室のドアを蹴られた。

JR東日本 総務・法務戦略部マネージャー 深山一男さん
「従来から、駅係員や乗務員、社内のアテンダント等に対する、乗客からのハラスメントは問題になっておりましたし、なんとか対応しなければいけないと考えていました」

今回、この鉄道会社では、カスハラに該当する行為として、▼身体的、精神的な攻撃や▼執ような言動、▼過剰なサービスの提供の要求など、具体的に明示。

こうした行為が行われた場合、サービスを休止するなどの対応を取るとしたのです。

しかし、会社側にも原因があるときなど判断に悩むケースが。

鉄道事業本部マネージャー上林雅子さん
「どうしても列車が遅れてしまうことはありますので、そこを引き金にお客様からおっしゃられると、どうしてもおわびから入ります。会社側に原因があったところからスタートしたケースは、非常に難しいです」

電車の遅延など、原因の一端が会社側にもある場合、判断に迷うことが少なくないというのです。

法務戦略部マネージャー 深山一男さん
「何が原因であるか、あるいはお客様が過剰な要求をされているのか、さまざまなケースがありえますので、それを一律にカスハラですという形にはなかなかできないところが非常に難しいと感じています」

自分の行為はカスハラ?悩む消費者

カスハラの一線をめぐっては、悩みを深める消費者も…。

都内で開かれている、怒りのコントロールをテーマにした講座です。

受講者の要望を受け、去年からカスハラをしないためのスキルも教えています。

講師 心理カウンセラー 吉村園子さん
「怒る方には、怒る方が考える正義があるんですね。自分の中でこうあるべきとか、自分の中での価値観があり、それが相手に届かないときに、カスハラにつながっていくと考えています」

この講座に参加した、IT業界で働く40代の男性です。

40代男性
「クレームは多いときで年10回くらいおこなっていました。お店の人に言ってあげて、その人が気づけば、その人が良くなるんじゃないかと考えていました」

自らも仕事の中で、上司や客からの厳しい指摘が、成長の糧になったと感じてきたという男性。

店に不備があると思ったら、相手のためだと思い、ただしてきたといいます。

しかし最近、自分がカスハラの一線を越えているかもと、感じた出来事がありました。

家族で訪れた飲食店でいつもの定食を注文したところ、ふだんよりおかずの量が少ないと感じ、従業員を呼びました。

40代男性
「店員に、『お前、この料理見た?こういう料理出して悪びれもなく金取るっておかしくない?君ら、そういうことをやるんですか』と問いただして。『おい、作り直せよ、お前、もう1回作ってこい』と言いました」

すると高校生の息子に思わぬ言葉をかけられたのです。

「息子から『いい年して、そんなのやめろよ。みっともないな。そんなでかい声出して、恥ずかしいよ』みたいなことを言われて、ハッと思いました」

どこからがカスハラなのか。

男性は、要望の伝え方のあんばいを、いま、探っているといいます。

「最近はどなるのではなく、努めて冷静に、自分の思いをちゃんと言語化して、『おかしいんじゃない?』『だから変えてね』といった形で、言い方を改めようとしています」

カスハラと正当なクレームを線引きするポイント

カスハラと正当なクレームの違いは、どこにあるのか。

厚労省はガイドラインで、カスハラに当たる行為として次のようなものを挙げています。

ハラスメントの法律問題が専門の原昌登さんによれば、カスハラかどうかを判断する1つのポイントがあるといいます。

成蹊大学法学部教授 原昌登さん
「職場でおきるパワハラ・セクハラにあたるような行為を、客が店にやったら基本的にカスハラに当たるというのが、一番わかりやすいと思います。
店側にミスがあっても、ハラスメントはNGです。
また、消費者が、いくら店のためだと思ってやっても、人格を無視した態度は不当行為にあたります」

毅然(きぜん)とした対応の難しさ

取材を進めると、明らかにカスハラだと企業側が判断した場合でも、対応に苦慮するケースもあることがわかりました。

日本航空のお客様サポート室では、客からの意見やクレームを集約しています。

大型連休明け、社員たちは、ある対応をめぐり協議をしていました。

空港が大混雑した大型連休中。スタッフの対応に腹を立てた客がいたといいます。

その客は、出発ゲートや到着先の空港などで航空会社の従業員を見かけるたびに何度も謝罪を要求。「仕事を辞めた方がいい」などの非難もしてきました。

従業員が繰り返し謝りましたが、男性は「責任者を呼べ」と大声を出したり、1時間にわたってコールセンターに苦情を訴えたりするなどの行為が続いたといいます。

この航空会社では、明らかなカスハラ行為にあたる場合は対応を断ってもよいとしていました。

しかし、現場から返ってきた反応は。

日本航空 お客様サポート室 グループ長 田中雄作さん
「カスハラに恐怖を感じ、どう対応すればいいかの判断がブレる。ビシッと線を引くことは、非常に勇気のいる判断が必要になりますので、現場のスタッフは、非常に苦慮しているという声も耳にしています」

カスハラ対応の理想と現実。客を相手に毅然とした態度を貫くことの難しさを痛感しているといいます。

「受け手のお客様が、最終的にどのような形で我々の発したメッセージをご理解いただけるか、まだはかれない部分もあります。エアラインの別の会社や他の業界と、歩調などを合わせながら検討していきたいなと考えています」

ハラスメントの法律問題が専門の原昌登さんは、サービスの現場のよりどころになるものが2つあるといいます。

成蹊大学法学部教授 原昌登さん
「ひとつは、顧客と企業が契約する際の『約款』です。ネットで予約を取った際にも、承認を求められたりするものです。約款は顧客と企業の契約内容を示すものであり、キャンセルや遅延に関してのルールが定められています。これに沿って行動し『これ以上は対応できない』ということができます。

もうひとつ、法的には『契約自由の原則』があり、民間企業は顧客と契約を結ばない自由もあります。もちろん差別などによって断ることは認められませんが、正当な理由があれば店への出入りを禁止することも法律的には可能です」

それでも、カスハラの程度が激しくなれば、業務妨害罪など犯罪にあたる可能性もあるので、警察との連携をはかることも考えてほしいということです。

カスハラが起きた原因を分析し、未然に防ごうという模索も始まっています。
あるタクシー会社の調査では、カスハラの約半数に、“共通の原因”があったことがわかりました。詳しくは記事の後編でお伝えします。

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