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中学受験 ネット情報に翻弄される親も『翼の翼』朝比奈あすかさんに聞く 親の心構えは

  • 2024年2月9日

「異常な心境でした」「ものすごく激しく怒ってしまう」(中学受験生の親)

去年(2023年)、私立や国立中学の受験者数は過去最多を記録。その一方、中学受験にどう向き合えばいいのか、悩みを深める親も少なくありません。SNSで飛び交う大量の情報に心を乱され、子どもに強く当たってしまったという人も。

中学受験で過熱する親の心境を描き話題になった小説「翼の翼」。その著者で、子ども2人が中学受験を経験した朝比奈あすかさんに、当時の葛藤や、子どもを追い詰めないための心構えについて聞きました。(全2回の後編/前編を読む(首都圏情報ネタドリ!取材班)

【前編の記事】
中学受験 偏差値重視に変化が “中堅校”はなぜ人気?入試問題も変容 教育環境どう選ぶ

ネットの情報に振り回されてしまう…

親を対象に開かれている、中学受験がテーマの相談会です。

近年、子どもの個性を尊重して受験をしようと思ったものの、悩みを深める親が増えているといいます。その原因となっているのがSNSなどで飛び交う情報です。

受験生の親

95%できたことは無視して「残り5%をやりなさい」とものすごく激しく怒ってしまう。

 

サイタコーディネーション コーチング講師 江藤真規さん
「今ネット上に中学受験の情報があふれています。そうした情報をどんどん受け入れてしまうと、結局、その通りにやってもうまくいかないとか、子どもの心がついてこないという、いろいろな弊害が起こってきます」

2年前に長男が中学受験をした美咲さん(仮名)です。当時、マイペースな長男に負担をかけないよう、平日の勉強時間は1日2時間ほどとしていました。

ところが、ふとSNSを開くと…

塾から帰ってきたらその日のうちに復習させて寝たほうが定着する。
朝一番の勉強が効果的。

 

次々と投稿されるほかの受験生の動向に、心を乱されていきました。焦りが募った美咲さんは、思わず子どもに強くあたってしまうこともあったといいます。

美咲さん
「情報の間口を広げると、いくらでも入ってくる。そうすると、いくらでも迷う理由が出てくる。

『こんな勉強量じゃ、受験するのは無理だよ』と言ってしまったこともありました。NGワードだと頭でわかっているんです。子どもも反発してくるし。手こそあげなかったけど、異常な心境でした」

冷静にならなければと、美咲さんは親を対象にしたコーチング講座に参加。不安を抑えるためのポイントなどを学び、なんとか受験までたどりつきました。

講座を受けた際のメモ

「勉強をやってもやってもできないときは、『難しい経験しているんだね。これからは上がるいっぽうだね』と声をかけて、気持ちを切り替えることなどを学びました。

頑張るのは自分じゃないと反省して対応するんですけど、何かきっかけがあると、また焦ってしまう。その繰り返しでした」

子どもを追い詰めないための心構えは

親はどのように子どもと向き合えばいいのか。中学受験で周囲に翻弄され、過熱する親の心情を描いた小説『翼の翼』の著者、朝比奈あすかさんに聞きました。
朝比奈さんの2人の子どもも、数年前に中学受験を経験しています。

『翼の翼』を書こう思ったきっかけを教えてください。

上の子が小学校高学年のときに、中学受験で精神的に追いつめられている私を見て、担当編集者から、いつか長編で書いてみてはと提案していただきました。

しかし、なかなかこのテーマに向き合えず、下の子の中学受験が終わって数年たって、ようやく書き出すことができました。そのくらい、大人の私にも精神的負担の大きかったことを、子どもがやっていたんだなと思いました。

入試会場に向かう受験生たち 2024年

どのような思いで中学受験を始めましたか?

自分も中学受験をしたせいか、自然な流れで、2人とも4年生くらいから進学塾に入りました。

子どもの志望校は、文化祭をまわって決めました。子ども2人の趣味が生かせる部活のある学校を希望し、その部活が学校の中で存在感があることや、部活動や文化祭など学校生活を楽しめることを重視しました。

『翼の翼』では中学受験塾に通う男の子の親が、成績に一喜一憂したり、なかなか上がらない成績に焦り、子どもを追い詰めたりする様子が描かれています。こうした葛藤は、朝比奈さんも無縁ではありませんでした。

自分の感情をおさえることができなくて、何度も自分に幻滅していました。私はとにかく自分の感情を子どもに見せまくっていたんです。

成績が下がってクラスが落ちたら『どうしよう、どうしよう大丈夫なの?』と子どもに言い、クラスが上がれば『やったー!』と親のほうが浮かれる。

今、冷静に考えると、親が感情をちらつかせると、親の影響下に生きている子どもは、そのために勉強するようになってしまう。点を取れば親が喜ぶので、答えを出すことに走り、考えたり、試したり、悩んだりという大事な時間を失ってしまうのではないか。

中学受験は通過点なので、目先の合格よりも、深く考えたり、難しいことに粘り強く立ち向かったりする力を得られればいいのではと、今は思います。

私立中学校の合格発表の様子 2024年

お子さんの中学受験を振り返って、こうすればよかったと思うことはありましたか?

今思うのは、親は下調べをしたり、環境を整えたりすることはできますが、勉強をするのは子どもだし、受験するのも入学するのも子どもです。ですから、決して親が中学受験の主人公になってはいないということです。

本来は親の感情で子どもの中学受験という物語を動かしてはいけない。成果より成長を見てあげて、淡々と接してあげればよかったと思います。

私たちの取材に対して、保護者からは「厳しく言い過ぎて子どもがまったく勉強しなくなってしまった」「まさかこんなことになるとは」という切実な声も届いています。
子どもへの言葉のかけ方、親としての振る舞いなど、朝比奈さんが困難をどう乗り越えたのか教えてください。

乗り越えたのは私ではなく子ども。私が子どもにしてきたことは全く参考になりません。

成長した我が子たちと話して思ったのは、一番大事なのは親が子どもへの欲を消すこと。主人公は子どもです。また、親が子どもをコントロールしようとしているときに気づくこと。コントロールしようとしてしまうことはあると思います。

中学受験には、よい点がたくさんあります。自制心を学んだり、ちょっと難しい問題に取り組んで解けるようになることで自己効力感を得たり、生活の中に勉強が習慣化したりといったことです。

一方で、中学受験をやっていると、最後にはそれぞれに結果が出ます。
生まれて10年くらいしか生きていない子が、数年にわたって勉強し続けた。なんのための勉強か分かっていなかった子もたくさんいたと思います。いろんな個性がある子たちや、他にやりたいことがあった子たちもいたと思います。

いろんな日々があって、波があって、小学校をもう少しで卒業する時期がきた。勉強の習慣や、計画性や、試験の雰囲気などは、得られた力だと思います。結果にこだわらず、これから中学生になるのだという未来に 着目してあげることが大きいかなと思います。

 

【前編の記事】
中学受験 偏差値重視に変化が “中堅校”はなぜ人気?入試問題も変容 教育環境どう選ぶ

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