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アニメ制作者の17%心の病気 日本のアニメ文化どうなる!実態調査で浮かび上がる課題とは

  • 2023年12月12日

海外でも人気の日本アニメ。

しかし、その制作現場は、忙しさなどから体調を崩し、辞める人も少なくありません。
こうしたなか、初めて行われた業界の実態調査で、アニメ制作に関わる人の17%が、うつ病などの心の病気になったか、なった可能性があることがわかりました。

日本文化の象徴の1つにもなったアニメを支える現場は、どのような働き方になっているのか。

(首都圏局 都庁クラブ/記者 川村允俊)

制作現場は

取材に応じてくれたのは、都内でアニメーターの仕事をしている女性です。小さいころからアニメを見ることや絵を描くことが好きで、今はキャラクターなどを描いています。

アニメの制作者は、締め切りが近づくと就労時間が長くなるなど、厳しい労働環境で働いているといいます。

アニメーターの女性
「記憶がなくなるくらい忙しいです。連日泊まり込みで作業を行うこともあり、1週間で帰宅時間が30分ほどしかなく、3日間同じ服を着ていることもありました」

職場には、帰宅しなくてもいいよう、シャンプーやタオルなどを常備しているものの、仮眠室はないため自分の椅子か寝袋で寝ながら、締め切りに間に合わせています。

こうしたことなどから、職場の同僚の中には、精神的に病んで辞める人や休職をしている人もたくさんいるといいます。

「私はアニメーターの仕事にやりがいを感じているので続けていますが、心の病気にかかる人を何人も間近で見てきました。アニメ制作者の処遇について考えてほしいです」

心の病気17%

アニメの制作者でつくる「日本アニメーター・演出協会」は、去年、アニメの制作に関わる人を対象に業界の実態を明らかにするアンケート調査を行い、429人から回答がよせられました。

今回の調査で初めて実施されたのが健康に関する調査です。
それによりますと、このうち、17%にあたる73人がうつ病などの心の病気になったか、なった可能性があるということです。

また、疲労具合について尋ねたところ、精神的な疲労について感じているのは68%にあたる291人、身体的な疲労について感じているのは66%にあたる285人でした。

また、健康診断では、48%にあたる206人が、何らかの指摘を受けたということです。

このほか、待遇面では、収入に関するアンケートも行われ、20歳から24歳の年収は196.6万円、25歳から29歳の年収は292.8万円で、若手の年収は国税庁が調査した全産業の平均に比べて70万円から80万円ほど低い水準となっています。

アンケートでは、自由記述欄も設けられていて、こうした労働環境について、以下のような記載もありました。

(1)「健康面で将来的に不安」
(2)「心の余裕がなくなっていく」
(3)「不安しかない」
(4)「同じ学歴の人と比べると明らかに年収が低い」
(5)「同期がうつになり仕事を辞めた」
(6)「慢性的な疲労感がある」
(7)「メンタルを崩してしまい力を出すことができなくなった」
(8)「深夜、日中、休日に仕事のメールが来続けるので、プライベートの区別ができない」
(9)「絵を描く気力を失っていく人が多い」
(10)「親に介護が必要となったとき収入が足りなくなる」

今回のアンケートの結果について、業界団体の代表は、アニメという日本文化の象徴を支える業界だからこそ、働きやすい環境を整える必要があると考えています。

日本アニメーター・演出協会 入江泰浩代表
「締め切りが近づくと、就労時間が長くなることなどから、健康的な問題が発生している可能性がとても高いと考え、初めて健康に関する調査を行った。うつ病の数が多く大きな問題だと感じている。アニメーションを安定して作っていけるように、健康的に仕事をすることが当たり前になるようにしなければならないと感じている。いろいろな人に今回の結果を見てもらい、業界の改善に向けて役立ててほしい」

取材後記

アニメは世界に誇る日本の文化だと思いますが、取材を通してそのアニメ制作の現場の人たちの中には、厳しい労働環境で働いている人や、精神的に追い込まれている人がいることが見えてきました。

アニメ業界では、深刻な後継者不足に陥っていて、このままでは、業界を支えていく人たちがいなくなってしまうという危機感が広がっています。今後も世界中の人たちを魅了する作品を作っていくためには、職場環境のあり方などについて議論する必要があると思います。

  • 川村允俊

    首都圏局 記者

    川村允俊

    2018年入局 長野局を経て首都圏局。 長野局では台風19号の被害などを取材。現在は都庁担当。

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