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建設現場で事故相次ぐ 背景に何が?危機に直面する業界 住まいへの影響も…

  • 2023年10月6日

JR東京駅八重洲口近くのビルの建設現場で、鉄骨が落下して作業員5人が死傷するなど、人命が失われる事故が相次いでいる建設業界。
現場を取材すると、強い危機感を訴える声が。

「若手は1~2割しか残らない」
「週6~7日働くことが常態化していた現場もあった」

その影響は、マンションの大規模修繕ができないなど、私たちの暮らしにも及んでいます。

(首都圏情報ネタドリ!取材班)

技術ある職人を育てられない

建設業界の実情を知ってほしいと、埼玉県に本社を構える会社が取材に応じました。建物の骨組みとなる鉄筋工事を専門とする会社です。

15年前、仕事を頼める日本人は500人ほどいましたが、現在は200人程度にまで減っています。そのほとんどが50代以上。10代、20代の職人はほぼいないといいます。

西部スチール 専務執行役員 金井孝悦さん
「職人を募集しても、数名しか応募がない。若手は1割~2割ぐらいしか残らない。賃金や作業時間の問題があり、若い人たちが好んで入る現場ではなくなっています」

建設現場で48年働いてきた諸見里安吉さん。仕事を始めた当時、建設業界は大きな仕事に携わることができると人気があったといいます。

諸見里安吉さん
「昔は同世代よりは稼いでいたと思います。中には家一軒買えるぐらい、もうけた人もいましたよ」

しかし、バブル崩壊やリーマンショックを経て、その状況は一変しました。

2019年の建設業の男性生産労働者(職人)の年間賃金総支給額は462万円。全業種の平均561万円を100万円ほど下回っているのです(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に日本建設業連合会が算出)。

建設業界で働く29歳以下の割合は、この20年あまりの間に、1割ほどにまで減っています。

減少した若者の穴を実質的に埋めてきたのが、技能実習生です。技術を母国に持ち帰ることが目的のため、滞在は最長5年に限られています。

国は4年前、建設分野の熟練した労働者を対象に、事実上、無期限に滞在できる在留資格を新設しました。しかし、そのレベルに達した人は全国で12人にとどまっています。

専務執行役員 金井孝悦さん
「技術を習得するまでに、だいたい3年から5年は必要になってくるので、それは、我々はどうすることもできないので非常に頭を抱えているところです」

工期に追い込まれ 厳しい労働環境に悲鳴も

取材を進めると建設現場に無理が生じる要因も見えてきました。7年にわたり、高層ビルの建設現場で現場監督を務めてきた30代の男性です。

男性が常に気にしていたのは、工事の発注者であるデベロッパーと受注したゼネコンの間で決められた工事期間。下請け企業の一員として現場の作業を指揮していましたが、間に合わせるよう強く求められていたといいます。

建設現場で現場監督をしていた男性
「夏場は台風が来て作業が止まったりします。

デベロッパーに『すみません。こういう理由でどうしても間に合わないので、1週間だけ工程を伸ばさせてください』と言うと、『ホームページなどに、完成時期をもう発表しているからやってください』、そんな感じの言い方はされました」

男性は工期に間に合わせようと働きましたが、体調を崩し、会社を辞めました。

「朝6時半ぐらいから仕事がスタートして、23時とか日付が変わる直前ぐらいに終わって、また朝、同じような時間に出勤する。

『人を増やして二交代制みたいな形にしないと、どこかしらでガタがきますよ』という話はさせてもらっていたんですけど。

なかなか人がいなくて、対応はしてもらえなかったですね。この現場はそれが常態化していたので、かなり危ういなと思っていました」

マンションの修繕工事ができない

こうした建設業界の危機が、私たちの暮らしにも影響を及ぼしていることもわかってきました。

都内にある築48年のマンションでは、大規模な修繕工事に着手したところ、思わぬ事態に陥りました。

ことし2月、建物の給水管を一新する工事を始めましたが…

マンション管理組合理事 高橋明彦さん
「契約のときは、業者が4、5人で作業するということだったんですけど、実際にフタを開けてみますと、毎日ほとんど2、3人でやっていましたね。工事のときの断水が長くなりました」

工期が予定より1か月長引いたことで、料理や洗濯ができる時間の制限も伸びました。さらに、老朽化した排水管も今年中に一新する計画でしたが、工事を引き受けてくれる建設会社が見つからず、手を付けられていません。

不具合が起きている箇所はガムテープでふさぎ、なんとかしのいでいます。

「たまに漏れています。早め早めで直していなかいといけないんですが、業者の都合もあるんでしょうから、来年になるでしょうね。今年は無理ですよね」

いま、全国にある築40年以上のマンションは125万戸以上。
マンションの大規模修繕を手がける会社には、工事の依頼が相次いでいますが、その多くを断っています。

この会社が直面しているのは、予算や工程などを管理する「現場監督」の不足。大規模な修繕工事では、1つの現場に1人以上、国家資格を持った人材を配置しなければなりません。

ところが、高齢化による引退や若手の転職など、退職者は10年間で27人に上ります。現在、この会社にいる現場監督は10人。新規採用を目指していますが、ほとんど応募がないのが現状です。

サンエーテクノ取締役 塚原康一さん
「当社は資格がなくても大歓迎で、入ってからの資格取得を支援しているのですが、それでもなかなか入ってこないといった状況ですね。絶対的に現場監督の人数は必要になってきますので、そこが一番苦労しているところです」

現場監督の負担軽減する“建設ディレクター”

建設現場で働く人たちの負担をどう減らしていくのか。いま注目されているのが、6年前に誕生した「建設ディレクター」という民間の資格です。

これまで現場監督の長時間労働の要因だった、さまざまな報告書の作成などのデスクワークを代わりに担う職種です。資格を取得した人は現在1000人以上。そのほとんどが、建設以外の分野からの参入者です。

去年秋から、埼玉県の建設会社で「建設ディレクター」として働いている坂麻弥さんです。前職は派遣の事務社員でした。

坂 麻弥さん
「私みたいな事務方の社員が、日中に書類を作っておけば、現場の方は現場に専念できて、5時以降の時間帯に書類業務に追われることが減ると思います」

この会社ではいま、6人の建設ディレクターを雇用。現場監督の時間外労働を大幅に削減できたといいます。

伊田テクノス 楢崎亘社長
「建設ディレクターが支援する内容がかなり多くありますので、特に、乗り込み(工事開始まで)の3か月が、半分くらいになった。非常にうまくいったということになりますね」

こうした新たな人材の活用や機械化に加え、日本の建設業界の“特殊性”を見直すことも重要だと専門家は指摘します。

ものつくり大学技能工芸学部建設学科 三原斉教授
「コロナ明けから、世界で建設ラッシュが始まり、材料が思うように手に入らなくなってきています。海外では材料が遅れたら、それに伴ってコストや工期を見直すことが一般的です。

一方、日本では、ビルやマンションを建設する際、建築主が支払う金額や工事の期間があらかじめ決められています。材料が遅れても工期を伸ばすことができず、長時間労働で遅れを取り戻そうとするため、現場に無理が生じている可能性があります。

いまの建設業界の状況を見ると、日本も世界標準の形にする時期がきているのではないかと感じています」

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