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関東大震災100年 子どもにどう伝える? 都教委が新たな防災教材

  • 2023年8月1日

「大きな揺れのあとは火災に注意しましょう」「家族で集まるところを決めておきましょう」
と言っても、なかなか伝わらないのが防災教育を行う学校現場の課題です。ましてや、100年前の大地震のこととあっては…
そうした中、東京都教育委員会は、子どもたちが震災の教訓を身近に感じ、備えにつなげてもらえるよう、デジタル防災教材を新たに制作しました。
(災害・気象センター記者《現・千葉局》 頼富重人)

当時の映像や画像を多く使ったデジタル教材

夏休みを控えた7月、東京・福生市の福生第五小学校で、6年生を対象にした防災授業が行われました。
子どもたちはタブレット端末を手にしています。東京都教育委員会が制作したデジタル教材は、当時の状況をよりリアルに感じてもらおうと、映像や画像が多く使われているのが特徴です。

教材は全7ページ。当時の災害の様子を伝えるページには、AIでカラー化された被災直後の映像が収められています。揺れで建物が被害を受けた状況に加え、火災が拡大するようすが確認できます。

映像には避難の様子も収められています。子どもたちは「強い風にあおられて、火がいろいろな物に飛び散ったことがわかる」などと話していました。カラー化することで、多くの家財を荷車に載せていた状況がよりリアルに感じることができたようです。

経験者の証言も

教材に掲載された映像のうち、子どもたちの印象に強く残ったのはインタビューの映像です。

被服廠(ひふくしょう)跡で火災を経験した女性
「みんな真っ赤でした。橋も真っ赤。両国橋も真っ赤」

震災の60年後に撮影された映像は、当時の本所区(現在の墨田区)にあった被服廠跡と呼ばれる工場の跡地での火災を体験した人の証言のほか、上野周辺で避難していた人の証言が収められています。

被服廠跡では、集まった3万8000人が犠牲になったといわれていて、迫ってくる火の勢いや跡地に避難した人々の様子などが証言されています。

また、火災から避難しようとした男性の証言からは炎が迫る中、大勢の避難者で身動きすらとれない状況だったことが分かります。

火災から避難しようとした男性
「ぎっしりなんだね。上野の方が。だから前に進めない。上野の交番に着いたのが夜の8時近くだった。(地震が起きたのは正午前)それぐらい進まなかった」

自分事としてとらえ 備えを考える

今回の教材で、映像を見ることで揺れや火災のおそろしさが率直に伝わったほか、都市ならではの避難のおそろしさも伝わりました。
避難先に向かう人たちが一気に道路に集中すると、群集雪崩などの事故につながる危険性は、100年前も今も同じです。子どもたちからは、今後自分たちがすべきことについて続々と声が上がっていました。

対策を話し合う教員と児童

児童

揺れても壊れないように、地震に強い家にする必要があるね。

児童

火が燃え広がらないように、窓をきちんと閉めておかないと。

児童

動画では、避難する人が1か所に集まっていて歩きにくそうだった。

先生

家族で、避難の際の約束事を決めておくことが大事だね。

授業を終えた6年生の児童に感想を聞くと、当時の映像を見て学んだためか、さらに理解が深まったようでした。

「焦らず冷静に避難しなければならないし、適した避難場所を見つけておかなければならないと感じた」

「家族と避難所などを話し合って、大きな地震が起きた際には、どこで集合するかなどを話し合いたいと思う」

この小学校では、防災教育に力を入れていますが、授業を行うための教材は、教員一人ひとりが準備する必要があり、多くの労力がかかっていました。10万人を超える人が犠牲になった関東大震災については、100年前の震災ということもあり、当時の状況を伝えるのに適した教材が少なく、これまで授業で取り上げることができなかったということです。

学年主任の教員
「子どもたちは大きな地震の経験がないので、いままであった災害からどれだけ具体的なイメージを持つかが大事だと思っています。今回の授業では、子どもたちが真剣な目で見てくれていたのでとても良かったです。教材をゼロから探してくるというのは大変なので、今回の教材ができたのは私たちが指導していくなかでとても助かります」

この新たな防災教材は、東京都教育委員会の防災教育ポータルサイトで掲載されていて、誰でも見ることができます。

東京都教育委員会 加藤憲司主任指導主事
「先人の知識や教訓から子どもたちが自分でできることを考え、子どもたちの防災意識の向上を図っていきたいという思いで教材を作成しました。自分の命をしっかりと守る自助や周りの人を助ける共助の気持ちを子どもたちにも身につけてもらいたいです」

関東大震災100年教訓を学び、備えを考えるきっかけに

関東大震災では、地震の揺れによる建物の倒壊や火災、土砂災害、津波だけでなく、災害時のデマによっても罪のない人が犠牲となりました。

震災から100年となりますが、今でも首都直下地震が30年以内に70パーセントの確率で起きるとされるなど、地震のリスクがなくなったわけではありません。新たな防災教材などを使ったり、震災関連の施設を訪れたりして、教訓を学び、改めて備えを考える機会にしてはいかがでしょうか?

関東大震災当時の映像や写真はNHKアーカイブスのページでもご覧いただけます。

  • 頼富 重人

    千葉局 ニュースデスク

    頼富 重人

    2005年入局。高知局、名古屋局、社会部、釧路局、災害・気象センターを経て千葉局ニュースデスク。災害・防災分野の取材が専門。

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