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神奈川大学サッカー部 竹山団地に住む!ぼくらが強くなるために

  • 2023年7月26日

高齢化が進む横浜市の「竹山団地」。ここで寮生活を行う大学生たちがいます。
その数59人。神奈川大学サッカー部の部員たちです。
名付けて「竹山団地プロジェクト」。空き部屋が課題にもなっている団地に“あえて”移り住み、活性化に取り組んでいます。

これまでプロサッカー選手を何人も輩出してきた強豪校でもある神奈川大学が、いったいなぜ、設備の整った寮ではなく、「団地」に住むことを選んだのか。そこには地域貢献に留まらない、ある狙いがありました。
(首都圏局/ディレクター 阿部愛香)

プロ輩出の名門 神奈川大学サッカー部が団地に移住!?

朝6時から練習に励む神奈川大学サッカー部。部員たちが住んでいるのはグラウンド近くの竹山団地です。現在部員59人全員が竹山団地で寮生活を行っています。

横浜市緑区にある竹山団地は、昭和40年代から開発が行われ、建物の多くが築50年を超える大規模公社住宅です。住人の高齢化率は45%(2020年)。空き部屋の増加や、住人どうしのつながりの減少などさまざまな課題を抱えていました。

そこに目を付けたのがサッカー部監督の大森酉三郎さんです。練習を行うグラウンドから竹山団地までは約3キロ。その立地の良さから、竹山団地での寮生活を決めました。部員たちがサッカーに集中できる環境が整うとともに、住みながら地域活動にも参加できると考えたのです。

神奈川県住宅供給公社との協議を重ね、2020年3月に協定を締結。2か月後の5月から入寮を開始しました。

「竹山団地プロジェクト」と名付けられたこの取り組み。部員たちの多くが暮らすのは、5階建ての団地の最上階。エレベーターがないため、高齢化が進む中、空き部屋が目立っていた上の階に、一室2~3人で暮らしています。毎日階段で上り下り。体力作りにも一石二鳥です。

学生たちにとっては、1人暮らしよりも出費を抑えることができ、また、寮として食事の提供も行われるため炊事などの負担が少なく、よりサッカーに集中できる生活を送れるといいます。

団地は“社会課題のるつぼ” 交流の中で育つ人間力

学生たちは、単に団地で生活するだけでなく、自らさまざまな活動を企画して、住人たちとの交流を深めています。

団地の清掃活動に高齢者向けのスマホ教室の手伝い、地域の小学生に対しての宿題のサポートなど実現した企画はこれまでに10種類ほど。

大森監督はこのプロジェクトの狙いについて、社会との関わりを通して「人間力」を磨いてほしいと話します。

大森酉三郎監督
「団地というのは、非常に社会課題のるつぼです。住みながら経験が積めると、そういう中で地域の貢献にもなるし自分たちの成長にもつながる。非常にいい循環の仕組みじゃないかなと思って今トライしています」

ふだんは同世代で集まることが多い学生たち。社会性を発揮して団地で幅広い世代の人たちと協力し合ったり、さまざまな立場を経験し、そこで工夫を凝らしたりすることは競技にもプラスになると大森監督は考えています。

「譲歩できたり、コミュニケーションをとって両方の落としどころを付けたり、そういうことができる力って非常に大事かなと。まさにそういうことがこの地域でもサッカーでもスポーツでも求められることかなと思っています」

この春オープン!カフェで生まれる住人とのつながり

ことし4月、サッカー部は新たに地域の交流拠点となるスペースの運営を始めました。
商店街の空き店舗を活用したサッカー部の食堂を開放し、みんなで食事のできるカフェをオープンしたのです。

オープンのきっかけは、自治会のこんな声から。“1人で食事をするさみしさを感じている住人も多く、楽しく食事ができる場所があるとうれしい”と聞いていました。

料理に使われる野菜は、部員たちが団地の近くの畑で育てたものも。ふだんサッカー部の食事を作っているシェフが、栄養たっぷりの料理を作り提供しています。

さらにカフェでは、週に2回介護予防のための体操教室も行っています。講師役は、部員たちが交代で担当します。

小林泰輔さん(左)

この日講師役を務めていたのは、4年生の小林泰輔さん。理学療法士の指導のもと体操を教えるほか、住人たちの体の変化を継続的に見ていくため個別に体力測定も実施します。こうして定期的に顔を合わせ、体の状態を見ていくことで、互いの関係性も深まっているといいます。

教室は横浜市からの委託で運営されていて、学生にはアルバイト代が支給されます。この日は、1時間40分のプログラムで筋トレやストレッチ、脳トレが行われました。
講師を務めた小林さんは、参加者との会話や表情から体調を確認し、体力に合わせた無理のない指導を心がけているそうです。

大学4年 小林泰輔さん
「自分が当たり前にできていることは高齢者の方々はできないので、自分の当たり前を押しつけずに確認しながら進めるようにしています」

和やかな雰囲気で楽しく本格的な指導が受けられるという評判が口コミで広がり、最初は5人ほどだった参加者も今では20人ほどに増えています。

参加した
住人

ずっとやりたいなと思っていたことなので。学生さんがいらっしゃるからすごく楽しいです。 

参加した
住人

すごいパワーもらいます。

 

大森監督
「ダイレクトに住人さんたちの笑顔が見れたり、コミュニケーションをとって話を聞けたりするので、我々としても本当に団地の一員としての自分たちの立場を理解したというか。我々にはやれることがあって、やらなきゃいけないことがあるっていう自覚が強くなったかなという気がしますね」

目指すは「持続可能な活動」

現在の4年生が1年生の時にスタートした竹山団地での寮生活。3年かけ地域のコミュニティーに溶け込む中で学生たちは自分自身の変化を感じています。

小林泰輔さん
「住んでいなければ、ここまでの関係性を築くことはできなかったので、住んでよかったと思っています。いろいろな世代の方と会話することによって、自分の知識も広がっていっているのを感じていますし、普通に住んでいたら経験できていないことを経験させてもらっているのでそれはありがたいです。

これまで本当にたくさんのことを始めて、積極的に関わってきたことによっていろいろなことができるようになったと感じています」

大森監督
「サッカーの活動以外に、地域活動の中で地域からいろいろな声とか、お褒めの言葉とか、非常に愛情深い環境を作ってくださっているので、そういう自分たちの中で部員たちは兄弟みたいな関係、また地域とは家族みたいな関係、そういうものがたぶん彼たちの心を変容させるんじゃないかなと思います」

取材を通して、学生たちが住人との交流を通して団地を明るくしていることを実感しました。いい効果を感じているのは住人だけではありません。学生たちは住むことによってコミュニティーに溶け込み、かけがえのない経験を積むことができます。その中で得た住人からの感謝の言葉や新たな発見などの刺激が、彼らを動かし続けていました。

  • 阿部愛香

    首都圏局 ディレクター

    阿部愛香

    2023年入局。ジェンダーに関するテーマに関心があります。

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