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寄付「見返りあり」が人気 遺産を寄付する動きも 種類・メリットは?

  • 2023年7月14日

「見返りのある寄付」に人気が集まり、個人の寄付の総額は10年で約2.5倍に急増しました。都内では、飲めば飲むほど寄付につながる「キフバー」が開催され、大勢の人でにぎわっています。
また、遺産の使い道を自分で決めたいと、遺産を寄付する高齢者も増加しています。

見えてきたのは「誰かのため」だけでなく、「自身も豊かにしてくれる」新たな寄付の可能性です。広がる「新たな寄付のカタチ」や、自分にあった寄付先をどう見つければいいのか取材しました。

(首都圏局/ディレクター 岩井信行、竹前麻里子)

飲んで気軽に社会貢献 「キフバー」とは

6月、飲めば飲むほど寄付ができるイベント「キフバー」が都内で開催されました。

お酒を酌み交わしつつ始まったのは、さまざまな社会問題に取り組むNPOなどのプレゼンです。全国の子ども食堂を支援している団体、フェアトレードの普及を目指す学生の団体などが寄付を呼びかけました。

プレゼンを聞いて応援したいと思ったら、スマホで寄付先を指定して飲み物を注文。1杯800円から1000円ほどで、その40%(320~400円)が寄付される仕組みです。

お客さん

初めて参加しました。気軽に飲んでるだけで社会貢献になるって不思議だなという感じです。

お客さん

寄付とバーという組み合わせがおもしろい。ラフでカジュアル。幅広くいろんな人が来れるんじゃないかな。

毎月1回、ボランティアでこのイベントを主催している会社員の谷田脩一郎さんです。以前、仕事で関わったNPOが寄付集めに苦労している姿を見て、「キフバー」を始めました。

谷田脩一郎さん
「気軽さというのは重要視しています。登壇する団体も、参加する人も『何かいいな』とか『ちょっと気になったな』とか、関心がそのままアクションになったほうが、寄付が増えたり、いろんな人が関わりやすくなったりすると思います」

この店に通い寄付に関心を持つようになったというマコトさん(37歳)です。システムエンジニアとして働いています。友人とさまざまな店を飲み歩くのが趣味のマコトさん。その中で偶然キフバーを訪れ、ひかれていったといいます。

マコトさん
「自分が飲むのが寄付になるというのがおもしろいなと思って興味を持ちました。自分が楽しむだけじゃなくて、それが何か人の役に立つという」

この日は、マコトさんが関心を寄せるNPOも参加していました。アフリカなどでテロや紛争の解決に取り組んでいます。

このNPOがキフバーに参加したのは資金不足を解決するためでした。海外などでの活動資金、年間約8千万円のうち6割を個人からの寄付に頼っていますが、十分ではなくギリギリの状況が続いています。

広報活動にも力を入れてきましたが、実際の寄付につなげていくのは簡単ではないといいます。

NPO法人アクセプト・インターナショナル理事 伊東正樹さん
「テロ紛争解決という特殊な分野なので、なかなか関心が集まらないし、共感も得られにくい。資金面では苦労している状況です」

そうした中、近い距離で一人一人に直接訴えかけたいと「キフバー」に参加しました。この日は、テロ組織で活動を強いられたソマリアの子どもたちの実情を伝えました。

NPO理事
伊東さん

子ども兵もいますし、最年少7歳とか。『なんでテロ組織に入ったんだ』『なんでこんなことしたんだ』ではなくて『これからどうしたらいい』みたいに聞くと、意外と普通の若者と同じ。

ふだんの生活の中では知り得ない、紛争地域の子どもたちの実情。マコトさんは直接担当者と話すことにしました。

NPO理事(左)とマコトさん(右)

マコトさん

子どもは関心あります。これからの世の中を担っていくのがやっぱり子どもになるので。

テロリストの中でも、少年兵や20歳前後の若い世代の人たちが更生していくことで社会がよくなっていくと考えています。

この日、4杯のお酒を頼んだマコトさん。4つの団体に、あわせて1440円を寄付しました。

マコトさん
「ふだん、仕事では社会に貢献することがなかなかできないんですけど、自分がお酒を飲むことで、仕事以外で社会貢献につながる。自分にとってもすごく価値あることだなと思います」

「人生最後の社会貢献」遺産の寄付も増加

広がる「新たな寄付のカタチ」。いま多くの高齢者が注目しているのが、自分の死後、遺産を寄付して役立ててもらおうという取り組みです。

75歳の女性は、身体障害のある弟と2人で暮らしています。ともに配偶者はなく、子どももいない2人は、遺産を寄付することにしました。

「遺贈寄付」。亡くなったあと、遺産をNPO法人などに寄付して役立ててもらおうというものです。

このきょうだいのように相続人がいない場合、遺産は国に帰属することになります。

一方、遺贈寄付の場合、あらかじめ寄付したいNPOなどを自ら選択。遺言に記すなどしておけば、遺産が国にわたることはなく、自分で使い方を決められるのが特徴です。

単身世帯の増加や社会貢献の意識が高まっていることなどを背景に、その件数は10年で1.8倍に増えました。

女性たちが遺贈寄付を考え始めたのは、5年前、女性がガンを患ったのがきっかけでした。女性の弟は障害などの影響で、複雑なものごとの判断が困難だといいます。女性にもしものことがあったとき、遺産をどうするか悩んでいました。

女性
「普通は自分の子どもや孫に残しますよね。それがないし、さてどうしようかなと。残ったお金ぐらいは世の中の役に立てればいいかなと思っていたのですが、お金に絡むことは他人にはなかなか相談できませんよね」

そんなとき、銀行から紹介されたのが「遺贈寄付」でした。きょうだいそれぞれの遺言に、遺産を誰に託したいか記すことにしたのです。

2人が寄付先に選んだのは、4つの団体。家族にゆかりのある自治体や大学。さらに自然保護や医療に携わる団体です。自然保護の団体を選んだのは、昆虫学者だった父親への思いからでした。

昆虫学者だった父親

女性
「父が仕事で関わっていたのもあるし、よく野山に行ってましたし、自然環境というのはやっぱり大事だと思いまして」

さらに医療系の団体を選んだのは、女性の弟が長く医療関係者の支援を受けてきたからです。その感謝の意味を込めて、遺産は医療の発展のために使ってほしいと考えたのです。

この日、団体の担当者が活動内容の説明に来ました。これまで30年以上にわたって日本の医療技術を発展途上国など100か国以上に伝えるなどしてきた団体です。

団体の担当者

日本の理学療法を、ベトナムなどアジアへ広めていこうと思ってます。そういう事業に皆さまのご意思を活用させていただこうと思っています。

女性

いいんじゃないですか。もしお役に立つんでしたらどうぞ。

女性の弟

とてもいいことです。

女性
「自分のお金がこういう団体に行って、役に立つことに使われるとわかると、納得しますよね。心配することなく死んでいけるかな」

遺贈寄付の注意点について、寄付を希望する人への情報発信や相談窓口の提供などを行っている全国レガシーギフト協会に聞きました。

全国レガシーギフト協会 理事 齋藤弘道さん
「遺言に寄付先を書くケースが多いのですが、相続に詳しい弁護士、司法書士などに相談しながら作成すると、丁寧な遺言が出来ると思います。相続人は誰で、自分の遺産はどのようなものがあり、寄付先はどこで、遺産をあげようと思った人が先に亡くなった場合はどうするかなど、将来起こることを想定しながら遺言を作ることは、それなりに手間がかかるからです。

作成した遺言を自宅のみで保管することはあまりおすすめしません。見つけた相続人がビリッと破いてしまうケースもあると聞きますので。公証役場で遺言を作成し保管するというのが1つの流れかなと思います」

寄付先をどう選ぶ?

寄付をやってみたいけれど、どこに寄付したらいいのかわからない人はどうしたらいいのか、「寄付」の役割について詳しい早稲田大学の谷本寛治教授に教えてもらいました。

(1)寄付つき商品を購入する。
販売価格に、あらかじめ寄付額が組み込まれているものです。食品などに多く、気軽に寄付しやすいという特徴があります。

(2)ポイントを寄付する。
クレジットカードや電子マネーなどを利用して貯まったポイントを、そのまま寄付す
ることができる仕組みもあります。

(3) 地域のNPOセンターやコミュニティーファンド(助成金を申請したり分配したりする、地域のネットワーク)に聞く。
どこに寄付したらいいのか、寄付したお金が適切に使われているか知りたい方におすすめです。遺贈寄付を考えている人は、信託銀行なども相談にのってくれます。

谷本さんは、個人の寄付が増えている背景について、ふるさと納税や、災害への支援の広がりなどがあると分析しています。

早稲田大学商学学術院商学部 谷本寛治教授
「日本では寄付の文化が弱いと言われてきましたが、私たちのそれぞれの思いにあった寄付のあり方を、模索するいいタイミングにあると思います。

災害時には多くの寄付が集まるようになってきましたが、そうでないときにも集まる仕組みが必要です。今回取り上げたような、個々人それぞれが支援したいと思う団体に少しずつのお金が集まるような仕組みができていくことを期待しています。そういったサイトもできています。

寄付することでそれぞれの思いが実現するようにつなげていく。一人一人の思いをポジティブに受け止め、その達成感をみんなで共有することが大事だと思います。

同時に、寄付をもらう団体は、信頼を得られるように財務状況をオープンにして、どのような活動をし、どのような成果・社会的インパクトがあったか、積極的に情報発信することが大切です」

  • 岩井信行

    首都圏局 ディレクター

    岩井信行

    2012年入局。さいたま局などを経て2021年から首都圏局。子どもの貧困や社会的養護、ヤングケアラーなど、家族に関わるテーマで取材を続ける。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、報道局などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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