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ウクライナの平和願う壁画 ミヤザキケンスケさんが子どもたちと制作 東京 目黒

  • 2023年6月6日

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年3か月。
事態が長期化する中、東京・目黒区の公共施設に、平和への願いを込めた大きな壁画が新たにつくられました。
手がけたのは、世界各地で活動する千葉県のアーティストです。
制作には、地元の子どもたちやウクライナの避難者の子どもも参加。
一人ひとりが現地の状況に思いを寄せて筆をとりました。
(首都圏局/記者 鵜澤正貴)

平和願う壁画 描く子どもたち

壁に描かれた花々の下絵に、楽しそうにペンキで色をつけていく子どもたち。
5月に、東京・目黒区の区民センターで行われた平和を願う壁画を描く取り組みです。

参加したのは、地元の目黒区の小学生およそ30人や、ウクライナから日本に避難してきた子ども、それにウクライナの隣国のポーランドの子どもたちです。

女子児童

ウクライナの人たちに少しでも願いが届けばいいな。

女子児童

いろんな色で壁に絵を描けて楽しい。

壁画アーティストの思い

制作を手がけたのは、千葉県に住むアーティストのミヤザキケンスケさん(44)です。
ミヤザキさんは、世界各地の紛争や貧困に苦しむ地域を巡って、現地の人たちと一緒に幸せを願う壁画を描く活動を行っています。
これまでに、ケニアや東ティモール、エクアドル、ハイチなどを訪れました。

ミヤザキさん
「そこに住んでいる人たちにとっては、ずっと、その壁画とともに生活をしていくわけです。何か社会で問題がある中でも、そこに壁画があることで、少しでも気持ちが明るくなるとか、そういうことができないかなというのが、自分の活動の基本的なところになっています」

6年前の2017年には、ウクライナ東部の港町、マリウポリも訪れました。
当時、マリウポリには、ロシアに一方的に併合された南部クリミアから逃れてきた人たちも暮らしていました。
そこでミヤザキさんは、平和と共存への願いを込めて、ウクライナの民話を元にした絵本「てぶくろ」をモチーフにした壁画を学校の壁一面に描きました。

現地の子どもたちにも参加してもらって完成させたその壁画には、さまざまな地域の人たちが大きな手袋の中で身を寄せ合う様子や、そのぬくもりで卵がかえり、街のシンボルのカモメが飛び立っていく様子などが描かれました。

しかし、去年2月から始まった軍事侵攻でマリウポリは激戦地となり、街は破壊されました。
ミヤザキさんが手がけた壁画も一部が崩れ落ちたり、黒くすすけたりしてしまいました。

ミヤザキさん
「自分が知っている街が壊されているという感覚で非常につらかったです。ひと事とは思えない感覚でした。壁画はみんなで共存できる社会を作ろうというのが1つのテーマでしたので、それが戦争という形で破壊されてしまったことは、本当に悲しかったです。そういう中で、自分にできることは何なのだろうかというのは、今までずっと考えてきました」

ウクライナのためにできることは

ミヤザキさんは、ウクライナのために新たな絵も描いてチャリティー活動に生かしたり、現地の知り合いの日本への避難を支援したりするなど、自分にできる取り組みを続けてきました。
そうした中、目黒区と、区内にあるポーランドの関連団体「ポーランド広報文化センター」から、“平和の象徴となる壁画を日本に残してほしい”と依頼を受けたのです。

ミヤザキさん
「自分としても何かしたいけれど、どうすればいいかわからないという気持ちの中で、お話をいただいたことは単純にすごくうれしかったです」

ミヤザキさんは、これまでの壁画制作と同じく、今回も、将来を担う子どもたちに参加してもらうことが大切だと考えました。

ミヤザキさん
「自分が参加して描くことで“自分事”として考えるようになります。壁画はその場所にずっと残っていくものです。子どもたちが大きく成長したときに、壁画に込められたメッセージを伝えるメッセンジャーにもなってくれると信じています」

参加したウクライナの避難者の家族も、この思いに共感していました。

ロマン・シエドヴォロシーさん
「このような祈りを込めた壁画を多くの人に見てもらい、共有する必要があると思います」

完成した壁画が訴えるものは

子どもたちが筆を入れてから2週間。
ミヤザキさんがスタッフとともに仕上げの作業を続け、5月末、ついに高さ4メートル、壁3面にも渡る大きな壁画が完成しました。
この日は完成を祝う催しも開かれ、制作に参加した人たちが集まりました。

壁画の一面にわたって描かれているのは、色鮮やかな花々です。
ウクライナのひまわりや目黒区の桜、ポーランドのポピーなどを表現しています。

その花々に囲まれ、手を取り合っているのは、さまざまな人種の人たちです。

そして、中央には、ウクライナをイメージした1つの家を大切に守るように手の中に抱く女性が象徴的に描かれました。
女性はウクライナの避難民を多く受け入れているポーランドの民族衣装を着ています。
全体を通して、世界中の人たちが平和を目指して支え合う必要性を訴えています。

ウクライナから避難 アンナ・ダニロワさん
「これはすばらしい絵です。私にとって世界中の平和を表しています」

息子のミコラ・シエドヴォロシーくん
「お花がきれい」

ミヤザキさんは参加した目黒区の子どもたちに、直接、メッセージを伝えました。

ミヤザキさん
「いつもこの場所に来るでしょう。だから壁画を見るたびに、描いた時の気持ちを思い出してくれるとうれしいな」

男子児童

なにか希望がたくさんあって、平和な感じがして、とてもいいと思います。ウクライナの人たちと一緒に絵を描けて、いい経験ができました。

男子児童

ウクライナに平和が戻ってほしいです。自分に少しでもできることがあったら、取り組んでいきたいなと思いました。

 

ミヤザキさんは、参加した一人ひとりの平和への思いがつまった壁画になったと感じています。

ミヤザキさん
「心を寄せ合うとか思いを寄せるということはすごく大事だと思っていて、ひと事と思わずに、子どもたちなりにたぶん考えて筆を入れてくれたと思うんですね。世界の人たちと一緒に平和を作っていくという何か象徴みたいな壁画になるといいなと思います」

取材後記

ミヤザキさんは、今回の取り組みの放送後、「いつかまたウクライナに行って、現地の人たちと一緒に、平和と共存を願う壁画を描きたいという気持ちが強くなりました。いま自分にできることを続けて、その時を待ちたいと思います」と話していました。

目黒区では、壁画の制作風景を記録した映像の上映や写真の展示を6月28日から7月2日まで、目黒区美術館で行う予定で、広くメッセージを伝えていきたいとしています。

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年(平成20年)入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

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