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中小企業のBCP(事業継続計画)“企業連携”で対策

  • 2023年11月14日

皆さんはご自宅などで大きな災害が起こったときの備え、されていますか?
企業にとっても、大災害への備えが大切だと指摘されています。
そこで必要なのが「BCP(Business Continuity Plan)」。
企業が、災害時に事業を継続できるようにするため、あらかじめ立てておく計画のことです。「必要だとはわかっていても、業務が忙しくて…」「どこまでやったらよいのかわからない」というところも多いのではないでしょうか。
企業活動が止まってしまうと、暮らしへの影響も続きます。工夫とアイデアで対策を進めている中小企業を取材しました。 
(首都圏局/ディレクター 千葉遼平)

中小企業の災害への備え 対策進まず

東京・渋谷のNHKに首都圏の企業約30社が集まりました。
防災セミナーで話し合ったのは、災害時に事業を続けるための計画「BCP(Business Continuity Plan)」。

参加した企業は、まず自社の地震や水害時のリスクを確認、製造業や運送業などが多く、「守るべきもの」について議論すると、電力確保が重要といった声や輸送路をいち早く回復するのが大事だ、などの声が上がりました。

とはいえ、参加した方は中小企業も多く、資金や人手に余裕があるわけではありません。
具体的に何から手を付けるべきか、悩んでいる方も多くいました。

印刷業
「どう対処しなきゃいけないか、頭ではわかっていても実際のところは難しいです。他のところにもお金をつかわないといけないので、予算もなるべく抑えたいと思っています。できる限りの範囲で対策することになります」

民間の信用調査会社、帝国データバンクが約2万8千社を対象に調べたところ、BCPを策定していると答えた企業の割合はわずか18.4%でした。
内訳をみると、大企業が35.5%で、中小企業では15.3%にとどまっています。

なかなか一歩を踏み出せないBCPですが、今回のように多くの企業が集まるセミナーでは互いのアイデアを出し合うことができます。他社の取り組みを参考にして対策に生かしていったり、悩みを共有したりすることで対策のきっかけ作りにもなるのです。

不動産・住宅関連
「電気自動車を何店舗かに置いて、そこから電気を確保する」
物流
「物流業同士でトラックやガソリンの確保が大変なときは、ほかの会社の荷物も持って走ってあげたり、逆に(他社に)お願いして走ってもらったりする共同配送が実現できればいい」

同業他社の倉庫に“保管”

セミナーに参加した人たちの間で、関心を集めた企業がありました。
食品や化粧品の香料を製造している都内の企業です。最近、災害に備えて新たな取り組みを始めたといいます。

この会社は、約2千種類の香料を製造し、お菓子などの食品や清涼飲料水、化粧品などを製造する企業に納入しています。本社は東京ですが、工場と倉庫は山形県米沢市にあります。
もし東北地方に災害などがあって納入ができなくなると、メーカーの生産ラインも止まってしまうため、食品や飲料などが消費者に届かなくなってしまう可能性もあります。

そこで、在庫を分散させようと始めたのが、“ほかの企業に保管してもらう”取り組みです。
在庫を、自社の山形にある工場に加えて、近畿地方にある同業他社の倉庫にも保管してもらうことにしたのです。
工場が被災したり東北地方の物流が止まったりしたとしても、近畿にある他社の倉庫から取引先に在庫を発送してもらいます。2週間は途絶えずに納入ができると考えています。

在庫を多めに確保するコストはかかりますが、新たに設備投資をする必要はなくなりました。中小企業が抱えがちな資金面の課題は、“企業間の連携”によって解決することができます。

 

香料製造会社 我妻浩一さん
会社が扱っている香料は生活にも密着しているので、供給への不安を解消する意味でもこうした対策は必要です。当初は別の会社に製造を委託することも検討しました。しかしその場合、レシピ(自社の製法)を公開しないといけなくなる。そこで製品を“保管”してもらうことがベターなのではないかと考えました。

この取り組みについて、企業の防災対策に詳しい専門家はこのように評価します。

国立研究開発法人 防災科学技術研究所 千葉洋平 特別研究員
「中小企業は人材・資金が限られるので、企業間の互助の取り組みは低コストで効果が期待できる戦略として非常にいい事例。我々も現在こうしたお互い助け合うようなソフトの取り組み、連携・互助といった取り組みに着目している」

新型コロナでBCPが大幅に前進

互助の取り組みで注目を集めているこの企業のBCPですが、必ずしも道のりは順調ではなかったといいます。取り組みのきっかけとなったのは東日本大震災でした。
地震で工場の設備に被害はなかったものの、物流が滞るなどして、香料の納入は1週間弱ストップ。取引先にも大きな影響があったということです。

震災を受けて、会社ではBCPの策定が必要だという意識が高まりましたが、目の前の業務に追われ、なかなか進まなかったといいます。
策定が一気に進んだのは「コロナ禍」でした。
感染すると、味覚や嗅覚が鈍るといった症状が多く報告されていた、新型コロナ。
香料を扱う会社で、社員の嗅覚が失われる事態は、すなわち企業の生産ができなくなることを意味するのです。
大きなリスクに直面したことで、最も優先すべき業務の洗い出しという、これまでなかなか踏み切れなかったことに乗りだし、出勤人数を最小限に抑えることができました。

その経験をもとに、「守るべきものは何か」を考え、優先すべき事柄を決めていくというBCPの策定につながり、在庫の分散保管など、具体的な対策につながっていったといいます。

 

香料製造会社 BCP策定を担当 飯島善男さん
とにかくやってみようということで進めました。ふだんの業務と比べて70点、場合によっては60点以上とれるところからになるかもしれないが、模擬訓練をやりながら進めていきました。製品を少しでも安定して提供するために何を考えて準備しておけばいいのか、そこだけにフォーカスしました。

取材後記

セミナーでは参考になるBCP対策をたくさん聞くことができました。その一方で、「BCPって企業のトップや担当が考えることで、一般の私たちが考えてもしょうがないんじゃないか?」と思ったのも事実です。
企業の防災対策に詳しい千葉洋平さんに聞きました。「経営陣はもちろん、社員ひとりひとりが、自分ごととしてふだんから検討を始めることが大切。何かあった場合に一個人としてどう行動するのか、何を優先的に取り組むかも考えておく。それが、企業を守り、私たちの暮らしを守ることにつながる」と話していました。
「会社が優先すべきものは何なのか?」を明確にして、小さなことであっても、できることから取りかかってみるのが大切だと、今回の取材を通して感じました。

  • 千葉遼平

    首都圏局 ディレクター

    千葉遼平

    2022年から首都圏ネットワークを担当。「シュトボー」や「ちかさとコレクション」など取材。

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