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予期せぬ妊娠「相談を」 匿名で無料診察の医療機関も(前編)

NHKさいたま「子どもプロジェクト」
  • 2022年08月05日

NHKさいたま放送局が、子どもたちが直面する課題や子育て中の親への支援などについて特集する「子どもプロジェクト」。7月は予期せぬ妊娠に悩む若い女性たちへの支援についてです。突然知った妊娠を誰にも打ち明けられず、対処の方法も分からないなど、不安や悩みを抱える女性たちと真摯に向き合い、母親と子どもを助けようと活動する医療機関が熊谷市にあります。
支援に取り組む「さめじまボンディングクリニック」の看護師、吉田知重子さんをゲストに迎え、前編と後編の2回にわたってお届けします。 

(ひるどき!さいたま~ず 2022年7月15日放送)

 

予期せぬ妊娠に悩む女性たち

生まれたばかりの赤ちゃんの命が断たれる事件が後を絶ちません。子どもが虐待で死亡する事例のうち、最も多いのが生まれて間もなく亡くなるケースです。ことし7月、神奈川県秦野市で生後間もない赤ちゃんの遺体が畑に埋められているのが見つかりました。また、6月には北海道や大阪でも、生まれて間もないと見られる赤ちゃんの遺体が見つかり、いずれも母親が逮捕されています。埼玉県内でもほぼ毎年のように起きていて、3年前にはドラッグストアのトイレで赤ちゃんを産んだあと、そのまま遺棄して亡くなる事件がありました。この事件は、予期しない形で妊娠した結果、引き起こされていました。

思いがけない形で妊娠をした女性を支援し、生まれてくる赤ちゃんを守る取り組みについて、取材をしている大高政史カメラマンです。背景についてはどのように考えていますか。

厚生労働省が過去の事例を分析したところ、生まれてから24時間以内の虐待死が最も多く、子どもが亡くなった当時の母親の年齢は10代が高い割合を示していました。背景として「予期せぬ妊娠に悩む若い女性たち」の存在があります。妊娠が分かった時に、性に関することや出産のことなどさまざまな知識がまだ備わっていない、誰にも相談ができないといった悩みを抱える若い母親への支援が課題になっています。

秘密を守りながら女性を支援

こうしたなか、予期せぬ妊娠をした女性たちのケアに取り組み続けている医療機関があります。熊谷市の産婦人科「さめじまボンディングクリニック」です。看護師として働く吉田知重子さんは、公認心理師の資格も持ち、2006年の開院から予期せぬ妊娠に悩む女性たちの支援に携わり、2018年から「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」の事務局として活動しています。そのほか性暴力被害の警察対応、児童相談所から性虐待の診察対応など、多岐にわたり支援を行っています。

看護師 吉田知重子さん

吉田さんが働くクリニックでは、中高生など若い女性を対象に無料の妊娠相談を行っているのですね。

特に中学生や高校生など、18歳までの方を対象に、初めての診察や相談にかかる費用は、すべて無料で行っています。妊娠したかもしれないという相談や性感染症、性に関わる相談も可能です。保険証がない場合や、ニックネームでの診察も大丈夫です。相談者の秘密を守りながら、専門のスタッフが対応しています。

あんしん母と子の産婦人科連絡協議会 事務局

プライバシーに配慮し相談しやすい環境を整えて、無料で相談が受けられるのですね。吉田さんは、幼い命が奪われてしまうことをどのようにお考えですか。

0歳0日での虐待死が、とても問題になっています。10代での妊娠が非常に多く、男性と別れたあとに妊娠が分かったとか、SNSで知り合った男性と連絡が取れないとか、性暴力被害での妊娠などです。

まずは産婦人科に

予期せぬ妊娠で悩む女性に取り組んでいる「さめじまボンディングクリニック」。院長の鮫島浩二さんが支援に取り組むきっかけになったのは、友人からの養子縁組をしたいという話でした。民法改正で1987年に特別養子縁組という制度が設けられたのと同じ時期に、友人が制度を利用して子どもを養子縁組したいという相談がありました。鮫島さんは、産婦人科のドクターとして妊娠して困っている人たちと、子どもが欲しくて一生懸命、産婦人科に通っている人たちのはざまで、考えることが多くあったといいます。

さめじまボンディングクリニック

仕事をするなかで、重要なテーマとして出てきたのが、虐待死の問題でした。産んで赤ん坊を殺してしまう、中でも生まれたその日に殺されてしまうケースもあるという事実を知ったそうです。生まれたその日というと、病院などに行かないで、自宅などで殺してしまうという現状を知り、まずは産婦人科に来てもらうことが大切だと考えました。来てもらうことができれば、生まれたその日の虐待死は防げるのではないかと考え、鮫島さんは、無料相談を行うことにしました。

鮫島浩二 院長

相談に来た人たちの思いは、どのように受け止めましたか。

相談に来る人たちは、病院に行きたくないわけではありません。行くのが怖いけれども、妊娠している状況も何とかしたいと、本当に精神的に追い詰められた状態だと思いました。行っても追い返された経験があるなど、どうしたらいいか分からないという状況にあるのです。

相談の対象となるのは主にどういう人たちですか。

中学生や高校生など10代の女性です。もちろん20代や未婚の女性も受け入れています。妊娠して困っている人たちを特定妊婦と言うのですが、特定妊婦の相談をしたいということで訪れる人もいます。

鮫島さんやクリニックの皆さんが取り組んだことで、世間の理解が変わりつつあると感じますか。

歩みは少し遅いかと思います。ただ、公的な機関や国会でも説明することがあり随分変わってきたと感じます。高校生や中学生が妊娠して退学するという問題も、文部科学省が妊娠を理由に安易に高校を退学させてはいけないと明文化しました。世間でも特別養子縁組という方法に目が向くようになり、ずいぶん社会が変わってきたと感じます。

社会全体で母親と子どもを守る

予期しない形で妊娠した女性たちが出産し、赤ちゃんが遺棄されるニュースが後を絶ちません。改めて現状をどう考えますか。

自分が産んだ赤ちゃんを殺したり遺棄したりというのは、誰もやりたいと思いません。そういう行為をせざるを得なかった、追い詰められた女性たちが、本当にしてしまった時の心理的なダメージは一生消えないと思います。そうならないよう、事前に皆で助けていかなければなりません。ただ命を守ったというだけでなく、追い込まれてしまった中高生が、また元の状態で学校に戻り、社会生活をしっかりとできるように、赤ちゃんの命を守るだけでなく、家庭の中でしっかりと育つように、私たちは2人の人生を守り、助けたいと思います。

あんしん母と子の産婦人科連絡協議会で活動する吉田さん

鮫島院長から母と子の人生を守るという話がありました。吉田さん、ふだん一緒に働いていて、改めてどう感じましたか。

命を守るだけでは生きていけません。例えば特別養子縁組も、子どもを託して終わりではなく、その後のお母さんの人生も続く中で、長期的な支援が必要だと感じています。

相談から始まり、息の長い形での支援が必要ということですね。

もともと自分では考えていなかった妊娠ですし、妊娠に至る背景としてSNSの悪い影響や性暴力被害がある場合もあります。そのため、おなかの赤ちゃんをなかなか受け入れにくく、誰かに相談することへのハードルも高くなりがちです。出産のとき産婦人科では、帝王切開に変更することが一定数あり、出血して母親と赤ちゃんの命が危ないような状況もたくさんあります。受診しないというのは、とても危ないことです。赤ちゃんの遺棄を防ぐためにも、とにかく医療機関に来て欲しいというのが私たちの思いです。

(後編はこちらから)

予期せぬ妊娠で悩んでいる場合の相談は
「さめじまボンディングクリニック」 048-580-6628
chuukousei@bonding-cl.jp (NHKサイトを離れます)
ウェブサイトはこちら (NHKサイトを離れます)
「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」 048-522-5571
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「にんしんSOS埼玉」 050-3134-3100 (16:00~23:00)
ウェブサイトはこちら (NHKサイトを離れます)

大高政史カメラマン(左) 看護師・吉田知重子さん(中) 大野済也アナウンサー(右)
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