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家にも学校にも居場所がない子どもたちに支援の手を(前編)

NHKさいたま「子どもプロジェクト」
  • 2022年05月13日

NHKさいたま放送局では、子どもたちが直面する課題や困難について毎月ラジオで特集する「子どもプロジェクト」を展開して、解決の道筋を探ります。4月のテーマは「子どもの居場所づくり」。NPO法人「さいたまユースサポートネット」代表の青砥恭さんに話を聞きました。学校にも家にも自分の居る場所がないと思っている方に知ってほしい内容です。

(ひるどき!さいたま~ず 2022年4月15日放送)

さいたまユースサポートネット代表・青砥恭さん(中央) 永野麻衣記者(左)古野晶子アナウンサー(右) 

子どもの居場所とは

子ども食堂や無料の学習支援教室など、家でも学校でもなく、子どもが居場所と思える場所のことです。NPOなどの団体が創意工夫でさまざまな形態で運営しています。埼玉県内では去年10月時点で少なくとも456か所あり、県は800か所に増やすことを目標にしています。

学校を去る貧困の子どもたち 「なんとかして居場所を」

「さいたまユースサポートネット」代表 青砥恭さん

NPO法人「さいたまユースサポートネット」の代表、青砥恭さんは、20年近く埼玉県で高校教諭を勤めた後、明治大学や埼玉大学で子どもや若者と貧困について研究しました。2011年にNPO法人を設立し、さいたま市を拠点に川越市、上尾市に、小学生から30代後半の若者までが年代に応じて通える居場所をつくりました。これまでに1万人を支援してきたといいます。

青砥恭さん
「教諭をしていた時に、毎年、高校を中途退学する生徒が埼玉県内でも3000人から5000人いて、全国では10万人近い子どもたちが学校をさまざまな理由で途中で去っていました。その背景を調べると全国的に貧困層の子どもたちが圧倒的に多く、学校を辞めたあとは、親よりもさらに貧困に沈んでいくという状況があり、この子たちの居場所をなんとしても作らなければと思ったことがNPO設立のきっかけでした」

「心が落ち着く感じでいい場所」 小学生対象の“居場所”

居場所の一つ、小学生を対象にした「あそぼっくす」は、子どもたちが放課後や夏休みなどの時間を過ごす場所で、遊んだり勉強したりしています。ひとり親や生活保護世帯など支援が必要な家庭は無料で利用することができ、希望した場合は夕食も無料で食べることができます。

1年前から毎日利用している男子小学生
「この居場所では、鬼ごっごやかくれんぼ、みんなでやれるおもしろい遊びをしています。室内だとカードゲームをやったりしています。友達もいっぱい増えたし、みんなで触れあう場所、楽しくできる場所で、心が落ち着く感じです。いつも利用していて、とてもいい場所だなと思っています」

「支援がなかったら大ごとになったかも」 孤立する親の支えも

この居場所の特徴は、スタッフが子どもだけではなく親の子育ての相談に応じるなど、親への支援にもつながっていることです。子ども3人を1人で育てている母親は、自身が病気で働けなくなり利用していました。

子ども3人が居場所を利用する母親
「毎月、お金がカツカツでどうしようと考えていると、どんどんイライラしか生まれなくなってきてしまって、自分でもおかしくなっちゃったかなと思うぐらいにヒステリーになったこともありました。常にイライラしたり、余裕がなくて子どもたちにあたったりしたことがあるんですけど、毎日そんなことになったらと想像すると怖いです。何も支援がなかったら、もしかしたら子どもに手をあげたりとか、すごい大ごとになっていたかもしれない。本当に今は安心してお任せしますという感じで、お願いしています」

安心してお任せしますという声が本当にほっとしている感じがします。安心して預けられる場所があるというだけでも相当気持ちに余裕が出ますよね。

コロナの時代もあって、孤立した親たちが増えていることが事実です。特にひとり親世帯が一番打撃を受けたと言われています。そういう子どもたちをどう支えるかというのは、親を支えるということを両方やらないと、虐待なりたいへん大きな事態につながってしまいます。

親も一緒になってサポートしていくことが大事?

それが大事になってきます。

生きづらさ感じる若者のために 高校生以上の“居場所”

青砥さんの団体が運営する居場所のうち、高校生から30代までを対象としているのが「若者自立支援ルーム」です。不登校やひきこもり、障害、貧困などで生きづらさを感じている若者向けに設けられました。さいたま市からの委託事業で、市内に住む若者が利用できます。音楽や芸術など自立に向けたステップに応じてさまざまなプログラムが用意されているほか、就労の相談にも応じています。

ここに通う17歳の男子高校生に話を聞きました。学校では人間関係に悩んでいて、2年ほど前から通っているといいます。

17歳の男子高校生
「今はスタッフと一緒に数学の勉強したり、公園でみんなで運動するプログラムなどにたまに参加していて、楽しいです。ここでは自由もあるし、個人としてみてくれるのがいいところだと思います。どうしても学校だと集団行動でみんなと一緒に同じような行動をしているけれど、学校の集団行動が苦手です。ここは、いろいろ人間関係がうまくいかない人にとってはいい場所なのかなと思います」

この居場所でのプログラムは自由に選べるものなのでしょうか?

学校とは違うので、プログラムはすべて選べるようになっています。参加しない自由もあるわけです。ここへ来て自分で本を読んでいてもいい、勉強していてもいいわけですね。それも許される場所で、ここの場所をつくった狙いは、個の自由というか人間の尊厳をどう保障するか。それができない子どもたちが苦しんでいるわけですから、人間としてまずは認められるということが大前提です。子どもたちが発達できるためにいろいろな関係性を紡ぐことができる場を、どうやって作っていくか、そのためにプログラムやイベントがあります。

話を聞いた男子高校生も学校の集団行動は苦手だけど、この居場所に来ると気持ちがやわらぐと言っていたのは、自分というものを大事にされて、個人を尊重されるからということでしょうか?

安心というのは、関係性によって認められるという意味です。豊かな関係性を常に保障していくということが、この居場所の一番大事な目的になります。

学校では居場所を感じられない子どもたちも、こういう居場所だったら自分の居場所を感じられることにつながっていくのかなと感じました。

(後編に続く)

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