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東京 青ヶ島沖 深海から“金”回収成功 なぜ青ヶ島?どんな回収法?今後は?

  • 2023年10月19日

古くから富や権力の象徴とされている「金」についてお伝えします。

東京・青ヶ島沖の深海の熱水から、高濃度の「金」を特殊なシートに吸着させて回収することに成功しました。

海洋研究開発機構などの研究グループは、深海からの回収をすぐに商業化することは難しいものの、この方法を陸上の温泉などに応用することで新たな金の採取方法となると期待しています。

(※2024年2月 訂正されたデータに基づき、記事を再公開しました)

深海から“金”回収成功

東京・青ヶ島沖の水深700メートルの深海では、270度ほどの熱水が噴き出す熱水噴出孔が見つかっていて、周辺の岩石には高濃度の金が含まれていることがわかっています。

「藻」をシート状に加工したもの

海洋研究開発機構と大手機械メーカーIHIの研究グループは、この熱水から金を回収しようと金を吸着する特殊な藻を加工したシートを開発しました。

研究グループは、2021年8月、青ヶ島沖の熱水噴出孔の周辺にこのシートを設置し、2年近く経過した2023年6月に引き揚げました。

分析の結果、シートには※最大でおよそ7ppm=1トンあたり7グラム相当の「金」が吸着していて、これは世界の主要な金山の鉱石に含まれる金の濃度のおよそ2倍にあたるということです。

さらに金だけでなく「銀」も最大で※およそ140ppmと「金」の20倍の濃度で吸着できていたことが明らかになりました。

研究グループによりますと、深海の熱水に含まれる「金」を藻のシートに吸着させて回収に成功したのは、世界で初めてだということです。

海洋研究開発機構 野崎達生 主任研究員
「想定以上の金を吸着させることに成功し安心した一方で、銀がこれほど吸着していたのは予想外で驚きだ。深海というハードルからすぐに商業化に結びつく話ではないが、この技術は温泉や下水など、熱水以外でも応用でき、新たな金の採取方法となる可能性がある」

回収のために注目したのが…温泉地の「藻」

研究グループが、金を回収するために注目したのが「ラン藻(そう)」と呼ばれる原始的な藻(も)の一種で、東北地方の限られた温泉地でしか見つかっていないものです。

開発に携わったIHIの福島康之主任研究員によりますと、熱水に溶け込んでいる「金」はおもに塩化物イオンと結合して「塩化金(えんかきん)」という化合物の形で存在していますが、この「ラン藻」を使うことで、まず「金」と「塩化物イオン」の結合がはずれるといいます。

培養された金を吸着する「藻」(横浜市)

「金」は、プラスの電気を帯びていて、「藻」はマイナスの電気を帯びているので、お互いに強く引き寄せ合うことになります。

この状態で1000度の高温で加熱すると「藻」が燃え尽きて、「金」だけを取り出せるようになるということです。

実験で「藻」に吸着した金

さらに藻を化学処理してシート状に加工したり、光を当てたりすることで金の吸着効率が上がることも明らかになっています。

福島さんによりますと、今回は「銀」も高濃度で吸着していますが、メカニズムは基本的には金と同じとみられるということです。

なぜ青ヶ島沖で?

2015年、東京大学の研究チームが東京の都心から南へ400キロにある青ヶ島沖の水深700メートルの海底から、高温の熱水が噴き出す「熱水噴出孔」を発見しました。

熱水噴出孔は、国内では、ほかにも伊豆諸島や沖縄周辺の深海でいくつも確認されていますが、青ヶ島沖の熱水噴出孔の周辺で採取された岩石からは、平均で17ppm=1トンあたり17グラム相当と世界でもトップクラスの高濃度の金が含まれていることが大きな特徴です。

金の濃度が高い理由について野崎主任研究員は「青ヶ島の熱水の温度は270度ほどと他の地域の熱水よりもやや低くこの温度が、ちょうど金が溶け出しやすく熱水が海底下の金を集める役割を果たしているのではないか」と推測していますが、それだけでは説明がつかないほど濃度が高く、まだ詳しい理由はわかっていないということです。

研究グループは、熱水に高濃度の金が含まれていることに加えて、都心から400キロとアクセスが比較的良いことから青ヶ島沖の深海で金の回収実験を行うことにしました。

商業化は?

国内の金の小売価格は、ことし8月に1グラムあたり1万円を超え最高値を更新するなど、高騰し続けています。

研究グループによりますと、今回の方法を使って水深700メートルを超える深海から金を回収するためには、1回の潜航あたりおよそ700万円の費用がかかるため、現状では採算は合わないと考えています。

一方、研究グループはすでに陸上の温泉からも同じ方法で「金」を回収することに成功したほか、今後は都市部の下水や廃鉱となった鉱山の廃水などでも金が回収できないか試験を行う予定で、将来的には藻のシートを使った方法が有効な金の回収方法になる可能性があるとしています。

また、金の採掘に、海外では水銀など有毒な化学物質を使っている地域もあり周辺の環境汚染や人体への影響が深刻な問題となっていますが、研究グループは藻のシートを使った手法はこうした課題の解決にもつながるのではないかとしています。

(※2024年2月 追記)
当初の分析では金が最大で20ppm、銀がおよそ7000ppm回収できたとしていましたが、海洋研究開発機構が2024年2月23日までに再計算した結果、金は最大で7ppm、銀はおよそ140ppmに訂正しています。

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