マイナンバーと金融機関の口座をひも付けて登録することで国の給付金などを受け取れる公金受取口座が、本人ではない家族名義の口座が登録されている実態が確認されています。背景には、マイナンバーと公金受取口座に登録する金融機関の口座の名義は照合できない仕組みがありました。どんな仕組みなのか詳しくまとめました。
マイナンバーとひも付ける公金受取口座をめぐっては、子どもの親など本人ではない家族名義の口座が登録されたケースのほか、家族ではない、無関係な別の人のマイナンバーに登録されるミスが全国で相次いで確認され、デジタル庁は、すでに登録されているおよそ5400万件を対象に総点検を行っていました。
その結果、本人ではない家族名義とみられる口座が登録されたケースがおよそ13万件確認されたということです。
また、別の人のマイナンバーに登録されたとみられるミスも748件確認されたということです。
デジタル庁のホームページのよくある質問のページには、「こどもは銀行口座を持っていません。代わりに親の口座を登録できますか」という質問に対して、「登録者本人と異なる名義の口座を公金受取口座として登録することはできません」と案内されています。
しかし、実際にはマイナンバーの登録者と違う名義の口座を公金受取口座として登録することができるのが現状です。その背景にはマイナンバーと公金受取口座に登録する金融機関の口座の名義が照合できない仕組みがあります。
マイナンバーには、氏名のふりがながふられておらず、漢字のみが登録されています。その一方で、金融機関の口座は、カタカナのふりがなのみで登録されています。このため、システム上、照合することができないのです。
子どもの親など、本人ではない家族名義の口座でも、公金受取口座としてマイナンバーにひも付けることが可能になっています。
デジタル庁は、2025年6月までのマイナンバーに関する改正法の施行にあわせてシステムの改修を行うとしています。
それまでの間は、マイナンバーの氏名の漢字と金融機関の口座の名義のふりがなを照合する新たなシステムを年内をめどに開発し、実用化を検討するとしています。
国の給付金などを受け取るためにマイナンバーにひも付けられた公金受取口座に本人ではない家族名義の口座が登録されていたことについては、ことし2月ごろに税金の還付申告の手続きで明らかになっていたということです。
デジタル庁は国税庁から連絡を受けて、調べた結果、本人ではない家族名義の口座が登録されたケースを2件、把握したということですが、具体的な対応はとっていませんでした。
河野大臣は7日、「対象となっている方におかれては、お手間をおかけして申し訳ございません。万一、ご自身でない口座が登録されている場合はすみやかにご自身の口座に変更していただきたい」と述べました。
神奈川県平塚市の福祉総務課では、去年11月に初めて給付金の支給でマイナンバーの公金受取口座を利用しました。このときは、住民基本台帳にある申請者の氏名と、マイナンバーにひも付いた公金受取口座の名義が一致していることを1件ずつ確認し、誤った給付が起こらないようチェック体制を整えました。その結果、誤った給付は無かったということです。
しかし、今回、公金受取口座に家族名義とみられる口座がおよそ13万件確認された問題を受けて、ことし7月以降に支給する給付金については、課の判断として公金受取口座の利用を停止することを決めたということです。
理由については、市民の不安感に配慮して停止の判断をしたとしています。
給付については従来どおり、対象の世帯に通知書を郵送したうえで、振り込み先の金融機関の口座に変更がないかの確認や、新たに口座を登録する場合は名義や口座番号などを用紙に記入したうえで返信をしてもらう手続きを取ることにしています。
平塚市福祉総務課 脇田篤史課長代理
「エラー自体は今までのチェック体制で十分防げると認識していますが、13万人も確認されているという情報があり、市民も非常に不安に思っていると思う。そこに配慮して、効率性以上に安全性を配慮する方針に改めました」
平塚市では、児童手当の支給を担当しているこども家庭課もありますが、公金受取口座を利用するかどうかは課ごとに判断しているとしています。
公金受取口座をめぐり、本人ではない家族名義とみられる口座が登録されたケースがおよそ13万件確認されたことについて、マイナンバー制度に詳しい中央大学の宮下紘教授に聞きました。
〇13万件確認について
13万件は決して小さな数ではない。システム上、本人以外の口座をはじくものを運用当初から設定していくべきで、そのように制度設計しておけば防ぐことができたのではないか。
〇相次ぐトラブルについて
ポイント事業による性急なカードの交付が1つのきっかけとなって自治体の現場などでは人の手による対応が十分できなかったり、システム上の十分なチェック期間がなかったりしたことが原因ではないか。
〇求められる対応は
デジタル化を推進するという方向性は国民の多くが支持するところだと思うが、問題はその進め方であまりに急速に進めたために人やシステムの対応が行われていないのが現状だ。一度、立ち止まって、現在行われている制度が、ミスがないかどうかを総点検し、その上で安全点検してからデジタル化を進めていくべきだ。
「公金受取口座」の問題のほか、マイナンバーカードをめぐっては、トラブルが相次いで明らかになっています。
【一体化保険証に他人の情報】(2日時点)
マイナンバーカードと一体化した健康保険証に他人の情報が登録されていたケースが、7312件確認されています。厚生労働省は、主な原因は、健康保険を運営する組合による入力ミスだったとして、これまでの入力作業でルールを守っていたか点検を要請しています。
【証明書発行サービスで誤発行】(2日時点)
マイナンバーカードを使い、コンビニで住民票の写しや戸籍証明書などを交付するサービスでは、別人の証明書が発行されるトラブルが、あわせて14件起きました。
システム設定の誤りで住所変更が反映されず、古い証明書が発行される不具合が1日、新たに9件確認されています。
すでに登録を抹消した印鑑登録証明書が誤って発行されるトラブルも、13件確認されています。
【マイナポイント誤付与】(2日時点)
マイナンバーカードの取得などでポイントがつく「マイナポイント」が、誤って他人に付与されたケースが97の自治体で、あわせて121件確認され、デジタル庁では本人確認を厳格に行うシステムに改修を進めています。
【希望しないのに保険証と一体化】
さらに、厚生労働省は5日、本人が希望していないにもかかわらず、健康保険証とマイナンバーカードが一体化されていたケースが5件確認されていることを明らかにしました。
政府はマイナンバーカードをめぐって、不安や疑問がある時には「マイナンバー総合フリーダイヤル」 0120-95-0178 に問い合わせてほしいと呼びかけています。
「マイナンバー総合フリーダイヤル」
0120-95-0178
政府は6日、デジタル社会推進会議を開き、デジタル社会の実現に向けた重点計画の改定案をとりまとめました。このうち、マイナンバーカードのトラブルに対しては既存のデータやシステムを総点検し、その後も定期的に点検することを明記しました。
また、人為的なミスを減らすためにシステムのデジタル化を進めて人が担う作業を減らすとしています。