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千葉 八街 児童死傷事故1年 危険な通学路の対策どこまで進んだ

  • 2022年6月28日

千葉県八街市で下校中の児童5人が飲酒運転のトラックにはねられて死傷した事故から28日で1年。全国の通学路の点検で対策が必要とされた危険な箇所7万6000か所のうち、対策が講じられたのは6割となっています。
事故の後、飲酒運転の対策や、通学路の安全対策はどこまで進んだのか、取材しました。

千葉 八街 通学路事故から1年

去年6月28日、千葉県八街市で飲酒運転のトラックが下校中の小学生の列に突っ込み児童2人が死亡、3人が大けがをしました。

裁判では危険運転致死傷の罪に問われたトラックの運転手にことし3月、懲役14年の判決が言い渡され、その後、確定しています。

事故から1年となる28日、現場では朝から花を手向けたり、手を合わせたりする人たちの姿が見られました。

子どものころ亡くなった児童と同じ小学校に通っていたという30代の女性は「今もショックでご両親の気持ちを考えると悲しく、きょうは花を手向けにきました。子どもを持つ親として飲酒運転だけはやめてもらいたいです」と話していました。

八街市内では事故のあと通学路の見守り活動が強化されていて、28日も警察や学校、それに地域の人たちが交通量の多い交差点などで登校を見守っていました。

遺族や被害者家族は

事故の遺族や被害者の家族はコメントを発表しました。

「1年という時間が長いのか短いのか、我々にはわかりません。ただ、今回の現場でさえ速度違反をする車を見かけます。本当につらく、怒りさえ湧いてきてしまいます。今回のようなことは二度と起きてはならないことです。そのために、当たり前のことですが、交通ルールを守ってほしい」

飲酒運転再発防止の対策は

事故以降、飲酒運転の防止に向けた取り組みが進められてきました。

国は事故を起こしたトラックが運送業者ではなく自社の荷物を運ぶ「白ナンバー」の車だったことから、「白ナンバー」の車を5台以上を運用する事業者に対しても、ことし4月から新たに乗務前のアルコール検査の実施を求め、10月からは専用の検知器を使った検査も義務付けます。

通学路の安全対策 危険箇所の対策6割

通学路の対策はどうなっているのか?
全国の通学路の点検で対策が必要とされた危険な箇所7万6000か所のうち、対策が講じられたのは6割となっています。

事故から1年となる28日、文部科学省と国土交通省、警察庁が公立小学校の通学路の安全対策の進捗を公表しました。

それによりますと、事故を受けた通学路の全国点検で対策が必要とされた危険な箇所7万6404か所のうち、ことし3月までに対策が講じられたのは59%でした。

具体的には、見守り活動や安全教育など学校や教育委員会によるソフト対策が必要なおよそ4万か所については89%で、信号機の設置や速度規制など警察による対策が必要なおよそ1万7000か所については67%で対策が講じられています。

一方、歩道の整備や防護柵の設置など道路管理者によるハード対策が必要なおよそ4万か所については、土地の取得など調整に時間がかかっているなどの理由から、42%となっています。

都道府県別にみると、徳島県では85%、北海道が79%となった一方、富山県では25%、佐賀県が31%となっています。事故が起きた千葉県は67%でした。

関東地方の状況は次の通りとなっています。

国は来年度末までにガードレールや歩道の設置などのハード対策と、警察による速度規制やボランティアによる見守りなどの対策を組み合わせて安全性を高める計画です。

対策進める千葉市

緊急点検で対策が必要とされた箇所が県内で最も多かった千葉市です。
549か所のうち、2学期が始まる前に99%が対策を終える見込みです。国が3年間での完了を目指す中、およそ1年でほぼ達成することになります。

速さの理由は、対策の中身にあります。
千葉市中央区にある通学路。30キロの速度規制はありますが、歩道がないため、車と接触する恐れがあると指摘され、地元から対策の要望が上がっていました。

そこで市が取ったのは、路肩に緑の線を引くことでした。歩く場所を強調することで歩行者とドライバーの双方に注意を促し、事故を抑制する効果があるとされています。

千葉市土木保全課 角田英樹課長補佐
「すぐに効果を出すということで速効対策をメインにやっています」

今回の対策では歩道やガードレールの設置など時間がかかるメニューは検討しなかったといます。

千葉市がまとめた対策。ハード対策として採用したのは主に緑の線を引く「路肩カラー化」で、全体の8割に上ります。

一方、歩道の新設は以前から検討されていた2か所のみ。スピードを優先させた結果だといいます。

千葉市教育委員会 栗和田耕学事課長
「できることから行っていくというような姿勢で取り組んできました。ハード面の整備となると時間がかかるところもあります。(今後は)そこに注力して取り組んでまいりたい」

問われる自治体の本気度

井上アナ

歩道などの対策は今後、取り組んでいくということでしたが、今回は短期的なものにとどまるということなんですね。

櫻井記者

一言でいえば、すぐにできるメニューを揃えたというのが実態だと思います。

ただ、こうした対応は千葉市に限ったものではありません。千葉県内の自治体で歩道の設置を対策に盛り込んだケースは4000か所のうち300あまりと1割未満です。多くが白線の引き直しや看板の補修などで対策を終了させ、中には、学校での交通安全教育で対策を済ませたとするケースもありました。

自治体への取材では計画を作れば成果を求められるため、達成できるメニューを並べざるを得ないという声も聞かれました。

 

対策は時間も予算もかかるためそう簡単ではないと分かりますが、例えば、路面に段差を設けてスピードを抑える「ハンプ」と呼ばれる対策、比較的簡易にできるとして国も薦めていましたが、こうした対策はどうなったのでしょうか。

 

このハンプを導入した自治体、千葉県内では1つもありませんでした。
理由を尋ねると、道路の利便性が下がるため周辺住民の合意を得る必要があるが、時間がかかるなどとして複数の自治体が敬遠していたことがわかりました。

こうした状況について通学路の安全対策に詳しい専門家はスピードは大切だとしながらも、次のように指摘しています。

埼玉大学大学院 久保田尚教授
「自治体は『対策を早期に済ませる』ことを重視するあまり、『通学路を安全にする』という本来の目的がおろそかになっているのではないか。住民との合意形成の難しさはわかるが、対策を見送る理由にしてはならず、ハンプなどの導入に積極的に取り組むべきだ」

 

通学路の対策は利害関係者が多く、一朝一夕に解決する問題ではありませんが、問われているのは自治体の本気度だと思います。子どもを守るためにもより踏み込んだ姿勢が求められていると思います。

 
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