新学期が始まり、新しいランドセルを背負った子どもたちの姿が微笑ましいこの時期。
心配なのが登下校中の通学路での事故です。
人口が密集し、狭い道路が多い首都圏。安全対策も一筋縄にいかない場合もあります。
そんななか、狭い道路でも効果的だと注目される「ハンプ(=こぶ)」の効果について取材しました。 (首都圏局/記者 直井良介)
NHKでは去年、危険な通学路に関する情報を募集し取材を進めてきました。そのなかで多く寄せられた声があります。
なぜ設置できないのか?その事情を行政に取材すると多くの自治体で理由は共通していました。
・道幅が狭く、ガードレールを設置すると車がすれ違えなくなってしまう。
・ガードレールや歩道を作るためには道路の拡幅が必要だが住宅が建ち並んでいて難しい。
道が狭い首都圏で有効な対策はないのか?
こうした場所でも効果的な対策として今、注目されている「ハンプ」の効果を検証しました。
「ハンプ」は日本語に訳すと「こぶ」。
その名の通り道路上に「こぶ」を作って交通安全につなげようというものです。
どのようなものなのか、愛知県阿久比町にある交通安全設備の製造メーカーを訪ねました。
担当者にこの企業のテストコースに設置されたハンプを案内してもらいました。
近くで見てみると、こぶ、という言葉のイメージよりはなだらかな印象です。
2メートルで緩やかにのぼって、最も高いところで10センチの高さ。
その先は2メートルで緩やかに下り、元の路面の高さに戻ります。この程度の高さで本当に効果があるのか。車でさまざまな速度で走行して体験することにしました。
20キロ
短い坂を登っているという感覚はありますが、音や衝撃など気になる感じはありませんでした。
40キロ
多くの生活道路の制限速度30キロを超える速度です。登って降りるその瞬間、ジェットコースターを落ちるときに感じる違和感を感じました。
時速50キロで走行したときの様子(動画)
50キロ
生活道路の制限速度を大幅に超える50キロでは、浮遊感とともに車内に「ドン」という音が響き、体が衝撃を感じました。
不快な感じは40キロよりも強くなり、二度とは経験したくないと感じました。
交通安全対策製品メーカー 翠昭博技術部長
「ドライバーが感じる不快感が速度抑制につながると思います。速度抑制につながれば重大事故につながりにくく、安全につながるのではないかと思っています」
ハンプについては、国土交通省などが実際の道路で実証実験を行っています。
このうち、去年9月から行われていた東京 港区での実証実験の結果がこの4月、まとまりました。
ハンプの設置によって車の速度をどこまで落とすことができたのか。
死亡事故の確率が急激に高まり始める時速30キロを超える車の割合を見てみます。
下のグラフで、オレンジと赤色で示した部分です。
時速30キロ以上の車
ハンプ設置前:約6割
ハンプ設置後:約3割
重大な事故を起こすおそれが高いとされる速度の車が半減したことになります。
さらに、ハンプの直前ではおよそ20キロにまで減速が確認されました。
速度の低下に伴って、道の横断者に道を譲る車も増え、実証実験を行った国土交通省東京国道事務所は、速度の低減に効果があったと結論づけました。
こうした結果について通学路の安全対策に詳しい埼玉大学大学院の久保田尚教授は、道幅が狭い場所でも設置できる対策だとして導入の検討を呼びかけています。
埼玉大学大学院 久保田尚教授
「4メートルとか4メートル未満の生活道路がたくさんある。そういうところではおそらくハンプ以外の対策は取りにくいと思う。そのような場所ではまずハンプを普通の選択肢として検討していただきたい」
一方で、設置を進めるにあたっての課題について久保田教授は「住民との合意形成」だといいます。
港区で、実証実験のあと行われたアンケートでは継続すべきだと回答した人が多かった一方、一部の住民からは騒音が気になったという声もあがりました。
国道事務所では、騒音の計測もしていて、荷物を積んだ大型車がスピードを出して通った時に大きな音が出たとみられるということです。
ただ、期間を通しての騒音の平均でみると、ハンプによって車の速度が抑えられたことでむしろ下がったということです。
久保田教授はこうしたデータを住民に示すとともに設置方法を工夫することが大切だとしています。
埼玉大学大学院 久保田尚教授
「騒音のデータなどについて客観的に住民に示して疑問に答えていくことが大切です。また、ハンプを生活道路への出入り口と、その途中に複数設置するのが効果的です。そうすれば生活道路に入る段階でまずスピードが抑えられ、結果として途中に設置されたハンプを通るときの騒音は小さくなると考えられます。スピード、騒音ともに地域全体で低減を図れるのです」
国はハンプの設置を進めようと港区の実証実験で使われたような仮設のハンプを自治体向けに無償で貸し出す取り組みを行っています。
まずは設置してもらい、各自治体で具体的な効果や課題を検証してもらいたいとしています。
今回の取材を通して、投稿のあった通学路を回りましたが、ほとんどの通学路は行政も危険性を認識し、ドライバーへの注意呼びかけの看板などを設置していました。
こうしたことで、多くの車が注意深く通る一方で、児童の横を猛スピードで走り抜ける車もいて、看板でドライバー一人一人の安全運転の意識に呼びかけることの限界も感じました。
さらに多くの人に働きかけるために、ハンプのように、物理的手段で速度を落とさせる構造物の普及が、重要だと感じました。