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増える「施設みとり」 穏やかな最期を迎えるために

人生のしまい方 あなたは
  • 2024年04月10日

「人生のしまい方」について考えるシリーズ。いま、「人生の最期を迎える場所」として、「高齢者施設」の重要性が高まっています。国の調査によりますと、高齢者施設で亡くなる人はこの10年でおよそ3倍近くに。最期を迎える場所として、施設には何が求められる時代になっているのでしょうか。そして、私たち自身が考えなくてはいけないことは?

「人生の最後の時期」、「終活」、「お墓」など、みなさんの抱えている悩みやご意見、体験談などをもとに取材を進めていきます。投稿はこちらまでお寄せください。

(千葉放送局記者・浅井優奈)

千葉県印西市にある特別養護老人ホーム「印旛晴山苑」です。日常生活に介護が必要なお年寄りおよそ90人が生活しています。

施設では、自宅に近い温かな環境で過ごしてもらうことを掲げています。

根本とよさん

ことし1月、この施設で89歳で亡くなった根本とよさんです。その2か月ほど前から、食事が難しくなり、呼吸の状態も悪くなってきて、みとりの段階に入ることになりました。

娘の桜井昌代さんです。施設と話し合い、穏やかなみとりができるよう、最後の期間の過ごし方を決めました。

桜井昌代さん

食べ物は本当に無理のないところで食べられるだけ好きなものをというのと、出来る限り清潔にして送ってあげたいと。

栄養バランスを重視した食事から、本人の好きだったものを食べてもらうケアに転換。好物の果物などを食べやすい形にして食べてもらいました。

根本とよさんのケアの資料

清潔にして見送りたいという家族の希望に沿って、亡くなる2日前まで入浴も行いました。最後は家族がかけつけて、住み慣れた部屋で息をひきとったといいます。

桜井昌代さん

本当に希望通りにしていただいて、母もすごく満足だったと思います。(亡くなる直前は)「昔こうだったね」とか母に話しかけたりして、穏やかな時間を過ごすことができました。

根本さんのケアにあたった施設のスタッフにとっても、充実感のあるみとりになったといいます。

介護福祉士
櫻庭奈津子さん

看護師と栄養士とご家族と、どんなふうにしたら快適に過ごせるかを常にみんなで話し合ってサポートしてきました。「最期の瞬間」というのはとても大切なんですけれども、それまでにある生活というものがもっと大切かなと思っています。

施設では毎年20人ほどが亡くなりますが、以前は、息を引き取る場面に直面することに対しては不安も大きかったといいます。

介護福祉士
櫻庭奈津子さん

昔は不安が大きかったので、「できれば当たりたくない、その場に直面したくない」と思った時期もありました。

不安のひとつは、休日や夜間に入所者が亡くなったとき、医師に来てもらえる体制がないことでした。そこで施設では去年から、充実したみとりができるよう、体制を強化しました。

施設長
馬場正実さん
 

(職員が)死に対する恐れを抱えながらみとりを行っていたので、その不安を解消して、しっかりとしたみとりをしようと考えました。

施設では、スタッフの不安をなくそうと、研修やアンケートを実施。

職員へのアンケート

さらに、みとりの段階でどのようなケアを行うか、考え方や方法を明文化しました。

施設で定めた「看取りマニュアル」

入所者が息を引き取った際にどこに連絡すればよいかなどを、利用者別にフローチャートを作って掲示。医師に連絡すれば休日や夜間にも来てもらえるよう、医療機関との連携を強化しました。

施設では、高齢者のついの住みかとして、みとりの体制を整えることは今後欠かせないと考えています。

施設長
馬場正実さん

ご本人も家族の方も、最期のときを迎えるときに、一緒にいたいという気持ちがあると思います。ただ、ライフスタイルとか住宅事情とか様々な理由で自宅ではそれがかなえられないのであれば、次の「我が家」というものを作る必要があり、それがこういった施設だと思います。スタッフが家族に成り代わって最期までみるというのが、施設でのみとりだと思っています。

価値観を大切に1人1人考えて

施設での体制を整えることに加えもうひとつ大切なのは、最後の時期をどのように送りたいのか、本人や家族で希望を話し合っておくことです。高齢者施設でのみとりに詳しい佐久大学の島田千穂教授に聞きました。

島田千穂 教授

人生の最終段階では、生活や医療について選択を迫られるケースが多くあります。例えば食事がとれなくなったときに、胃に直接栄養を送りこむ「胃ろう」をするかどうかや、点滴をするのかどうかなど。選択によっては過ごす場所が変わってくることもあります。

こうした選択の場面では、治療という視点だけでなく、“生き方の価値観”や“望む生活”を軸にした選択が重要になってきます。

どこでどのような生活を送りたいのか、最後は本人が意思を表すのが難しくなるケースも多いので、早いうちから1人1人が考えて、話し合ってみてほしいと思います。

取材後記

今回取材した中で印象的だったのは、施設の中が家族のような温かい雰囲気に包まれていたことです。施設長の「家族に代わって」という言葉にもあるように、自宅に近い雰囲気で、専門のケアを受けながら安心して過ごせる環境は、施設ならではだと感じました。また、施設側も対応や取り組みがどんどん進んでいることも驚きました。自分の人生の最後をどこでどのように過ごすのか。1人1人の価値観によって、望む生活は違うかと思いますし、答えは簡単に決められるものでもありませんが、様々な選択肢をもって考えていきたいと思いました。

 

「首都圏ネットワーク」での放送の内容は、「NHKプラス」で4月17日(水)午後7時までご覧いただけます。

  • 浅井 優奈

    千葉放送局 記者

    浅井 優奈

    2018年入局。函館・札幌での勤務を経て千葉局へ。医療や福祉の取材を続けています。

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