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「市原青年矯正センター」 全国初 知的・発達障害の少年刑務所 出所者への支援は 千葉

  • 2023年10月27日

知的障害・発達障害などがある若年受刑者を対象とした、全国初の刑務所「市原青年矯正センター」が、市原市に設置されました。

障害による生きづらさ、就労など生活の難しさがある中、刑務所では、少年院の矯正プログラムを活用しながら社会復帰の支援が行われます。

どのような支援が必要とされ、どのような支援が行われるのか取材しました。

(千葉放送局記者・木原規衣)

「若年障害者の刑務所」って?

「市原青年矯正センター」に収容されるのは、16歳以上26歳未満で、知的障害情緒障害発達障害などがある男性の受刑者で、犯罪傾向が進んでいない刑期5年以下の人などが対象となります。

個室が並ぶ廊下

心理カウンセリングや医師の診断などを元に、犯罪傾向や障害の特徴などを踏まえて、社会に適応するための訓練が必要と認められた人が収容されます。

収容定員は72人で、数百人が入所する全国の他の刑務所と比べると最小規模です。

「半開放」の刑務所?

ここの大きな特徴の1つは、社会に近い環境にするため、施設の中では自由に出入りができる「半開放寮」であることです。

個室内

部屋に鍵はなく、施設の中は自由に行き来できます。受刑者自身に時間管理をしてもらい、掃除や洗濯なども役割分担しながら、基礎的な生活力を身につけます。

鍵付きの部屋で生活し、職員の指示や号令がある一般的な「閉鎖寮」の刑務所とは異なります。

食事をとるホール

特色は出所後の“就労支援”

なぜ「半開放」の形式をとったのか。それは、出所後の社会復帰の支援を重視しているからです。

ここでは、少年院を経験した刑務官や教育専門官のほか、社会福祉士の資格を持つ福祉専門官などを配置。障害者手帳の取得などの福祉的支援や、就労に向けたキャリアカウンセリングなどが行われるということです。

ICT教材を使った指導も

また、受刑者ごとに担当の刑務官と教育専門官がつく、複数担任制を敷きます。障害の特性や生活状況に応じて、個別の面接やきめ細やかな指導を行うことが狙いです。

面接室

さらに、通常の刑務所で行う「刑務作業」だけでなく、少年院の矯正プログラムを活用した特別な指導も行われます。

自分の障害について理解を深める指導や、対人関係の円滑化、認知機能の向上、さらには周囲の人に相談する力まで身につけます。

元は「少年院」を改修

実はこの建物、2023年3月まで「市原学園」という少年院でした。

半年程度の短期で入所する少年への矯正教育を行ってきましたが、少年院の入所者数の減少に伴って閉院。改修を行って、新たな役割の「刑務所」として設置されることになりました。

こうした刑務所を設置した背景にあるのが、2021年の成人年齢引き下げの議論です。

おおむね26歳未満の若年受刑者に対しても、少年院での矯正教育の手法やノウハウなどを活用し、社会生活に必要な生活習慣などを身につける必要性が示されました。

市原青年矯正センター 合田直之センター長

発達障害、知的障害の人の中には、自分の特性や弱点、長所をきちんと理解していなかったり、他の人との関係性や距離がつかめなかったり、場にそぐわない発言や行動をしてしまったりという人もいます。

このため、一人一人の状況を見ながら、個別に対応していく必要があります。

受刑者に対する処遇として、非常に手厚いという意見もあるかもしれません。しかし、結果的に社会に戻ったあと、再犯に至らないようにするためには必要なことだと思います。

ここでの対応が、社会全体のためになるという認識を持って矯正などにあたっていきたいです。

出所者の苦悩 障害ゆえの生きづらさとは

知的障害や発達障害のある出所者は、どのような支援を必要としているのか。その当事者に話を聞きました。

千葉県内に住む40代の男性は、20代の頃に罪を犯し、10年以上服役していました。

子どもの頃からこだわりが強く、他の人の気持ちを理解したり、自分の気持ちを伝えたりすることが苦手だったという男性。学校でも人間関係がうまくいかず、長い間、家にひきこもっていたといいます。

人間関係で悩んでいたことが多かったです。自分がそういうつもりで言ったわけじゃないのに、突き放したようにとられてしまったりとか、「感情がないんじゃないの」と言われたこともありました。

不潔さに敏感になって、トイレに行くと10回以上手を洗うことを繰り返していたので、自宅のトイレ以外には行けなくなり、一般的な生活を送ることができなくなりました。

入所していた刑務所では、周囲と同じことができず、逸脱すると問題行動だと捉えられ、刑務官から懲罰を受けることもあったといいます。しかし、そうした原因は分からないままでした。

そして、出所後に受診した病院で、初めて「発達障害」の診断を受けました。いまは精神障害の障害者手帳を取得しています。

ふに落ちたというか、納得しました。早く気付いて病院に行って治療しておけばよかったです。

障害との付き合い方を知っていれば、何か変わったかもしれないし、解決する道があったのではないかと、後悔しました。

出所後、社会復帰に向けては苦労の連続でした。最初は携帯電話がなければ住まいを探すこともできず、途方に暮れたといいます。

特に思ったのは、刑務所では何も教えてくれない、ということです。私は一般常識が身についていないので、外にでてからどうやって生きていけばいいのか、全く知らない状態で出所するという現実が怖かったです。

いま思えば、刑務所の中で教えてくれることがあれば、その不安はなかったのかもしれません。

県の支援センターの後押しを受けて、携帯電話の契約、銀行口座の開設、住まい探しなどを行いました。現在は、就労支援を行っている事業所に通っているということです。

もっと早く、さまざまな形での支援が受けて障害をコントロールできるようになっていれば、もっと平穏に生きることができたのではないかと思っています。

出所後を支援する人は

この男性の支援者にも話を聞きました。

「千葉県地域生活定着支援センター」では、刑務所を出所した高齢者や障害がある人、住まいや身よりがない人などに対し、宿泊場所の提供や障害者手帳の申請などの支援を行っています。

千葉県地域生活定着支援センター 岸恵子 センター長

子どもの時から何らかの障害があったのに、診断名がないまま、うまく仕事になじめなかったり、人間関係でつまずいてしまったりして、刑務所に入ることなったのではと感じる人と、たくさん出会っています。

出所後に仕事が見つからず、結果的に刑務所に戻ってしまうことを繰り返す人も多いと思います。

障害があることを自覚していない人は多く、センターでは、さまざまな支援を受けやすくするため、障害者手帳の取得を勧めているといいます。

自分の障害の特性を理解すれば、障害者雇用での就職や、配慮のある職場への就労につながるケースも多いためです。障害に早く気付いて支援につなげるためにも、刑務所に入所中から、福祉の視点で支援を始めることが必要だといいます。

 

千葉県地域生活定着支援センター 岸恵子 センター長

障害者といってもさまざまな障害があるので、その人の特性にあったプログラムを組み、出所後も見据えた就労訓練を行って社会につないでいくべきだと思います。

刑務所では、悪いことしたんだから、刑罰として長く入ってればいいという意見もありますが、できるだけ早く社会の中に戻し、社会の中で更生していく、適応していくほうが、より反省を深められるんじゃないかなと思います。

特に若い受刑者は、早めに社会に適応していく取り組みが、とても大事だと思います。

(2023年10月28日に表現の一部を修正しました)

  • 木原規衣

    千葉放送局記者

    木原規衣

    2018年入局。県政キャップ。

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