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EV走行中に“ワイヤレス充電” 柏の葉 公道上で全国初の実証実験 電気自動車の普及へ 千葉

  • 2023年10月03日

電気自動車=EVの普及に向けた課題、「充電」

その解決策の1つとして期待される、「走行中のワイヤレス充電」の全国初の実証実験が、千葉・柏の葉で始まりました。

一般車両も通る公道上での実証実験。どのような仕組みなのか。実用化はいつごろになるのか。脱炭素社会に向けて焦点となる、EV普及のカギを探りました。

(千葉放送局東葛支局記者・間瀬有麻奈)

“全国初”実証実験スタート

10月3日に柏の葉で行われた記念式典。

柏市の太田和美市長や、実証実験を行う研究チームの東京大学の藤本博志教授などが出席しました。

披露されたのは、2台の電気自動車です。公道上で走行中のワイヤレス充電(走行中充電)の実証実験を行います。公道上での実証実験は、全国初の取り組みです。

太田市長

今回の技術は、将来的にはバッテリーの軽量化にもつながるということで、今後の実用化に期待したいです。

車道上に充電スポットが

実証実験が行われるのは、つくばエクスプレス・柏の葉キャンパス駅前の交差点です。

車道上が白く塗られているところが、ワイヤレスの充電スポットです。受電装置を備えた実験車両が上を通過すると、充電することができます。

藤本教授

スポットの上に1秒間停止すると、車が約100メートル走行できるだけの充電ができます。10秒間の停止で約1キロ分の充電が可能です。

どんな仕組みで充電?

「走行中充電」は、「電磁誘導」という仕組みを活用して行われます。

色の変わった道路の地下には、写真のような導線の「コイル」が埋め込まれています。

ここに電気を流すと、地表には「磁場」が発生します。この上に、EVの車体の下に取り付けられた別のコイルが重なると、磁場が変化する影響で電流が誘導されます。

車体の下に取り付けられたコイル

これは、磁場の変化によってコイルに電流が発生する「電磁誘導」という現象です。

導線が直接つながっていなくても電気を送ることができ、スマートフォンのワイヤレス充電も同じ仕組みを活用しています。

東大キャンパスの構内での実験

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 藤本博志 教授

「走行中充電」が広がれば、充電設備がなくてもEVを購入しやすくなると思います。車のバッテリーは小型で済むようになり、車体の軽量化や小型化、車を製造する際に排出される二酸化炭素の削減にもつながります。

課題は、コイルを道路に埋め込むのにコストや手間がかかることです。まずは、毎日決まったルートを走行するバスからの導入を検討するのが現実的だと思います。

将来的に、多くの人が「走行中充電」のサービスを享受できるようにしたいです。

藤本博志 教授

公道上での実証実験は2025年3月まで行われ、一般車両とともに走行しながらどの程度充電が行えるのか、データを取得します。

充電状況を示すモニター

藤本教授は、今回の実験の次の段階として、柏の葉キャンパスと駅前を結ぶバス路線で実験を行いたいとしています。

この技術の実用化は、2030年ごろを目指しているということです。

EV導入のバス会社は「期待」

EVのバス(電気バス)を導入している事業者は、「走行中充電」をどのように受け止めているのか。

「平和交通」(千葉市)は、2021年、EVの大型バス2台と小型バス1台を導入。千葉市内の路線バスで運行しています。

この会社では、EVのバスを導入したことで、次のメリットがあったといいます。

① 電気代と比べて高騰している軽油(エンジン車の燃料)を使わなくて済むようになった

② 車両のエンジンオイルの交換などが不要になり、整備が簡単になった

その結果、運行にかかるコストは、大型バスで約3割、小型バスで約6割まで削減できたということです。

「平和交通」
藤原浩隆さん

電気バス導入によるコスト削減の効果は、期待以上でした。

 一方で、課題はやはり「充電」です。

車庫に3台分の充電スタンドを設け、毎日の運行が終わったあと、それぞれ充電しています。しかし、バッテリーの容量が大きいため、フル充電には6時間以上かかるといいます。

会社では今後、EVのバスの台数を増やしたい考えですが、現状では台数の分だけスタンドも増設する必要があり、ネックになっているということです。

「平和交通」
藤原浩隆さん

走行中のワイヤレス充電が実用化されれば、走行距離が長い成田空港などを結ぶ路線でも導入しやすくなるので、期待しています。

充電の頻度が減ったり、電池切れの心配がなくなったりするので、メリットは大きいです。

専門家「海外が開発で先行」

Electreon社のホームページより

「走行中充電」の開発は、EVの普及が広がる欧米を中心に、加速しています。

イスラエルの企業「Electreon」社は、実用化を見据え、長時間の走行や高速走行といったさまざまな条件で実証を進めています。

「走行中充電」を行いながら100時間連続走行を実現
(Electreon社のホームページより)

電気自動車の充電事情に詳しい専門家は、実用化に向けた競争が、世界全体で激しくなっていると分析しています。

三菱総合研究所 モビリティ戦略グループ 高橋香織 主任研究員

公道上での実験は、大学や企業がやりたくても、道路管理者や行政との連携が必要になります。今回は理解してもらって実証ができるということで、非常に意義があり、得られるデータはとても貴重だと思います。

国内では、柏市のほか、2025年の大阪・関西万博でも、会場でバスの充電の実証実験が行われる予定で、今回の実証実験は日本が技術開発を進める上で、大きな一歩になります。

世界では、装置の規格や周波数などの国際標準化に向けた議論が始まっています。今後は、日本だけがガラパゴス化しないようなものづくりも必要だと思います。

高橋香織 主任研究員

どうなるEVの充電問題

EVの普及に向けて、大きな課題となっている充電の問題。

充電設備の規格を巡って国際的な競争が行われたほか、充電しなくてもバッテリーを交換できる形式のEVが広がりを見せるなど、EVを取り巻く状況は大きく変化しつつあります。

海外に遅れながらも始まった、公道上での「ワイヤレス充電」の実験。その行方に、注目が集まっています。

  • 間瀬有麻奈

    千葉放送局 東葛支局 記者

    間瀬有麻奈

    車の運転が大好きなので、走行中充電の実現が待ち遠しいです。実現したらEVの購入を検討したいです。

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