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“カメムシ注意報”発令中! なぜ大量発生? 米農家に被害 千葉

  • 2023年08月25日

米どころの千葉県で今年も始まった新米の収穫。しかし、今年はある異変が起きています。収穫した新米には黒い斑点が…。

原因は何なのか。その背景を探っていくと、近年の異常な暑さの影響も見えてきました。

(千葉放送局記者 坂本譲・木原規衣)

田んぼの“異変”

黄金色に実った稲穂を刈り取るコンバイン。千葉県大多喜町のコメ農家、江澤正久さんの田んぼです。「コシヒカリ」「ふさおとめ」など、毎年あわせて3.6トンほどを生産しています。

しかし、今年収穫した米の一部には、黒く変色した粒が目立ちます。江澤さんの田んぼでは、収穫を終えたうち1割弱が、値があまりつかない「くず米」になっているというのです。

米粒が黒くなった原因。それは…。

「カメムシ」です。

「クモヘリカメムシ」「イネカメムシ」など「斑点米カメムシ類」は、成長途中の稲のもみから養分を吸い取って黒く変色させ、米の品質を低下させます。法律に基づく「有害動物」にも指定されています。

クモヘリカメムシ(左)とイネカメムシ(右)
(写真提供:千葉県)

今年、この「斑点米カメムシ類」が大量に発生しているというのです。

江澤さん

農薬をまいたとたん、カメムシの「噴水」が見えました。50年近く農業を営んできて、これだけカメムシが多いのは経験がありません。

育てた新米が被害を受けてしまい、とてもつらいです。年々カメムシが増えているように感じますし、農薬の値上げもあり、生産者は気をもんでいます。

カメムシ“大量発生” 各地で

千葉県農林総合研究センターは、7月中旬、県内31か所の田んぼで「斑点米カメムシ類」の生息数調査を行いました。

その結果、1か所あたりで見つかった数は平年の約2倍に上り、少なくともこの10年で最も多くなりました。

カメムシの調査結果
(千葉県のホームページより)

千葉県は8月1日、農家に早めの対応を促すため「病害虫発生予察注意報」を発出。県内で「注意報」が出されるのは2020年以来です。

熊谷知事

県として毎月、発生状況や予防策について発表しているので、農家の方々には、気象状況の変化に対応しながら、千葉県の農産物をいい状態で生産してもらいたい。

そして、カメムシの大量発生は全国でも。

農林水産省によりますと、8月24日現在、「注意報」が出されているのは、千葉のほか埼玉、宮城、大分などあわせて14県に上ります。

「注意報」が出されている14県

なぜ“大量発生” 原因は?

カメムシの大量発生の理由は何なのか。

カメムシの生態に詳しい「農研機構 東北農業研究センター」の田渕研 上級研究員に話を聞きました。

木原記者

斑点米カメムシ類が大量発生したのはなぜなのでしょうか?

田渕上級研究員

▼今年は初夏から気温の高い日が続いて活動が活発だったこと
▼冬の気温が十分に下がらないことから多くの個体が冬を越したことなどが考えられます。

地球温暖化などによる気温の上昇が、大量発生の原因と考えられます。

木原記者

近年、これまでにない暑さが続いていますが、こうした気温上昇がカメムシに影響を与えているということですか?

田渕上級研究員

一般的に、気温が高くなると昆虫の繁殖サイクルが早まります。

「斑点米カメムシ類」は、春から夏にかけて繁殖を繰り返して増えますので、高い気温によって1年間の世代交代が増えたと思われます。

また、これまでに寒くて分布できなかった地域に分布を広げている例も報告されています。

木原記者

被害を防ぐには、どのような対策が有効なのでしょうか?

田渕上級研究員

「斑点米カメムシ類」は、イネ科の植物をエサにしています。夏になると、休耕地や雑草地など多く茂った場所が住みかとなり、増加する原因となります。

対策としては、
▼稲の穂が出始める1週間前までに、田んぼの周辺で雑草が伸びないよう草刈りや除草剤の散布を行うことと、
▼稲がある程度成長したあとは、殺虫剤を使うことも効果的です。

カメムシ類による被害額は年間に国内で20~30億円程度とされていて、毎年かなりの被害が出ています。

カメムシの種類などによって殺虫剤の種類、散布時期、散布する回数が異なりますので、各自治体の情報や指導を参考にして防除していただきたいと思います。

被害に悩む農家は…

カメムシの被害が深刻な米農家の江澤さん。今年も例年通り、7月中旬に雑草の除草や薬剤の散布などの対策を取っていました。しかし…。

江澤さん

今年は気温の高さもあって稲の成長が早かったんです。

このため対策の効果が不十分で、夏になると田んぼのあちこちでカメムシが発生してしまいました。

今後、さらに気温が上昇すれば、対策が追いつかなくなるのではないかと懸念しています。

江澤さん

これだけ気温が高い状況は、これまでにありませんでした。

稲の成長の早さも変わりつつあり、対策をとる時期も考え直さなければと思っています。

取材後記

カメムシと言えば「臭い」という印象が強かったのですが、気温の高さが原因で、これほどまで大量に発生し、農業にも影響を与えているということに驚きました。

農家の取材中も感じた、うだるような「暑さ」。農家ではカメムシだけでなく、高温によってコメが痛むといった被害も出ているとのことでした。

記録的な暑さが続く中、効果的な対策を考え直す時期なのかもしれません。(坂本譲)

  • 坂本譲

    千葉放送局記者

    坂本譲

    2020年入局。事件・司法に加え、遊軍を担当。カメムシの思い出は、座るときに気付かずお尻で潰してしまい、1日中臭いに悩まされたことです。

  • 木原規衣

    千葉放送局記者

    木原規衣

    2018年入局。8月から千葉県に赴任し、現在は県政担当。

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