米どころの千葉県で今年も始まった新米の収穫。しかし、今年はある異変が起きています。収穫した新米には黒い斑点が…。
原因は何なのか。その背景を探っていくと、近年の異常な暑さの影響も見えてきました。
(千葉放送局記者 坂本譲・木原規衣)
黄金色に実った稲穂を刈り取るコンバイン。千葉県大多喜町のコメ農家、江澤正久さんの田んぼです。「コシヒカリ」「ふさおとめ」など、毎年あわせて3.6トンほどを生産しています。
しかし、今年収穫した米の一部には、黒く変色した粒が目立ちます。江澤さんの田んぼでは、収穫を終えたうち1割弱が、値があまりつかない「くず米」になっているというのです。
米粒が黒くなった原因。それは…。
「カメムシ」です。
「クモヘリカメムシ」「イネカメムシ」など「斑点米カメムシ類」は、成長途中の稲のもみから養分を吸い取って黒く変色させ、米の品質を低下させます。法律に基づく「有害動物」にも指定されています。
今年、この「斑点米カメムシ類」が大量に発生しているというのです。
農薬をまいたとたん、カメムシの「噴水」が見えました。50年近く農業を営んできて、これだけカメムシが多いのは経験がありません。
育てた新米が被害を受けてしまい、とてもつらいです。年々カメムシが増えているように感じますし、農薬の値上げもあり、生産者は気をもんでいます。
千葉県農林総合研究センターは、7月中旬、県内31か所の田んぼで「斑点米カメムシ類」の生息数調査を行いました。
その結果、1か所あたりで見つかった数は平年の約2倍に上り、少なくともこの10年で最も多くなりました。
千葉県は8月1日、農家に早めの対応を促すため「病害虫発生予察注意報」を発出。県内で「注意報」が出されるのは2020年以来です。
県として毎月、発生状況や予防策について発表しているので、農家の方々には、気象状況の変化に対応しながら、千葉県の農産物をいい状態で生産してもらいたい。
そして、カメムシの大量発生は全国でも。
農林水産省によりますと、8月24日現在、「注意報」が出されているのは、千葉のほか埼玉、宮城、大分などあわせて14県に上ります。
カメムシの大量発生の理由は何なのか。
カメムシの生態に詳しい「農研機構 東北農業研究センター」の田渕研 上級研究員に話を聞きました。
斑点米カメムシ類が大量発生したのはなぜなのでしょうか?
▼今年は初夏から気温の高い日が続いて活動が活発だったこと
▼冬の気温が十分に下がらないことから多くの個体が冬を越したことなどが考えられます。
地球温暖化などによる気温の上昇が、大量発生の原因と考えられます。
近年、これまでにない暑さが続いていますが、こうした気温上昇がカメムシに影響を与えているということですか?
一般的に、気温が高くなると昆虫の繁殖サイクルが早まります。
「斑点米カメムシ類」は、春から夏にかけて繁殖を繰り返して増えますので、高い気温によって1年間の世代交代が増えたと思われます。
また、これまでに寒くて分布できなかった地域に分布を広げている例も報告されています。
被害を防ぐには、どのような対策が有効なのでしょうか?
「斑点米カメムシ類」は、イネ科の植物をエサにしています。夏になると、休耕地や雑草地など多く茂った場所が住みかとなり、増加する原因となります。
対策としては、
▼稲の穂が出始める1週間前までに、田んぼの周辺で雑草が伸びないよう草刈りや除草剤の散布を行うことと、
▼稲がある程度成長したあとは、殺虫剤を使うことも効果的です。
カメムシ類による被害額は年間に国内で20~30億円程度とされていて、毎年かなりの被害が出ています。
カメムシの種類などによって殺虫剤の種類、散布時期、散布する回数が異なりますので、各自治体の情報や指導を参考にして防除していただきたいと思います。
カメムシの被害が深刻な米農家の江澤さん。今年も例年通り、7月中旬に雑草の除草や薬剤の散布などの対策を取っていました。しかし…。
今年は気温の高さもあって稲の成長が早かったんです。
このため対策の効果が不十分で、夏になると田んぼのあちこちでカメムシが発生してしまいました。
今後、さらに気温が上昇すれば、対策が追いつかなくなるのではないかと懸念しています。
これだけ気温が高い状況は、これまでにありませんでした。
稲の成長の早さも変わりつつあり、対策をとる時期も考え直さなければと思っています。
カメムシと言えば「臭い」という印象が強かったのですが、気温の高さが原因で、これほどまで大量に発生し、農業にも影響を与えているということに驚きました。
農家の取材中も感じた、うだるような「暑さ」。農家ではカメムシだけでなく、高温によってコメが痛むといった被害も出ているとのことでした。
記録的な暑さが続く中、効果的な対策を考え直す時期なのかもしれません。(坂本譲)