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夏の猛暑で梨に被害「新高」8割が出荷できず 9月で梨シーズン終了も 千葉 市川

  • 2023年09月29日

千葉県が誇る秋の味覚「梨」。今夏の猛暑で異変が起きています。

一大産地の市川市では、最盛期を迎えた品種「新高」に、実が焼ける被害が多数確認されています。市内の収穫量の約8割、少なくとも3億円分が通常出荷できず、直売所では、9月中に今年の営業販売を終えるところも。

去年、多くの梨がひょうの被害を受けた千葉県。今年は記録的な猛暑が梨を襲いました。猛暑の要因についても、専門家に聞きました。

(千葉放送局記者・金子ひとみ、渡辺佑捺)

「新高」 8割出荷できず

千葉県が栽培面積・生産量・産出額ともに全国トップの梨。

一大産地で200軒ほどの梨農家がある市川市では、毎年9月下旬~10月は「新高」という品種の出荷が最盛期を迎えます。

虫よけ袋は手作業で取り付け

「新高」は、梨の品種のうち、最も遅く収穫されるものの1つ。実が丸く大きいことから、彼岸の供え物や贈り物として人気が高い品種です。

しかし、ことしは夏の間、猛暑日が続いて強い日ざしにさらされ、比較的暑さに弱い「新高」は、
実の表面が黒く変色して傷む「日焼け」の被害を多く受けているというのです。

○囲いが「日焼け」部分

出荷できない状態になっているのは、市川市全体の収穫量の約8割。少なくとも3億円分に上るということです。

日に焼けた部分は変色して実が柔らかくなる

JAいちかわ果樹部会 荒井一昭 部会長

ここまで被害がひどいとは思わず、こんな経験は、40年梨を作っていて、初めてのことです。栽培方法を工夫しても対応できない状況で、来年以降もこの暑さが続くならぞっとします。

「秋の味覚」9月で終了も

収穫期が最後の方になる「新高」が大きな被害を受けたことで、地元の梨農家の中には、例年より早く9月中に直売所での営業・販売を終えるところも出てきています。

梨農家

例年は10月中頃まで営業しているのですが、今年は9月末で終了しました。

今年は記憶の中でも最も暑い夏で、「新高」の9割が廃棄になってしまいました。ここまで廃棄数が多かったのは初めてです。来年からは「新高」を作れないんじゃないか、とも思っています。

被害の梨 割安で加工品へ

9月下旬、地元のJAの施設には、生産者たちが出荷できない状態の梨を次々と運び込んでいました。

ジュースや缶詰などの加工品向けとして、割安な価格で菓子メーカーなどに買い取ってもらっているということです。

JAいちかわ果樹部会 荒井一昭 部会長

暑さ、かなり手強いです。梨は落葉果樹なので、冬は休眠しなくてはならないのですが、暖冬だと、十分に休眠できなくて、花の咲き方がバラバラになるなど成長に影響が出るので心配です。

記録的な暑さ 残暑も記録的

今夏は、関東甲信で38度以上の危険な暑さが連日、観測されるなど、記録的な高温となりました。

関東甲信の今年6~8月の夏の平均気温は、平年と比べると1.8度高くなり、統計開始以来、最も暑い夏となりました。

9月に入ってからも厳しい暑さが続いています。きのうも日中は晴れて日ざしが照りつけ、各地で気温が上がりました。

甲府市では、きのう日中の最高気温が35.4度に達するなど、気象庁が統計を取り始めてから、関東甲信では最も遅い猛暑日となりました。

また、東京の都心では33.2度と、今年90日目の真夏日となり、年間の最多日数を更新しました。

猛暑 温暖化なければ“0%”

記録的な暑さの要因は何なのか。

東京大学大気海洋研究所の今田由紀子准教授の研究グループは、「イベント・アトリビューション」という手法を使って分析を行いました。

今田准教授の研究室(今年8月)

「イベント・アトリビューション」は、さまざまな気象条件のシミュレーションをコンピューター上で繰り返し行い、特定の気象状況の発生する確率を調べるものです。

分析した期間は、7月23日~8月10日。この期間では、関東各地で38度や39度といった危険な暑さが続きました。

まず、この時期の猛暑がどの程度起こりやすいものだったのか、シミュレーションを100回にわたって行って分析しました。

その結果、確率にして1.69%約60年に1度起きるような「まれ」な現象だと分かりました。

今田准教授

ジェット気流の蛇行や台風の進路が日本の南だったことなどの要因が重なり、非常に低確率な現象が引き起こされたとみられます。

続いて、仮に地球温暖化が進んでいなかった場合の気候も100回にわたってシミュレーションし、温暖化がどの程度影響していたのかも調べました。

すると、これほどの暑さになる確率は0%という結果に。今年の夏の異常な暑さは、地球温暖化がなければ起こりえないことが確認できたということです。

今田准教授

今年の猛暑は「まれ」な気象現象でしたが、地球温暖化がなければ、たとえ偶然が重なったとしても、発生しえないことが分かりました。

温暖化が進めば、命に関わるような猛暑のリスクはより高まるので、対策を進めなければなりません。

また、特定の現象に関するシミュレーション結果の公表には、これまで数か月以上かかっていましたが、今回は1か月余りで速やかに公表しました。

今田准教授

異常気象を経験した直後に、地球温暖化の影響を証明できたことで、少しでも温暖化への問題意識を高められればと思います。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局記者

    金子ひとみ

    この夏は、「涼しい遊び場」探しにいそしみました。

  • 渡辺佑捺

    千葉放送局記者

    渡辺佑捺

    この夏は、SNSで調査して、暑さ対策グッズを取りそろえました。

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