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千葉 富里で「鬼ごっこ」を予算に! 子どもたちの体力向上を

  • 2023年06月07日
鬼になっているのは富里市公式マスコットキャラクターの「とみちゃん」です

遊びの王様「鬼ごっこ」。鬼になって追いかけたり、鬼に追いかけられて逃げ回ったり、幼いころに楽しんで遊んだ方も多いのではないでしょうか。
千葉県富里市は、その「鬼ごっこ」に予算を計上して、保育所や幼稚園などに本格的に取り入れることになりました。
なぜ鬼ごっこに予算を?取材しました。

(千葉放送局 間瀬有麻奈)

「鬼ごっこ」に期待するわけは・・・

5月末、富里市内のこども園で、子どもたちが鬼ごっこで楽しく遊ぶ声が響き渡りました。
夢中になって走り回り、汗を流す子どもたちに混ざっていたのは、鬼ごっこのプロ、一般社団法人「鬼ごっこ協会」の講師たちです。

鬼ごっこに夢中になって走り回る子どもたち

この「鬼ごっこ」の事業に、富里市は今年度予算で約40万円を計上しました。その理由は、市内の子どもたちの体力が、県平均よりも多くで下回っていることがわかったからです。
毎年行われている子どもの体力テストでは、小学校6年生と中学校3年生の数値が、県平均よりも下回る種目が多くなっています。
令和4年度の最新のデータでは、小学6年生の男女ともに8種目中7種目で県平均を下回りました。中学3年生も同様で、男子は8種目中7種目、女性は8種目中5種目で、県の平均を下回りました。

青色が県平均を下回った種目の数値(富里市提供データより作成)

体力テストにおける体力低下の傾向は、4年前の2019年ごろからみられるといいます。それに加えて、この3年間はコロナ禍で、子どもたちが外で遊ぶ機会がさらに減少しました。こうしたことから、子どもたちが自然に体を動かす機会を増やして、体力や運動機能の向上を図ろうと、市が目を付けたのが「鬼ごっこ」です。特に、運動機能が発達する幼少期を対象に、市内の保育所、幼稚園、こども園で、鬼ごっこの専門家から、遊び方やゲーム性のあるルールを学び、普段の遊びのなかで取り入れていくことにしたのです。

体力向上のための「鬼ごっこ」とは

この日、こども園での研修に参加したのは4歳~6歳の園児およそ50人と先生たち。市内のほかの園からも、保育士や幼稚園の先生などが10人ほど、見学に来ていました。子どもたちは、ふだん遊んでいるような、追いかけたり、逃げたりするだけではない、ゲーム性のある鬼ごっこを学びました。

4歳児の年中クラスで行ったのは「ライン鬼」、「田んぼ」、「宝集め鬼」の3つです。
(※レベル判断は記者の主観です)

①ライン鬼(レベル★★)
ルール:ひかれたラインの上に複数の鬼がいて、鬼にタッチされないようにその間をかいくぐりながら、ゴールを目指す。
運動機能などへの効果:走るスピードの向上

ライン鬼で遊ぶ子どもたち 黄色いシャツの講師が鬼 
間瀬記者

子どもたちは、数メートル先のゴールを目指して、左右にステップを踏んでフェイントをかけながらゴールを目指して全力疾走していました。鬼を突破できない子がいると、先生が手を引いて一緒に走りました。講師によると、鬼がいることでモチベーション上がり、普通の徒競走よりも早く走ることができる子もいるそうです。

田んぼ(レベル★★)
ルール:ライン鬼と似ていますが、漢字の「田」を書いた線の上に複数の鬼がいて、鬼にタッチされないようにその間をかいくぐりながら、1周してゴールを目指す。
運動機能などへの効果:俊敏性の向上

間瀬記者

子どもたちは、左右のステップを駆使して鬼をかわし、ゴールを目指していました。右回りをやったあとは、左回りもやっていました。子どもたちはみんな、どうすれば鬼に捕まらないのか、体をひねって動かしたり体勢を低くしたり、それぞれ考えながら、頑張っていました。

宝集め鬼(レベル★★★★)
ルール:複数のチームに分かれ、宝に見立てた品物を、一定数集めると勝ち。宝は、中心部の決められた場所にあるほか、ほかのチームが奪った宝をさらに取りに行くこともできる。
運動機能などへの効果:どこの宝を取れば良いか決める、瞬時の判断力の向上

宝集め鬼 中心の「宝」を取りに行くだけでなく他チームが奪った宝を狙うこともできる
間瀬記者

この日は子どもたちが4チームに分かれ、宝を3つ集めると勝ちというルールでした。中心の場所だけでなく、ほかのチームが獲得した宝を狙うこともでき、どこから宝をとれば勝てるか、子どもたちは自分で考えながら走っていました。最初は初めてのルールにとまどっていましたが、それぞれのチームに先生がついてフォローし、子どもたちはすぐに慣れていきました。宝をとると喜んで飛び上がる子もいれば、宝をとれなくて悔しくて泣き出す子もいて、みんな懸命に取り組んでいました。

年長組はゲーム性がさらにアップ!

5歳児のクラスはレベルアップした鬼ごっこで遊びました。「レンジ鬼」、「ことろことろ」、「スポーツ鬼」の3種類です。(※レベル判断は記者の主観です)

レンジ鬼(レベル★★★)
ルール:氷鬼の派生版。鬼にタッチされるとその場から動けなくなり、固まる。2人1組になって両手を組んで、体に通してあげると、固まった体がレンジのように解凍され、動けるようになる。
運動機能などへの効果:体力の向上、協力する力

間瀬記者

鬼は講師が務めました。通常の氷鬼では、固まった子を1人がタッチすれば再び動けるようになりますが、このレンジ鬼は2人で解凍してあげないといけません。子どもたちは、鬼につかまらないよう逃げるだけではなく、固まった子を解凍させるために動き、大きな声で「こっちきて!」と仲間を呼んで協力を促す姿も見られました。どの子も休むことなく、コートの中を精一杯動き回っていました。

左:【レンジ鬼】固まった子を解凍  右:【ことろことろ】一番後ろの子を鬼から守る

ことろことろ(レベル★★★)
ルール:鬼が1人と、肩を組んで一列になった子どもとに分かれて対決する。一番後ろにいる子がタッチされないよう、鬼から守ったら勝ち。
運動機能などへの効果:左右に足を動かすトレーニングになる。

間瀬記者

これは日本で最も古い鬼ごっこの形式と言われているそうです。鬼と対峙する人は「親」として、一番後ろにいる子どもを守る役割を担います。この日は、10秒間という決められた時間で行われ、肩を組んだ子どもたちは、列をくずさないように一緒に左右に動いて守り、鬼になった子どもは、左右に揺さぶりをかけながら、子どもをタッチしようと動いていました。

スポーツ鬼ごっこ(レベル★★★★★)
ルール:チーム対抗で、敵陣の奥にある宝に見立てた品物を取り合う。自陣に入ってきた敵は、タッチすればアウトにできる。
運動機能などへの効果:体力、判断力、コミュニケーション力などの向上。

間瀬記者

鬼ごっこ協会考案のスポーツ鬼ごっこは、大会も開かれるほどゲーム性が満載です。開始前には、子どもたちが、敵陣に宝を取りに行く攻めの役割を担うか、自陣で宝を守る役割を担うか、作戦会議も行いました。最初はみんなが「宝を取りに行く」と攻めを希望しましたが、そうすると宝を取られてしまうと先生がアドバイスをすると、状況を理解して「じゃあ僕は守る!」などと、自発的に守りの役割に回る子どもたちが出てきました。
ゲームが始まると、攻めの子どもたちは、敵陣の宝のもとに全速力で走っていき、捕まらないよう相手の死角を狙い、守りの子どもたちは、手を大きく広げて左右に体を動かしながら、宝を必死に守っていました。

左:宝をとりに走って攻める子ども 右:宝を守る子ども
5歳の女の子

スポーツ鬼ごっこで宝を守るところが楽しかった。

5歳の女の子

初めてやる鬼ごっこがいっぱいで楽しかった

6歳の男の子

レンジ鬼でいっぱい走って楽しかった

園長先生

子どたちの元気に遊ぶ姿をみることができました。これからも毎日ある外遊びの時間で取り入れていこうと思いますが、子どもたちが自然と鬼ごっこをやり始めるのではないかと思います。始まらないときには先生たちできっかけづくりもしていきたいです。

「鬼ごっこ協会」の羽崎貴雄理事は、ゲーム性のある鬼ごっこの特性とその効果についてこのように話しています。

「鬼ごっこ協会」羽崎貴雄 理事

普段の追いかけっこの鬼ごっこだと、実は、追いかける鬼と、逃げる子の2人しか動いておらず、あとの子どもたちは参加していない状態になりがちです。一方で、ゲーム性がある鬼ごっこでは、全員が運動量を確保できますし、運動能力のある・ないに関わらず参加できます。運動能力や体力だけでなくコミュニケーション能力や考える力、判断力も身につけることが期待できます。

見学者の反応は…

鬼ごっこの研修の最後には、他の園から見学に来ていた保育士たちへのフィードバックも行われました。今後は、それぞれの園で、園の子どもたちの年齢に合わせて、行う鬼ごっこの種類や時間を決めてやっていくことになるため、真剣に講師に質問していました。

見学者からの質問
「ゲーム性ある鬼ごっこは、ルールを無限に広げていけるということですが、やはり既存のルールはしっかり入れた上で広げていくのが良いのでしょうか?」

講師の回答
「いきなりルールを変えてやるのは難しいと思うので、基礎を大事にしてやっていくのが良いと思います。先生は真面目なので、ルールをきちんと守る方が多いのですが、ルールは、『間違っていても、何回かやってできればいい』というスタンスに変えていった方が良いと思います。そうしないと、知っている遊びしかできなくなってしまいます。子どもたちにとっても、良い意味のアバウトさが、知恵をどんどん開発していくことになりますし、自身で考える力が子どもたちに芽生えていくと思います」

見学者からの質問
「0歳から2歳の年少組ができる鬼ごっこはありますか?」

講師の回答
「例えば『輪』を置いて、先生が号令をかけて、子どもたちが逃げながらその輪のなかに入るなど、そのようなものでも良いんです。先生が動物のマネをして子どもたちを動かしたり、図形や線をつかったりすると、子どもたちのモチベーションも上がります。先生の話術も活用しながら、子どもたちを引き込んでいくと良いです」

保育所の保育士

見学を通して、参加しにくそうな子も、一緒にやっていくなかで雰囲気を知ることで、楽しいからやってみようかな、と変わっていく姿が見られました。これから子どもたちと一緒に楽しめたらなと思いました。

幼稚園の先生

いまの子どもたちは、コロナ禍で、お互いに関わりづらい状況があったと思うので、園でやるのはとても意味があるなと思いました。

効果も検証へ

富里市では、こうした鬼ごっこを市内のすべての保育所、幼稚園、こども園などで今後、取り入れていく予定です。そして、年間を通して体力測定を実施して、子どもたちの体力向上に、こうした鬼ごっこの効果があるか、その検証も行っていくということです。
 

富里市 藤田明美 健康福祉部長

コロナ禍で、3年以上外で遊ぶ機会を失ってしまったお子さんたちもたくさんいらっしゃると思いますので、元気に外で遊ぶきっかけを鬼ごっこで作りたいと思っています。ゲーム性のある『鬼ごっこ』では体力だけでなく、空間認知能力や人と人との繋がりなど、非常に多くのことを学べますし、きょうの研修で、お子さん自身が、知識がなくても楽しく遊べるというのを実感できました。鬼ごっこを通してお子さんたちが元気になり、まち全体が活気づくことも期待したいです。

  • 間瀬有麻奈

    千葉放送局 記者

    間瀬有麻奈

    昨年富里市を担当。好きな鬼ごっこは「ケイドロ」。

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