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コロナ禍の病院運営 千葉大学病院が医療機関向け人材養成研修

  • 2022年11月22日

「第8波」に入ったともいわれる新型コロナウイルス。この3年弱、千葉県内の新型コロナ対応をけん引してきた千葉大学医学部附属病院で、コロナ禍での病院運営をテーマにした研修が開かれました。丸一日で最新情報の習得から高機能シミュレーターを使った実習まで盛りだくさんの内容で、取材者としても勉強になることばかりでした。

(千葉放送局記者 金子ひとみ)

「半年かけて構想・準備」

11月17日、午前9時、千葉大学医学部附属病院で「令和4年度 新型コロナウイルス感染症対応に資する人材養成研修会」が始まりました。病院運営全体を視野に、特に管理者の目線に重点を置く構成で、最新の治療知識や技術の習得を目指します。

受講生は、県内の13病院の医師や看護師、理学療法士に薬剤師など17人。管理職が中心です。オリエンテーションから閉会式まで、プログラムは実に19にのぼりました。

猪狩英俊 感染制御部長

半年かけて構想・準備してきました。『第8波』に入ったと言われ、6人に1人ぐらいがコロナ感染を経験しているという状況です。
新型コロナは、特定の医療機関で特定の医療人がみるという時代ではなくなってくると思います。すべての医療関係者がコロナに携わる、そのための人材養成が急務だと考えています。

「対策本部」での協議内容は

荘野 総務課長(提供:千葉大学病院)

まず、荘野典文総務課長が、2020年2月に千葉大学病院内に設置した対策本部や事務部の役割について説明しました。

「対策本部」の会議風景(2020年 現在はリモートで実施/提供:千葉大学病院)

対策本部では

▼急拡大時に病棟の閉鎖をするまでにどのぐらいの準備期間が必要か
▼感染防止対策として、N95マスクはどの範囲まで必須とするか
▼手術数の制限は必要か

などを協議します。
感染拡大が進んでくると、開催頻度を2週に1回から毎週1回に増やすということです。

千葉大学病院で受け入れた入院患者は、これまでに1日あたり最大で48人。10月31日時点では4人まで減りましたが、「第8波」の直近では20人近くまで増えているという最新状況も説明されました。

千葉大病院「感染症看護精鋭チーム」

箭内看護部長のスライド(提供:千葉大学病院)

箭内博子看護部長からは、「INET」(感染症看護精鋭チーム)というチームの存在が紹介されました。

このチームの看護師は、手指衛生や防護服の着脱などの特別な研修やトレーニングを受けます。感染拡大時には、招集がかかって新型コロナ患者への対応に集中的にあたる一方、平常時には、それぞれの部署の感染症対応力を上げるための役割を果たすというシステムです。

箭内 看護部長

ふだんは、現場の最前線に立つ看護師の大変さや奮闘がメディアで取り上げられることが多いですが、『看護管理』や『マネジメント』を担う看護師もいる。裏方の仕事のポイントを伝えたいと考えました。

子どもにとってオミクロンはあなどれない

濱田洋通小児科長の話は、新型コロナの怖さを改めて感じざるを得ないものでした。

千葉大学病院の小児科では・・・
▼オミクロン株の広まりにともない、低年齢層の入院の割合が増えている
第7波では、4歳以下の入院が6割を超えていた。重症例も増え、5%ほどが重症になった。
▼症状は、発熱のほか、けいれんやおう吐による脱水症、クループと呼ばれる症状も増えている。
▼基礎疾患があった子どもが、新型コロナに感染した後、亡くなった事例もあった。
▼新型コロナの既往歴のある子どもの中に、まれに、原因不明の乳幼児の病気である「川崎病」を疑わせる病態がみられる。「MISーC」(ミスシー)とも呼ばれ、小児科医の中で、現在、重大なテーマとなっている。

濱田 小児科長

濱田小児科長「小児に関しては、オミクロンはあなどれません。治療としては、対症療法で解熱薬、鎮咳去痰薬、整腸剤を使うほか、合併症に対する治療としては抗ウイルス薬を使うことがあります。重症例を見逃さず、高次医療機関と連携して迅速に治療を開始することが重要です。ぐったりしている子が、コロナの既往歴がある場合には、『川崎病』『MIS-C』の可能性も考えることが大事です」

参加者

重症例を説明していただきましたが、後遺症はどうなのでしょうか?

濱田小児科長

MIS-Cや心筋炎は治りは良いと考えます。免疫反応で一時的に悪くなるが、適切な管理すれば戻っている人が多いという印象があります。

「自動思考に巻き込まれるな」

佐々木剛医師

精神神経科の佐々木剛医師のテーマは「職員のメンタルヘルス」。
新型コロナへの対応が長期戦となり、過緊張の環境に置かれるスタッフが多くなる中、佐々木医師からのメッセージは、「自動思考に巻き込まれるな」です。

自動思考:頭の中にひとりでに(=自動)浮かんでくる考えやイメージ(=思考)

佐々木医師のパワーポイント(提供:千葉大学病院)
佐々木医師(提供:千葉大学病院)

自動思考をどのように切り替えるかが重要です。認知行動療法では、出来事が感情を決めるのではなく、物事の捉え方・考え方(自動思考・認知)が感情を決める、しなやかな考え方(別の見方)で感情は変わりえます。

★自分の考え方のくせに気づく
★自分の考え方に巻き込まれないように
★考え方をやわらかくしよう

手指衛生やマスクの扱いも丁寧に

実習風景

感染制御部の千葉均看護師長らは、手指の消毒や防護服・N95マスクの着脱という基本かつ重要な感染防止策について丁寧にレクチャーしました。蛍光塗料材を使って、消毒し残しているところがないかなどを参加者に実感してもらっていました。

山場は「高機能シミュレーション」

気管挿管の実習

最後は、猪狩感染制御部長が「ぜひ盛り込みたかった」という高機能シミュレーターを使った集中治療室における呼吸管理の実習です。
気管挿管をする際の注意点やポイントについて、救急科の今枝太郎医師が、実践の中で伝えていきます。

今枝医師

今枝医師「患者さんが苦しがっている状態で、挿管する際、鎮静剤を使ったら一気に血圧が下がります。血圧を上げる薬を準備した上で、鎮静をかけ始めることが大事です。医療従事者の感染防止のためにチューブとチューブの間にフィルターをつけるのも忘れないように」

シミュレーターを使ってみた人たちだけでなく、見学している参加者も意見を出し合い、真剣なまなざしで臨んでいました。

理学療法士(浦安市の病院から参加)

現在、急性期でどのような管理を行っているかということや治療の効果などを知ることができたのはとても大きいです。今まで得ていた知識と最新の知見が違う部分もあったので、きょう得たことを持ち帰って、自院の対応を修正するなど早速いかしたいです。

看護師(市川市の病院から参加)

病棟で陽性者が急に出ると、対応に追われてスタッフが不安に巻き込まれます。最新の正しい知識を知りたいという思いから参加しました。コロナ対応が長期になり、スタッフのストレスもたまりがちです。メンタルヘルスの講義を聞きながら、こちらからスタッフに積極的に声かけしなくてはならないな、などと考えていました。

看護師(市川市の病院から参加)

リハビリ病院から来ているのですが、急性期病院の最前線の話はとても勉強になりましたし、千葉大学病院の対応も少しずつ変わってきていることがわかりました。ここでの最新の対応を、私の病棟にも取り入れることができたらと思っています。

猪狩英俊 感染制御部長

千葉大学病院 猪狩英俊 感染制御部長
「いろんな病院のいろんな職種の方が参加してくれました。きょうの内容を100%持って帰るのは難しいかもしれませんが、きょう学んだことを『即戦力』として地域の医療に生かしてもらえたらうれしいです。
新型コロナは、診療の最前線スタッフだけではなく、後方支援スタッフや管理職など、組織をあげて対応していくことになります。新型コロナ対応もまもなく3年となり、千葉大病院では対応のノウハウも積み上がってきています。独自の方法ではなく、標準的な方法があるのです。それらをしっかり共有し、医療の標準化に今後も務めていきたいです」

取材後記

千葉大学病院をずっと追ってきていた同僚の櫻井記者から、「この研修、絶対取材したほうがいいです。僕もすごく聞きたいのですが、行けないので、金子さんお願いします」とのプッシュを受けて、今回の取材に携わりました。本当に濃密な内容で、参加しているみなさん同様、聞き漏らすまいと必死でした。
一番、心に残ったのは、インタビューでの猪狩感染制御部長のことばでした。「すべての医療関係者がコロナに携わる時代」「コロナの対応は独自の方法があるのではなく、標準的な対応方法やノウハウがあり、今回のようなコミュニケーションを通してしっかり提供していきたい」――、千葉県の地域医療全体を考えている大学病院の医師だからこその思いなのだろうなあと感じました。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局

    金子ひとみ

    千葉県政担当を経て、遊軍。マイナス方向に陥りがちな自動思考をプラスに変えたいと日々思っています。

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