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市川市長「新規事業を凍結」方針、あなたはどう思いますか?

  • 2022年11月02日

「原則として新規・拡大事業の実施を凍結する」。
オフレコでの発言でもなければ、部外秘資料の文言でもありません。市川市長が記者たちを前にした懇談会で発言して、配付した資料に載っていた文言です。
驚きました。自治体取材の中で初めて聞くフレーズでした。
ネットでこのニュースを目にした人たちもびっくりしたのだと思います。賛否両論、たくさんのつぶやきがありました。
この方針がいいことなのか、悪いことなのか、私にはまだ分かりません。というより、今、答えは出ないのかもしれません。
「新型コロナ」「物価高」「円安」……懐事情が苦しいのは家庭だけでなく自治体も同じ。
限られた財源をどう使うのか、首長の腕の見せどころです。
市川市長の発言と周囲の反応を改めて紹介します。あなたはこの方針、どう思いますか?

(千葉放送局記者 金子ひとみ)

「新規・拡大事業を凍結いたします」

2022年10月31日 午前11時。市川市役所5階の委員会室。
市川市の田中甲市長は、記者会見の冒頭、このように述べました。

田中市長

財政不足の額が年々拡大していくことが予測されております。新規・拡大事業の凍結では、優先的に進める事業や取り組まざるを得ない事業を除き、原則として新規・拡大事業の実施を凍結いたします。真に必要なサービスは維持しつつ、新たな取り組みを着実に進めるための財源を確保することで、将来にわたって安定した持続可能な財政運営を行ってまいります。

田中市長はこのほかにも、来年度の当初予算編成で各部局に今年度より5%減額を求める「マイナスシーリング」を設定すること、ゴミ処理場の建て替えと斎場の再整備以外の公共施設の更新や整備は優先順位を定めて実施時期を見直すこと、原則として10億円を超える新たな土地の購入は制限する方針を明らかにしました。
2023年度から2025年度までの3年間、この方針を継続。そして、年間50億円以上の財源捻出を目指すということでした。

そもそも市川市の財政事情ってどうなの?

市川市は、人口約49万人の千葉県第4位の都市。東京に隣接し、都内に通勤・通学する「千葉都民」と呼ばれる人たちが多く住んでいます。

国からの地方交付税を受けずに財政運営ができる自治体、いわゆる不交付団体です。市川市が不交付団体となるのは2015年度以降、8年連続です(今年度、千葉県内の不交付団体は、54市町村のうち、8市町のみ)。

千葉県が9月末に公表した資料を見ると、昨年度末の市川市の財政調整基金、いわゆる貯金の残高は261億円で、千葉県内54市町村で最も額が大きくなっています。
また市によると、税収は、今年度当初は875億円でしたが、来年度は894億円まで増えると推計されています。
市川市は税収が多い「裕福な」自治体だというのが大半の人の認識ではないでしょうか。その自治体のトップが、「新規事業をやらない」と言うのです。なぜなのでしょう?

「自分の新事業着手は難しい」

当選時の田中市長

ことし3月の選挙で、現職だった村越祐民氏らを破って初当選した田中市長にとって、2023年度の予算は、初めての当初予算編成です。
1期目序盤、独自の事業で「田中カラー」を出したいであろう時期に真逆とも取れる発言でした。田中市長が会見で語ったこの方針を打ち出した理由、主な2つをあげてみます。

①先送りされてきた課題などへの対応:ゴミ処理場の建て替えや斎場の再整備など、生活基盤に関わる重要課題が先送りされてきた。また、8月に打ち出した給食費無償化にも取り組む必要。これらの課題に優先的に対応しなくてはならず、ここがレールに乗って動き出した後でないと、自分の新しい事業に着手することは難しい。
②厳しい財政見通し:10年後には、財政不足額が216億円となり、現在の財政調整基金を使い切る見通し。過去4年間にむだづかいもあったと感じている。持続可能な運営のための修正を行う必要がある。

市川市クリーンセンター

ゴミ処理場の建て替えには総額400億円以上、斎場の再整備には総額80億円程度がかかると見込まれます。また、給食費の無償化では毎年17億7000万円程度を市が負担する見通しです。
現時点で財政状況に大きな問題が生じているわけではないものの、今後はどうなるかわからない。老朽化した大型施設の更新が重なるうえ、物価高で資材も高騰する中、市債の借り入れが増え、中長期的な財政状況が危険なものとなることを懸念しての措置だというのです。

「給食費無償化の方針は、市民の理解を得られるという確信」

10月31日の記者会見では学校給食費無償化をめぐるやりとりも出ました。

記者

夏に打ち出した給食費無償化、やると言ったことをすぐに止めるのは難しいと思いますが、例えば有限(期限付き)でやるなど、給食費無償化の政策を見直すと、今後、財政も変わってくるような気がしますが、いかがですか?

田中市長

それは有言実行で進めていきたいというふうに思います。(Q.そこは変えないで?)変えません。

記者

こういった厳しい状況の中でも、給食費無償化という毎年費用のかかることを実行される、それが間違っていないんだという思いをあらためて教えてください。

田中市長

市の財政状況でなく一般の市民の生活環境じたいも厳しくなっている。そういう中だからこそ子どもたちのことを社会全体、市川市全体で守っていく。
子どもたちの未来・将来ということに、しっかりとそこに財源をあてることで市民の理解を得られるという確信がありますので、子どもたちの成長する過程を社会が守っていくんだという制度として、この学校給食費の無償化は市川市が率先してやることだと考えています。それは決してぶれることがない。

会見の終盤、田中市長はこう述べました。

田中市長

(向こう)3年間ピシッとしめて、むだづかいをしない体制を作れば、市民からいただく税収を基本とした一般会計、特別会計の帳尻を合わせていくことができる。そこに持ち込みたいんです。持続可能な市川市の財政状況を作っていくために、今のままでダメだ。ここは1回引き締めていかないと、そういう状況にはならない。
10年後にはたいへんな負債ができる。財政調整基金も底をついてマイナスになる。市川市が過去やってきたことの延長上に持続可能は難しい。しっかりと締めた市の体制を作っていきたいと思っています。

ネットでは賛否両論

実は、この方針は10月31日に初めて打ち出されたものではありません。その2週間前の10月17日、記者たちとの懇談の場で何の前触れもなく市長自身から資料が配られ、明らかにされたものでした。

17日と翌18日、この方針のニュースを伝えたNHKのツイッターには、たくさんのコメントが寄せられました。

「あらら」「なんと!」「φ(..)メモメモ」「斎場とごみ焼却場がどうなるかだな」

「良いな」「先ずはこういう処だよ。自治体の金の使い方ってのは」「新規事業より既存事業の改良、老朽化した必要不可欠なインフラに投資するの賛成」「すばらしい、名誉ある撤退だ」

「えっ、本気で言ってるの?w給食無償化なんてそこまでしてやることじゃないでしょ??」「市川市民はこれで良いのかな?」「市の発展が止まってしまうんじゃないかと不安」「バランス必要なのに」

驚き、賛成、反対……多岐にわたっていました。

県内他自治体の首長にも聞いてみた

この市川市・田中市長の方針、県内のほかの首長たちはどのように受け止めたのでしょうか。
 

A市長

自分自身は「この事業をします、新たに取り組みます」ということを訴えて票をいただいて当選しているので、田中市長と同じことはできないです。田中市長は「新たな事業打ち出し」ではなく「緊縮財政を取るという姿勢」を市民へのPR手段として選ぶ政治的判断をしたということなのでしょう。市民サービスのレベルが低下しないのならば、そういう方法もひとつ「あり」なのかなとは思いました。正直、市町村の財政って今本当に厳しくて、国や県からの補助がつく事業じゃないと自由にできないんじゃないかと感じています。

B市長

うちも予算編成は拡大ではなく、フラット、もしくは縮小の路線をすでに取っています。その路線で予算を組んでいることは隠しているわけではないけど、こちらからあえて記者会見で強調するようなことはしていません。市民にとってマイナスの話に聞こえるだろうし、重点事業以外は放棄する、と受け止められる可能性もある。発信方法は自由ですが、会見でわざわざ発表するというのがプラスなのか、正直、疑問です。

C市長

新型コロナ、ウクライナ侵攻、輸入資源の価格高騰、人口減少に災害の頻発……これらが同時複合的に起こり、財政は本当に厳しい。光熱費の高騰などは補正(予算)を組まないと太刀打ちできない状況です。
ただ、市川市さんのような不交付団体が今回のような決断をするとは驚きました。うちからすると、市川市さんは、自由度が大きいと見えるし、うらやましくてしかたないんですが、そこがマイナスシーリングだなんて、強い危機感があるんでしょうね。

D市長

子育て強化や斎場建て替えなど市民生活に直結するものにお金を使って、その他は切り詰めるという方針だと読み取りました。市川市は財政力指数も高いのに、就任早々、思い切った決断をしたと思います。ただ、市民のコンセンサスを取るのは本当に難しいです。自分に関係するところで予算が削減されると、反発が起こりますから。今後、ぶれずに説明責任を果たす、そこが重要ではないでしょうか。

市民の反応は?

最後に市川市民の意見を聞いてみました。

70代男性

子育てしている人たち、苦労していると聞くから、将来を担う子育て支援に重点的に取り組んで、削ることができるところは削る、メリハリのきいた方針で、いいんじゃないの?

70代女性

給食費無償化はいいことだと思うけど、市全体のことを考えてますか?と言いたいですね。税金を払っている身としては、もう少し公平に使ってほしいと思う。

20代女性

どこも財政事情が厳しい中で、やむをえないのかなとは思います。必要なことにはちゃんと使ってほしいですね。給食費無償化はありがたいんですが、公園の充実にも取り組んでほしいです。近くには小規模の公園しかなくて、子どもの遊び場が不足していると感じています。

このほか、「去年、コロナにかかった際の市の対応にがっかりした。治って1週間経ったのちに物資が送られてきて、なんなんだと思った。それもあって、隣の市に引っ越すことにした。有事のときにちゃんと対応できる体制作りに予算を使ってほしい」(30代女性)、とか、「今の市長は、なにかと話題になった前の市長を意識して、逆のことをやろうとしているのではないか。今後のゆくえを注視していきたい」(50代男性)などの意見もあがりました。

市川市役所

この方針は12月2日から始まる市議会の中でも議論される見込みです。
「異例」の市川市長の方針打ち出し、あなたはどう思いますか?

取材後記

10月31日の記者会見で、田中市長は、10月17日の発言を軌道修正するのではないかと私は勝手に想像していました。「10月17日に新規事業をやらないと言ったけれど、必要なものはしっかりやりますよ」と発言して、少し引き、マイルドな感じに落ち着かせていくのかと思っていました。
が、私の予想は外れました。
10月31日の配付資料の文言も会見での発言も、10月17日と同じトーンでした。
今後、この方針は、どのような形で影響してくるのか。必要不可欠な住民サービスに支障が出ていないか。しっかりと見ていきたいと思います。田中市長の政治スタイルについての研究も続けます。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局記者

    金子ひとみ

    遊軍担当。市川市長選についての過去記事もぜひ読んでください。

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