G7でも視察 "巨大な顕微鏡" 「ナノテラス」ってなに?

今月(5月)12日から開かれたG7=主要7か国の科学技術相会合。
各国の関係者が視察にしたひとつが最先端の研究施設「ナノテラス」です。
“巨大な顕微鏡”とも呼ばれる「ナノテラス」。
いったいどんな施設なのか。
科学技術担当の内山太介記者が取材しました。

 


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「ナノテラス」があるのは仙台市にある東北大学青葉山キャンパスの西側。
全長110メートルの直線の施設と円形の施設で成り立っています。

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宮城県や東北の経済界などが震災からの復興の起爆剤にしようと計画をつくり、
4年前の2019年3月から建設工事が進められています。

民間の積極的な活用を目指し、整備費約380億円のうち、国が約200億、宮城県や仙台市、
東北経済連合会などが約180億を支出しています。

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G7の科学技術相会合に出席した閣僚らも今月(5月)15日、「ナノテラス」を視察しました。

そんなナノテラス、いったいどんな施設なのか。

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実は1ミリの100万分の1=ナノの物質を光をあてることでくっきりと見ることができるという特別な施設です。

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(量子科学技術研究開発機構次世代放射光施設整備開発センター 西森信行さん)
「電子源と呼ばれるところから発生した電子ビームは、直線の加速器で光の速さほどまで加速します」

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その仕組みです。
まず加速器とは電子の塊=電子ビームを交互に入れ代わるプラスとマイナスの電波の力でまっすぐ加速させる機器です。

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マイナスを帯びた電子はプラスの電気を帯びた空間に磁石のように引き寄せられます。

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プラスの空間がマイナスに変わると電子はマイナス同士の反発し合う力に押されるように加速。

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それが交互に返されることで電子ビームはほぼ光の速度まで加速するのです。

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そして設置された磁石で曲げられた電子ビームは隣の円形の加速器がある施設に送られます。

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ここでは電子ビームが直線の施設と似たような仕組みでぐるぐる回ります。
円周の加速器は1周349メートルあり、1秒間に80万回以上回ります。

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電子ビームは磁石で曲げられ、向きが変わると光る特徴があります。
この光が「放射光」と呼ばれ、実に太陽の10億倍も明るく強い“輝度”をもつのです。

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この光に照らされることで、ナノレベルの物質もくっきりと見ることができるナノテラスは「巨大な顕微鏡」と言われているのです。

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(量子科学技術研究開発機構次世代放射光施設整備開発センター 内海 渉センター長)
「日本で培われてきた加速技術を使って世界トップレベルの放射光用の加速器をつくったということです」

 

【ナノテラスに期待する企業】

この巨大な顕微鏡。
医療や電子機器、それに食品の開発などさまざまな分野での活用が期待されています。

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多賀城市にあるこの会社では、47年前からワカメを使った加工食品を生産してきました。
主力商品は水やお湯などに入れると膨らむ乾燥ワカメです。

ただ、野菜などほかの乾燥製品に比べてなぜ早く元に戻るのか、その理由は分かっていません。

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去年、別の放射光施設で内部の構造を調べましたが、ワカメの表面と中の密度が異なることまでは分かったものの、それ以上の理由は判明しませんでした。

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このため会社では、ナノテラスによってこの疑問を解明できれば、より早く元に戻る新商品の開発につながると期待しています。

(理研食品 品質管理グループ大場隆さん)
「水で2分で戻すことができるワカメができれば、それを使った加工食品、例えば夏場に食べる冷製ワカメスープなんかが作れるという期待をもっています」

 

【東北のものづくりへの期待】

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ナノテラスは、物質を「見える化」し、技術の「差別化」を図ることで、画期的なイノベーションが生まれることが期待されています。

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(光科学イノベーションセンター 高田昌樹 理事長)
「ナノの世界を見ると機能の違い、性能の違いがはっきりと現れてきます。それによってこれまでこの地域でよく知られていなかった優れた技術を全国、世界に知って頂けるようになる。そこが期待されるところです」

 

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仙台放送局 記者 内山太介
1996年入局
静岡局、名古屋局、福井局、新潟局、科学・文化部を経験
2022年8月から8年ぶりに仙台放送局
物理は苦手ですが科学は大好きです