~紹介手数料が経営に影響~人員確保に苦しむ保育園・幼稚園の実態

今、保育園や幼稚園での人材確保が難しくなっています。
女性が多く活躍する現場のため、結婚や出産などで年度の途中で退職するケースがあり、定期採用だけでなく年度途中での職員の補充が課題となっているのです。
では、どのようにして人材を確保しているのか。
取材を進めていくと、“職業紹介業者”や“手数料”といったキーワードが浮かび上がってきました。

(仙台放送局記者 北見晃太郎)


【人が見つからず手数料が負担に】

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そもそも、保育士などの人材不足は今に始まったことではありません。
厚生労働省の発表では、全国の保育士の有効求人倍率は
この5年、3~4ポイント台を推移。
全職種の平均を大きく上回る状況が続いています。
ハローワークなどを通じて募集をしても時期によってはすぐには見つからず、
難しくなった園側は、職業紹介業者を頼るようになったといいます。

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職業紹介業者とは専用のホームページなどを通じて
園側と仕事を求める保育士などをマッチングさせ、
スムーズな採用をサポートする業者のことです。
仕事を探す保育士などはネットを通じて園の情報を簡単に知ることができ、
一方の園側も、業者を通じて要望に添った人材を紹介してもらうことができるため、
お互いに便利な存在となっています。
ただ、ある実態も浮かび上がってきました。

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職業紹介業者を利用したことがあるという仙台市の認定こども園を取材しました。
1歳から5歳まで、170人余りの子どもを預かっていて、
20人以上の職員で対応しています。
この園では原則、園の見学会などを通じて保育士などを直接、採用していますが、
数年前、人手が足りなくなったため職業紹介業者を利用したといいます。

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「どうしても人が欲しい時に
 『時間がかからずにすぐ紹介ができます』ということだったので、
 私たちも『すぐ』というところがとても魅力的と言うか、
 その時は1番必要な要件だったんです」

こうした紹介業者を利用した場合、採用した職員の年収のおよそ3割を
手数料として園側が業者に支払う契約が一般的となっています。

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この園でも、運営費をなんとかやりくりし、およそ50万円の手数料を支払いました。
しかし、こうした支出が園の経営に影響を及ぼしているのです。

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厚生労働省がおととしに全国の保育園に行った調査では、
職業紹介業者を利用した園のおよそ7割が、
「手数料が高額で経営に負担だ」と回答していることがわかっています。
こうした状況について専門家は次のような見解を示しています。

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「本来、職員を直接採用することができれば手数料はかからない。
 少子化などで園の収益化が難しいなか、どこも決して余裕のあるところで
 手数料を支出してるわけではないので、経営上は大きな負担になっている」

【わずか2か月で退職 戻らぬ手数料】

さらに、取材した仙台市の園では採用からわずか2か月後、
職員から突然、退職を告げられたといいます。
園長が理由を尋ねたところ、「園が自分に合わなかった」と説明。
紹介業者を利用した場合、主にネット上の情報を頼りに就職するケースが多いため、
実際に働き始めてから職場の環境などにギャップを感じるなど、
園側とのミスマッチが生じることが少なくありません。

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また、離職したとしても一定の期間を過ぎると
手数料が返金されないケースがほとんどで、
結果的に負担だけが大きくなったといいます。

(泉ヶ丘幼稚園アルル保育園庄子真由美園長)
「紹介業者を初めて使ってそういうことが生じたので、
 『だったらまた別の人』というふうに、
 その会社をまた使おうという気持ちにはなれませんでした。
 いきなりのことだったので、ほかの職員にカバーしてもらったり、
 保護者への説明などに追われたりして、とても大変でした」

こうした状況を業者側はどう認識しているのか。
NHKが職業紹介業者の1つを取材したところ、
「保育園や幼稚園だけでなく、どの業界でも手数料は3割ほどとなっているため、 
 われわれの立場としては今後もサービスを活用していただいた園には、
 長く働いてもらえるような適切な人材を紹介していきたい」とコメントしています。

【動画配信サイトで自ら魅力発信する園も】

こうしたなか、紹介業者に頼らない人材の確保に動き出している
保育園や幼稚園もあります。

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仙台市太白区にある認定こども園では、
2年前から動画投稿サイトを活用して職員の採用活動につなげています。
空き部屋をスタジオに改装し、職員たちが仕事の様子などを毎週配信しています。

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職員の自己紹介動画も自分たちで制作し、
ネットでも実際の園の雰囲気を感じ取ってもらえるように工夫を凝らしています。

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さらに、この園では出産を終えた職員が職場に復帰しやすいよう、
子どもを園に預けたまま働ける『子連れ出勤制度』を設けていて、
実際に活用している職員のインタビュー動画を配信し
働きやすさや魅力をアピールしています。
こうした動画をきっかけに、2年間で5人を採用したほか、
年度途中での求職の問い合わせも増えたといいます。

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「紹介手数料を払うぐらいだったら、働き方の制度を充実させることで
 職員にお金をかけたいですし、仕事を探す人がネット検索をした時に、
 引っ掛かるところに園の情報を置いてとにかく知ってもらわないと、
 直接採用を行うのはなかなか難しいと思うので、工夫は必要だと思います」

【園側だけの努力では改善難しい】

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こうした園側の努力がある一方で、
職業紹介業者に頼らざるを得ない園が多いことも事実です。
厚生労働省では、保育などの現場で適正な職業紹介業者を認定する制度を
去年から設けています。
認定された業者はサービス内容や費用などが専用サイトで公開されていて、
当事者どうしが納得する採用につなげて欲しいとしています。
しかし、保育士などが全国的に不足している事態を改善しなければ
根本的な解決にはならず、待遇を改善する施策を優先して進めていくべきだという
指摘もあります。

子育て環境の整備は少子化が進む日本にとって大きな課題です。
人材確保に向けた保育園や幼稚園の模索に加え、
行政の動きについて今後も取材を続けていきたいと思います。

厚生労働省のホームページ(NHKサイトを離れます)
https://www.jesra.or.jp/tekiseinintei/


220826_kitami.jpg《記者紹介》
仙台放送局 記者
北見晃太郎
2019年入局。
現在は県警担当をしながら
子どもの現場取材にも励む。