石巻で約50年 造形教室が見つめた12年

東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市で、震災の被害を乗り越え、半世紀近く続いてきた子供向けの造形教室「アトリエ・コパン」。自由な創作をモットーに、多くの作品が生まれ、子供が残した作品に支えられている人や、教室の教えを今も大事に創作を続けている人がいます。小学生までコパンに通っていた佐々木成美キャスターが、造形教室が歩んだ12年を取材しました。



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アトリエ・コパンはJR石巻駅近くにあります。開催されるのは週に2日、学校を終えた子供たちが夕方に集まって、自由に絵を描いたり、工作をしたりして過ごします。

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教室を主宰しているのは新妻健悦さん(75)は石巻市出身で、教室を開設した当時は大学の非常勤講師などをしながら子供たちに美術の楽しさを伝えてきました。

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新妻さんの指導方針は、「子供たちが自ら考え、想像力を膨らませながら描いたり、作ったりすること」。決して絵を描く技術や上手に描くことではありません。完成形に向かってモノを作るのではなく、考えながら手を動かし、悩み、そして発見しながら創作する姿勢だそうです。そのため完成した作品には、作った子供たちの個性が現れ、「息遣い」を感じられるものになっています。

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12年前、教室にも1メートルの津波が押し寄せ、子供たちの作品の多くも流されました。新妻さんの自宅も大きな被害を受け、家族や知人を亡くした子供、自宅が大きな被害を受けた子供、様々な傷を負った子供たちを前に、新妻さんは、しばらく教室の再開を考えられませんでした。そんな中、震災直後に教室の扉に貼られた子供たちからのメッセージが届きました。メッセージには「先生、大丈夫ですか?」「コパンの再開を心待ちにしています」。新妻さんは、その子供たちの言葉に背中を押され震災から2か月後に教室の再開を決めました。

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教室には新妻さんが大切に飾っている似顔絵があります。描かれたのは2011年、当時8歳だった大川小学校に通っていた狩野美咲さんの作品です。

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兄の達也さん(当時11歳)と教室に通っていましたが、84人の児童・教員とともに津波の犠牲になりました。似顔絵は震災直前に美咲さんが新妻さんにプレゼントしました。

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2人の母親、狩野正子さんは、コパンで作った子供たちの作品を心の支えに12年過ごしてきました。作品は、仏間や子供部屋に大切に保管されています。1日に1度は部屋にいき、作品を手に取りながら、作品と会話をするように眺めたり、触ったりしているそうです。

正子さん
「自分たちの感性で描いた作品は子供たちらしさにあふれているので見ていて面白い。何回見ても飽きない。私にとっては宝物」

と、明るい表情で話す目はうるんでいました。達也さん、美咲さん存在を アトリエ・コパンの作品は語り続けています。

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アトリエ・コパンで学んだ自由な発想を大切に、石巻市内で、もの作りを続けている人もいます。コパンの卒業生、林貴俊さんです。震災で傷ついた石巻を盛り上げる土産物をつくりたいと、港町・石巻をイメージした「こけし」を作っています。小学生のころの林さんにとって、コパンは、教室の扉を開けるのがワクワクするほど楽しみにしていた時間でした。

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林さんも12年前、営んでいた呉服店に1メートルの津波が押し寄せました。店の片づけがひと段落しても、地元・石巻には暗く沈み込んだ空気が漂っていました。そんな石巻を盛り上げたいと、ユニークなこけしの制作を始めたのです。やさしく微笑むような表情が特徴のこけしには、魚の絵があしらわれたトリコロール模様などのユニークなデザインが施されています。震災後、つらい思いを心に押し込み、無理に笑顔を作り、頑張ろうと気を張る石巻の人たちへ、肩の力を抜いてほっとしてほしいとの思いを込めました。震災から12年、その優しい表情で、ユニークな作風のこけしは国内に留まらず、海外からも注目を集まています。

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林さん
「形にとらわれたりすることは絶対なく、今も自由な発想で自由に描いている。コパンに通っていたことが間違いなくこけしづくりに生かされている」

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石巻市出身の私もアトリエ・コパンの卒業生です。幼いころから絵を描くことが好きで、幼稚園年長から小学6年生まで通っていました。今、当時の記憶をたどり思い出すことはとにかく「自由に取り組み、どんどん作品が広がっていく様子にワクワクしてしかたなかった」ということです。上手な絵を描こうと思ったことは一度もないような気がします。

社会人になった今、背伸びせず、自分の素直な考えや思いを伝えることを大事にしているのですが、それはもしかしたらアトリエコパンが原点の一つになっているのかもしれません。

新妻さんは、震災で自宅も被害を受け今は仙台に暮らしながらも週2回、石巻まで通い教室を続けています。石巻で新妻さんの教えが広がり、親子代々通いたいという要望が多くそれられるのだそうです。
「被災した地元石巻で子供たちの未来を豊かにしていく使命があると思っている。完成度の高いもの、うまいもので表すのではなく、どう自分で表すかを大事にしてほしい」。アトリエ・コパンでは震災でより強く感じた、自由に創作に取り組む大切さを伝え続けていました。

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【取材・佐々木成美】