原点は仙台!「BLUE GIANT」 作者が語る街の魅力と漫画表現

 「仙台には文化があるんです」

インタビューの冒頭でこう話したのは、漫画「BLUE GIANT」の作者、石塚真一さんです。仙台出身の宮本大が、世界一のジャズプレーヤーを目指すこの作品には、実在するお店や風景があちらこちらに描かれています。

なぜ舞台を仙台にしたのか、そして漫画に込めた思いについて、作品の映画化に合わせて仙台を訪れた石塚さんにインタビューしました。

(仙台放送局記者 岩田宗太郎)


 

【仙台から始まる物語「BLUE GIANT」】

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「BLUE GIANT」は、石塚真一さんの漫画作品で、主人公は仙台市出身の宮本大。
ジャズに魅了されて、テナーサックスを始めた大が、ジャズプレーヤーとして仙台から世界を目指す物語です。

映画にもなり、2月17日に公開されました。

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漫画の連載がスタートしたのは、10年前の2013年。

発行部数はシリーズ累計で920万部にのぼります。

物語は仙台から始まりますが、石塚さんは、仙台の風景が、構想段階のイメージとぴったり合っていたからだと教えてくれました。

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「自然の中で、楽器を持たせたかった。そういう絵を描きたかったんですよね。緑豊かだとか、雪が降ってるとか。その中で、楽器を構えている1人の人間を絵で描きたかった。
『ジャズってかっこいいよね』って伝えたくて、特に若い子たちに」
「担当編集者に相談したら、仙台出身だったんで『これはいいな』と。土地もわかってるし、なまりもわかってるし。なので、仙台を舞台にしました」

 

【広瀬川が主人公の出発点】

作品には私たちも知っている景色が何度も登場します。
まずは冒頭。第1話は、主人公の大が、仙台市内の広瀬川の土手で、夜、1人で練習する場面から始まります。
さらに「国分町」に「西公園」、市内の飲食店と、実在する風景が次々と登場します。
石塚さんは、世界へ羽ばたいていく大の出発地点は仙台だと断言しました。

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©石塚真一/小学館

「広瀬川が出発点です。大もあそこから始まった自分っていうのは、認識してると思いますね」

石塚さんは、仙台に何度も足を運んでいて、実際に来たからこそ分かるエピソードも明かしてくれました。

「連載が始まった後に広瀬川に行って思ったのは『近所迷惑にならないかな』と。案外、川の近くに住宅があって、大がサックスを吹くと、その音量で近所迷惑になってないかちょっと心配しました」
「大は勤勉で、あんまりしゃしゃり出ない、優しくて、思いやりがあって。『みんなで助け合ってる、温かい東北人』っていう勝手なイメージが投影されてますね」

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仙台を訪れるうちに、石塚さんが驚いたことがあります。

それは「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」。

熱気に圧倒され、この場所で主人公が成長していくイメージが湧き上がったといいます。

「一番驚いたのは、こんなにも街の人に愛されて、盛り上がってることでした。こんなジャズフェスティバルがあるんだなと。
行く前は、1つか2つの会場でやってるジャズフェスかと思っていたんです。そうしたら、街なかが会場で、人はもうものすごい賑やか。お酒を持ってる人もいれば、おつまみの屋台もたくさんあって、ものすごい楽しいお祭りになってる。『これはもう最高じゃないか!!』と思いましたね」
「そして、来ている人たちがちゃんと音楽を聴いているんですよ。じっと。こんなにいい場所ないなと。ミュージシャンはやっぱり聴いてもらってなんぼじゃないですか。
あの風景、『聴いてもらえる環境』があるんだっていうのが、主人公としても心強いんじゃないですかね。河原で1人で吹いていても『いつか聴いてくれる人たちの前に俺は立つんだ』って思える土壌は、仙台にもうすでにあると思いましたね」


【音が出ない漫画で表現するジャズ】

「BLUE GIANT」が人気を集める理由のひとつに「漫画から音が聞こえてくる」という評価があります。演奏シーンに登場人物の感情を込めることで、読者に音を想像させるというのです。

どうしたら、読者の脳内で「音」を再生できるのか。

石塚さんは、音が出ない漫画だからこそ、音を表現できると打ち明けました。

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©石塚真一/小学館

「音が出ないのが、弱みであり、強みです。音が出ないから『こんな音が出てるんじゃないか』っていうような気持ちで、音が鳴るような雰囲気で描いています」
「楽器を吹く前の段階の、どういう気持ちで主人公が吹いてるのか、そこの表現にかけています。例えば、別れのときの音楽。友達が遠くに行ってしまうのを送り出す気持ちをまず描く。それから楽器を吹く。河原で練習していたら、犬と仲良くなったのだけれど、ある日その犬が亡くなってしまったと聞いて、ちゃんとそれを音にしてみる」
「やっぱり、感情あっての音楽というように、『順番』に描いています。音楽をやる前には、必ずやる人物たちの感情ありきで、その絵を描くんです。そうすると、何か音が鳴ってるように、読者が頭の中で鳴らしてくれるっていうのが、この漫画の形なのかなと思います」

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石塚さんは「人の助け合い」もテーマにしていました。

出会いと別れを繰り返して成長していく主人公の大。行くさきざきで、出会った人に助けられ、そして次のステージに進んでいく様子を、実体験も含めて描いたといいます。

「作品の中で一番描いているシーンは『握手』なんですよね。握手して、お別れしてっていうのを繰り返していますが、『それが描きたかったことなのかな』って今になって思います。そこで会う人、助け合う関係性、いっときの関係でもお互いに助け合って生きていくっていうのがテーマなんです」
「振り返ると、僕自身も、やっぱり遠くの人と手をつなごうと思っても難しくて。でも、生きていくには、周りにいる人たちに助けてもらって、僕も何かできることをやっている。『BLUE GIANT』でもそのまま同じことやっているなと思いましたね」


【映画館でジャズと出会って欲しい】

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漫画「BLUE GIANT」は、2月17日から映画として公開されました。
物語は大が上京したところから始まり、残念ながら、仙台はほとんど、登場しません。
漫画では「脳内再生」を目指していた石塚さんですが、映画では、ぜひ、実際の「音」を味わってほしいと力強く話していました。

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その理由が、担当した上原ひろみさん。2021年の東京オリンピック開会式でも演奏した、世界的なピアニストです。

映画の音楽を上原さんが担当したことについて「一番の幸運」と話していました。

「上原さんの音楽は、とても真摯なんですよね。真面目なんですよ。ジャズにもいろいろありますが、『BLUE GIANT』に出てくる若者たちも、非常に真摯な、若者特有の何か悩みを抱えつつも、でも何か前に進みたいなと思ってる子たちです。そういう若者にぴったりの音楽を作ってもらえると思ったし、実際できあがった音楽は、本当に想像を超えていました」
「本当に『音』がメインの映画なので、それを体験してほしい。特に若い人たちに『こんな音楽があるんだ』って、ジャズを知る入り口になったらいいなと思ってます」


【宮城の人に伝えたいことは・・・】

インタビューの最後に、宮城の人に伝えたいことを色紙に書いてもらいました。
力強く記されたのは、大の横顔とともに、「行くべ!!」の文字。「BLUE GIANT」に何度も描かれている、大を象徴することばでした。

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「先に進むのが怖い場面、どうしようかな、迷ったな、どうなるかわかんないな、そういうときほど、仙台出身の大は、『1回行ってみよう』『やってみよう』っていうのが作品テーマです。特に若者たちにあんまり怖がらずに『ちょっとやってみよう』って思ってほしいなと思ってこのことばにしました」

取材を終えて、石塚さんが車に乗り込もうとした時、思い直したように振り返って私のところに歩み寄り「ありがとうございました」と、握手を求めてきました。

交わしたのは、作品で何度も見た、両手の力強い握手でした。


原作:石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)
監督:立川譲 脚本:NUMBER 8
配給:東宝映像事業部 公開中
©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館



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岩田宗太郎記者
2011年入局
宇都宮局、科学・文化部を経て
2022年8月から仙台放送局

石塚さんと別れ際に交わした握手の感触は忘れることができません