徹底対論 日本の政治を問いなおす(3)

マイあさ!

放送日:2024/02/12

#インタビュー#政治#経済

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる「裏金」問題。平成の政治改革から30年がたち、「政治とカネ」の問題が改めて問われています。あの政治改革は何だったのか? 政治家、私たち有権者、そして日本の政治はどうあるべきなのか? この国の政治が抱えている問題点や望まれる政治家像など、あるべき姿を考えました。

【出演者】
保阪:保阪正康さん(現代史研究家、ノンフィクション作家)
田中:田中秀征さん(福山大学客員教授、元経済企画庁長官)
中北:中北浩爾さん(政治学者、中央大学法学部教授)

安達:安達宜正(NHKラジオセンター長、政治担当解説委員)
星川:星川 幸(『マイあさ!』キャスター)

「政権交代」が実現したとき

星川 幸キャスター

星川:
ここからは、平成の政治改革以降の30年を振り返り、日本の政治は変われるのかを考えます。

安達宜正ラジオセンター長

安達:
僕は1985年に大学に入りましたが、その時の指導教員が政党政治の研究をしていて「自分の目の黒いうちに日本で政権交代が起きるのを見てみたい」といつも言っていたんですね。
1955年の自民党と社会党の結党、いわゆる55年体制以来、それだけやっぱり自民党は強かったって印象があるんですが、それが1993年に政治改革をめぐる総選挙があって一気に反自民というか非自民・非共産の枠組みができて、NHKのニュースなどを見ていても、ずっと自民党がトップニュースだったのが、次の日からそれまで野党だった非自民の政党のニュースがトップになるわけで、「本当に社会が変わったなあ」って実感しました。
中北さんも僕とだいたい同じ世代だと思うんですが、どのように見られていましたでしょうか?

中北浩爾さん

中北:
2009年の政権交代というのは、私にとっても非常にインパクトがありましたね。これでいよいよ本当に政権交代が可能な民主主義がやって来たなと思いましたし、その前の1993年の政権交代の時は、自民党も倒れることがあるんだと衝撃を受けました。ただ、今から振り返ると、自民党には地力があるので、いくつかの条件が野党に整わないと政権交代は起きないのだと思います。その条件の1つは野党が結束するということでしょうね。

安達:
保阪さんどのようにご覧になりましたでしょう?

保阪正康さん

保阪:
私は自民党政府が倒れるということは「日本の政治の1歩前進になるんだろうな」って思いました。つまり自民党の古い体質そのものを変えていくということがこの時の細川政権が掲げたスローガンだったと思うんですね。ですから「日本の政治がちょっと1歩前に進んだのかな」っていう感じがしましたね。

安達:
田中さんはまさに当事者でした。

田中秀征さん

田中:
総選挙が終わったら、「自民党」も、小沢一郎さんがまとめた「非自民勢力」も、両方とも過半数に達していなかったので、「日本新党・さきがけ」がキャスティングボートを握りました。
そうなって、両方から「こっちへ入れ」「こっちへ入れ」と攻められたわけですよ。それで、3日4日たってから、ふと夜中に「こっちから『この指とまれ!』って第3の指を出すっていう方法もあるじゃないか」と気がついたんです。それで、細川、武村の両党首と僕で記者会見して「政治改革政権の提唱」という形で政治改革の内容まで書いたものを示して賛成を募ると、すぐに小沢さんたちがついた。それで出来た政権ですよね。

安達:
あの時は一部に羽田孜新生党党首が総理大臣になるんじゃないかという見方もありましたが、結局、細川さんが総理になりました。田中さんが見た、その時の裏話みたいなのものは?

田中:
いやあ、僕は羽田さんと同じ信州人ですから複雑な気持ちもありましたけど、だけどもちろん細川さんをかついでいました。最初、細川さんが総理になるってことに僕は賛成できず、「まだ準備もないから反対だ」ということを言ったんですけど、あの流れの中ではもうこうするほかなくなって細川政権が誕生した。政治が非常に爽やかな状態になったと実感しましたね。

政治風土と自民党という政党

安達:
細川政権は、非自民の枠組みというか、「政治改革」という1つのシンボル的な旗印があった政権だと思うんですけれども、やっぱり政権交代の際のそういう「旗印」というのは、中北さん、政治学者として見ているとそんな感じはしないでしょうか?

中北:
自民党は普通に戦えば勝つんですよ。たとえば都道府県議会議員を見ると、5割が自民党ですから。これは55年体制が崩壊して以降もずっと変わっていない。やっぱり岩盤の地力があるので、それでは野党はどうするのかと言われれば、全体がまとまらないと勝てません。そのためには、まとまるための「旗」をしっかり共有できるかが大きなカギとなります。
そのシンボル的な「旗」の機能についてですが、自民党のほうが基礎体力で勝るので、それを乗り越えるような「風」が野党に吹かないと勝てない。その「風」を野党のほうに吹かせるためにも、やはり何らかの「旗」をしっかり掲げる必要があるんだと思いますね。

安達:
そんな細川政権でしたけれども、連立与党内の内部対立とか、細川さん自身に「政治とカネ」の問題などが出てきて、およそ8か月で退陣して、次には羽田政権が誕生します。その後は、自民・社会・さきがけが組んで村山連立政権が発足しました。
それで、もう少し非自民の政権が長引いていたら自民党はかなり厳しい状況に置かれたんじゃないかという見方もありますが、さきほどの中北さんが指摘された「自民党の地力」というところをふまえて、保阪さんはどのように見られていますか?

保阪:
私は自民党政権っていうのは、単一の政党で日本の政治を担ってきたというよりも、いろいろなものを包含しながら、いろんなものを捨てながら残ってきた、ある種のアメーバ的存在の政党だと思うんです。そのような政党が国際社会の中で生きていくために、この日本の社会で本当に必要とされていたんだろうと思います。

それで私は自民党の代議士の人たちをそんなに深くは知らないんですが、何人かの人と対談などで話をした時にいつも思うのは、彼らは「原則は原則として」「建て前は建て前として」っていうようなことをよく言いますね。聞いているとだんだん「実際はそうじゃないんですよ」っていう話になっていく。つまりその現実適応能力でもって彼らは今の社会を生きているんだなあと。ということは、逆に言えば「大きな哲学や理念、政治的な識見っていうのはひとまず置いといて」っていうことですね。それはつまり、「彼ら自身の中に自分でそういうものを育てるよりは、もっと有権者に近づいて形而下的な形で集票していくほうが代議士としてはいいんだな」っていう感じを私は受けていて、それは日本の政治風土なんだろうと思います。

それを自民党はうまく利用しているんだなって感じがするんですが、それが何年に1回かカネの問題が噴き出る。あるいは人事の問題でゴタゴタする。逆に言うといかにも人間くさい問題でもめ事が起こるということは、自民党がそれだけ人間くさい集団なんだろうけれども、「しかし、政治はそれだけじゃないだろう」っていうのが行き着く先に出てくる答えですよね。今まさにそれを我々は考えなきゃいけないということでしょうけれども。

安達:
政治家っていうのは本当に人間くさい人が多いなと、僕もそばで見ていて思うんですけど、確かに自民党の議員というのはより人間くさいなって感じはします。田中さんは自民党にもおられて、野党も経験され、自民党以外の与党も経験されています。いろんな経験があると思うんですが。

田中:
なるほどと思って、今、お二方のお話を聞いていたんですけどね、ハマコー(浜田幸一)さんが「自民党には、田中秀征と、オレみたいのと両方いるんだ」って言ったことがある。「どういう意味ですか?」なんて聞かなかったけど、まあハマコーさんから見れば「自分とは違う政治家だ」というふうに思っていたんでしょう。

だけど確かに多様性を含んでいるから「他の先進国と比べて変に左右のテロ事件が少ないのはそういう訳かなあ」と常々思っていたんですよ。特に右のほうの思想でテロみたいなことが起きない背景には、自民党の隅のほうに何となくそういう思想があるからなんですよね。そのように非常に多様な考え方が含まれていることは効用なのかなあと思ったりします。だからなんとか、数年に1人でも2人でもいいから人材が現れれば、それでまたまとまっていくことができる。だけど今はそういう人材がいないから困るんですよね。

安達:
中北さんは政治学者の立場から、諸外国の保守政党、政権政党と比べると、現在の自民党はどういう存在だと見ておられますか?

中北:
端的に言ってイデオロギーがない。主義主張が非常に希薄だと思います。自民党の本質は人間のネットワークなので、地域社会においても地域の有力者を中心として個人後援会を組織化している。ですから政策的には幅が広い。融通無碍ということですね。自民党の政治家は人間くさくて、それとの関係で贈り物文化みたいなものがあるんですよ。西村康稔・前経済産業大臣が地元産の玉ねぎを配って話題になったことがありましたが、もらう側も別に玉ねぎがものすごく欲しくて受け取っているわけじゃありません。「敵意がなく、好意を持っていますよ」ということを示すために地元の産品を配って示すということ。

我々も昔、昭和の時代はお中元とお歳暮を贈り合う文化がありました。人間的な心のつながりの上に物が乗っかるので、そこに金銭的な部分が絡んでくるんだけど、では本質が金銭の方かというと、私はそうは見ていないんです。人間関係の重視なのだと思います。私も自民党の関係者に話を聞きに行くと、いつもコーヒーを出してくれます。だから私もお土産を持っていくのですけども、そういう感じのウエットで昭和的な人間関係が贈り物文化がつながっている。こう言うと擁護しているように聞こえるかもしれませんけども、自民党的な体質っていうのはそういうところにあるんじゃないかなと思います。

安達:
一方で立憲民主党の岡田克也幹事長は贈り物を一切受け付けなくて、大臣就任のお花などをいただいても全部返しちゃうというところがあって、これはこれで個性というか政治家のあり方として1つのありようかと思うんですけれども、非常にコントラストがあるという感じがしますよね。それでやっぱりそばで取材していると、自民党って本当にしたたかな政党だなっていう感じはしています。

田中さんは著書の中で「政局というのは、“価値”の争いと“力”の争い」と書かれていましたが、自民党はもうこの“価値”の争いと“力”の争いをちょっと超えているように感じられます。連立のパートナーも時には社会党であったり、時には公明党であったり、いろんな政党と一緒にやっていくという。
よく覚えているのは、それこそ1994年に村山富市さんと海部俊樹さんが衆議院本会議の決選投票に臨む時に、当時の自民党の小里泰弘国会対策委員長が共産党の控え室へ「村山さんに投票しろ」って説得に行くんですね。そういう政権に対する熱意みたいなものとしたたかさというのはやっぱり自民党にはなかなか、かなわないなあっていうのを、今、お三人の話を聞いていて思い出しました。
そういう政局的な手練手管みたいなものについては、田中さんどうでしょう?

田中:
だから手練手管をやってると、それだけではその次元にいるから自民党がときどき負けるんですよ。そういうふうに思いますね。あなたがおっしゃるように “力”の争いをしているんだけど、途中から“価値”のシャッポー(帽子)をかぶるんですよ。どっかから探してきてちゃんと“大義名分”を見つけてくる。そういうしたたかなところが確かにあるんですね。

待合政治⇒会食⇒パーティー

安達:
おっしゃる通り“力”の争いなんだけど、やっぱり“価値”っていうのが前面に出なきゃならないというのが政局だと思うんですが、保阪さんも戦後政治をずっと見てこられて、何か感じるところがあるんじゃないでしょうか?

保阪:
私は、戦前の議会で議席を持っていた人で、戦後、パージがあったりパージが解けたりして出てきた人に何人か話を聞いているんですが、ある社会党の右派の人がこんなことを言ったのを覚えています。昭和30年代ですけど、「最近の若い代議士は行儀がいいんだよな。ホテルで飯を食うなんて、俺たちの戦前だったら料亭で芸者さんのそばにいながら酒を飲んでいた。それで政治の話をした」って言うんです。「『軍に逆らうにはどうするか?』『軍と一緒にやるにはどうするか?』とか、そういうことを料亭でやってたんだよ」と話すんです。つまり裏でいろんなことをやっていたということでしょうね。
私はそれを何気なく聞いていた時に「日本の政治風土の1つが、ああここにあったのか!」と気付いたことがあるんです。それは、こういう公共放送で言うのはちょっと品がないということかもしれませんが、政治家というのは猥談(わいだん)をするんですね。

僕は「こんな真面目な政治家がそんな話をするのか?」って思いましたが、そういう形で政治状況を全部猥談で語るんですよ。男女の色恋で語るんですよ。でね、その「男女の色恋で語るその品のなさというのは、結局、芸者さんを側に置いて話をする待合政治なんだな」と分かった。

それが行儀がよくなってホテルで朝食を食べながらきちんと話す。そういう意味じゃ政治もだんだん行儀よくなってきているんですよ。私は「戦前の政治家が、こんな真面目な代議士が、こんな男女の色ごとで政治を語るっていうのは不謹慎だ」と思ったけども、彼らはそれが本質だということなんでしょうね。そういう話をしながら政治状況をお互いに察すれと。僕は戦前の政治を男女の色ごとに例えて話すのをいくつも聞きましたけれども、「なるほどなあ。政治家はそういう仕事だったんだ。それで待合政治っていうのがあるんだ」と思いました。

それがホテルでの「会食」になって行儀がよくなり、それがやがて「パーティー」という形になっていったということなんでしょうけれども、その意味じゃ表面的にはだんだんと行儀良くなっていくわけですよ。行儀よくなっていく分だけ、カネの動きがまたそこで不透明化していったということなんでしょうね。

安達:
田中さん、この話についてはどうですか?

田中:
やっぱり志の問題に尽きるんじゃないですかね。そういうものがなくて遊びほおけているっていうんじゃ何も進まないけど、そういう人たちの中にやっぱり人材がいたんでしょうね。

安達:
若手の国会議員が行儀よくなっているという点、中北さんがご覧になっていてどうですか? 僕ら世代よりももっと若い世代が国会議員になっていますけれども。

中北:
行儀いいというよりは、合理的な発想をするようになってきていますね。自民党の関係者と話していると、「今の若手の議員は民主党の議員みたいになってきてる」といいます。もともとの自民党の流儀はムラ社会なんですよ。派閥のことを「ムラ」って言ったりしますし。自民党の政策決定の方法もムラ社会的で、たとえば会議だといわゆる「一任」という方法で会議の座長に委任する。その人物が大所高所からみて、全員が収まるようなところに落としどころを見つけてくる。そうしたムラ社会的な運営をしているのが自民党です。しかし、合理的な発想で、多数決による決定を好む議員が増えているので、今後は自民党の文化も変わるのではないかという、嘆き節を含めて語る方が実は少なくないんです。

野党が抱えている問題と課題

安達:
それに対抗する野党の側の議論に移りたいと思うんですけれども、前回の立憲民主党の代表選挙の時に候補者の1人であった逢坂誠二さんがこんなことを言っていました。
「なぜ立憲民主党の人気がなかなか上がらないのか? それは真面目でスターがいないからだ。ワクワク感がないからだ」と言っておられたんですけれども、まさに僕も何かちょっとそんな感じがしまして、今の野党に足りないのは、中北さんはどんなところだと思いますか?

中北:
足りないところを言い出すとキリがないのですけれども、現実的な政権運営をやっているのは自民党なので、愚直にある種の思いをもって政治を語るという、先ほど田中秀征さんがおっしゃったような部分がより強く野党にないと、この人たちに政治をやらせてみたいという有権者の期待が集まらない。そんな期待感を作れるようなリーダーを担いでいくということが重要でしょうし、その一方で、自公よりも雑多な政党を取りまとめていく政治的手腕も同時に合わせ持たないといけません。野党のほうが非常に難しい狭い道を追求しないといけないですから、やはりリーダーの果たすべき役割が大きいんじゃないかと思いますね。

安達:
田中さん、後輩の議員などからも相談を受けると思うんですけど。

田中:
その一番肝心なところを具体的に言うと、民主党政権の失敗を総括していないということ。失敗した責任を引き受けていないということがずっと残っているんですよね。で、その幹部が今もって枢要な地位を占めているとなると支持率は上がりません。
たとえば当時の幹部が党の外で応援するというのなら分かります。だけど失敗した人たちがきちっとした総括もしないまま、まだそこに座っているとなると、自民党の支持率が下がっても民主党にいた人たちがいる党の支持率はどうやったって上がっていかないですよ。

今、そういう現象がありますよね。だからそこが問題で、「あの人たちが失敗したんだ」っていう議員が今も前面に出ているようじゃ、もうまったくだめですよね。そこから変われば、今なんかかなり大きなチャンスですよね。大きな空洞ができている今、新しい人が出てきたら、小池百合子さんの「希望の党」のブームの時よりもっと大きなブームになって、一気にいきますよ。「これは!」という新鮮な人がリーダーになって現れたら政治はすごいことになると思いますよ。

安達:
保阪さんはどうご覧になっていますか?

保阪:
僕は野党の人たちとそんなに深く話したわけじゃないんですが、話していて「パッション、情熱がないな」って感じますね。自分たちが政権を取る。あるいは自分たちが野党としてどういう役割を果たすかということに対するプログラムや情熱に欠けているから、何か相手の失点を待って、駅前の演説なんかでそれを一生懸命訴えるというようなマイナスの方法での自己主張をしているなあっていうのが1つですね。で、もう1つは、彼らは政権から遠ざかっているがゆえに自分たちの認識、自己が立っている位置の認識がまったく確立していない。政治家として、自分はいま何を野党の立場で言うのか、やるのか、どういうことができるのか、できないのかっていうようなことについてまったくメリハリがなく、「政権を取ったらいずれ私たちも‥」っていうような形で言う。つまり「自分たちが政権をとったら‥」というアクティブな発想、姿勢というのに欠けている人がかなりいるなというふうに思いますね。

だから、ある立憲民主党の人と、たまたまその人の地元へ行って会った時に話していたら、「うちの選挙区を見てくださいよ」って言ってくるので見渡すと、川に橋が架かっている。自民党が行うようにしてきちっと造っていて地域振興にやっぱりそれなりの役割を果たしているわけですね。それで、そういうところを自慢するというか。

以前、これはかつて江田五月さんと彼の選挙区で一緒だった時のことですが、車で走っていると道路ガタガタなんですよ。「保阪さん、ここはね、僕の選挙区なんです」と言う。で、その選挙区を通り過ぎると道路が舗装されて車がスッと走れるわけですよ。そこは自民党の有力者の地域だったんですね。江田さんは「こんなに違うんだよ」って言っていました。でね、「こういう違いがあって我々が票を取ろうと思っても取れないから、我々は理念とか将来とか、そういうことで訴えているんだよ」って話していたのを思い出しましたね。

だけど今は、立憲民主党もけっこう道路をよくしているんですね。だから与えられた場でよくやっているという言葉の反面、「何か大きなプログラムを持ってないんじゃないか?」っていう気がして寂しい感じがしますね。

野党は1つにまとまれるか?

安達:
細川政権が発足した時も、それから鳩山政権が発足した時も、今の政治状況とちょっと似たようなところがあって、野党のまとまりができないということがやっぱり大きな違いなのかなというふうに思っていましてね。現在の野党は政治的立場も政策も考え方もかなり幅広くて、1つにまとまることはなかなか大変な感じもするんですけれども、この難しい状況で、中北さん、何か処方箋みたいなものはありますでしょうか?

中北:
処方箋は簡単なものはないと思いますけれども、この間、まず野党が追求したのが共産党を含む野党共闘で、2015年の安保法制反対運動からスタートしました。ただ、なかなかうまくいかなかったですね。これは共産党の方針が立憲民主党からすると左すぎて、一緒に政権を作るのは難しいというのが原因です。しかも、その共産党に対する向き合い方をめぐって、立憲民主党と国民民主党というもともと1つだった政党が分かれてしまっている。そうなると、連合という最大の野党の応援団が力を発揮できない。さらに言うと、かつての民主党が2つに分かれて力がないものだから、維新に期待が集まっていく。このように、ますますバラバラになっていくという悪循環が起きているので、しっかり野党をまとめていくためには、それぞれの政党が政権を担うためにはどう変わらなければならないか、ということを自ら問い直していくことが大切です。

政権を握れば、野党ができることはたくさんあると思うんですよ。格差の問題、平和の問題など、いろいろあると思います。ですから、政権交代に向けて有権者の声をどう政治に反映させるのかについて考え、各党が現実的に対応していくことが、私は最も必要なことじゃないかと思いますね。

安達:
小渕政権の時に、自民党・自由党・公明党による新たな枠組みの「自自公」連立政権があって、そのとき僕は自民党の担当で、山崎拓さん、加藤紘一さん、小泉純一郎さんの「YKK」の側を取材していました。
あの時も与党だったという違いはありますが、自自公連立政権に自民党内も真っ二つとまでは言えないけどかなり激しい対立を抱えていました。それでも自民党は自然とまとまっていくという、したたかさなのか強さみたいなものがありました。
その一方で、いま中北さんがおっしゃったように野党の側は分散していく感じになっています。これはどうしたらいいでしょうか?

中北:
やっぱり自民党は政権にしがみつくためには何でも飲み込むことがあるというのが1つと、あとやっぱり自民党と公明党って組み合わせがいいんですよね。これはお互いに無いところを補い合うということです。相互に票を融通して、しかも固定票があり、それを交換することが可能なので、バチバチと相互に火花を散らしながらも、ずっと協力し合って20年以上連立を組んでいるんですね。
別に自民党と公明党は、この間、見ていても分かるように仲良くないですよ。ですから野党のほうは野党のほうで、恩讐を越えて、どうやって手を組めるのか、どうやって現実的な政策をつくるか、どうやったら円滑に政権運営をできる態勢をつくっていけるのか、といったことを考える必要がある。野党はもう少し権力に貪欲になっていく必要があるんじゃないかと思いますね。

厳しい街の声、期待感は‥

星川:
30年前の平成の政治改革で日本の政治はどうなったのか? 今の政治、今の政治家について思うことを東京・新宿で聞くと、厳しい意見が相次ぎました。

男性:
うーん、今は誰もちょっと信じられない。お金で政治ができる。お金がないと政治家になれないと僕は感じてますね。

男性:
もうとにかく、政治家が変わんなくちゃだめだよね。政治屋になって自分の生活のために、カネのために政治をやってるような人が多すぎるような気がする。小さい、人間が! あとは選挙の仕組み!

男性:
うーん…、やっぱり世襲じゃなくて、違うところから出てきたほうがいいと思うね。世襲にするのは一番よくないよね。

女性:
なんか、みんなが流されてるから、全体的に。そういうところは危ういところかなあとは思います。

女性:
なんか今、裏金とかで時間を使っているよりは、子育て世代にもう少し目を向けてほしいです。私たちけっこう苦しんでいるので。施策をいろいろしてほしいなあと思います。

安達:
街の声はなかなか厳しいんですが、星川さん、今までの3人の議論を聞いてどうですか?

星川:
そうですね、最後に子育て世代の方の意見もありましたけれども、政治っていうのが目の前の私たちの暮らしとかけ離れた世界の話のような感覚があって、その「平成の政治改革」の時にあった熱気というのが国民の側にもあんまりないのかなというふうに感じるんですけれども。

安達:
どんなところに感じますか?

星川:
やっぱりその今回の派閥の議論についても、「問題になったんだから、もう解散すればいいじゃないかな?」って簡単に考えてしまうんですが、きょうお話を聞いていると、その派閥っていうのはやっぱり哲学があったり政治にとってすごく必要なものなんだって。その深いところまで考えずに「問題があったから、もうやめたほうがいい」とか「どうせ変わらないんでしょ」っていう意識のほうが強く感じられるような気がして、何か全体的に期待感が薄いといいますか、そういうふうに感じられます。

安達:
「期待感が薄い」という指摘ですけれども、田中さん、どうでしょうか?

田中:
僕はさっきも言いましたように、かつて小池百合子さんの「希望の党」の時の大ブームがあった時よりも、今はもっと空洞が大きくなっているから、細川さんの時と比べてもはるかに大きな流れができる状態になりつつあると思います。
やっぱり政治も経済も劣化し、日本全体が劣化しているという認識をみんなが持っていますから、魅力的な指導者が出てくること、確かな構想力を持った人が現れることが待ち望まれています。
それに対し、窮状を覆す人が出てきていないという閉塞感が広がっていると思うので、今は政治がもっともっと大きく振れる状況にあると思います。

まあ、その前に政治家がもう固定しちゃっているから、選挙制度を直さなきゃ全然だめですね。まったく固定しちゃっていて、野党までそうなんですよ。なぜかと言ったら「政党助成金」で選挙に落ちたあとに養っちゃうんですよ。もっとひどく言えば、野党側は「政党助成金」で当選した人を助け、落選した人も助けているんですよ。だからそうなると変わらない。候補者でさえ新陳代謝がないという状況になっていて、絶望的ですよ。だから中選挙区連記制を思い切ってやることを提案しています。

安達:
保阪さん、先ほどの星川さんから「期待感が薄い」という指摘がありましたが、どうなんでしょうか?

保阪:
私は、さきほどの新宿での街の声なんかも聞いていて思うんですが、私たちの国民の政治意識そのものがかなりパターン化していて、ある種のああいった意見が必ず多数派になるんでしょうけど、選挙の時の選挙民主主義、それから検察が正義を代弁している検察民主主義みたいなもので、私たち自身が選挙をして選んだ選良をきちんと見ている。あるいはコミュニケーションをとって彼らに対して要求をきちんと突きつけているか?  選挙で通ったらそれでおしまいというのではない形の民主主義に進化させていくことが大切なので、やっぱり現状から出てくる不信感っていうのを人々から聞きたいなと思いますね。そういう不信感が日本社会には全体的に欠けているのかなって感じがします。

安達:
中北さんは大学で教べんを取って大学生たちに教えていますが、若い人たちの意識をどのようにご覧になっていますか?

中北:
さきほどの街の方々のご意見とそんなに大きくは違わないんじゃないかと思いますね。数年前まで新型コロナ問題で我々はかなり厳しい状態にあって、あの時ほど政治というものが自分たちの暮らし、場合によっては生命にも関わっているってことを実感したことはなかったわけですよ。しかし、完全ではないですけど、コロナ禍が収まってくる中で、現在の街の方々は、皆さん非常に冷めた感じがしていて、もう諦めている感じがするんですね。

本来であれば政治って我々のためのものなので、自民党にこれだけ『政治とカネ』の問題が起きるのならば、野党を応援しようと身銭を切って献金してでも頑張らせようというダイナミズムが生まれてもいいと思うんだけれども、もう他人事のような感じで諦めている。そして「政治とカネ」の問題だけじゃなくて、女性議員が極端に少ないとか、世襲が多いとかで、何かもう自分事に感じられないような政治が永田町では展開されている。

このような我々と政治との距離感っていうのは、ヨーロッパなどでも同じような状況が広がっていて、いわゆるポピュリズムを台頭させているわけですよ。
ですから、我々と政治の間の溝をどうやって埋めていくのかということ。これは我々の課題でもあるし、政治家や政党の課題でもあります。だから私は今回の問題は、それを一番よく示し、課題を突きつけているんじゃないかと思います。

繰り返される問題に私たちは

安達:
「政治とカネ」の問題で自民党に問題があっても、自民党には批判的だけどやっぱり自民党を支持するという方もいます。一方で自民党にも野党にも期待ができないということで無党派層が広がっていく現状については、保阪さんはどう思われますか?

保阪:
いやあ、私は自民党を支持する人たちの健全さっていうのは「政治とカネ」の問題を超えたところにもあると思うので、支持すること自体はなるほどと思いますけども、カネの問題っていうのは自民党の恥部と言えます。そのうみを出せるかどうか? 自浄能力というものがこの政党にあるかどうかっていうことがやっぱり問われているわけですが、それが問われると、その時その時で対応するわけですね。

リクルート事件にしてもそうでした。田中角栄さんのロッキード事件とか戦後の汚職事件を見ていても、そのつど対応してきている。しかしそれがある年季、時間を過ぎるとまた同様のことが繰り返し起こるということは、自浄能力が永続性を持っていない、本質的な解決ではないんだっていうことを物語っているわけで、今回も自浄能力そのものが何かこう「付け焼き刃」という感じがしないではない。やはりこれを、永続性を持った「日本の政治のあり方」というところに持っていって変えていくことができるかどうか? それを僕らが見ていなきゃいけないし、実はそれが僕らの問題なんだっていうことにも気付かされますね。

安達:
いま先生方3人のお話をうかがって、星川さんはどう思いましたか?

星川:
やっぱり政治家もそうですけど、私たちも、今どういうことが起きていて、本質は何で、これから先のことを考えるためには「どういう目で政治を見なきゃいけないのか?」ということをもっとしっかり考えないといけないなって思いました。今日はそう考える良い機会になったと思います。


【放送】
2024/02/12 「マイあさ!」


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