徹底対論 日本の政治を問いなおす(2)

マイあさ!

放送日:2024/02/12

#インタビュー#政治#経済

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる「裏金」問題。平成の政治改革から30年がたち、「政治とカネ」の問題が改めて問われています。あの政治改革は何だったのか? 政治家、私たち有権者、そして日本の政治はどうあるべきなのか? この国の政治が抱えている問題点や望まれる政治家像など、あるべき姿を考えました。

【出演者】
保阪:保阪正康さん(現代史研究家、ノンフィクション作家)
田中:田中秀征さん(福山大学客員教授、元経済企画庁長官)
中北:中北浩爾さん(政治学者、中央大学法学部教授)

安達:安達宜正(NHKラジオセンター長、政治担当解説委員)
星川:星川 幸(『マイあさ!』キャスター)

平成の政治改革を振り返る

星川 幸キャスター

星川:
さて、繰り返される「政治とカネ」の問題。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金づくりがこれだけ長い間、組織的に大規模に行われていたことが発覚したことから、構造汚職で熱い議論が交わされたあの政治改革はいったい何だったのか? という疑問がわいてきます。続いては30年前の「平成の政治改革」を振り返ります。

【細川護熙総理大臣】
「この政治改革の法案というものは、6年越しの懸案でありましたし、またこの問題が、今の経済の問題や、あるいはその国際関係にこれだけ大きな影を落としているということを考えますと、なんとしてもやはり大局的な観点に立って、この基本的な政治のフレームワークというものを新しい姿に変えていかなければならない。そういう観点に立って最終的な決断をさせていただいたということでございます。」

【河野洋平自民党総裁】
「総理からお話がございましたように、国際的な問題、国内的な問題、それぞれ今、政治が解決しなければならない、政治が責任を持たなければならない多くの問題があるという認識で一致をいたしました。」

30年前、政治改革関連法案の修正で合意し、共同記者会見に臨む細川護煕首相(右)と河野洋平自民党総裁(左) 1994年1月29日未明

政治改革の焦点が選挙制度に

安達宜正ラジオセンター長

安達:
30年前の1994年、政治改革の最後に細川護熙総理大臣と河野洋平自民党総裁が与野党合意した時の記者会見。当時、僕は社会党を担当していましたが、大雪が降っていたことを思い出します。その際、細川総理が会談の直前に当時の村山委員長に会談を申し入れ、「与党の対応は自分に一任してほしい」と頼んだのですが、村山さんは「内容も分からないのに一任できるわけないじゃないか」と突っぱねました。しかし、最終的には与野党合意に至りました。

それはそうと、リクルート事件から東京佐川急便事件を受けて行われた政治改革の熱気は本当にすさまじかった感じがします。自民党の若手の議員に取材すると、「自分はこの政治改革を成しとげるために政治家になったんだ」という人までいました。
それに比べると、今回、政治改革の熱気というか若手議員を中心とした対応が少し弱い感じがします。田中さんが当時若手だったかどうかわかりませんが、自民党を離党したわけですよね。どんな印象を持っておられるでしょうか?

田中秀征さん

田中:
僕は、「どうして小選挙区制にそんなに熱中するんだ?」って思っていました。僕は当時から中選挙区連記制を党の会合でも主張していた。細川さんも同じ考えで、この中選挙区連記制を活字にして提案していた。
それで河野さんとの与野党トップ会談に向かう細川さんは、僕と2人で総理室にいて、部屋を出ていく時に「じゃあ秀征さん、行ってくるね」と言って部屋を出ていったのを鮮明に覚えている。その時の会談内容についてはまったく知らないでいましたが、直後の与野党トップ会談で決まった合意内容をテレビで見て、「もう日本の政治は、どうしようもない」と思いました。「これでどうしようもなくなる」と。ほんとにあんなに背筋が寒くなったことはないですよ。

河野洋平自民党総裁(左)と細川護煕首相(右)の与野党トップ会談 1994年1月28日

それで翌日、僕は首相特別補佐を辞任するんですが、本当にその件については、結局、「小選挙区制導入に反対していたあれ(私)には、耳に入れないでおこう」っていうことだったのかなあと。実は先週も細川さんと会って昔話をしたんですが、まあ、結局とんでもないことになっちゃったっていう。

安達:
小選挙区制比例代表並立制の現行の「比例代表ブロック」ではない「全国区」という案は?

田中:
それは僕の案です。当初の政府案で衆議院の議員定数500のうち、250を「選挙区」に、残りの250を「全国比例」にと提案していたんですが。
それから、当時議論されていた政党助成金(政党交付金)についても僕は反対だったんですよ。「なぜそんな助成金が必要なんだ」と主張していました。だからその政党助成金を導入するという話も、また僕にないしょで進めていたんですね。

安達:
あの時も「衆議院に小選挙区比例代表並立制を導入することで政党本位の選挙になって政権交代が可能になる」と言われて、確かに中選挙区に比べると政党本位になっている部分はあるような感じもするんですね。
その一方で、与野党トップ会談の当事者の1人だった河野さんの話を何度聞いてみても、30年前に決めて導入した小選挙区にはとりわけ否定的ですよね。そこで、この選挙制度改革がもたらしたものについてもう1回議論してみたいんですけれども、中北さん、どうですか?

中北浩爾さん

中北:
そうですね。小選挙区比例代表並立制という形で小選挙区をメインとする選挙制度が導入されて、これで政党本位になると。選挙区の候補者が1つの政党につき1人になるので、政党本位になると言われました。
それで、いま「派閥」の問題が出ていますけれども、全体としては派閥の力はやはり弱くなっているんですね。
同じ選挙区で同じ自民党候補同士が別の派閥に属して戦うことがなくなり、派閥の結束力も弱まっているし、政治資金制度改革によって派閥がダイレクトに「企業・団体献金」を受け取れなくなったので、派閥の集金力は弱まり10分の1になっている。ですから政党本位の方向へと近づいたことは確かです。

ただ、その弊害もあります。なかなか党の執行部に反するような意見を言いづらくなっていると言われていますし、じゃあ本当に政党本位になったのか? といえば、結局、小選挙区制も名前を書く選挙なので、かつての個人後援会ベースの選挙が行われていて政党本位にもなっていない。

安達:
保阪さんはいかがですか?

保阪正康さん

保阪:
私はあの時の政治改革のことをはっきり記憶してるんですが、2つの言葉がよく使われていた。1つは「守旧派」という言葉です。古い今までの中選挙区制にこだわっている人たちの考え方を「守旧派」と言っていた。これは小沢一郎さんが意図して使ったんでしょうね。もう1つは「日本の議会政治は成熟した」という言葉です。「日本の議会政治はイギリス並みになった。だからこれからは小選挙区でいいんだよ」っていうものでした。

あの頃、自民党を切り盛りしていた小沢さんに長期インタビューをしたことがあるんです。小沢さんが使う「守旧派」という言葉は、ある種の政治改革の中心に座ってしまって、それに反対する人はまるで時代遅れで議会政治のことなんて何も考えていないような人だというようなニュアンスで公然と話していましたね。それを聞いて私は本当に疑問に感じ、「なるほどな。乱暴な議論だな」と思っていました。

それと、もう1つの「成熟した」という言葉は後藤田正晴さんが副総裁だった時のことです。その頃、後藤田さんに興味があって長期インタビューをしていたんですが、後藤田さんがですね、「君、日本の議会政治はもう成熟したよ。イギリス並みになったんだよ」と言うんで、僕は「先生、それは絶対違うと思いますよ」っていう話をしました。
あの時はですね、言葉は悪いけれども「政治改革」という言葉で小選挙区制の導入自体がかなりファシズム的な空気の中で行われたんですよ。僕はそのことのほうが危険だなあと。「小選挙区制が持っているマイナス面というのがどこかで問題になった時に復元できるのか? もう1回、選挙制度改革に挑戦できるのか?」と疑問に思いましたね。

それで私は中選挙区制がいいと思ってはいるんですが、小選挙区制になるということの怖さは自民党が一枚岩になるということですよね。そんな政治を日本はやってはいけないんだと感じ、私自身はあの時の政治改革にはいわゆる守旧派の側に与(くみ)しながら、「これでいいんだろうか?」と当時考えていた記憶をよく思い出しますね。

安達:
あの時の政治改革の熱気っていうんですかね。僕も取材者として、小選挙区導入に対する議員や国民感情の盛り上がりをすごいなあと見ていたんですけれども、田中さんは当事者の1人でした。今から振り返るといかがでしょうか?

「小選挙区制」を導入したが

田中:
僕はそういう流れには乗らなかったですね。細川さんが結果的に提案した法案の内容は大変な妥協をしていると感じていて、小選挙区導入がもう嫌でしょうがなかった。結局「小選挙区制が2大政党制をつくる」というのも、今もって全然駄目ですよね。特に小選挙区ではだいたいの支援組織が自民党1党についちゃうから、勝てないんですよ。絶対勝てない。
それに「日本の中に思想潮流が2つないのに2大政党を実現するなんて無理だ」と主張していました。思想潮流は1つしかなく、あとはバラバラですからね。
それから「地方分権が徹底したあとじゃないと、選ばれた政治家が許認可と予算の運び屋になるだけだ」と言って反対しました。実際に小選挙区制を導入してからは、中選挙区時代よりも国会議員が「地元の利益のために」と言って行動する運び屋になってしまい、政治が急速に劣化している。

さっきの保阪さんの話に感心していて僕もまったく同じ考えなんだけど、斎藤隆夫、尾崎行雄のような人たちがもう数人いたら、時代の流れを相当止められるんですよ。少なくとも戦後の議会はそうなればいいと思って僕は政治参加してきたけれど、現実にはそれと逆の方向に進んでいます。今、上に盾突く(たてつく)人間は国政に出られないですよ。だけど、上に盾突くことができる人間の中にしか「人材」はいないんですよ。そう思いますね。

安達:
中北さんは 政治学者の立場からいかがでしょう?

中北:
イギリスモデルで小選挙区制を入れることについて「これが国際標準だ」というような言い方がされましたが、イギリスが国際標準だなんていうのはおかしいんですよ。イギリスはかなり特殊なアングロサクソンの国です。世界的に見ても大陸ヨーロッパは比例代表制が多いですし、さまざまな国がさまざまな「国のかたち」を模索し、微修正しながらやってきている。イギリスだって、たとえば首相の解散権を制限したり、解散権の制限をやめたり、といったことを試行錯誤しながらやっているわけです。何かイギリスモデルみたいなものがあらかじめあって、それを追求しているわけじゃないんですよ。イギリスは経験主義の国ですからね。

そうだとしたら、日本は日本で培ってきたあり方を徐々に改善・改良するという発想でやるべきなんだけども、イギリスモデルで小選挙区制をボーンって取り入れちゃったものだから、いろんな不整合と弊害がいま出てきている。
小選挙区制を導入する目的として最も重視された「政権交代可能な民主主義」という目標が実現できていないわけですから、田中秀征さんがおっしゃるとおりなんです。ですから、「外国にあるからこういう制度を導入しよう」という安易な発想からは脱却して、自分たちが現に持っている政治を直視し、どこが問題点なのかを考え、そこを変えていくという発想に立たないといけません。こんなに強い派閥がある国なんて外国にはないといった理由で派閥解消論が飛び出したりすると、また変な処方箋が出てきて、大きな弊害を生んでしまうじゃないかと思います。

勉強会、演説会、パーティー

安達:
そうですね。ご指摘いただきました通り、当時の政治改革でも「選挙制度改革」の問題と「政治とカネ」の問題の2つを解決しなきゃいけないというのが議論の始まりだったと思うんですけれども、選挙制度改革ばかりに焦点が当たるようになった。
「政治とカネ」の問題はいくつか制度改正がありましたけれども、今また「政治とカネ」の問題が起きているということは、やっぱり何かこの時の政治改革で足りなかったことがあるんじゃないか? という指摘はもっともだと思うんですよね。保阪さんはその点いかがでしょうか?

保阪:
私は政治家とそんなに付き合いがないので詳しくは知りませんが、何人かの人たちからこういう提案を受けたことがあります。つまり「自民党や立憲民主党の人の中で歴史のあることに興味を持っている国会議員7,8人で勉強会をやりたいんだけど、話をしてくれないか? 毎月1回、恒常的にやっていきたいんだ」っていう機会があって、3年間やったんですね。

その時に、自民党の1人の人は「こういうのをやると、保阪さん、ギャラが違うんだけど、ギャラはどうする?」って言う。それで「いや、僕はそんなのいらないけど、ディスカッションをしたり、そういうことだったらやりたい」って言ったら、「じゃあ、与野党含めてこういうふうにしよう。出席者はその日3,000円か5,000円払う。それが保阪のギャラになる」と。で、「もし食事の時間になったら秘書が1,000円くらいの弁当を買いに行く。それでお互いにそれ以上は使わない」っていう形の勉強会をやったんですね。その時に自民党から4,5人来ていたんですが、共通していたのはその人たちはみんなむちゃくちゃ選挙が強いことです。つまり2世というようなことでしょう。そして同時に本当によく本を読んでいる。で、まだあんまり表に出てきてないけど、こういう人たちがやはり出てくるんだろうなあと私は思います。

それに対して立憲民主党の側は、どちらかといえばそういう歴史の話をすぐ政治の場面に使うんですね。演説とか何かの時に。そうじゃなくて、あなた自身の知識とする。それで私も知識を深めたいという考えで、10人くらいでやってたんですが、その勉強会を提案してきたのは自民党の人なんですよ。その人は多分むっちゃくちゃ本を読んでますね。驚くほど本を読んでます。そして、お父さんもおじいさんも政治家なんだけど、よく問題のあり方をとらえているんですね。

報道されているのと全然違う。つまり自民党の中には偉材はやっぱり相当いるんだけど、そういう人たちを見るとバックグラウンドがきちっとしているので支えられているんだなあと感じました。そういういい条件から出てきている質のいい人がいるのを見ると、これは2世、3世を単に批判するだけではいけないなあと思いました。たとえば次回の勉強会の日を決めるのに「次は何日がいい?」と聞くと、彼は「いつでもいいですよ。でも金曜と土曜と日曜はやめてください」って言う。「何でですか?」って聞いたら、どうも自民党のすごく危ない選挙らしく、まあいろいろ説明していたけど、そういうのを見るとね、選挙というものでどれだけ頭を使っているのかと思う。しかし自己向上心を持っている隠れた偉材というのはいっぱいいると思いますね。
そういう人たちが派閥の中にいたり、いなかったりしていますが、そういう人たちがチャンスを与えられて自分の政見を世に訴えて、それを世間が評価するという流れを作っていきたいなっていう感じがしますね。

安達:
政治資金パーティー導入の時も、ああいう形のパーティーじゃなくて、いま保阪さんが言われたような勉強会の会費みたいなイメージで議論されていたという記憶もあるんですけど、田中さんも選挙の時に演説会をして会費を取って参加者を募っていたという話を聞いています。

田中:
よく言われるんですけど、お金を出して話を聞いてくれる人のほうが熱心に聞いてくれるんですよね。映画でもそうですが、切符をもらったのは行かないけど、自分で買えば足を運んで見る。だからたとえば500円をいただいて1,000人が集まった場合の熱気はすごいですよ。りんご農家のおばさんたちが聞きながら一生懸命メモをとり、選挙ではもうすごい力になってくれる。戦前はそういう演説会が多かったんですよね。
あんまりその話題は好きじゃないんですよ。別に格好つけてやっていたわけじゃないからね。でも、そのほうがいいんですよ。そのほうが一生懸命聞いてくれて、政策を理解して選挙戦も進めてくれることになるので。

安達:
確かに、本なんかでも人から頂いた本はなかなか読まない。やっぱり自分で買った本のほうが読むなあという感じがします。

保阪:
代議士の部屋に行った時にですね、積んである本を見ると分かりますね。「ああ、この人、全然勉強してないなあ」とか。僕は後藤田正晴さんの部屋によく行ったことがあるんですが、原書で読んでいた時もあるんですよ。「何で先生、原書で読むんですか?」って聞いたら、「いやあ、イギリスでこういう本が出ていると聞いて、辞書を片手に読んでいるんだよ」って言っていた。

やっぱり年齢に関係なく向上心のある人はいるわけで、そういう人たちの政治活動に対しては国民が支えるという心理が大切だと思います。支える時には精神的な支えや金銭的な支えなどいろんな支えがあるんでしょうけど、そして金銭的な支えだけを要求するような代議士もいるんでしょうけど、そうではない代議士は国民の側が金銭的にも支えてあげたい。それが献金でしょ、本当に心からの献金。そういうものがやっぱり代議士を支えていくような仕組みをかなり一般化していかなきゃいけないなって感じがしますね。

安達:
野党の国会議員の名誉のために申し上げますと、野党の中にもすごく勉強されている先生もいますので。中北先生もずいぶん政治家とのおつきあいがあるかと思いますが?

中北:
今の話、私はすごく重要だと思います。やっぱり政治家は有権者の方々に支えられて出てくるものですよ。政党が国庫からの政党交付金に依存しすぎている現状は問題です。当初、政党交付金について「3分の2条項」というものがあって、前年度の収入実績の3分の2以下しか政党交付金を支給しない制度だったけれども、村山内閣の時に廃止されました。結局、政党本部では、たとえば民主党系だと8割ぐらいを政党交付金に依存する状態になっている。本来なら徹底して個人献金を集める仕組みを作るというのが本筋で、大胆に税額控除を入れていくとか、ふるさと納税の仕組みを活用するとかでもいいと思うんですが、そういう方向じゃないと政治はよくならないと思います。

今回の事件を受けて、政治資金パーティーを禁止すべきという声もありますが、僕はパーティーが本来は悪いものだとは思っていません。パーティーは一種の献金ですよ。「政治家に会える券」付きの献金なので、よく運用すれば、たんに献金するよりも、政治参加という観点からいって、よっぽどいいものだと思います。そのパーティーが悪用されて、企業が出席しない多くのパーティー券を買うというのが問題なのです。そうだとしたら、有権者が我が事のように応援する政党・政治家に対して身銭を切って個人献金することを奨励していくようにしていかないと。どんどん人々が観客になって、政治家は汚いということで叩くだけになってしまいます。それこそ戦前の道になりかねない。どうやったら観客民主主義に陥らないかということは、いま我々に突き付けられている重要な問題だと思いますね。


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