【出演者】
関根:関根嘉香さん(東海大学 理学部 化学科 教授)
聞き手:星川幸 キャスター
体臭を科学的に分析すると病気が分かる?
――体臭で、体の状態が分かることがあるんですか。
関根:
そうなんですね。実は最近、この体臭と病気の関係が少し分かってきたんですね。
例えば、今、私どもがやっている研究で、がんにかかった方の皮膚ガスを調べているんですけれども、がん患者さんと健常者さんを比べますと、この皮膚ガスの構成がやっぱり違ってくるんですね。ですので、がんか、がんでないか、今後の病気の診断に役立つのではないかというふうに思って、研究しております。
――体のにおいが、病気の発見につながるかもしれない。これはすごいですね。
関根:
実は漢方医学などでも、患者さんのにおいを嗅ぐことが診断の1つとして重要視されていました。ですので、昔から体臭とか口臭というのは、体の状態を調べる重要な要素だったんですね。
ですが、どうしても人の鼻というのは少しあいまいなところがありまして、少し主観的なところがありますので、客観的な評価は難しかったんです。
しかし、私どもはそれを科学的に分析して、においのもとになる、特に体臭の場合ですと皮膚ガス、これを分析して病気の診断に役立てる、このようなことを今やっております。
自分で分かる、病気や体調のにおいは?
――んー、そうした病気の可能性を示すにおい、自分で分かるというのはやっぱりちょっと難しいんでしょうか。
関根:
んー、そうなんですね。実は、がんによるにおいなどは精密な機器で分析しないと分からないんですけれども、自分や身近な人で気付ける場合もあります。
――例えば、どんなにおいだと要注意なんでしょうか。
関根:
「カビ臭い」においですね。この、カビ臭いにおいが自分の皮膚の表面からする場合は、もしかしたら健康に対する危険を知らせるサインかもしれません。
――カビ臭いにおい……まあ、押し入れの中とかそういうイメージでしょうかね。
関根:
では、カビ臭いにおいのサンプルを持ってまいりましたので、どうぞ嗅いでみてください。
――はい。小さな瓶が出てきました。ふたを開けてみますね。においを嗅いでみます……うん、ああ、久しぶりにつけたエアコンからこう出てくるような、そういうカビのにおいがしますが、こんなカビ臭いにおいが体からするということがあるんですか。
関根:
はい、そうなんですね。カビの胞子は空気中に浮遊しやすく、とても小さいので、皮膚に付着いたしますと「カビ臭として皮膚から出てきてしまう」んですね。気付かないうちに皮膚に触れたり、あるいは鼻の粘膜とか気管支に定着しやすい、ということがいわれています。ジメジメした季節などや、エアコンを久しぶりにつけたときに、カビ臭いというにおいがすると思いますけれども、このときは要注意なんですね。
で、特に気をつけなければならないのは、カビを吸い込みますとアレルギー症状が起こることがあります。中でも「アレルギー性気管支肺真菌(きかんしはいしんきん)症」という病気があるんですけれども、これを発症してしまいますと、薬でいったん改善することはできますが、元の家に帰りますと、また悪化して再燃する可能性が高いんですね。ですから、カビを生やさないように、住環境を快適に保つことが大切になります。
それと、エアコンの掃除、これもぜひ定期的に行ってください。
――ほかに、体調が分かるにおいはありますか。
関根:
例えば糖尿病の患者さん、こういう方の場合ですと、皮膚から「アセトン」というガスが出てまいります。このアセトン、どういうにおいがするかといいますと、リンゴが腐ったような甘酸っぱいにおいという例えなんかもあるんですが、「糖尿病患者さんの独特なにおい」というふうにもいわれております。
そして、このアセトンなんですけれども、一方で「ダイエット臭」なんていう呼ばれ方もしています。
――ダイエット臭ですか。
関根:
そうですね。実は私の職業柄、いろんな方の皮膚ガスの検査をするんですけれども、芸能人の方を検査しますと、アセトンが多い方が比較的多くいらっしゃるんですね。
――ダイエットをしている方が多い、ということなんでしょうか。
関根:
ご本人は、あまりしていませんよ、とおっしゃるんですけれどね。ダイエット臭のサンプルを持ってきましたんで、どうでしょう、におい、嗅いでみますか。
――はい。では、嗅いでみましょう……ああ、確かに酸っぱいような感じのにおいで、あの、マニキュアを落とすときの除光液のにおいと似ていますね。
関根:
もう、そのとおりなんです。実は、マニキュアを落とす除光液の成分がアセトンなんですね。ですから、意外となじみのあるにおいかな、というふうに思うんですけどね。
このアセトンですけれども、「糖質制限ダイエット」、こういったものを行って極端に糖質を減らしますと、出てきやすくなります。要するに、体の中で糖質はエネルギー源になるんですけれども、糖質が不足しますと肝臓で脂肪を分解して、エネルギーを作り出そうとします。そのとき、脂肪の成分は「ケトン体」という物質に作り替えられます。
ケトン体、3種類ぐらいあるんですけれども、アセトンはそのうちの1つです。揮発性がありますので、血液循環を通して皮膚から出てきて、においの原因になってしまうんですね。ですので、ダイエット臭は「ケトン臭」とも言われています。
――では最後に、きょうのポイントをお願いします。
関根:
においが訴えるサインを見逃さないでください。
【放送】
2023/07/06 「マイあさ!」
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