【出演者】
松村邦洋さん
堀口茉純さん
川久保秀一さん
2024年4月21日(日)放送の<DJ日本史>、テーマは「“好き!”をきわめた偉人たち」。
取り上げたのは、趣味・特技など自分だけの世界にどっぷりはまった人々。その「好き!」の熱量は桁外れ。周囲を驚かせ、ついにはあきれさせるほどでした。そんな熱ーい人々の生きざまとは?
みんなを驚かせるのが大好きだった! というのが、江戸時代の歌舞伎作者・鶴屋南北(つるやなんぼく)。
彼は西暦1800年頃の文化文政期にたくさんの芝居を書きましたが、中でも「東海道四谷怪談」は有名ですよね。
実は「東海道四谷怪談」は南北らしさが詰まった作品で、意表をつくアイデアがてんこ盛り。
1つは登場人物のキャラ。
たとえば、お岩さんの夫の伊右衛門(いえもん)は妻をいたぶるワルですが、いかにも悪人ぽい人ではなくすごいイケメン。こういう役どころを歌舞伎では「色悪(いろあく)」と言うのですが、南北は観客の予想を裏切る人物設定をしました。
そしてもう1つ観客を驚かせたのが、舞台の仕掛け。
東海道四谷怪談では「ちょうちん抜け」という仕掛けがあります。これはちょうちんがバッと燃えて、そこから幽霊になったお岩さんが出てくるというもの。
また「仏壇返し」という仕掛けは仏壇の奥から出てきたお岩さんが、恨む相手を仏壇の中にパッと引きずり込むというものです。
このように奇想天外、あらゆる方法を使って人々のどぎもを抜くのが好きだった鶴屋南北ですが、やがて年老いてこの世を去るときも、人々をあっと言わせています。
鶴屋南北が人生最後に仕組んだ、その仕掛けとは?
鶴屋南北は晩年床にふすと、家族を呼び寄せて言います。
「実は、言い残しておきたい大事なことがある。詳しく書いて箱に入れておく。自分が死んだら箱を開け、必ずそのようにせよ」
一体、何が書かれているのか?
弟子に向けた秘伝の教えか? はたまた、これまでずーっと秘密にしてきた「何か」があったのか?
そうした中、1829年、鶴屋南北はこの世を去りました。享年75、大往生でした。
残された人々はいよいよ箱を開けます。
中にあったのは1冊の本。
それはなんと、鶴屋南北自身が書いた自分の葬式の台本でした。
人々は中身を見て、さらにびっくり!
そこに書かれたお葬式はとても明るく、おどけたものだったのです。
台本ではまず、棺おけにいる鶴屋南北の挨拶から始まります。
「狭くはございまするが、棺の中からこうべをたれ、手足を縮めてお礼申し上げ奉りまする」
そして、こう続きます。
「私め、老衰に及びますれば、早う冥途へ行けとこれまでたびたび仏、菩薩(ぼさつ)が夢にご登場。あさましき私めは、辞退するばかり。されど定めはいかんともしがたく、彼の地に赴きますれば、誠にこれが、この世の名残」
もちろん死んでしまった鶴屋南北は挨拶できませんから、代わりにこの台本が参列者に配られたのですが、葬儀は万事こんな調子で進められたので沈んだ雰囲気はなくとてもにぎやか。寺の門前に茶店まで出し、お酒までふるまわれました。
南北らしく、死んだ後まで人々の意表をついてきたわけですね。
ちなみに、鶴屋南北人生最後のこの舞台を、当時の歌舞伎関係者はこう語っています。
「誠に、めでたきおしまいでござります……」