70歳までの就業機会の
確保を図る」安倍首相

社会保障制度の全世代型への改革に向けて、安倍総理大臣は政府の未来投資会議で、希望する人が70歳まで働き続けられるよう、現在65歳の継続雇用年齢を引き上げるため、法整備を進める考えを示しました。

総理大臣官邸で開かれた政府の未来投資会議で、安倍総理大臣は、社会保障制度の全世代型への改革に向け「70歳までの就業機会の確保を図る。来年夏に方針を決定し、早急に法律案を提出する方向で検討したい」と述べ、希望する人が70歳まで働き続けられるよう、現在65歳の継続雇用年齢を引き上げるために法整備を進める考えを示しました。

また、高齢者は身体能力や健康状態など個人差が大きいことを踏まえ、法整備にあたっては、さまざまな働き方が選択できるよう、関係閣僚に具体的な検討を指示しました。

高齢者の就労促進について、政府内では、来年夏に具体的な方針を決めたうえで、労使双方が参加する国の労働政策審議会での審議をへて、再来年2020年の通常国会に高年齢者雇用安定法の改正案を提出する方向で検討が進められています。

一方、安倍総理大臣は、新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大に向けて、企業に対し、中途採用の比率の情報公開や職務に応じた公正な評価・報酬制度の構築を求める考えを示しました。そして、みずからをトップとする中途採用に積極的な大企業を集めた協議会を設け、日本型の雇用慣行の変革に率先して取り組む考えを強調しました。

高齢者雇用拡大 働く人たちは

政府が高齢者雇用のさらなる拡大を検討していることについて、東京のJR新橋駅前で会社員に話を聞きました。

58歳の男性は、「高齢者雇用の拡大は大賛成で、自分の将来を考えると生活が不安なので、65歳から70歳ぐらいまでは働きたいと考えている。私はもう少ししたら、年金がもらえるようになるが、若い人たちが安心して働けるような仕組みを整えてほしい」と話していました。

59歳の男性は、「来年7月に定年で、会社には継続雇用をお願いしている。今後、年金が支給される年齢が上がっていくだろうから、少なくとも65歳ぐらいまで働くことはやむをえない。ただし、年をとると、けがや病気になりやすいので、労災が起きない職場づくりを進めてほしい」と話していました。

40歳の男性は、「政府の議論は社会的な流れでしかたがない。自分の父親が70歳ぐらいだが、まだまだ元気なので、70歳ぐらいまでは働かざるをえない」と話していました。

38歳の男性は、「少子高齢化である程度は年をとっても働くことが必要になると思う。現実の問題として70歳近くまで働くことになると思うので、今から体力作りと老後のための貯蓄をして備えたい」と話していました。

高齢者対象の就職面接会に訪れた人は

東京・立川市で今月18日に開かれた、主に高齢者を対象にした合同就職面接会には、多くの人が仕事を求めて訪れていました。

71歳の男性は「今の世の中は変動していて、日本も借金大国で今後どうなるかわからない。年金で暮らしているが、将来のお金と健康のため、新しい仕事をしたい」と話していました。

63歳の女性は「年金がそんなにもらえないので、将来のために少しでも貯蓄をしたいと仕事を探しに来た。自分の能力に見合った仕事があればいいなと思ったが、少ない」と話していました。

69歳の男性は「年金は家賃と光熱費などで消えてしまうので、ゆとりや安心感のため仕事を探している。賃金は多いことにこしたことはないが、低いのは年齢的に考えて致し方ない」と話していました。

また、政府が高齢者雇用のさらなる拡大を検討していることについて、70代の男性は「継続雇用の年齢を65歳以上に引き上げることはいいが、働いて稼いだ分、厚生年金の支給額を減らすようなことはやめてほしい。年金だけでは生活が厳しいので、働く意欲がわくように制度を設計してほしい」と話していました。

65歳の男性は「元気な高齢者が増えているのでいいことだと思う。しかし、高齢者の仕事は警備員や交通誘導員、それに介護職といった肉体労働の仕事が多く、60歳を過ぎると体力が落ちているので厳しいのも現実だ。それ以外となると、若い人から仕事を奪うことにもなるので、十分に検討してほしい」と話していました。

高齢者雇用を積極的に進める企業も

政府が高齢者雇用のさらなる拡大を検討する中、高齢者雇用を積極的に進めている企業もあります。

現在の法律では、企業は働くことを希望している人について、定年を廃止・延長したり、定年後、再雇用したりするなどして、65歳まで継続雇用することが義務づけられています。

こうした中、東京・杉並区にある建設会社はおととし、定年を65歳に引き上げたうえで、「健康である」などの一定の条件を満たせば、年齢に関係なく、いつまでも働き続けることができる制度を取り入れています。従業員は現在37人で、このうち、5人は60歳以上です。

最年長の70歳の高田照雄さんは石川県に家族を残し、単身赴任で働いています。この会社では定年を引き上げた際、出勤した日数に応じて支払っていた賃金を月給制にし、年齢にかかわらず、より能力を反映した賃金制度に改めました。高田さんは主に現場監督をしていて、毎月の給料はおおむね40万円を超えています。さらに年3回のボーナスを加えれば、定年前の給料とほとんど変わらないということです。

高田さんは「同じ年代の人に比べて多くもらっているので、給料には満足している。年金には期待できないので、働けるうちは稼いでおきたい」と話しています。

さらに、この会社は従業員の健康面にも配慮していて、60歳を超えている人に対しては持ち運びができる血圧計を支給して、仕事の前に血圧を測るよう指導しているということです。また、装備の軽量化のため、ねじを締める道具を特注したり、安全性の高い装備を2年ごとに会社が購入して従業員に支給したりしています。

高田さんは「血圧が高めなので健康に気をつけていて、深酒をせず、飲みすぎないようになった。装備は1日中身につけるので軽いほうが体に負担が少なく、ありがたい。元気なうちは頑張って働きたい」と話しています。

この会社が高齢者の雇用を積極的に進めている背景には、人手不足の中、若手の採用が難しいという現状があります。事業を拡大するには人材が必要なため、技術を持つ健康な高齢者に働いてもらいたいという狙いがあるということです。実際に業績も伸びていて、去年の売上高は過去最高になったということです。

会社の磯上武章会長は「やる気のある人には働きやすい環境を整えることが大切で、コストはかかってもトータル的にはプラスになる。今後も高齢者を中心に仕事を拡大していきたい」と話しています。

専門家「高齢者の能力に見合った賃金を」

政府が高齢者雇用のさらなる拡大を検討していることについて、高齢者雇用に詳しい慶應義塾大学の山田篤裕教授は「高齢者の人口が増えてきたが、今後、その伸びは緩やかになる一方で、15歳から64歳までの生産年齢人口の減少が加速していくことが予想されている。そのため、いわゆる『団塊ジュニア世代』が65歳になる2040年までに何らかの形で高齢者が働ける環境を考え、労働力を維持しなければならないということが背景にある」と話しています。

そのうえで「継続雇用で働く人たちの現状は賃金が大幅に切り下げられる人が多い。このため、能力に応じた賃金を支払われなければ能力のある人から辞めていき、企業はしっぺ返しを食らうことになる。高齢者の雇用を進めていくためには、企業は高齢者の能力に見合った賃金を支払うことが必要だ」と指摘しています。

また「企業は働く高齢者の健康面や安全面に今まで以上に気をつけることが必要だ。中には貯蓄が少なく、持ち家もなくてやむにやまれず働かなければならない人もいる。国は高齢者が健康を害してまで働くことがないよう、高齢者を守るセーフティネットを強化する必要がある」と話しています。