18歳の新入生から成人に
若者が考える「主権者教育」

「主権者教育」という言葉、みなさんはご存じでしょうか。国や社会の問題を、みずから考え行動していく「主権者」の育成を目指そうと国が推進している教育方針の1つです。
愛媛県内には、中高生や大学生が中心になって子どもたちの「主権者教育」を進めているNPO団体があります。
この春、成人年齢の引き下げに伴い、成人を迎えた1人の大学生を追いながら、若者たちが考える「主権者教育」についてみていきます。
(松山局 奥野良)

新入生全員が成人

4月6日、松山市の県民文化会館で愛媛大学の入学式が行われました。
ことしの新入生は、例年とは少し違った心持ちです。ことし4月に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられ、新入生の全員が「成人」だからです。

村田朋樹さん(18)もその1人。
この春、高校を卒業してから、この日を迎えるまで「成人になる」ことについて思いを新たにしてきました。

「成人」になる 当事者の実感は

村田さんが所属するNPO団体「NEXTCONEXION」には、中学生から大学生までおよそ50人のメンバーがいます。「成人」になることについてこの日は、同世代のメンバー3人が集まり、意見を交わしました。

「急にさ、18歳になったからあなたは大人ですよって言われるけど正直実感ないよね。18歳になった途端やん。このまま大人になるのが怖いし。大丈夫かなと思う」

「あまり気にしたことないって言ったらうそになるけど、成人になったからといって思いが変わったとかはないかも」

「私は20歳だけど、それは別に20歳になったとしても特に何か思いが変わったとかはないかな」
(年齢はことし4月現在)

当事者にとって「成人」になることについてあまり実感はないようです。一方で、まだまだ「成人」になるための知識や経験は不足しているという感覚はありました。

「僕らの代は、新型コロナの影響で授業がオンラインとかで配信されることもあって、資料を配付されて、理解できずにいるみたいな状況が多いと思う。もう少し、お金とか契約に関する知識とかを早くから身につけられたらいいかも」

若者が考える「主権者教育」

若い世代が「主権者教育」についてみずから考え、伝えていく。
村田さんの所属するNPO団体では、5年前から小学生を対象に「主権者教育」をテーマにしたイベントを開いています。自分たちよりも若い世代に早くから世の中について知ってもらいたいという狙いがあります。
ことしのイベントの運営には村田さんたちを中心に、中高生20人余りが携わりました。

小学生に学んでほしい身近な社会課題をメンバーたちでリストアップしました。
イベントに参加する小学生だけでなく、運営側のメンバーも事前に下調べをして、正しい知識を伝えるための準備が重要です。また、主権者教育を「楽しく分かりやすく」学んでもらうことを心がけています。

「学校とか大人たちの考える『主権者教育』って『選挙に行こう』っていうイメージが強くて、それではあまり小学生には伝わらない。自分は大人になるための教育だと思っていて、体が大人になるんじゃなくて、心も知識を蓄えてそれを活用できるような大人になっていくっていうのが自分の中の主権者教育で、身の回りの小さな課題から知ってほしいと思っています」

イベント本番

イベントの本番当日。架空のまち「こどもタウン」を作り、各ブースで事前に決めたテーマなどについて学んでもらいます。ことしはオンラインでの開催。小学生25人が参加しました。

「食品ロス」について考えるブースでは、高校生が説明を担当します。

「いま、世界でも日本でも毎日の生活で食べ物が捨てられてしまう現象が発生しています。なんと呼ぶのか知っていますか?」

「食品ロス」

「正解!食品ロスとは本当なら食べられるのにそれが捨てられてしまっていることをいいます。ここで考えて欲しいのが、なんで捨てるのがだめなんだろうということです…」

単にことばを知っているか質問するだけでなく、何が問題なのか、その理由についても作成した資料を使って分かりやすく説明します。

こちらのブースでは、中学生がゴミの分別と地球温暖化の関係について説明。

「突然だけど質問です。お家で鼻をかんだティッシュはどうしている?」

「捨てています」

「なんでごみの分別をしないといけないと思う?もし1番ひどくなったら人間がこの地球に住めなくなっちゃう。だからごみの分別っていうのはちゃんとしなきゃいけないんだよ」

説明の内容が参加者に伝わっているか、村田さんも寄り添ってやりとりを見守ります。

会場の一角には投票所も設置されました。投票箱も自治体からの協力を得て、実物を置いています。それぞれの団体が掲げる税金の集め方や街作りの方針について、説明を行い、小学生に1つを選んで投票してもらいます。

イベントを通じて得た「責任」

イベントの準備期間はおよそ6か月。運営の中心を担う大きな役割を終えた村田さんはイベントを通じて自分自身の成長も感じていました。

「成人になることは責任を持つこととこれまで言われていましたが、イベントの成功を通じてこの責任がやりがいにつながることを実感できました。責任感を持ちながらも、自分のしたいことにどんどんチャレンジしていきたいと思います」

大学生として、そして成人として新たな1歩を踏み出した村田さん。
中学校の社会の先生になるという夢をかなえるため、大学でさらに学びを深めていきます。

取材後記

中高生、そして大学生らが主体となって進められている「主権者教育」のイベントを取材してみて、何より参加する小学生たちが楽しそうに積極的に発言していたのが印象的でした。
子どもたちにより近い存在、いわば子どもと大人をつなぐ世代による「主権者教育」は参加者だけでなく運営側の学びにもつながっていました。
かつてイベントに参加した小学生が運営側にまわり、年代を超えて循環する流れも生まれていました。
選挙権年齢や成人年齢の引き下げに伴い、さらに求められていく「主権者教育」に関する世の中のさまざまな動きを今後も注目していきます。

松山局記者
奥野 良
2019年入局。警察・裁判取材を経て現在、行政取材を担当。趣味はサッカー観戦で、国内だけでなくヨーロッパのスタジアムにも足を運ぶ。