き方改革法案 成立へ
「夫のような人が…」批判も

政府・与党が最重要法案と位置づける働き方改革関連法案は、参議院厚生労働委員会で28日夜、採決が行われ、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決されました。法案は、29日の参議院本会議で、可決・成立する見通しです。

働き方改革関連法案の参議院厚生労働委員会での審議をめぐり、立憲民主党と共産党などは、28日の採決を認めるわけにはいかないとして、島村委員長の解任決議案を提出しました。

決議案の取り扱いについて、参議院議院運営委員会の理事会で協議が行われ、立憲民主党などは29日、本会議で採決するよう求めましたが、与党側は、決議案の提出に参議院野党第1党の国民民主党が賛成しておらず、諮る必要はないと主張して折り合いませんでした。

このため、議院運営委員会で採決が行われ、本会議に決議案を諮らないことを決めました。

これを受けて、午後7時ごろ、厚生労働委員会が再開され、法案の採決が行われた結果、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決されました。

また、日本など11か国が参加するTPP=環太平洋パートナーシップ協定の関連法案も、参議院内閣委員会で採決が行われ、自民・公明両党などの賛成多数で可決されました。

これを受けて、参議院議院運営委員会は28日夜、理事会で、29日に本会議を開いて、働き方改革関連法案とTPP関連法案の採決を行うことを決めました。

両法案は、与党などの賛成多数で、可決・成立する見通しです。

過労死の遺族「夫のように亡くなる人また出る」

19年前に小児科医の夫を過労自殺で亡くし、「東京過労死を考える家族の会」の代表を務める中原のり子さんは「働く人の声を聞かずに議員の数の力で押し通すやり方は本当に悲しいし、遺族として残念であり無念だ」と述べました。

そのうえで、「夫は高度プロフェッショナル制度を先取りしたような働き方をしていて、法律が成立すれば、夫のように亡くなる人がまた出てきてしまうのではないか。高度プロフェッショナル制度は、労働時間の規制から外して働かせる非常に危険なもので、働く人の命や健康、それに家庭を守ることができなくなるということを訴え続けたい」と話していました。

連合会長「1強政治の弊害」

連合の神津会長は、記者会見で「『高度プロフェッショナル制度』を削除すべきという野党の考えを一顧だにせず、政府・与党が数の力で押し切ろうとしているのは極めて遺憾で、1強政治の弊害が表れている」と述べました。

一方、28日の委員会採決をめぐって、立憲民主党と国民民主党の対応が分かれたことについて、神津会長は「両党は国民世論との関係で、どう対応するか熟慮したうえで、対応をとっていると思う。どちらがよいか、悪いかという論評は控えておきたい」と述べました。

法案をめぐる論点と懸念する点は

働き方改革関連法案をめぐる議論で最大の焦点となっているのが、「高度プロフェッショナル制度」です。

「高度プロフェッショナル制度」は、高収入の一部の専門職を対象に働いた時間ではなく、成果で評価するとして労働時間の規制から外す新たな仕組みです。

制度のメリットについて、厚生労働省は高度な知識を持ち、自分で働く時間を調整できる人は労働時間に縛られず、柔軟に働くことができると説明しています。

一方で、野党側は、さまざまな点で懸念があると主張しています。

1つ目は長時間労働が助長され、健康確保が十分できないのではないかという点です。

制度が適用されると、深夜や休日労働の際、労働基準法で企業に義務づけられている割増賃金の支払い義務がなくなることから、野党側は、長時間労働に歯止めがかからなくなるのではないかと主張しています。

また、法案では労働者の健康を確保する措置として、年間104日以上の休日確保などを義務づけていますが、休日が確保できていればどれだけ働いても直ちに違法にはなりません。

これについて、厚生労働省は「制度は、企業側と労働条件を交渉できる専門的な知識や能力の高い人に対象を限定している。過重な業務命令がされた場合には、労働基準監督署が判断し、通常の労働時間管理に戻される可能性もある」としています。

2つ目は、対象となる業務が拡大されるのではないかという点です。

法案では、制度の対象となる労働者について「平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準」で、「高度の専門的知識を必要とし働いた時間と成果の関連性が通常高くないと認められるもの」としています。

厚生労働省は、年収が1075万円以上の証券アナリストや医薬品開発の研究者、経営コンサルタントなどが想定されるとする一方、最終的には法案成立後、省令で定めるとしています。

しかし、対象となる業務は、国会での審議を行わずに変更することができるため、野党側は十分な議論をせずに拡大されるのではないかと主張しています。

また、かつて創設されてきた労働者派遣や裁量労働制で対象となる労働者が法律や政令の改正で広げられてきたため、「高度プロフェッショナル制度」でも今後、規制が緩和されていくのではないかという懸念も野党側から指摘されていました。

このうち、労働者派遣については、昭和60年に労働者派遣法が制定された際には、通訳や秘書など専門的な業務のみでしたが、その後、急速に拡大し、一般事務のほか、「労働者への影響が大きい」として認められていなかった製造業も対象になりました。

また、裁量労働制も、昭和62年の労働基準法改正で導入された際には、システムエンジニアなど5つの業務の「専門業務型裁量労働制」に限定されていましたが、その後、19の業務にまでに拡大され、平成10年の法改正で経営に関わる企画立案などを行う「企画業務型裁量労働制」が追加されました。

野党側の懸念に対し、厚生労働省は「要件は法律で定められており、対象業務を具体的に決める際には労使双方が参加する労働政策審議会で議論されるので、むやみに対象が広げられることはない」としています。

ヒアリング手法にも批判が

高度プロフェッショナル制度をめぐっては、厚生労働省が制度の検討過程で、労働者から行ったとするヒアリングについても野党側から批判が上がっていました。

このヒアリングは、厚生労働省が高度プロフェッショナル制度の対象になると想定される業務の労働者から、現在の働き方やその課題などについて聞き取ったもので、今月12日に詳細が明らかにされました。

それによりますと、聞き取りをした労働者は、5つの会社で合わせて12人でした。

また、その時期は、12人中9人が、働き方改革関連法案の要綱が厚生労働省の審議会で「おおむね妥当」として答申されたあとのことし1月と2月だったということです。

さらに、聞き取りにあたって、会社の人事担当者が同席した人が9人いたということです。

こうした点について、野党側からは「ヒアリングの人数が少なく、タイミングも遅い。実態の把握が不十分なのではないか」とか、「人事担当者が同席していて本当の声が聞けるのか」、「制度の必要性はないのではないか」などと批判が上がっていました。

これに対し、厚生労働省は「高度プロフェッショナル制度は適用を望む労働者が多いから導入するのではなく、多様で柔軟な働き方の選択肢として創設されるものだ」と説明していました。

自民 石田氏 国民の対応評価

参議院厚生労働委員会の与党側の筆頭理事を務める自民党の石田昌宏氏は記者団に対し、「解任決議案の提出は採決引き延ばしのための党利党略で、参議院野党第1党で一番責任が重い国民民主党が賛成しなかったのは当然だ。委員会ではたくさんの不備が指摘されたので、運用にいかされるかしっかり監視していきたい」と述べました。

立民 那谷屋氏「国会が軽視」

立憲民主党の那谷屋参議院国会対策委員長は記者団に対し「とんでもない法案が数の力で可決された。政権が長く続くことにより、おごりが生じ、国会が軽視されている。何とかこの状況を打破しないといけない」と述べました。

一方、那谷屋氏は、立憲民主党などが提出した参議院厚生労働委員長に対する解任決議案に国民民主党が加わらなかったことについて、「野党がバラバラというのは、与党が喜ぶ話で与党は大笑いしていると思う。重要法案のIR法案では、野党が一致団結して取り組みたい」と述べました。

国民 舟山氏「付帯決議は大きな前進」

国民民主党の舟山参議院国会対策委員長は記者会見し、「『野党が最大限、何が出来るか』と考えた時、審議で明らかになった問題点を 付帯決議という形で残し、法案に歯止めをかけていくことが最大限のことで、大きな前進だと思っている。委員長の解任決議案に関して、野党で対応が割れたのは残念だが、重要法案が残っているので、連携を取る努力をお互いにしていきたい」と述べました。