「新型出生前検査」
医療機関認定に国も関与

妊婦の血液を分析して胎児の染色体に異常があるかを調べる「新型出生前検査」について、国の方針が変わる見通しとなりました。
今後は、検査を行う医療機関の認定に国も関わり、妊婦向けの情報提供も行っていくとした報告書を、厚生労働省の専門委員会がまとめました。

「新型出生前検査」=「NIPT」は、妊婦の血液を分析して胎児の染色体に異常があるか調べる検査で、専門的なカウンセリングを行うなど一定の条件を満たした医療機関が日本医学会の認定を受けて実施しています。

国は、いわゆる「命の選別」につながりかねないとの指摘もあることから、これまで医療機関の認定には関与せず、妊婦に対する情報提供も控えてきました。

ところが、学会の認定を受けずに検査を行う医療機関が増えていて、厚生労働省の調査では皮膚科や美容外科など産婦人科以外のクリニックが参入し、十分なカウンセリングが行われていないケースもありました。

このため、厚生労働省の専門委員会は対策について議論を進め、31日、報告書の概要を取りまとめました。

それによりますと、今後は検査を行う医療機関の認定に国も関与するとしていて、専門的なカウンセリングができる医療機関と連携する地域の産婦人科などでも検査が受けられるようにするとしています。

また、妊婦向けに正しい情報を提供するため、ホームページでの情報発信を行うほか、保健所などに設けられた「女性健康支援センター」で検査に関する相談窓口の整備を進めるなどとしています。

ただし、情報提供は検査を受けるよう呼びかけるものではないとして、中立的で誘導にならない形での相談を受けられるよう自治体で体制整備を進め、障害のある子どもの子育てや暮らしに関する情報も発信していくとしています。

座長「正確な情報提供が重要」

厚生労働省の専門委員会の座長を務めた聖路加国際病院の福井次矢院長は「十分なカウンセリングのない施設で多くの妊婦が検査を受けていたのは、倫理的にも医学的にも非常に大きな問題だったため、議論を進めてきました。これまで積極的に情報を伝えなかったことで、妊婦が質の悪い情報を見ることにつながってしまっていたため、今後は正確な情報を提供していくことが大変重要になります」と話しています。

そのうえで「かなり幅広い知識がないと妊婦や家族が倫理的に適切な判断をすることは難しく、必要な情報も一律ではなく1人1人のニーズに配慮していかなければなりません。今後、妊娠初期に説明にあたる担当者の教育や研修を実施して体制を構築していく必要があります」と話していました。

赤ちゃんの染色体に異常と判定された女性 どう考えた

去年、新型出生前検査を受けて赤ちゃんの染色体に異常があると判定された40代の妊娠中の女性が、どんな悩みに直面し、どんなサポートを必要としたか語ってくれました。

女性は不妊治療の末に妊娠し、高齢出産だったため検査を受けることを検討しました。

まずはインターネットで情報を集め「認定施設」と「非認定施設」があることを知り、非認定施設は検査費用が安かったことから、どちらで受けるか悩んだと言います。

女性は当時を振り返り「不妊治療でかなり出費がかさんんでいたので、費用を抑えられるのであれば抑えたいと思っていました。ただ、通っていた産婦人科のクリニックに相談したところ、検査後のサポートがしっかりしている施設で受けたほうがいいと言われ、認定施設で受けることを決めました」と話していました。

そして、産婦人科のクリニックから紹介してもらった「認定施設」の医療機関で検査前のカウンセリングを受け、染色体異常のことや、検査で分かることなどについて理解を深めてから、改めて検査を受ける決断をし、採血をしました。

検査結果については夫婦で医師から説明を受けました。

クリニックで目にした検査結果の用紙に、ダウン症の可能性を示す「21トリソミー」「陽性」の文字が目に入った時は、大きな衝撃を受けたということです。

女性は「頭がもう真っ白になりました。夫の顔も見ることができず、ただ結果が書かれた用紙をじっと見ていました。その時は全く知識もなかったので、育てられるのかなという気持ちのほうが大きかったです」と話していました。

女性は「育てられるかどうか判断するため、いろいろな情報を知りたい」と医師に伝えて、ダウン症協会の人を紹介してもらいました。

ダウン症の3歳の子どもがいる家族と成人している子どもがいる家族の2組と会って話をしたということです。

子どもや家族の笑顔に触れただけでなく、治療費についても聞けたことから、夫婦の家計と照らし合わせて具体的にイメージできたと言います。

さらに、小児科の医師にも話を聞き、生まれたあとにどういう治療をすればいいのか、小学校に進むときにはどういう選択肢があるのかなど説明を受けました。

一方、妊婦や家族を支援している団体から、中絶をした家族を紹介してもらって話を聞き、さまざまな情報をもとに夫婦で話し合いを重ねました。

将来の不安はありましたが、2人で選んだ答えは「育てよう」というものでした。

女性は「私たちの20年後も見えないのに、この子の20年後を私たちが勝手にイメージして想像して、悲観しているのはおかしいよねと、だったらこの子を愛情たっぷり育てて、楽しく過ごそうと、ハードルを1つずつ越えて家族になろうと、2人で納得しました。いろんな人の話を聞いて少しずつ覚悟を持てたことはよかったです」と話していました。

一方で、自身の経験を振り返り「もし検査で異常が分かった時にどうするかということをきちんと考えてから受けたほうがいいですし、障害のことももっと詳しく知ってほしい」と話していました。

女性は出産を今年5月に控えています。

検査に必要な「専門的カウンセリング」

検査に必要な、専門的なカウンセリングとは、どのようなものなのか。

学会の認定を受けて新型出生前検査を行っている施設の1つ、大阪大学医学部付属病院では、産婦人科医だけでなく複数の分野のスタッフが連携して対応しています。

この病院では検査の希望者に対してまずはおよそ1時間、遺伝診療部のスタッフによる専門のカウンセリングを行います。

検査で分かるのは先天性疾患の一部であること、可能性を調べる検査のため、陽性だった場合はおなかに針を刺す羊水検査などで確認する必要があることなどについて理解してもらいます。

そのうえで検査を受けることを決めたら予約をとってもらいますが、検査当日にも改めて意思確認を行ってから採血を実施します。

そして、検査結果を伝える際にも最大1時間、専門のカウンセリングを行います。

その後も希望に応じて小児科医に話を聞く機会をつくるなど、さまざまな専門分野のスタッフが連携して妊婦や家族をサポートしているということです。

大阪大学医学部付属病院の産婦人科医、遠藤誠之さんは「医療者と違う立場のカウンセラーが長い時間をかけて話をしていく中で、ご夫婦にとって何が大切なのか見いだしていくプロセスは非常に重要です。妊娠中のことだけではなく、生まれたあとのことを知りたいときには、実際にお子さんと接している小児科の先生が話をすることも大切です。出生前検査では、多職種で連携することが特に大切なことだと思っています」と話していました。

医療機関以外のサポートも

検査をめぐっては医療機関のほかにも当事者をサポートする取り組みが必要とされています。

このうちNPO法人の「親子の未来を支える会」では、妊婦や家族がインターネット上で情報を共有したり相談したりするオンラインピアサポートを実施しています。

検査を受けるか悩んでいる人、結果が出るまで不安を抱えている人、結果を受けてどうするか悩んでいる人など、さまざまな相談が寄せられているということです。

出生前検査をめぐっては、安心して話せる相談先が限られていて、妊婦や家族が孤立してしまうケースが多いということで、4月から中立的な立場で相談を受け付ける「胎児ホットライン」を開設することにしています。

NPOの代表理事で産婦人科医の林伸彦さんは「検査について情報提供が進むことで、これからはより広く知られるようになるので、不安になってしまう人が増える可能性があります。『胎児ホットライン』でも、その不安を整理したり、どんなサポートがあるか伝えていく必要があると思っています」と話しています。

そのうえで「検査をめぐる悩みや葛藤は短期間で終わる話ではなく、産むにしても産まないにしても、その後10年20年、悩んだり後悔したり、いろいろな気持ちがあるので、必要に応じて長期的に関われる場所をつくっていきたいです」と話していました。

日本ダウン症協会がメッセージ

「新型出生前検査」ではダウン症などの3つの染色体異常があるかが判定されます。

日本ダウン症協会は、ダウン症のある人に向けたメッセージを発表しています。

メッセージでは「テレビや新聞で『ダウン症』といっしょに『中絶』という言葉も出てくることが多いですね」と語りかけ「『ぼくは(わたしは)生まれてこないほうがよかったの?』とわたしたちに聞いた人もいます」としています。

そのうえで「けっしてそんなことはありません!わたしたちは、みなさんが生まれてきたことに心から『おめでとう』と言います。みなさんがわたしたちの家族や友だちとしてそばにいてくれることに心から『ありがとう』と言います」「みなさんは、毎日、自信をもって生活してください。みなさんがいてくれるのでわたしたちは元気になれます」「だから、なにも心配しないでくださいね」と呼びかけています。

また、日本ダウン症協会は今回の議論をふまえて、29日、厚生労働省の専門委員会に要望書を提出しました。

この中では、検査や情報提供の在り方が、ダウン症の人たちや家族に対する差別を助長したり、これらの人たちを傷つけたりすることのないよう、十分な検討と配慮を求めています。

また、情報提供の内容や方法によっては、ダウン症は検査して産むか産まないか選択しなければならないような障害であるという、誤った理解を広めてしまうなどの懸念がぬぐえないとして、十分な議論を尽くしてほしいとしています。