気回復局面5年11か月
戦後最長ならず 内閣府

内閣府は2012年12月から始まった景気回復の局面が、おととし10月までの5年11か月だったと認定しました。景気回復の期間について政府は「戦後最長になったとみられる」という認識を示していましたが、30日の認定では、回復が6年1か月続いた「いざなみ景気」には及ばず、長さは戦後2番目になりました。

内閣府は、景気回復と後退の時期を学者やエコノミストらでつくる研究会で判断しています。

30日の会議では、2012年12月から始まった景気回復の局面が、いつ終わったか検証され、景気後退期への転換点となる景気の「山」が2018年の10月だったと認定しました。

11月からは後退局面に入ったことになり、アメリカと中国との貿易摩擦の影響で輸出や企業の生産が一段と低迷し、去年10月に消費税率が引き上げられたあと、消費も落ち込みました。

去年1月の時点で、当時の茂木経済再生担当大臣は、記者会見で「景気回復の期間は戦後最長になったとみられる」という認識を示しましたが、30日の認定では、この時点ですでに後退局面に入っていたことになります。

景気回復の期間は5年11か月となり、2002年2月から6年1か月続いた戦後最長の「いざなみ景気」には及ばず、長さは戦後2番目になりました。

この間のGDP=国内総生産の年間の伸び率は0%台だった年もあり、過去の回復局面と比べても低い経済成長にとどまり、実感の乏しい回復となりました。

政府の景気認識とのずれは

30日認定された景気回復の期間は、2012年12月から始まったとされ、これは第2次安倍内閣の発足と同じ時期に当たります。

2013年4月からの日銀の大規模な金融緩和もあって2011年に1ドル=75円台の超円高になっていた円相場は、急速な円安となり、株価の回復傾向も強まります。

自動車産業など輸出企業の業績が回復して雇用情勢も改善に向かい、有効求人倍率はおととし・2018年8月には1.63倍と、およそ45年ぶりの高い水準になりました。

一方で2018年の夏ごろから米中の貿易摩擦などの影響で輸出や企業の生産が停滞し始めていました。

そして今回、景気の回復局面は2018年10月で終わったと認定されました。

去年1月の時点で当時の茂木経済再生担当大臣は、「景気回復の期間は戦後最長になったとみられる」という認識を示しましたが、30日の認定ではこの時点ですでに後退局面に入っていたことになります。

その後、政府は去年10月、消費税率を10%に引き上げましたが、結果として景気後退局面での増税となりました。

増税後は個人消費が減少傾向となり、統計の動きから機械的に景気判断を導く「景気動向指数」では、去年8月以降、10か月連続で景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」という判断が示されています。

しかし、政府は公式な景気認識を示す「月例経済報告」で感染拡大の影響が出る前のことし2月まで6年8か月にわたって景気判断に「回復」という表現を用いていて、景気動向指数とのずれが指摘されていました。

過去の景気回復と経済成長率

内閣府の研究会では、これまで昭和26年以降の景気循環における転換点を示す「山」と「谷」を認定してきました。

これまでで景気回復の期間が最も長かったのは、いわゆる「いざなみ景気」の時期です。

アメリカや中国向けの輸出が拡大し、企業の設備投資が増えたことを背景に回復の期間は2002年2月から2008年2月までの6年1か月にわたって続きました。

ただGDPの年間の伸び率は、最も高い年でも2004年の実質でプラス2.2%で、ほとんどの年が1%台の低成長にとどまりました。

一方、「いざなぎ景気」と言われる景気回復期は、1965年11月から1970年7月まで4年9か月に及びました。

東京オリンピック後の高度経済成長まっただ中での景気回復で、10%を超える高い経済成長率が続きました。
国民の所得が上昇し、消費も拡大したと言われています。

さらに「バブル景気」として知られる好景気の時期は、1986年12月から1991年2月までの4年3か月でした。

この期間、GDPの年間の伸び率は実質でプラス6%を上回る年もあり、比較的高い経済成長が続きました。

30日認定された今回の景気回復期はGDPの伸び率が最も高い年で2017年のプラス2.2%です。

しかし、0%台の成長だった年もあり、「バブル景気」はもちろん、「いざなみ景気」よりも低成長だった年が多くなっています。

このため、今回の景気回復期では「回復の実感に乏しい」という指摘が相次ぎました。

雇用の改善を受けて賃金が上昇した一方で、税金と社会保険料の負担も増えた人もいて、手取りの収入が増加したと実感しづらいことも背景にあると見られます。

専門家「今後は緩やかな回復に向かうか」

内閣府が景気回復の期間をおととし10月までの5年11か月だったと認定し、戦後2番目の長さとなったことについて、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「今回の景気回復は、期間として長かったが、この間、足踏みをする時期もあり、全体でみると、成長のペースは緩やかだった。特に個人消費の伸びは緩やかで、実感を伴わない景気回復だったと言える」と述べました。

政府が景気回復の期間について「戦後最長になったとみられる」という認識を示していたことについて、小林氏は「政府は、景気が一時的に悪くなっても、いずれよくなるという期待のもと、『緩やかに回復している』という景気判断を維持して、決断を先延ばしにしてきた。結局、期待どおりには回復しないまま『コロナ・ショック』によって、その判断を放棄せざるをえない状況に陥った」と述べました。

そのうえで、景気の先行きについては「新型コロナウイルスの影響による景気の落ち込みは、5月にいったんは底を打ったと考えられ、今後は緩やかな回復に向かうと見ている。しかし、足元では感染者が増加しており、消費や雇用の悪化を通じて、いわゆる『2番底』をつけるような、下振れリスクが高まっている」と述べました。