ージス配備停止
「合理的でないと判断」

新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を表明したことについて、河野防衛大臣は、衆議院安全保障委員会で、「コストと期間をかけるのは合理的ではないと判断した」と述べたうえで、これまでの説明と異なる判断となったことについて陳謝しました。

「イージス・アショア」の配備をめぐり、河野防衛大臣は15日、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を安全に落下させるためには、ミサイルそのものの改修が必要で、費用や期間などを踏まえて計画を停止すると表明しました。

16日開かれた衆議院安全保障委員会で、野党側が「『ブースターは演習場内に落ちるようにする』というこれまでの説明は、虚偽だったのか」などとただしました。

これに対し、河野防衛大臣は「政府として、『ブースターを演習場の中に確実に落とします』と約束をしている以上、責任は果たさないとならない。そのために新たに2000億円、10年というコストと期間をかけるのは、安全保障の観点からも、限られた防衛予算の使い方としても合理的ではないと判断した」と述べました。

そのうえで河野大臣は「日米間の議論で当初、『ソフトウエアの改修でやれるのではないか』という判断だった。配備の説明をしながら、改修の努力をしてきたと思うが、結果としてこういう事態になったことについては、防衛大臣としておわび申し上げなければならない」と述べ、これまでの説明と異なる判断となったことについて陳謝しました。

また、河野大臣は「配備は閣議でも決定されていることなので、必要ならば、閣議で再決定することになる」と述べ、配備を正式に中止する場合、改めて閣議決定が必要だという認識を示しました。

一方、これまでにかかった経費について「今までにアメリカ側に支払っているのは120数億円だと思う」と述べたうえで、今後、イージス艦を増やすことになれば、配備を計画していたシステムの搭載も検討する考えを示しました。

さらに「イージス・アショア」の配備により、イージス艦の乗組員の負担が軽減されるなどと説明してきたことについて、河野大臣は「当面、イージス艦によるミサイル防衛を続けることになるが、国家安全保障会議に報告し、そこでの議論を経たうえで、今後、どのようにわが国のミサイル防衛体制を構築していくか、英知を結集して議論し、実施していきたい」と述べました。

一方、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設について、野党側が「工期や経費が膨らんでおり、移設は中止すべきだ」と求めたのに対し、河野大臣は「普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現するべく、引き続き、辺野古移設に向けた工事を着実に進めていきたい」と述べ、移設計画を見直すことはないと強調しました。

茂木外相「米との協力に影響与えることは考えていない」

日米関係に与える影響について、茂木外務大臣は衆議院安全保障委員会で「安全保障環境が一層厳しさを増す中、これまで同盟国であるアメリカとのさまざまな協力により、切れ目のない体制を構築してきた。今回の決定がこのようなアメリカとのさまざまな協力に影響を与えることは考えていないが、引き続きアメリカと緊密に連携し、日米同盟の抑止力、対処力を一層強化していきたい」と述べました。

菅官房長官「判断は適切」

菅官房長官は記者会見で「今回の河野防衛大臣の判断については、米側との協議を行い、検討を進めてきた結果であり、適切なものだ」と述べました。そのうえで菅官房長官は「当面、ミサイル防衛については、イージス艦などで対応することになるが、今後の対応については、防衛省からNSC=国家安全保障会議に報告したうえで、そこでの議論を踏まえて、防衛省において検討していくことになる」と述べました。

さらに、計画の停止を表明したタイミングについて「SM3の飛しょう経路をコントロールし、ブースターを演習場内や海上に確実に落下させる措置についてアメリカ側と協議し、検討を進めてきた結果、ことしの5月下旬、システム全体の大幅な改修が必要だということになり、相当のコストと期間を要することが判明した。その後、これまでアメリカ側から提供された情報を総合的に評価した結果、公表した」と述べました。

また、「地元からは計画そのものを撤回すべきだなどという声が出ているが、どう受け止めるのか」との質問に対しては、「真摯(しんし)に受け止めたうえで、防衛大臣がしっかり説明すると思う」と述べました。

そして、イージス・アショアの必要性については「イージス艦の人員の対応や給油などを考えた時に、地上に必要だということで対応を協議してきた。わが国を取り巻く安全保障環境が厳しい中にあって、弾道ミサイルの脅威から守るために、防護の体制が必要な情勢だということに変化はないと思っている」と述べました。

秋田県 佐竹知事「住民に謝罪を」

秋田県の佐竹知事は16日朝、15日の河野防衛大臣からの電話について触れ、「配備候補地になっていた、秋田市の陸上自衛隊新屋演習場の現地視察についての相談だと考えていたので、全く予期しない話だった。『計画の停止というのは、凍結なのか、中止なのか』と尋ねたが、大臣は『国家安全保障会議で検討にかけてから』という答えだった。ただ『イージス艦での防備を中心にする』という説明があったので、私自身は、計画の白紙撤回ではないかという感触を受けている」と述べました。

また、河野防衛大臣が山口県の演習場への配備について、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を演習場内に確実に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったことを明らかにしたことに関して、「新屋演習場ではブースターが海に落下するとしていたが、河野防衛大臣からは『ブースターについて疑問があるなら、山口も秋田も説明がつかない』というニュアンスの話もあった。秋田では住民や行政が反対している中、山口でできないのに秋田でやることには常識的にならないだろう」と述べました。

そのうえで河野防衛大臣が、できるだけ早い時期におわびに赴く考えを示したことについて、佐竹知事は「この1年半、県も秋田市も相当エネルギーを使ったが一番は、新屋の住民が悩み、いらぬ気苦労をかけた。大臣が来られたら、私や市長ではなくて住民に謝罪してもらいたい」と述べました。

秋田市長「防衛省の姿勢は許されない」

配備候補地となっている陸上自衛隊新屋演習場がある秋田市の穂積市長は、16日朝、取材に応じ「突然、計画を提示し、突然、計画を停止するという発言に戸惑っているし、防衛省の説明の迷走ぶりは目に余るものがある。今回、ブースターをきちんと管理できないということだが、これまで安全安心で支障はないと言い続けてきた防衛省の姿勢は許されることではない」と述べました。

そのうえで「『プロセスの停止』ということばの意味がよくわからないが、私自身は『白紙撤回』と捉えているので、河野防衛大臣からは明確にそのことばをいただきたい」と述べました。

反対地元住民「安心できない」

秋田市新屋地区への配備計画に反対してきた地元住民でつくる「新屋勝平地区振興会」の佐々木政志会長は16日、改めて取材に応じ「また、この問題が浮上してくるのではないかと心配している」と述べました。

この中で佐々木会長は「防衛大臣の停止という発言は重いことばだが、なぜ中止ということばに置き換えなかったのか、非常に残念な気持ちだ。また、この問題が浮上してくるのではないかと心配していて、安心感は持っていない」述べました。

また、河野防衛大臣が停止の理由に迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置の技術的な問題をあげたことについて「新屋地区では日本海にブースターが落下するため安全だと説明されているが、山口に限らずうちでも同じ危険性があるのではないか。なぜこの時期に発表するのか不思議に思う」と述べました。

そのうえで佐々木会長は、河野防衛大臣が秋田県を訪問する考えを示したことについて「機会があれば直接会いたい。大臣の目で新屋地区を見たうえで、はっきりと、やはりここは無理でした、申し訳ございません、ということばを聞きたい」と述べました。

山口 萩市長「国に説明求める」

萩市の藤道市長は16日午前、市議会の本会議で議員から配備計画の停止について問われると「防衛省から連絡を受けて驚きと戸惑いを感じている。不安、懸念もあり、停止に至った経緯とともに、今後についての詳細な説明を国に求めていきたい」と述べました。

また、防衛省が理由にあげている迎撃ミサイルの「ブースター」と呼ばれる、推進補助装置の制御について「県とともに防衛省に照会し、設定した区域内に落下させることができるという回答をこれまで受けていた」と述べました。

そのうえで、今回の国の判断について「人が住む地域に落下するのではないかという、不安や懸念について慎重に検討された結果だろうと考えている」と述べました。

藤道市長は議会のあと、記者団に対し、「ブースター」をめぐる防衛省の説明について「以前の防衛省の回答と、きのうの説明が結果的に異なっている」などと述べ、不満を示したうえで、今後、計画の停止が変更されないよう、国に働きかけていく考えを明らかにしました。

山口 阿武町長「白紙撤回を」

配備候補地に隣接し、計画に反対してきた山口県阿武町の花田憲彦町長は16日朝、NHKの取材に応じ、国に対して白紙撤回を求めていく考えを示しました。

花田町長は「これまでソフトウェアを改修すれば、演習場内に『ブースター』を必ず落とせるという説明だったが、それは違った。根拠のない説明で、もはや信用することができない」と述べ、国への不信感を示しました。

そのうえで「きのうは『計画の停止』と聞いて、うれしいという思いが強かったが、白紙撤回ではないので、気を引き締めて今後の状況を注視していきたい。元に戻って話が配備に進むことは、私は考えられないと思っている」と述べ、国に対して、あくまで計画の白紙撤回を求めていく考えを示しました。

自民党内から批判相次ぐ

自民党は16日、合同会議を開き、安全保障調査会長を務める小野寺・元防衛大臣は「『ブースターはコントロールできる』と繰り返し説明を受けてきたが、これが急きょ変わったとなれば、防衛省は今までうそをついてきたのか」と指摘しました。

出席者からは「これを機会に防衛体制全体を見直すべきだ」という意見も出ましたが「配備は閣議決定されており、突然の発表は党との信頼関係にも関わる」といった批判が相次ぎました。

また「『ブースターの落下がダメだ』となれば、地上配備型の迎撃ミサイル、PAC3なども展開できなくなる」とした疑問の声も出ました。

これに対し防衛省の担当者は「アメリカ側との協議の中で、システム全体の大幅な改修が必要なことが明らかになった」と述べ、今後の対応はNSC=国家安全保障会議での議論を踏まえて決める方針を改めて説明しました。

自民 二階氏「与党の声踏まえて対応を」

自民党の二階幹事長は記者会見で「防衛問題は、与党の声を十分踏まえてしっかり対応することが大事でその点は怠りなくやってもらいたい。防衛省からしかるべき時期に改めて丁寧な説明があるだろう」と述べました。

自民 世耕氏「どういう理由なのかよく聞きたい」

自民党の世耕参議院幹事長は記者会見で「去年の参議院選挙でイージス・アショアの問題が大きな引き金となり苦杯をなめた議員もおり、少なくとも党にしっかり連絡をいただきたかった。最終的には防衛当局の判断をサポートするが、どういう理由なのか政府からよく聞きたい」と述べました。

自民 石破氏「『抑止力には隙は生じない』ことを説明を」

自民党の石破元幹事長は記者団に対し、「安倍総理大臣も防衛大臣も、ずっと『イージス・アショアは必要だ』と説明してきた。陸上イージスにすれば海上自衛隊の負担は解消され、イージス艦を南西海域に回すことができるはずで、価値があった。防衛体制には穴があってはいけないので、計画を停止するにしても、その間、『抑止力には隙は生じない』ということを説明しないと、政府として相当、無責任だ」と述べました。

自民 中谷氏「決断は評価 ただ与党と相談を」

自民党の中谷 元防衛大臣は、記者団に対し「ミサイルの種類は、北朝鮮のみならず、中国やロシアもどんどん変化してきている。『本当にこのままでいいのか』という気持ちがあったので、決断は評価する。ただ、与党との信頼関係において、相談しながら要所要所、納得いくようにしなくてはいけない」と述べました。

自民 佐藤氏「イージス・アショアは必要」

自民党の佐藤正久・前外務副大臣は自民党の合同会議に出席後、記者団に対し「航空機を落とせば地面に落ち、地上配備型の迎撃ミサイル、PAC3が弾道ミサイルを迎撃したときも、破片は落ちる。『ブースター』を海に落とす適地を探すことも、一つの候補だ。隊員の負担などを考えれば、今のイージス艦の体制では到底、無理なので、イージス・アショアは必要だ」と述べました。

公明 山口氏「経緯 きちんと説明を」

公明党の山口代表は、記者会見で、「突然の発表で驚いた。政府はこれまでのミサイル防衛が今後どう変わるのか明確に説明する必要がある。与党としてもしっかり議論し直さなければいけない。まずは政府が経緯をきちんと国民に説明することが重要だ」と述べました。

政府与党協議会「丁寧な説明を」

国会内で開かれた政府与党協議会には、政府側から菅官房長官らが、与党側から自民・公明両党の幹事長らが出席しました。

この中で「イージス・アショア」の配備計画の停止について、自民党の二階幹事長は「唐突な発表で、地元や党に十分な説明がない。政府には丁寧な説明を期待したい」と述べました。

また公明党の斉藤幹事長も「与党も一緒に議論してきた問題なので、連携もない中で発表されて危機感を覚えている」と述べ、政府に十分な説明を行うよう求めました。

このあと、自民党の森山国会対策委員長は記者団に対し「極めて重大な問題であり、与党としても十分な説明を求めていく。候補地の皆様に苦悩の選択をお願いしてきた経緯もあるので、今後しっかりと間違いない対応をすることが大事だ」と述べました。

野党4党「議論必要 国会の会期延長を」

国会の会期末を17日に控え、野党4党の国会対策委員長らが会談しました。この中で、河野防衛大臣が「イージス・アショア」の配備計画の停止を表明したことについて、これまでの政府の方針と矛盾したものだとして、追及する方針で一致しました。

そして、新型コロナウイルス対策と合わせて国会で議論する必要があるとして、与党側に対し会期の大幅な延長を求めることを改めて確認しました。

野党4党は、このあと幹事長と書記局長が会談して、こうした方針を最終的に確認することにしています。

立憲民主党の安住国会対策委員長は「『イージス・アショア』は、防衛上の必要性からではなく、アメリカのトランプ大統領に言われて購入せざるをえなかった疑いが濃厚だ。安倍総理大臣の責任は非常に重く、この問題も含めて会期延長を申し入れたい」と述べました。