業内部留保を投資に
税制優遇措置など焦点

来年度の税制改正に向けて、自民党の税制調査会は21日から本格的な議論をスタートさせました。企業の内部留保を投資に回す環境を整えるための税制上の優遇措置や、未婚のひとり親に対する所得税の軽減措置などが焦点となります。

自民党の税制調査会は21日、総会を開き、甘利会長は「いよいよスタートする。税は党が担当し、未来を先取りして、公平で公正な税制を築いていく責任を負っており、使命感を持って責任ある議論を行ってほしい」と述べました。

税制調査会では企業の内部留保を投資に回す環境を整えるため、大企業がベンチャー企業などに投資した際の税制上の優遇措置が焦点となります。

また次世代の通信規格「5G」の導入を促進するため、基地局を前倒しして整備した事業者の法人税などの優遇措置を検討する方針です。

一方、公明党の税制調査会も21日、総会を開き、山口代表は「残された重要な課題は未婚のひとり親にどのように対応していくかだ。議論を深めて幅広い国民の理解を得られるような結論を導いていく必要がある」と述べました。

公明党は未婚のひとり親にも配偶者と死別したり離婚したりしたひとり親と同様に、所得税を軽減する措置を適用するよう求める方針で、自民・公明両党の間で調整が行われる見通しです。

これに先立って甘利会長と会談した安倍総理大臣は「いろいろと難しい課題もあるが、しっかり与党内の調整を行って、まとめてほしい」と述べたということです。

自民党の税制調査会は来月12日にも税制改正大綱を取りまとめることにしています。

麻生財務相「不公平感のない税制を」

麻生副総理兼財務大臣は総会の冒頭であいさつし、「内部留保の活用や成長に向けた投資促進などの政策課題に対しては、有効で意味のある仕組みを検討してもらいたい。消費税を10%に引き上げ、国民に負担をお願いしている最中であり、特定の人たちを優遇するという形で国民の間に不平や不公平感を招くようなことがないよう配慮をお願いしたい」と述べました。

大企業に内部留保の活用促す

来年度の税制改正で焦点の1つとなるのが、企業の「内部留保」を投資に振り向ける環境を整えるための税制です。

企業が事業で得たもうけのうち、配当などに回さずに蓄えとして内部に残している利益剰余金、いわゆる「内部留保」は好調な企業の業績を背景に、昨年度は463兆円にまで膨らんでいます。

自民党の甘利税制調査会長は大企業にこうした内部留保の活用を促し、投資への流れを生み出す税制を構築したいとしています。

このため経済産業省は複数の企業が技術やアイデアを結集する「オープン・イノベーション」を促進しようと、大企業が成長の見込めるベンチャー企業などに一定額以上の出資を行った場合、税額を控除する制度の創設を求めています。税制調査会ではこの制度を軸に議論が進められる見通しです。

ただ制度をめぐっては対象となる企業の条件や出資額の規模をどう定めるかが課題となるほか、資金力のある企業の出資に対して、税額を控除する仕組みが適切な方法なのかや、内部留保の活用にどこまでつながるのかが不透明だといった指摘もあります。

一方、こうした税制優遇を行うための財源としては大企業の交際費の半分を経費として認め、税負担を軽くする制度を縮小して捻出することなどが検討されていて、税制調査会で具体的な制度の在り方が議論されます。

ひとり親 未婚でも軽減も焦点

来年度の税制改正では未婚のひとり親に対し、所得税の軽減措置を適用するかどうかも焦点の1つとなります。

配偶者と死別したり、離婚したりしたひとり親には一定の要件のもと、所得税と住民税の負担を軽減する「寡婦控除」が適用されます。

このため公明党は未婚のひとり親にも同様の措置を適用するよう求め、去年の議論では子どもが1人いて、年収204万円以下の未婚のひとり親も住民税を非課税にすることを決めました。

しかし所得税の軽減措置は実現しておらず、来年度の税制改正に向けて、公明党は未婚のひとり親にも適用するよう改めて求めています。

これについて自民党の甘利税制調査会長は「基本的な家族観を壊さず、ひとり親の公平感も確保したい」と述べ、前向きに検討していく考えを示しています。

一方で、自民党内には「家族の在り方に関わる」などとして、慎重な意見も根強くあるため、今後、自民・公明両党の間で調整が行われる見通しです。

巨大IT企業など新課税ルールの検討も

来年度の税制改正では巨大IT企業などに対する新たな課税ルールの検討なども議論の焦点となります。

国境をまたいだデータのやり取りで利益を上げる巨大IT企業などへの課税について世界135の国と地域でつくる国際的な枠組みは来年中に新たな課税ルールの具体策を取りまとめることを目指しています。

企業の利益のうち一定の割合を国ごとの売上高の規模に応じて課税できるようにすることなどが検討されていて、課税のしかたによって日本企業が不利になることのないよう、税制改正大綱に提言を盛り込む方針です。

多額の利益も“法人税ゼロ” 見直しへ

また多国籍企業をめぐっては、実際には多額の利益を上げている企業が子会社との株式の取り引きなどを利用して税務上は赤字を計上し、法人税を支払わないケースがあることから、納税を回避する行為を防ぎ、企業が実態にあった納税を行うよう制度を見直すことにしています。

電力ガス法人事業税 見直すか議論へ

一方、電力会社とガス会社が自治体に納める法人事業税は「地域で寡占的な存在だ」などとして一般の事業者と違って売上高に応じて課税されていますが、電力と都市ガスの小売りの自由化などを受けて今の課税方法を見直すかどうかが議論されます。

自治体側は見直しを行うと大幅な減収につながるとして制度の維持を主張していて税制調査会の判断が焦点になります。

5G整備促進で優遇措置も検討

さらに次世代の通信規格、5Gの導入を促進するため、基地局などの通信網の整備を前倒しする企業の法人税などを優遇する措置も検討されます。

優遇する場合、整備する基地局などは中国製品を念頭に、安全保障上のリスクを考慮に入れることを議論する見通しです。

老後資産形成なども検討

来年度の税制改正では、老後の資産形成を後押しするための税制も検討されます。

公的年金に上乗せして個人が任意に加入する私的年金の1つ、「個人型」の確定拠出年金=「iDeCo(イデコ)」の利用を促そうと、厚生労働省は会社員の加入の条件を緩和する改正案を示しています。

具体的には事業主が拠出する「企業型」の確定拠出年金に加入している会社員について、本人が希望すれば、労使の合意などがなくてもiDeCoに加入できるようにすることや、企業年金のない中小企業でiDeCoに加入している従業員に企業が掛金を上乗せすることができる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度について、対象を従業員100人以下の企業から300人以下の企業に広げるなどとしています。

また改正案には働く60代の人が増える中、加入期間を延長することで、老後の資産形成を後押しすることも盛り込まれています。

具体的にはこれまで原則60歳未満までとなっている加入期間の上限を「企業型」は70歳未満に、「個人型」は65歳未満まで、それぞれ延長するとしています。

またこれに合わせて、現在60歳から70歳までの間で選べる受給開始年齢の選択肢を70歳以降にも広げるとしています。

税制調査会では改正案の内容でよいのかや、加入者が給付の際に受けられる税制上の優遇措置の扱いなどについて議論します。

つみたてNISAも

個人投資家を対象にした優遇税制のうち、長期の資産運用向けの「つみたてNISA」は開始した時期によらず、20年間の投資期間を確保できるよう、2037年末までとなっている積み立て期限の延長を検討します。

企業版ふるさと納税制度の延長 軽減割合拡大も検討

地方の活性化をめぐっては地方創生につながる自治体の取り組みに企業が寄付した場合、法人住民税や法人事業税が軽減される「企業版ふるさと納税制度」について、今年度いっぱいとなっている制度の期限を5年間延長したうえで、税負担を軽減する割合を拡大することが検討されます。

また地方に拠点を移したり拡充して強化を行う企業が法人税などの優遇を受けられる制度について、適用の条件になっている雇用者の増加数を緩和することなども議論されます。