期高齢者の窓口負担
2割に引き上げを提言

高齢化で財政悪化が見込まれる医療保険制度を維持するため、健保連=健康保険組合連合会は、75歳以上の後期高齢者の病院などでの窓口負担を、今の原則1割から2割に引き上げることなどを求める提言を発表しました。

大企業の従業員らが加入する健康保険組合でつくる、健保連=健康保険組合連合会は9日、厚生労働省で記者会見し、医療保険制度の見直しを求める提言を発表しました。

この中では、いわゆる「団塊の世代」が75歳の後期高齢者になりはじめる2022年から医療費が膨らみ、保険財政が急激に悪化するとして、制度を維持するためには負担増を伴う改革は避けられないと指摘しています。

具体的には、75歳以上の後期高齢者の病院などでの窓口負担を今の原則1割から、低所得者に配慮しつつ原則2割に引き上げるよう求めています。

健保連によりますと、75歳から79歳の窓口負担を順次、2割に引き上げた場合、医療費は年間およそ700億円ずつ削減されるということです。

健保連の佐野雅宏副会長は「このままでは国民皆保険を維持できない。見直しは待ったなしの喫緊の課題だ」と述べました。

政府は全世代型の社会保障制度を実現するため、秋以降、制度の改革に向けた議論を本格化させることにしていて、今回の提言の内容もテーマの1つになる見通しです。

政府 社会保障改革の議論を本格化

政府は全世代型の社会保障制度を実現するため、秋以降、制度の改革に向けた議論を本格化させることにしています。

そして給付と負担の在り方を含め、重点的に取り組むべき政策を来年夏にまとめる「骨太の方針」に盛り込む方針です。

政府は、こうした社会保障制度改革を議論するため、関係閣僚や有識者をメンバーとする会議を設置することも検討しています。

今回の提言も今後の議論のテーマの1つになる見通しで、来年夏までの間に負担増や給付の削減など、痛みを伴う改革にどこまで踏み込むのかが焦点となります。

健保連の財政状況

今回提言を出した健保連=健康保険組合連合会は、大企業のおよそ1400の「健康保険組合」で構成されていて、サラリーマンとその家族、およそ3000万人が加入しています。

健康保険組合の財政は、現役世代の保険料収入で賄われていますが、このうちの一部は高齢者医療を支えるために回しています。

健保連によりますと、昨年度の保険料収入の総額はおよそ8兆3000億円で、このうち1兆9000億円を75歳以上の「後期高齢者医療制度」に支援金として拠出しています。

しかし、団塊の世代が75歳になり始める2022年度には、この後期高齢者支援金がおよそ3400億円増える見通しで、財政基盤の弱い組合は赤字に陥ると懸念されています。

また、財政の悪化に伴って昨年度、平均で9.21%だった保険料率が、2022年度には9.8%にまで上がると試算されています。

このため健保連では、現役世代の負担を軽減し制度を維持するためには、後期高齢者の窓口負担を原則2割に引き上げるなど、高齢者にも負担増を求めることは避けられないとしています。

背景に「2025年問題」

健保連が、今回の提言をまとめた背景には「2025年問題」があります。

昭和22年から24年生まれの第1次ベビーブームの世代、いわゆる「団塊の世代」は、3年後の2022年から75歳に達し後期高齢者になり始めます。

そして、2025年には「団塊の世代」合わせて560万人余りが、皆75歳以上になるのです。

その結果、去年、国民全体の14%に当たるおよそ1800万人だった75歳以上の後期高齢者が、2025年には2180万人に増え、人口全体の18%に上ると予測されています。

5人に1人が後期高齢者となり、社会保障費の急増が見込まれることが「2025年問題」と言われているのです。

政府の将来見通しによりますと医療費は、昨年度は(2018年度)およそ40兆円でしたが、2025年度には47兆円から48兆円に、さらに、高齢者の数がピークを迎える2040年度には、現在の1.5倍以上に当たる67兆円から69兆円に膨らむと試算されています。

公的医療保険

公的医療保険は、病気やケガをしたときに医療費の一部を公的な機関が負担してくれる制度です。

日本では、すべての国民が公的な保険に加入することになっているので、「国民皆保険」と言われています。

病院などでの窓口負担は、原則として
▽義務教育に入った子どもから69歳までの人は3割、
▽就学前の子どもと、70歳から74歳までは2割、
▽75歳以上の後期高齢者は1割で、
残りは保険料収入や税金で賄われます。

公的医療保険は職業によって分かれていて、自営業者などが加入する「国民健康保険」や、大企業のサラリーマンが加入する「健康保険組合」、公務員が加入する「共済組合」、中小企業のサラリーマンが加入する「協会けんぽ」などがあります。